和谷夢短編集
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◇夜はラビリンス◇
仕事が終わって飲みに行っていたら、気づけば終電の時間。駅に二人して駆け込んだ。
そこで、目に飛び込んできたのは『運転見合わせのお知らせ』と書かれたホワイトボード。私たちが居る一つ前の駅で線路故障が発覚したらしい。
流れたアナウンスに聞き耳を立てる。すると、専門家に見てもらった結果、運転再開するのに最低でもあと2時間はかかるとのこと。
「……ははっ。」
和谷と私の乾いた笑いが重なった。
終電で運転見合わせ。タクシーを使うにしてもぎりぎり万円単位はかかりそうなくらいの距離に私の家はある。
「和谷は、タクシー使えば帰れそう?」
「んなわけねーだろ。」
「だよね。」
和谷のアパートの場所を知っておきながら、こんな状況にも関わらず冗談言ってみた。
「帰れたとしても、酔いどれ状態のお前を置いて帰れる気がしない。」
「呂律回ってるだけマシな酔い方じゃない!?」
「どうだかな。判断力は鈍ってんじゃねえの?」
「……ごもっともです。」
和谷からそう言われて、認めざるを得ない出来事が過去にあった。一人で飲み耽っていたところ、見ず知らずの男に声をかけられ、雰囲気のままにホテルへ着いていきそうになったのだ。あと一歩ってところで偶然、和谷からかかった電話のおかげで目を醒まし、事なきを得たけど。
一人振り返っていると、和谷が冗談はこの辺にして、と前置いて言う。
「とりあえず、駅出ようぜ。」
「うん。」
駅を出てからは、始発まで過ごせる場所を求めて街中を練り歩いた。カラオケ、ファミレス、ネットカフェ。どこも『満席』と書かれた貼り紙に期待を打ち砕かれた。
よりにもよって今日は華金からの土曜日。こんな日に運転見合わせじゃ、みんな考えることは一緒だった。
「これは、都会で野宿かな?」
私の思考は、寒いけど幸い雨も降ってないし、温かい飲み物を飲みながら公園で夜を過ごせるのでは?という境地に至っていた。
私のこんな諦観の呟きに特に反応せず、和谷は顎に手をあて、思案している。その横顔がまるで次の一手を考えているかのようだった。しばらく眺めていると和谷が口を開いた。
「いや、まだ場所が無いわけじゃないけど……」
「けど?」
言葉濁す和谷に私は聞き返す。
すると和谷は顎に当てていた手を、口元に移動させた。
そして私から視線を逸らして呟く。
「ホテル。」
その3文字に一瞬で、氷づけにされたように固まった。それは経験不足からの動揺なのか、それともついさっきまで、変な気を持たずして話せていた相手を急に意識し始めたからなのか。
とりあえず、考えてても話は進まないので、ホテル街へ歩くことにした。
さっき駅で冗談を言えたのが嘘かと思えるくらい、今はお互い口数が少ない。
ホテルに泊まるからって、和谷に限って何かが起こるわけでもないのに。向こうも私に限ってと同じように思ってるだろう。
そんなことを考えてる内にホテル街に辿り着いてしまって、和谷が先に一軒目のホテルに足を踏み入れた。そこで私は口を開いた。
「ちょ、ちょっと外の空気吸ってきてもいい!?」
すると、和谷が短い笑いを溢しながら答えた。ついさっきまで吸ってただろ、と呆れを含ませながら。継いで和谷は言う。
「じゃ、そこで待ってろよ。」
「うん、ごめん。ありがとう。」
和谷の言葉に甘えて、ホテルには入らずに外で待たせてもらうことにした。
空気を読めなくてごめん。何が起こるわけでもないのに、いまいち覚悟が決まってなくてごめん。色んな意味を含んだごめんだった。
「……。」
そして、和谷から離れると変な余裕が生まれてくる。どうせホテルも空いてるわけがない。そう思うと、なんだか気が楽になってきた。
頭が一旦リセットされたところで、和谷が戻ってきて、私はまた氷づけされたかのように、固まることとなる。
「空いてるってさ、1部屋だけ。」
「お、やったね!」
とっ散らかった気持ちのまま、とりあえず返事をする。
「……やっぱ、ごめん。今、俺の方が判断力鈍ってるな。」
「え?」
和谷の返事に一瞬、目を見開いた。
自嘲するような薄い笑いを浮かべながら和谷は言った。
「外に出たら、目が覚めた。普通に考えて、付き合ってもないのにいくら状況が状況とは言え、こんなとこ連れてくのは、良くないよな。」
やっぱり和谷も迷ってたんだ。
和谷の言う通り、付き合ってない男女でのホテルにかなりの抵抗があるのには深く頷く。でも、勘違いして欲しくないところだけは、はっきりさせたくて、私は言った。
「言っとくけど、私がここまで着いてきたのは、酔いのせいで判断力、鈍ってるからじゃないよ。なんていうか上手く言えないけど、和谷だから着いてきたんだと思う。」
「俺だから?」
「和谷とならどこでも楽しめるからって思った。」
和谷の頬が紅潮するのにそう時間はかからなかった。
私は話を続ける。
「それに、私は和谷の判断が鈍ってるとは思えないな。
出来ることはした上で、仕方なくこの状況にたどり着いたってだけなんだか……ぶえっぐしゅ!」
最後はくしゃみで決まらなかったのが悲しい。
けどそれが状況を好転させたらしい。
「入ろう。」
くしゃみを聞いた瞬間、和谷は返事も聞かずに、私の手を引いて、ホテルへ足を運んでくれた。
仕事が終わって飲みに行っていたら、気づけば終電の時間。駅に二人して駆け込んだ。
そこで、目に飛び込んできたのは『運転見合わせのお知らせ』と書かれたホワイトボード。私たちが居る一つ前の駅で線路故障が発覚したらしい。
流れたアナウンスに聞き耳を立てる。すると、専門家に見てもらった結果、運転再開するのに最低でもあと2時間はかかるとのこと。
「……ははっ。」
和谷と私の乾いた笑いが重なった。
終電で運転見合わせ。タクシーを使うにしてもぎりぎり万円単位はかかりそうなくらいの距離に私の家はある。
「和谷は、タクシー使えば帰れそう?」
「んなわけねーだろ。」
「だよね。」
和谷のアパートの場所を知っておきながら、こんな状況にも関わらず冗談言ってみた。
「帰れたとしても、酔いどれ状態のお前を置いて帰れる気がしない。」
「呂律回ってるだけマシな酔い方じゃない!?」
「どうだかな。判断力は鈍ってんじゃねえの?」
「……ごもっともです。」
和谷からそう言われて、認めざるを得ない出来事が過去にあった。一人で飲み耽っていたところ、見ず知らずの男に声をかけられ、雰囲気のままにホテルへ着いていきそうになったのだ。あと一歩ってところで偶然、和谷からかかった電話のおかげで目を醒まし、事なきを得たけど。
一人振り返っていると、和谷が冗談はこの辺にして、と前置いて言う。
「とりあえず、駅出ようぜ。」
「うん。」
駅を出てからは、始発まで過ごせる場所を求めて街中を練り歩いた。カラオケ、ファミレス、ネットカフェ。どこも『満席』と書かれた貼り紙に期待を打ち砕かれた。
よりにもよって今日は華金からの土曜日。こんな日に運転見合わせじゃ、みんな考えることは一緒だった。
「これは、都会で野宿かな?」
私の思考は、寒いけど幸い雨も降ってないし、温かい飲み物を飲みながら公園で夜を過ごせるのでは?という境地に至っていた。
私のこんな諦観の呟きに特に反応せず、和谷は顎に手をあて、思案している。その横顔がまるで次の一手を考えているかのようだった。しばらく眺めていると和谷が口を開いた。
「いや、まだ場所が無いわけじゃないけど……」
「けど?」
言葉濁す和谷に私は聞き返す。
すると和谷は顎に当てていた手を、口元に移動させた。
そして私から視線を逸らして呟く。
「ホテル。」
その3文字に一瞬で、氷づけにされたように固まった。それは経験不足からの動揺なのか、それともついさっきまで、変な気を持たずして話せていた相手を急に意識し始めたからなのか。
とりあえず、考えてても話は進まないので、ホテル街へ歩くことにした。
さっき駅で冗談を言えたのが嘘かと思えるくらい、今はお互い口数が少ない。
ホテルに泊まるからって、和谷に限って何かが起こるわけでもないのに。向こうも私に限ってと同じように思ってるだろう。
そんなことを考えてる内にホテル街に辿り着いてしまって、和谷が先に一軒目のホテルに足を踏み入れた。そこで私は口を開いた。
「ちょ、ちょっと外の空気吸ってきてもいい!?」
すると、和谷が短い笑いを溢しながら答えた。ついさっきまで吸ってただろ、と呆れを含ませながら。継いで和谷は言う。
「じゃ、そこで待ってろよ。」
「うん、ごめん。ありがとう。」
和谷の言葉に甘えて、ホテルには入らずに外で待たせてもらうことにした。
空気を読めなくてごめん。何が起こるわけでもないのに、いまいち覚悟が決まってなくてごめん。色んな意味を含んだごめんだった。
「……。」
そして、和谷から離れると変な余裕が生まれてくる。どうせホテルも空いてるわけがない。そう思うと、なんだか気が楽になってきた。
頭が一旦リセットされたところで、和谷が戻ってきて、私はまた氷づけされたかのように、固まることとなる。
「空いてるってさ、1部屋だけ。」
「お、やったね!」
とっ散らかった気持ちのまま、とりあえず返事をする。
「……やっぱ、ごめん。今、俺の方が判断力鈍ってるな。」
「え?」
和谷の返事に一瞬、目を見開いた。
自嘲するような薄い笑いを浮かべながら和谷は言った。
「外に出たら、目が覚めた。普通に考えて、付き合ってもないのにいくら状況が状況とは言え、こんなとこ連れてくのは、良くないよな。」
やっぱり和谷も迷ってたんだ。
和谷の言う通り、付き合ってない男女でのホテルにかなりの抵抗があるのには深く頷く。でも、勘違いして欲しくないところだけは、はっきりさせたくて、私は言った。
「言っとくけど、私がここまで着いてきたのは、酔いのせいで判断力、鈍ってるからじゃないよ。なんていうか上手く言えないけど、和谷だから着いてきたんだと思う。」
「俺だから?」
「和谷とならどこでも楽しめるからって思った。」
和谷の頬が紅潮するのにそう時間はかからなかった。
私は話を続ける。
「それに、私は和谷の判断が鈍ってるとは思えないな。
出来ることはした上で、仕方なくこの状況にたどり着いたってだけなんだか……ぶえっぐしゅ!」
最後はくしゃみで決まらなかったのが悲しい。
けどそれが状況を好転させたらしい。
「入ろう。」
くしゃみを聞いた瞬間、和谷は返事も聞かずに、私の手を引いて、ホテルへ足を運んでくれた。