和谷夢短編集
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◇予知夢◇
やってる、やってる。
囲碁のイベントがあって、まるで授業参観でも見に行くかのように、弟弟子である和谷の指導碁を後ろから覗いていた。指導碁を受けてるお客さんが長考しだした時、和谷が振り向き私に気づいた。
すると、彼が足元に置いてたビジネスバックから取り出したのはマグネット碁盤と石。
「これで終わるまで待ってろ。あっち空いてっから。」
仕事してる姿見られるのがそんなに恥ずかしい?と、言わせる隙も与えずマグネット盤を手渡された。和谷が指差した方向に向かうと壁に沿って長机が並んでいるフリースペースがあった。角っこには棋譜や詰碁集が並んでいたので、手に取り棋譜並べをすることに。
マグネット盤を広げ石を持ってしまえば、時間を忘れられた。
「待たせたな。何並べてんの?」
後ろから和谷に声をかけられるまで。
「──!」
「っ!急に起きんなよ。びっくりした。」
「……あれ、指導碁は?スーツは?」
「は?」
さっき見た和谷よりも小さい。それに顔つきも若々しい。
そこでようやく気づいた。
「夢、か。」
でも棋譜並べをしていたのは一緒だった。棋院の一般対局場で。
外から溢れてくる真夏の夕陽はカーテンが、陽射しの鋭さを和らげていた。
碁石を片付けながら、なんで和谷を待ってたんだっけ?と聞くとため息をつかれた。
「誕生日過ぎたけど、上手いもん奢るって…俺に言わせんなよ!強請ってるみたいで恥ずかしい。」
「そっか、そうだったね。」
毎年やってくるプロ試験目前の誕生日。弟弟子にこうして何かをするのも恒例になった。
棋院から市ヶ谷の駅に向かう緩やかな坂道を横に並んで歩く。
「そういえば、どんな夢見てたんだよ。」
「和谷が背広着こなして、指導碁してる夢。私が見に行ったらさ、マグネット盤突き出されて、あっちで待ってろって言われちゃった。」
「やけにリアルな夢だな。」
「ただの夢じゃないよ。予知夢。和谷はこれから先も、碁盤挟んで誰かと碁をしてるって事よ。」
でも、指導碁なんて。と和谷が不安そうに言う。指導碁の後に継がれる言葉に予測がついた。
プロじゃなくてもできる。そう言う隙を与えずに私は言った。
「もちろん、プロでね!棋院と和谷の名前が刻印されてる名札が胸ポケットについてたの見たし。」
すると和谷が一瞬、目を瞠りすぐに口角を上げた。
「……待ってろよ。すぐにお前や冴木さんのいるとこ(プロ:ルビ振り)に追いつくからな。」
「うん、頑張ろうね。」
話がひと段落つくと見計ったかのように、生暖かい一陣の風が吹き込んできた。
風に頬を打たれた和谷の表情は自信に満ち溢れていた。
やってる、やってる。
囲碁のイベントがあって、まるで授業参観でも見に行くかのように、弟弟子である和谷の指導碁を後ろから覗いていた。指導碁を受けてるお客さんが長考しだした時、和谷が振り向き私に気づいた。
すると、彼が足元に置いてたビジネスバックから取り出したのはマグネット碁盤と石。
「これで終わるまで待ってろ。あっち空いてっから。」
仕事してる姿見られるのがそんなに恥ずかしい?と、言わせる隙も与えずマグネット盤を手渡された。和谷が指差した方向に向かうと壁に沿って長机が並んでいるフリースペースがあった。角っこには棋譜や詰碁集が並んでいたので、手に取り棋譜並べをすることに。
マグネット盤を広げ石を持ってしまえば、時間を忘れられた。
「待たせたな。何並べてんの?」
後ろから和谷に声をかけられるまで。
「──!」
「っ!急に起きんなよ。びっくりした。」
「……あれ、指導碁は?スーツは?」
「は?」
さっき見た和谷よりも小さい。それに顔つきも若々しい。
そこでようやく気づいた。
「夢、か。」
でも棋譜並べをしていたのは一緒だった。棋院の一般対局場で。
外から溢れてくる真夏の夕陽はカーテンが、陽射しの鋭さを和らげていた。
碁石を片付けながら、なんで和谷を待ってたんだっけ?と聞くとため息をつかれた。
「誕生日過ぎたけど、上手いもん奢るって…俺に言わせんなよ!強請ってるみたいで恥ずかしい。」
「そっか、そうだったね。」
毎年やってくるプロ試験目前の誕生日。弟弟子にこうして何かをするのも恒例になった。
棋院から市ヶ谷の駅に向かう緩やかな坂道を横に並んで歩く。
「そういえば、どんな夢見てたんだよ。」
「和谷が背広着こなして、指導碁してる夢。私が見に行ったらさ、マグネット盤突き出されて、あっちで待ってろって言われちゃった。」
「やけにリアルな夢だな。」
「ただの夢じゃないよ。予知夢。和谷はこれから先も、碁盤挟んで誰かと碁をしてるって事よ。」
でも、指導碁なんて。と和谷が不安そうに言う。指導碁の後に継がれる言葉に予測がついた。
プロじゃなくてもできる。そう言う隙を与えずに私は言った。
「もちろん、プロでね!棋院と和谷の名前が刻印されてる名札が胸ポケットについてたの見たし。」
すると和谷が一瞬、目を瞠りすぐに口角を上げた。
「……待ってろよ。すぐにお前や冴木さんのいるとこ(プロ:ルビ振り)に追いつくからな。」
「うん、頑張ろうね。」
話がひと段落つくと見計ったかのように、生暖かい一陣の風が吹き込んできた。
風に頬を打たれた和谷の表情は自信に満ち溢れていた。