和谷夢短編集
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◇一人暮らし直前◇
卒業式も終わって、3月下旬。団地の階段の狭い踊り場の腰壁に微妙に距離を空けてお互い缶ジュースを置いて、幼なじみと居た。目先の木はつい数ヶ月前まで葉っぱすら落ちていて何も無かったのに、桜で満開に。
「無事第一志望合格できてよかったな。」
「うん」
「ハードル高過ぎて周りに無理って言われてたのに受かったのすげーよな」
「逆に期待されてなかった分、やりやすかったよ。」
「相変わらずお前はマイペースな奴」
そんな周りの声も気にせず愚直に取り組む姿に、プロ試験中救われたヤツが今ここに1人居ることなんて思いもしないんだろう。
「ついに1人暮らしかー」
「そうね」
「反応薄いな!」
今更何を求めるわけでもないけど、つい声が大きくなってしまった。どんな反応が欲しかったの?そう聞かれれば口籠る。
「もっとこう……いや、その反応がお前らしくていいや」
別に、永遠に会えなくなるわけでもない。それに洗濯や風呂、飯を食いに実家にはまだまだしょっちゅう帰るつもりだ。
「……私は、この缶ジュースが缶酎ハイになるまでここでずっとこの時間が続くのかと勝手に思ってた」
幼馴染の予想外の反応に、缶ジュース掴んでる手が滑りそうになった。思えば、色々あったこの団地の踊り場。
親と喧嘩して拗ねてる時も、プロ試験落ちて悔し涙流してる時も、いつも気づけば隣に幼馴染が居た。
「俺も。この時間が極端に減るのが想像つかねー。」
あと何日もすれば、新生活が始まって時間が合わなくなる。
今までも放課後は研究会だったり土日は研修手合いで必ずしも時間が合うわけじゃなかったが、それでも週に何回か、寝る前にはどっちかはここに来てた。約束したわけでもないのに、なんとなく来てくれるような、居てくれてるような気がして。
「俺さ多分、この時間が取れなくなるのが寂しいって、お前に言って欲しかっただけなんだな」
「うん、寂しい。和谷の泣き顔見れなくなるのが。生き甲斐の一部が無くなった気分」
「おっまえなー……。」
楽しそうに笑うからこっちも怒る気が失せて笑ってしまう。
それから少し話をして、幼馴染の方がこれから家族と外食に行くからそろそろ。と階段を一段上がりかけたところで、本気にされないだろうけど言ってみた。
「俺の目盗んで、彼氏作んなよ」
いつもなら、小首を傾げて『どーした、頭打った?』そう一蹴される覚悟で言ってみたのに、一段登り切ってから振り向きもしないし、動かない。かと思いきや予想外の反応で。
「うん。」
何も入り混じっていない素直なこの相槌が、声が、しばらく何をしても忘れられなかった。
卒業式も終わって、3月下旬。団地の階段の狭い踊り場の腰壁に微妙に距離を空けてお互い缶ジュースを置いて、幼なじみと居た。目先の木はつい数ヶ月前まで葉っぱすら落ちていて何も無かったのに、桜で満開に。
「無事第一志望合格できてよかったな。」
「うん」
「ハードル高過ぎて周りに無理って言われてたのに受かったのすげーよな」
「逆に期待されてなかった分、やりやすかったよ。」
「相変わらずお前はマイペースな奴」
そんな周りの声も気にせず愚直に取り組む姿に、プロ試験中救われたヤツが今ここに1人居ることなんて思いもしないんだろう。
「ついに1人暮らしかー」
「そうね」
「反応薄いな!」
今更何を求めるわけでもないけど、つい声が大きくなってしまった。どんな反応が欲しかったの?そう聞かれれば口籠る。
「もっとこう……いや、その反応がお前らしくていいや」
別に、永遠に会えなくなるわけでもない。それに洗濯や風呂、飯を食いに実家にはまだまだしょっちゅう帰るつもりだ。
「……私は、この缶ジュースが缶酎ハイになるまでここでずっとこの時間が続くのかと勝手に思ってた」
幼馴染の予想外の反応に、缶ジュース掴んでる手が滑りそうになった。思えば、色々あったこの団地の踊り場。
親と喧嘩して拗ねてる時も、プロ試験落ちて悔し涙流してる時も、いつも気づけば隣に幼馴染が居た。
「俺も。この時間が極端に減るのが想像つかねー。」
あと何日もすれば、新生活が始まって時間が合わなくなる。
今までも放課後は研究会だったり土日は研修手合いで必ずしも時間が合うわけじゃなかったが、それでも週に何回か、寝る前にはどっちかはここに来てた。約束したわけでもないのに、なんとなく来てくれるような、居てくれてるような気がして。
「俺さ多分、この時間が取れなくなるのが寂しいって、お前に言って欲しかっただけなんだな」
「うん、寂しい。和谷の泣き顔見れなくなるのが。生き甲斐の一部が無くなった気分」
「おっまえなー……。」
楽しそうに笑うからこっちも怒る気が失せて笑ってしまう。
それから少し話をして、幼馴染の方がこれから家族と外食に行くからそろそろ。と階段を一段上がりかけたところで、本気にされないだろうけど言ってみた。
「俺の目盗んで、彼氏作んなよ」
いつもなら、小首を傾げて『どーした、頭打った?』そう一蹴される覚悟で言ってみたのに、一段登り切ってから振り向きもしないし、動かない。かと思いきや予想外の反応で。
「うん。」
何も入り混じっていない素直なこの相槌が、声が、しばらく何をしても忘れられなかった。