和谷夢短編集
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◇2個下の和谷◇
「ね、2組の院生の子がさ先週和谷が女の子と楽しそうに2人で歩いてたのを見たんだって」
1つ歳下で同じ組の奈瀬ちゃんに手元を狂わせられ、思わずお母さんに作ってもらったお弁当のおかずの卵焼きを一膳のお箸で貫通してしまった。
「あっそう」
「……それ以外の反応は?」
「ない」
素っ気ない返事。和谷とは最寄駅が近くて手合い以外でも割と会っていた仲ではあるけど。一足先にプロになった和谷のプライベートなんか、私には関係ない。むしろもう会わないかもしれないのに。
「……ありません」
「えっ」
午後の研修手合いは全く集中出来なかった。
手合い相手の小宮に投了すんの早くない?と言われて喉の奥がギュッと締まる。
「っ……ごめん」
「そう簡単に勝ちを譲られると、なんか釈然としないな」
ここにいる皆はプロを目指していて、手合い日の1日1局1手を無駄になんかできない。そんな中、自分だけがこんな柔で申し訳ないのと嫌気が差す。午前は1勝したのに昼休憩に奈瀬ちゃんから聞いた、たったあの一言でこうも変わるとは。
小宮には申し訳ないけど、篠田先生が来る前に検討もせずに碁石をしまって、いつもみたいに奈瀬ちゃんを待つこともなく、帰る支度をしてエレベーターに一直線。
認めたくない、認めたくない。
私が和谷を────
「よっ、久しぶりだな。みんなはまだ検討中か?」
「……」
エレベーターの扉が開いた先には今一番顔を見てはいけない和谷の姿。棋院に来てたって何の文句もないけどなんでよりによって今日なのよ。その疑問は聞かなくても答えてくれた。小宮達に合格祝いがてら飯とカラオケ奢ってもらいに来たと。
「そう、検討中だよ。じゃあね」
嬉しそうに話す和谷にぶっきらぼうに反応して、早歩きで横を通り過ぎようとすると、ちょっと待てと腕を掴まれる。
「そんなに苛ついてどうしたんだよ。」
「苛ついてなんかないよ……。別に」
あぁ、もう放っといて欲しい。早く帰らせて。
これ以上和谷と話してたら溢れ出しそう。
「みんな揃うまで、ちょっと付き合えよ」
少し冷静になって、和谷は悪くないのに1人で勝手にイライラして、悪い気がしてきたから、着いていくことにした。
「つ、釣り堀?」
「せっかく晴れてるしさ、あとただ座って何も考えなくてもいいし」
予想もしてなかった場所。確かに近いけど、釣り堀。
渋いセンスしてるとか思ったけど囲碁やってる時点ですでに私もそうか。中に入ると土曜日だからか家族連れが多かった。2人分座れそうな場所を確保して、餌をつけて釣り糸を水面に垂らす。お互い特に何も喋らなかった。しばらく私もただただ顔を見ないように水面に揺れ映る自分の顔を見ていた。
「そろそろ、落ち着いた?」
「うん。さっきは八つ当たりみたいなことしてごめん」
ぽつりぽつりとお互い口を開く。
「話したくないなら無理して答えなくていいけどさ、何かあった?」
「なんでそう思うの」
「お前手合い負けたくらいで苛ついた態度を表に出すような質じゃないだろ。よっぽどのことがあったのかと思って」
「そっか、よっぽどね……。くだらないかもだけど、聞く?」
「あぁ」
真正面に私に向き合ってくれた和谷に言う気が起きた。
「実は、和谷が先週楽しそうに女の子と歩いてるのを見たっていうのを聞いて……私、全然関係ないのになんか変に苛々してさ、小宮に悪いことしちゃって。」
「……それ、告白?」
「ち、違……わない。」
認めたくなかったのに、和谷にヤキモチ焼いてるなんて。
和谷のこと好きだって。好きだったとしても、言うのは今じゃない。これから和谷はもっと忙しくなってそれに私はまだ試験合格してないんだから。
「碁でも強行突破してくるお前らしくて、いいよ」
しかも笑われるし、もう終わった。
プロ諦めて趣味で碁を続けた方がいいんじゃないかレベル。
「……聞いてくれてありがと。言えてスッキリしたわ。」
人情深い和谷のことだ、断るのに言葉探してもらったり悩ませたくないから、そろそろ電車来る時間だからと適当なこと抜かしてその場を去ろうとする。
「正直小宮達には悪いけど、今日、お前が来るって聞いてたから帰り、久しぶりにどっか寄れないかとか楽しみにしてた。それこそそっちがメインで」
和谷が歯を見せてニッと笑う。
試験合格以降、当たり前だけど確かに帰りが重なることはなかった。というかそれ以前に。
「ちょっと待った。私、参加するって話一切聞いてないんだけど」
「そりゃあな、俺が今決めた事だし。じゃ、ぼちぼち戻ろーぜ。」
「え、急には迷惑過ぎるでしょ」
「別に帰れなんて言われねーよ。万が一言われたら俺も帰る」
「んな、大袈裟な。」
メンバーは知らないけど小宮が企画するくらいだから、きっと男の集いだろうに和谷は気にせず私の手を取り引っ張る。棋院に着いて、小宮と奈瀬ちゃんに指摘されるまでそれが離れることは無かった。
「ね、2組の院生の子がさ先週和谷が女の子と楽しそうに2人で歩いてたのを見たんだって」
1つ歳下で同じ組の奈瀬ちゃんに手元を狂わせられ、思わずお母さんに作ってもらったお弁当のおかずの卵焼きを一膳のお箸で貫通してしまった。
「あっそう」
「……それ以外の反応は?」
「ない」
素っ気ない返事。和谷とは最寄駅が近くて手合い以外でも割と会っていた仲ではあるけど。一足先にプロになった和谷のプライベートなんか、私には関係ない。むしろもう会わないかもしれないのに。
「……ありません」
「えっ」
午後の研修手合いは全く集中出来なかった。
手合い相手の小宮に投了すんの早くない?と言われて喉の奥がギュッと締まる。
「っ……ごめん」
「そう簡単に勝ちを譲られると、なんか釈然としないな」
ここにいる皆はプロを目指していて、手合い日の1日1局1手を無駄になんかできない。そんな中、自分だけがこんな柔で申し訳ないのと嫌気が差す。午前は1勝したのに昼休憩に奈瀬ちゃんから聞いた、たったあの一言でこうも変わるとは。
小宮には申し訳ないけど、篠田先生が来る前に検討もせずに碁石をしまって、いつもみたいに奈瀬ちゃんを待つこともなく、帰る支度をしてエレベーターに一直線。
認めたくない、認めたくない。
私が和谷を────
「よっ、久しぶりだな。みんなはまだ検討中か?」
「……」
エレベーターの扉が開いた先には今一番顔を見てはいけない和谷の姿。棋院に来てたって何の文句もないけどなんでよりによって今日なのよ。その疑問は聞かなくても答えてくれた。小宮達に合格祝いがてら飯とカラオケ奢ってもらいに来たと。
「そう、検討中だよ。じゃあね」
嬉しそうに話す和谷にぶっきらぼうに反応して、早歩きで横を通り過ぎようとすると、ちょっと待てと腕を掴まれる。
「そんなに苛ついてどうしたんだよ。」
「苛ついてなんかないよ……。別に」
あぁ、もう放っといて欲しい。早く帰らせて。
これ以上和谷と話してたら溢れ出しそう。
「みんな揃うまで、ちょっと付き合えよ」
少し冷静になって、和谷は悪くないのに1人で勝手にイライラして、悪い気がしてきたから、着いていくことにした。
「つ、釣り堀?」
「せっかく晴れてるしさ、あとただ座って何も考えなくてもいいし」
予想もしてなかった場所。確かに近いけど、釣り堀。
渋いセンスしてるとか思ったけど囲碁やってる時点ですでに私もそうか。中に入ると土曜日だからか家族連れが多かった。2人分座れそうな場所を確保して、餌をつけて釣り糸を水面に垂らす。お互い特に何も喋らなかった。しばらく私もただただ顔を見ないように水面に揺れ映る自分の顔を見ていた。
「そろそろ、落ち着いた?」
「うん。さっきは八つ当たりみたいなことしてごめん」
ぽつりぽつりとお互い口を開く。
「話したくないなら無理して答えなくていいけどさ、何かあった?」
「なんでそう思うの」
「お前手合い負けたくらいで苛ついた態度を表に出すような質じゃないだろ。よっぽどのことがあったのかと思って」
「そっか、よっぽどね……。くだらないかもだけど、聞く?」
「あぁ」
真正面に私に向き合ってくれた和谷に言う気が起きた。
「実は、和谷が先週楽しそうに女の子と歩いてるのを見たっていうのを聞いて……私、全然関係ないのになんか変に苛々してさ、小宮に悪いことしちゃって。」
「……それ、告白?」
「ち、違……わない。」
認めたくなかったのに、和谷にヤキモチ焼いてるなんて。
和谷のこと好きだって。好きだったとしても、言うのは今じゃない。これから和谷はもっと忙しくなってそれに私はまだ試験合格してないんだから。
「碁でも強行突破してくるお前らしくて、いいよ」
しかも笑われるし、もう終わった。
プロ諦めて趣味で碁を続けた方がいいんじゃないかレベル。
「……聞いてくれてありがと。言えてスッキリしたわ。」
人情深い和谷のことだ、断るのに言葉探してもらったり悩ませたくないから、そろそろ電車来る時間だからと適当なこと抜かしてその場を去ろうとする。
「正直小宮達には悪いけど、今日、お前が来るって聞いてたから帰り、久しぶりにどっか寄れないかとか楽しみにしてた。それこそそっちがメインで」
和谷が歯を見せてニッと笑う。
試験合格以降、当たり前だけど確かに帰りが重なることはなかった。というかそれ以前に。
「ちょっと待った。私、参加するって話一切聞いてないんだけど」
「そりゃあな、俺が今決めた事だし。じゃ、ぼちぼち戻ろーぜ。」
「え、急には迷惑過ぎるでしょ」
「別に帰れなんて言われねーよ。万が一言われたら俺も帰る」
「んな、大袈裟な。」
メンバーは知らないけど小宮が企画するくらいだから、きっと男の集いだろうに和谷は気にせず私の手を取り引っ張る。棋院に着いて、小宮と奈瀬ちゃんに指摘されるまでそれが離れることは無かった。