和谷夢短編集
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◇19歳の特権(和谷誕生日2020)◇
8月11日の23時。俺は助手席に座っていた。
「なぁ、どこに向かってるんだよ。」
「着いてからのお楽しみ〜。」
隣で運転する彼女は行き先も伝えず、深夜の車が少ない高速道路を痛快に走らせる。これが誘拐だったら不安で堪ったもんじゃねーけど、門下の姉弟子なら悪いようにはしないはずだ。
俺は助手席の窓に頬杖をついて、フロントガラス越しに映る景色をぼんやり眺めていた。等間隔に並べられた両端の外灯は一体、どこまで道を照らしてくれるのだろう。
外灯には間隔があるのに、スピードが速いせいか全て繋がった一線のように見えた。
見ていて飽きがこない。
「さ、着いたよ」
飽きはこなくても、目的地に来てしまった。
目の前に広がるのは真っ黒な海。そこに工場から放出された無機質な光が暗闇を照らしていた。
「へぇ、すっげー。近未来的な感じ!」
「でしょ?サンタクロース信じてる和谷くんの夢を壊すようで悪いけど、あれ工場の光なんだよ。」
海辺の柵を掴み前のめりになったくらい、はしゃいだのは否定しない。ランドセル背負ってた頃からの知り合いだがついぶっきらぼうな態度をとる。
「知ってる。いつまでもガキ扱いすんなっての。」
「そうだね。和谷君はたった今、補導されない歳になったね。」
「あっ…。」
言われて、日が跨いでいたのに気づいた。
「19回目の誕生日おめでとう!」
「……」
祝ってもらったのに言葉詰まる。
危なっかしいことしてごめん。
でも、和谷くんの19歳の誕生日に絶対やろうって決めてた。
前から暖めてた話だなんて知ってしまったら、ありがとうの一言じゃ足りない気がして言葉が出ない。
代わりに腹の音が返事をした。
「ふふっ。じゃあ、19歳の特権使おうか。」
「?」
特別風に言ったが、実際に車を走らせた場所はファミレス。グラスを交わして乾いた音を響かせた。
「ごめんね。冴えない事に付き合わせて。なんかプレゼントあげようと思ったんだけど、年頃の男の子に何渡せばいいか分からなくてさ。」
「それ、アルコール入ってねーよな?」
「失敬な!入ってないよ!」
酔うと急に謝ったり、全人類に感謝しだすわで酒癖を知っていた。深夜だというのにつまみ程度にプライドポテトや唐揚げを頼んで、飲み食いも話も止まらない。
週1ペースで必ず会っているのに、なぜかコイツとは話が尽きない。
「すいません、白ワインください」
「かしこまりました。」
「おい、お前ほどほどにしろよな。」
「はいはい」
トイレに行く間際に言った俺の忠告は適当にあしらわれた。席から離れると楽しい雰囲気から一旦、落ち着き我に返る。
「いや、ほどほどじゃねーだろ…!」
トイレに行ったのに本来の目的を後回しに席へ。
「馬鹿!お前うんて───」
「ぷはぁっ。美味しー!」
遅かった。わずか何秒かの差だったと思う。
俺に気づくと、もう行って来たの?早いね。 呑気に話す姉弟子。
「……運転」
「あ」
彼女の顔から血の気が引いていくのが分かった。
そこで出て来たのは、福澤諭吉。
「こ、これで帰れる?タクシーで…。」
1万円札の両端は丁寧に手が添えられていて、そのまま福澤諭吉を、俺の方へ滑らせた。彼女がとった行動そのものに笑いが堪えられずに噴き出すした。
やっぱり、話が尽きないだけある。
「いいよ、どうせなら19歳の特権だっけ?使いまくってやるよ。こういう事もあろうかと思ってマグネット盤持って来てよかったぜ。」
「こういう事って、私のことまだ大人のお姉さんだと思ってないでしょ!」
「どうだか。まぁ、強いて言うなら、」
歳上で一番、ほっとけなくて気兼ねなく喋れるヤツ。
そう言うとほっとけないは余計。と、口を尖らせて言われた。
19歳の朝を迎えたのは、朝陽を浴び、輝いている水面が一望できるファミレスだった。
8月11日の23時。俺は助手席に座っていた。
「なぁ、どこに向かってるんだよ。」
「着いてからのお楽しみ〜。」
隣で運転する彼女は行き先も伝えず、深夜の車が少ない高速道路を痛快に走らせる。これが誘拐だったら不安で堪ったもんじゃねーけど、門下の姉弟子なら悪いようにはしないはずだ。
俺は助手席の窓に頬杖をついて、フロントガラス越しに映る景色をぼんやり眺めていた。等間隔に並べられた両端の外灯は一体、どこまで道を照らしてくれるのだろう。
外灯には間隔があるのに、スピードが速いせいか全て繋がった一線のように見えた。
見ていて飽きがこない。
「さ、着いたよ」
飽きはこなくても、目的地に来てしまった。
目の前に広がるのは真っ黒な海。そこに工場から放出された無機質な光が暗闇を照らしていた。
「へぇ、すっげー。近未来的な感じ!」
「でしょ?サンタクロース信じてる和谷くんの夢を壊すようで悪いけど、あれ工場の光なんだよ。」
海辺の柵を掴み前のめりになったくらい、はしゃいだのは否定しない。ランドセル背負ってた頃からの知り合いだがついぶっきらぼうな態度をとる。
「知ってる。いつまでもガキ扱いすんなっての。」
「そうだね。和谷君はたった今、補導されない歳になったね。」
「あっ…。」
言われて、日が跨いでいたのに気づいた。
「19回目の誕生日おめでとう!」
「……」
祝ってもらったのに言葉詰まる。
危なっかしいことしてごめん。
でも、和谷くんの19歳の誕生日に絶対やろうって決めてた。
前から暖めてた話だなんて知ってしまったら、ありがとうの一言じゃ足りない気がして言葉が出ない。
代わりに腹の音が返事をした。
「ふふっ。じゃあ、19歳の特権使おうか。」
「?」
特別風に言ったが、実際に車を走らせた場所はファミレス。グラスを交わして乾いた音を響かせた。
「ごめんね。冴えない事に付き合わせて。なんかプレゼントあげようと思ったんだけど、年頃の男の子に何渡せばいいか分からなくてさ。」
「それ、アルコール入ってねーよな?」
「失敬な!入ってないよ!」
酔うと急に謝ったり、全人類に感謝しだすわで酒癖を知っていた。深夜だというのにつまみ程度にプライドポテトや唐揚げを頼んで、飲み食いも話も止まらない。
週1ペースで必ず会っているのに、なぜかコイツとは話が尽きない。
「すいません、白ワインください」
「かしこまりました。」
「おい、お前ほどほどにしろよな。」
「はいはい」
トイレに行く間際に言った俺の忠告は適当にあしらわれた。席から離れると楽しい雰囲気から一旦、落ち着き我に返る。
「いや、ほどほどじゃねーだろ…!」
トイレに行ったのに本来の目的を後回しに席へ。
「馬鹿!お前うんて───」
「ぷはぁっ。美味しー!」
遅かった。わずか何秒かの差だったと思う。
俺に気づくと、もう行って来たの?早いね。 呑気に話す姉弟子。
「……運転」
「あ」
彼女の顔から血の気が引いていくのが分かった。
そこで出て来たのは、福澤諭吉。
「こ、これで帰れる?タクシーで…。」
1万円札の両端は丁寧に手が添えられていて、そのまま福澤諭吉を、俺の方へ滑らせた。彼女がとった行動そのものに笑いが堪えられずに噴き出すした。
やっぱり、話が尽きないだけある。
「いいよ、どうせなら19歳の特権だっけ?使いまくってやるよ。こういう事もあろうかと思ってマグネット盤持って来てよかったぜ。」
「こういう事って、私のことまだ大人のお姉さんだと思ってないでしょ!」
「どうだか。まぁ、強いて言うなら、」
歳上で一番、ほっとけなくて気兼ねなく喋れるヤツ。
そう言うとほっとけないは余計。と、口を尖らせて言われた。
19歳の朝を迎えたのは、朝陽を浴び、輝いている水面が一望できるファミレスだった。