和谷夢短編集
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◇ティッシュ配り◇
「カラオケどうですかー」
店のポケットティッシュと共に覇気がない口調。
パントリーで店内に流れる有線BGMの曲を口笛吹いてたところを目撃されて暇そうにしてるし、お客さん全然来ないからティッシュ配りがてら客寄せに行ってこいという店長の指令により今に至る。
改札からうちの店の方向に歩いてくる人に絞って配るもコートを着てもなお、緩まない夜の寒さと大きな紙袋に抜け目なく詰められたポケットティッシュに気が滅入る。
私だって、ティッシュやチラシ配られたら素通りする人間。そんな人間から受け取って貰えるんだろうかとすら思えてきた。いや、ティッシュ全部配るのが目的ではないんだけど。
たまにおじいちゃん、おばあちゃんや一部の人は見かねて1つ頂戴と言ってくれる人もいる。そういうところに日本人の暖かみを感じるし、出来るだけ配っておけば店長にも頑張ったんですけどアピールをするには十分。
そんな意地汚いこと考えながらまた覇気のない言葉と共にポケットティッシュ。あ、また1人受けとってくれた。と思ったら、見知った顔。
「よぉ、久しぶり。」
「和谷!」
私が高校2年生まで囲碁のプロ棋士目指してて、同い年の院生仲間だった。最後に会ったのが高校上がってすぐ和谷のアパートに遊びに行った以来。今が大学1年だからもう数年前。
「よく覚えてたね、私のこと」
「若獅子戦、レギュラーメンバーのお前が居なくなったら分かるっての」
「確かに」
納得してしまったけど、万年若獅子戦レギュラーメンバーで覚えられてたのかよ私。もっと他になんかいい覚え方ないのかって膝で小突く。プロになれなかった時点で強くは言えないんだけどね。
「……何したら店戻れんの?」
「お客さん連れて帰れば。って言うと和谷を狙ってるみたいで嫌だからさ、こんな寒いとこで立ち止まってないで早く行きなよ」
私の声は彼に届いてないみたいで、顎に手を置いて和谷はなにやら考え事。すると目の前で手の平を開いて言う。
「俺含めて5人!飲み放題フリータイム。」
「えっ、いや無理しないでいいよ!」
「無理してねーよ。元々集まる予定があって、店すらも決まってなかったし。よくよく考えればカラオケなら移動しなくていいから楽だ」
「今日、休日前日の夜だから平日より少し高くつくけど平気?」
「どんだけ俺の稼ぎ少ないと思ってんだよ、お前は。ほら早く店行こうぜ、寒いだろ」
私の手からポケットティッシュの山が入ってる紙袋は彼の手に渡っていた。いつまでも変わらないその器の広さと優しさに、安心と暖かみを感じていた。
「カラオケどうですかー」
店のポケットティッシュと共に覇気がない口調。
パントリーで店内に流れる有線BGMの曲を口笛吹いてたところを目撃されて暇そうにしてるし、お客さん全然来ないからティッシュ配りがてら客寄せに行ってこいという店長の指令により今に至る。
改札からうちの店の方向に歩いてくる人に絞って配るもコートを着てもなお、緩まない夜の寒さと大きな紙袋に抜け目なく詰められたポケットティッシュに気が滅入る。
私だって、ティッシュやチラシ配られたら素通りする人間。そんな人間から受け取って貰えるんだろうかとすら思えてきた。いや、ティッシュ全部配るのが目的ではないんだけど。
たまにおじいちゃん、おばあちゃんや一部の人は見かねて1つ頂戴と言ってくれる人もいる。そういうところに日本人の暖かみを感じるし、出来るだけ配っておけば店長にも頑張ったんですけどアピールをするには十分。
そんな意地汚いこと考えながらまた覇気のない言葉と共にポケットティッシュ。あ、また1人受けとってくれた。と思ったら、見知った顔。
「よぉ、久しぶり。」
「和谷!」
私が高校2年生まで囲碁のプロ棋士目指してて、同い年の院生仲間だった。最後に会ったのが高校上がってすぐ和谷のアパートに遊びに行った以来。今が大学1年だからもう数年前。
「よく覚えてたね、私のこと」
「若獅子戦、レギュラーメンバーのお前が居なくなったら分かるっての」
「確かに」
納得してしまったけど、万年若獅子戦レギュラーメンバーで覚えられてたのかよ私。もっと他になんかいい覚え方ないのかって膝で小突く。プロになれなかった時点で強くは言えないんだけどね。
「……何したら店戻れんの?」
「お客さん連れて帰れば。って言うと和谷を狙ってるみたいで嫌だからさ、こんな寒いとこで立ち止まってないで早く行きなよ」
私の声は彼に届いてないみたいで、顎に手を置いて和谷はなにやら考え事。すると目の前で手の平を開いて言う。
「俺含めて5人!飲み放題フリータイム。」
「えっ、いや無理しないでいいよ!」
「無理してねーよ。元々集まる予定があって、店すらも決まってなかったし。よくよく考えればカラオケなら移動しなくていいから楽だ」
「今日、休日前日の夜だから平日より少し高くつくけど平気?」
「どんだけ俺の稼ぎ少ないと思ってんだよ、お前は。ほら早く店行こうぜ、寒いだろ」
私の手からポケットティッシュの山が入ってる紙袋は彼の手に渡っていた。いつまでも変わらないその器の広さと優しさに、安心と暖かみを感じていた。