和谷夢短編集
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◇碁を始めるきっかけになった碁会所のお姉さんの話◇
「え、義高君?」
「お久しぶりです…。」
小学校に上がり立ての俺は
雨の日の日曜日退屈していて
母さんに休みの日だからってゲームばっかしてるな。って怒られていたとこに
父さんと遊びに行こう。
そう連れられて雨の中行ったのが
隣町の小綺麗な碁会所。
囲碁なんて
小学生男子が一度は抱くであろう
地味で渋い。
じーちゃんばーちゃんが
やるような遊びじゃん。
そんなイメージだった。
父さんはそこのマスターと歳の離れた旧友で仲良いのと
常連客で、他の客とも顔見知りで
俺なんかそっちのけで
自販機の缶ジュースだけ渡して
大人だけで楽しみやがった。
端っこの空いてる席で
テキトーに座ってると
「あら、珍しい。
こんな可愛いお客さんがいるなんて」
「……」
一見中学生ぐらいに見える姉ちゃんが話しかけてきた。
歳の離れた女の人と話す機会なんて
先生や母さんくらいしか無かったから
何も言えずにいると、
碁盤とその上に乗ってる碁筒
を挟んで俺の目の前に座る。
「あ、もしかして私の父さんが
君の父さん取っちゃったかな…。ごめんね。」
「別に、父さんが勝手にあっちに行っただけだよ。」
客は男しか居なかったのと、
こんなちっこいのが1人で来るわけないという推測から
敢えて姉ちゃんは父さんと言ったのだろう。
そして、姉ちゃんが俺より10歳年上でマスターの娘だということを知る。
「そっか。大人だけで楽しんじゃってつまんないよねー。
私たちも子供だけで楽しまない?」
「お、俺打てねーよ!」
ニコニコしながら碁盤と碁筒に指差すから、慌てて答える。
「じゃあ、こっちの9路盤ので
石取りゲームからやろ。
やってみれば案外ハマっちゃうかも。物は試しってやつだよ。」
「…分かった。」
まさにその通りだった。
やってみるとこれがまた案外楽しくて
気づけば、毎週土日はその碁会所に居て朝から晩まで姉ちゃんや常連客と碁をひたすら打ってた。
最初の頃は姉ちゃんに教えられて
出来ることが増えて純粋に頭撫でられて褒められるのが嬉しかったのと
姉ちゃんにカッコいいとこ見せてやりたいって単純に思ってた。
でも次第にプロになりたいって気持ちが強くなる。
そこからは囲碁教室に通い、やがて院生になり
その碁会所には行かなくなった。
父さんは相変わらず行ってたみたいだけど
特に俺から姉ちゃんの話を聞こうともしなかったし、
父さんからも姉ちゃんの話を聞くことは無かった。
そのまま時間も経ち、
プロ試験に合格。
────────そして冒頭に戻る。
多分、店番してたらしい姉ちゃんと
流れで2人でよく打ってた席に座り
碁を打つことに。
「にしても、義高君がプロになるなんて…。なんか感動。母親みたいな気分だわ。」
母親って…。
「まぁ、間違ってはないよな。
姉ちゃ…姉さんに会わなかったら今の俺はいないわけだし。」
「ふふっ。いいよ、かしこまらなくても。」
さすがに姉ちゃん呼びはどうかと思って直したけど意味なかった。
この人の
人を優しく包み込んじゃう様な感じも昔から変わらない。
そして姉ちゃんは
男が放っとかないくらい
綺麗な人になっていた。
「…参りました。
義高君、本当に頑張ったんだね。」
「これからもっと頑張らなきゃいけねーけどな。」
なんて笑いながら話して
碁盤に並べた碁石を片付けていると
────あ。
姉ちゃんの左手薬指に目がいった。
女の憧れ、幸せの象徴ってヤツを表すモノがつけられていた。
「義高君、なんか飲む?」
「…いやいいよ。そろそろ俺帰らねーと。」
馬鹿。
10歳も離れてれば当たり前だろ。
結婚して、大切な人が居るなんて。
何を今更期待して…。
「そっか。また、遊びに来てね。
テレビでも義高君のこと見てるから、応援してるよ。」
馬鹿、馬鹿。
笑顔崩すんじゃねーよ、俺。
「…姉ちゃんも、幸せにな。」
「あ、気づいてくれてたんだ!ありがとう。」
なんとか、店を出るまでは
バレない様に表情を保った。
ありがとう。と幸せそうに笑った姉ちゃんの顔が忘れられない。
旦那が羨ましい。
あの人の普段見れない表情も知って
2人だけしか知らない世界があって。
今更、張り合ったってどうしようもないのに
俺の方が先に姉さんのこと───────
なんて、
自分から行かなくなった癖に
横取りされた気分になるなんて
俺は、なんて底意地の悪いヤツなんだろう。
そんなこと言っても、
過去にはもう戻れない。
しばらく、吹っ切れないだろうけど
今の俺になるきっかけをくれた姉さんには感謝して
今は前を向いて
進み続けよう。
「え、義高君?」
「お久しぶりです…。」
小学校に上がり立ての俺は
雨の日の日曜日退屈していて
母さんに休みの日だからってゲームばっかしてるな。って怒られていたとこに
父さんと遊びに行こう。
そう連れられて雨の中行ったのが
隣町の小綺麗な碁会所。
囲碁なんて
小学生男子が一度は抱くであろう
地味で渋い。
じーちゃんばーちゃんが
やるような遊びじゃん。
そんなイメージだった。
父さんはそこのマスターと歳の離れた旧友で仲良いのと
常連客で、他の客とも顔見知りで
俺なんかそっちのけで
自販機の缶ジュースだけ渡して
大人だけで楽しみやがった。
端っこの空いてる席で
テキトーに座ってると
「あら、珍しい。
こんな可愛いお客さんがいるなんて」
「……」
一見中学生ぐらいに見える姉ちゃんが話しかけてきた。
歳の離れた女の人と話す機会なんて
先生や母さんくらいしか無かったから
何も言えずにいると、
碁盤とその上に乗ってる碁筒
を挟んで俺の目の前に座る。
「あ、もしかして私の父さんが
君の父さん取っちゃったかな…。ごめんね。」
「別に、父さんが勝手にあっちに行っただけだよ。」
客は男しか居なかったのと、
こんなちっこいのが1人で来るわけないという推測から
敢えて姉ちゃんは父さんと言ったのだろう。
そして、姉ちゃんが俺より10歳年上でマスターの娘だということを知る。
「そっか。大人だけで楽しんじゃってつまんないよねー。
私たちも子供だけで楽しまない?」
「お、俺打てねーよ!」
ニコニコしながら碁盤と碁筒に指差すから、慌てて答える。
「じゃあ、こっちの9路盤ので
石取りゲームからやろ。
やってみれば案外ハマっちゃうかも。物は試しってやつだよ。」
「…分かった。」
まさにその通りだった。
やってみるとこれがまた案外楽しくて
気づけば、毎週土日はその碁会所に居て朝から晩まで姉ちゃんや常連客と碁をひたすら打ってた。
最初の頃は姉ちゃんに教えられて
出来ることが増えて純粋に頭撫でられて褒められるのが嬉しかったのと
姉ちゃんにカッコいいとこ見せてやりたいって単純に思ってた。
でも次第にプロになりたいって気持ちが強くなる。
そこからは囲碁教室に通い、やがて院生になり
その碁会所には行かなくなった。
父さんは相変わらず行ってたみたいだけど
特に俺から姉ちゃんの話を聞こうともしなかったし、
父さんからも姉ちゃんの話を聞くことは無かった。
そのまま時間も経ち、
プロ試験に合格。
────────そして冒頭に戻る。
多分、店番してたらしい姉ちゃんと
流れで2人でよく打ってた席に座り
碁を打つことに。
「にしても、義高君がプロになるなんて…。なんか感動。母親みたいな気分だわ。」
母親って…。
「まぁ、間違ってはないよな。
姉ちゃ…姉さんに会わなかったら今の俺はいないわけだし。」
「ふふっ。いいよ、かしこまらなくても。」
さすがに姉ちゃん呼びはどうかと思って直したけど意味なかった。
この人の
人を優しく包み込んじゃう様な感じも昔から変わらない。
そして姉ちゃんは
男が放っとかないくらい
綺麗な人になっていた。
「…参りました。
義高君、本当に頑張ったんだね。」
「これからもっと頑張らなきゃいけねーけどな。」
なんて笑いながら話して
碁盤に並べた碁石を片付けていると
────あ。
姉ちゃんの左手薬指に目がいった。
女の憧れ、幸せの象徴ってヤツを表すモノがつけられていた。
「義高君、なんか飲む?」
「…いやいいよ。そろそろ俺帰らねーと。」
馬鹿。
10歳も離れてれば当たり前だろ。
結婚して、大切な人が居るなんて。
何を今更期待して…。
「そっか。また、遊びに来てね。
テレビでも義高君のこと見てるから、応援してるよ。」
馬鹿、馬鹿。
笑顔崩すんじゃねーよ、俺。
「…姉ちゃんも、幸せにな。」
「あ、気づいてくれてたんだ!ありがとう。」
なんとか、店を出るまでは
バレない様に表情を保った。
ありがとう。と幸せそうに笑った姉ちゃんの顔が忘れられない。
旦那が羨ましい。
あの人の普段見れない表情も知って
2人だけしか知らない世界があって。
今更、張り合ったってどうしようもないのに
俺の方が先に姉さんのこと───────
なんて、
自分から行かなくなった癖に
横取りされた気分になるなんて
俺は、なんて底意地の悪いヤツなんだろう。
そんなこと言っても、
過去にはもう戻れない。
しばらく、吹っ切れないだろうけど
今の俺になるきっかけをくれた姉さんには感謝して
今は前を向いて
進み続けよう。