スタマイ夢で20題
◇満員電車/槙慶太◇
また月曜日の朝がやってきてしまった。
今日も社会の歯車と化す為、満員電車に始まり、満員電車に終わる1日なのかと思うと憂鬱な気持ちになった。
ただでさえ仕事で長時間拘束されて疲れるのに、加えて満員電車で疲労が蓄積される。電車くらい社会人や学生を労ってくれたっていいのに。全席マッサージチェアくらいにはしてもいいと思う。
なんて、朝から頭の中で独りごちりながらも渋々出勤の準備に取り掛かった。
それから1時間後、ようやく部屋を出てマンションのエントラスを通ると目の前に車が止まっていた。真横を素通りしようとしたら車の窓が下がって、見慣れた人の顔が見えて私は声を上げた。
「えっ、槙くん!?」
「おはよう。電話かけようとしたらちょうどアンタが出てきたから、タイミングが良かった。助手席乗って。会社まで送ってく。」
私に有無も言わさぬ速さで助手席側のドアが開いた。
そこまで来たら断れるわけが無く、お言葉に甘えて会社まで送ってもらうことにした。
早速、助手席に座りシートベルトを締めるや否や私は槙くんに問う。
「私の会社って槙くんの会社の通り道じゃ無いよね。大丈夫?遅刻しない?」
確かに満員電車に嫌気が差していて、急に舞い込んできた願ったり叶ったりな状況は嬉しい。でもそれよりも、明らかに槙くんに負担を背負わせている罪悪感の方が大きく感じる。
槙くんは前方を見たまま、運転に集中しつつ答えてくれた。
「今日は元々遅めの出勤だから平気。だからアンタを送るの、全然負担になってない。」
さすがは槙くん。私の考えてることがお見通しだ。
「そっか。それならいいんだけど……。」
後に言う言葉が思いつかず、窮していると槙くんが口を開いた。
「お前、少し前に私にトドメを差すのは満員電車か仕事どっちが早いか。とかそんな話してただろ。」
「え、してたっけ?」
記憶を辿ってみるも全く思いつかない。でも、思い当たる節はある。繁忙期で忙殺されていた時期は心が枯れていて、そんな変な言動を槙くんに零していたかも。
「してた。だからその時に毎日は無理だけど、送迎するぞって俺は言った。そしたら、お前は断って、余計に俺の前で弱みを見せなくなった。だからムカついて前触れも無く来た。」
そんな些細な会話のやり取りを覚えてくれていただなんて。槙くんの厚意を踏み躙った過去の自分に素直に甘えろと言ってやりたい。
「ご、ごめん。」
「これを期にもう少し俺に甘えることも覚えてくれ。……曲がりなりにも俺はアンタの彼氏だ。」
ただ記憶力がいいからじゃなくて、アンタの言動だから俺は覚えてたんだ。という気持ちが槙くんの言動から感じ取れた。
「槙くんほどの人が、曲がりなりにもなんて言葉、使うもんじゃないよ。」
左右にはビルの群れが広がっている。それはもう時期、目的地に着き、槙君と離れなければいけないことを示していた。
また少し走ると、私の会社のビルが見えたが赤信号にぶつかった。チャンスだ。
「槙くん。」
「ん?」
信号待ちで、私の方に顔を向けた槙くん。
私はすかさず、槙くんの唇を奪った。
甘え下手で可愛くない私を、大切にしてくれてありがとう。槙くんが居るから今日も元気に頑張れるよ。
そんなありったけの気持ちを込めて。
また月曜日の朝がやってきてしまった。
今日も社会の歯車と化す為、満員電車に始まり、満員電車に終わる1日なのかと思うと憂鬱な気持ちになった。
ただでさえ仕事で長時間拘束されて疲れるのに、加えて満員電車で疲労が蓄積される。電車くらい社会人や学生を労ってくれたっていいのに。全席マッサージチェアくらいにはしてもいいと思う。
なんて、朝から頭の中で独りごちりながらも渋々出勤の準備に取り掛かった。
それから1時間後、ようやく部屋を出てマンションのエントラスを通ると目の前に車が止まっていた。真横を素通りしようとしたら車の窓が下がって、見慣れた人の顔が見えて私は声を上げた。
「えっ、槙くん!?」
「おはよう。電話かけようとしたらちょうどアンタが出てきたから、タイミングが良かった。助手席乗って。会社まで送ってく。」
私に有無も言わさぬ速さで助手席側のドアが開いた。
そこまで来たら断れるわけが無く、お言葉に甘えて会社まで送ってもらうことにした。
早速、助手席に座りシートベルトを締めるや否や私は槙くんに問う。
「私の会社って槙くんの会社の通り道じゃ無いよね。大丈夫?遅刻しない?」
確かに満員電車に嫌気が差していて、急に舞い込んできた願ったり叶ったりな状況は嬉しい。でもそれよりも、明らかに槙くんに負担を背負わせている罪悪感の方が大きく感じる。
槙くんは前方を見たまま、運転に集中しつつ答えてくれた。
「今日は元々遅めの出勤だから平気。だからアンタを送るの、全然負担になってない。」
さすがは槙くん。私の考えてることがお見通しだ。
「そっか。それならいいんだけど……。」
後に言う言葉が思いつかず、窮していると槙くんが口を開いた。
「お前、少し前に私にトドメを差すのは満員電車か仕事どっちが早いか。とかそんな話してただろ。」
「え、してたっけ?」
記憶を辿ってみるも全く思いつかない。でも、思い当たる節はある。繁忙期で忙殺されていた時期は心が枯れていて、そんな変な言動を槙くんに零していたかも。
「してた。だからその時に毎日は無理だけど、送迎するぞって俺は言った。そしたら、お前は断って、余計に俺の前で弱みを見せなくなった。だからムカついて前触れも無く来た。」
そんな些細な会話のやり取りを覚えてくれていただなんて。槙くんの厚意を踏み躙った過去の自分に素直に甘えろと言ってやりたい。
「ご、ごめん。」
「これを期にもう少し俺に甘えることも覚えてくれ。……曲がりなりにも俺はアンタの彼氏だ。」
ただ記憶力がいいからじゃなくて、アンタの言動だから俺は覚えてたんだ。という気持ちが槙くんの言動から感じ取れた。
「槙くんほどの人が、曲がりなりにもなんて言葉、使うもんじゃないよ。」
左右にはビルの群れが広がっている。それはもう時期、目的地に着き、槙君と離れなければいけないことを示していた。
また少し走ると、私の会社のビルが見えたが赤信号にぶつかった。チャンスだ。
「槙くん。」
「ん?」
信号待ちで、私の方に顔を向けた槙くん。
私はすかさず、槙くんの唇を奪った。
甘え下手で可愛くない私を、大切にしてくれてありがとう。槙くんが居るから今日も元気に頑張れるよ。
そんなありったけの気持ちを込めて。
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