アイナナ夢短編
◇夜の君が一番輝いている【九条天】◇
仕事が終わって家に着くと、天さんからラビチャの返信が来ていて、私は顔を引き攣らせた。
テレビ局を出る前に『もう仕事終わった?家に着いたら、ちゃんと連絡して。』と、天さんからメッセージをもらっていた。対して私は、マンションのエレベーターに乗ってる間に『今、エレベーター乗っていて、もうすぐ家に着きます。』と、返信した。
そして冒頭に戻り、家に着くなりラビチャを確認すると、天さんから縦に並んだ2つの吹き出しで返事が来ていたのだ。
『電話しよう。』
『ビデオ通話ね。』
既読をつけたと同時に私は顔を引き攣らせた。
いや、こんな顔見せられない。お付き合いしている天さんには尚更。メイク崩れが酷い働いた後の顔なんて、顔面凶器。
メイク治すからちょっと待ってもらおう。その旨を打つために、スマホの画面に指を伸ばした途端、天さんから着信が入った。もちろん、ビデオ通話で。
カメラは起動しないまま私は応答した。その瞬間、スマホの画面は目鼻立ち整った天さんの顔で埋め尽くされた。
「こ、こんばんは。」
「遅くまでお疲れ様。なんでカメラ起動しないの。」
「メイクが崩れていて、酷いクマも丸見えなものですから。見せられません。少しお待ちいただければ、治します。」
「いいから、カメラ起動して。」
なんだか天さんの声に怒りが混じっているように聞こえる。もしかして最近、お互いの時間が合わなくて会えていないからなのかな。なんて、クールな天さんに限ってそれは無いか。
「しばらく会えてないんだから顔くらい見せてくれたっていいでしょう。ほらカメラ起動して。」
やっぱりそうだったんですか!?
と言いそうになるのを喉の奥に引っ込めて、観念した私は返事をした。
内側カメラを起動するとスマホの画面の左上に、笑顔が引き攣った自分の顔が映る。
私の顔を見た途端、天さんは黙りこんだ。
「……」
ほらやっぱり、酷すぎて言葉を失っている。
「やっ、やっぱりもうダメ!恥ずかしいです…。こんな顔、天さんには見せられません!」
沈黙に耐え切れなくて、私は言いながらカメラを停止するボタンに指を伸ばす。しかし、それは天さんに制された。
「隠しちゃダメ。もっとよく見せて。今の君が一番輝いてる。」
「へ?」
「……夜の君が一番輝いてる。」
目の下の隈は君が誰かの為に一生懸命働いている勲章で。
メイク崩れは、メイクを治せないほど忙しい1日を乗り切ったって証拠。それらに無為な美しさを感じる。だから、夜の君が一番輝いてる。
私にはもったいない言葉尽くしで、天さんは褒めちぎってくれた。「顔面凶器」とも言える働いた後の自分の顔に、魔法をかけるかのように。
「一体これは……時間外ファンサービスですか?ありがとうございます。」
すると、不服そうにむくれる天さん。なにか気に障る言い方だったかな。あ、そっか。私も天さんを褒めて労わらなくては。さっきから私が褒められてばかりじゃない。
渾身の想像力を振り絞って頭を働かせるも、どれも世辞と受け止められるような、安い褒め言葉しか思いつかない。
「今日のファンサービスはとっくに終了してる。」
私は天さんがそう言うまで、見当違いの考えだったと気づけなかった。
「そ、そうですか。じゃあえっと……。」
言葉に窮していると天さんが口を開く。
「まだ気づかないの?僕がそれだけ君に首ったけだってことに。」
「は……い。」
歯切れの悪い返事しかできなかった。
もう私の今日のHPは限界だ。幸せすぎて瀕死状態。いや、このまま死んでも良いかも。
「分かったなら良し。全く……異性では君だけだよ。素の僕にここまで言わせるのは。」
天さんは抑揚のない話し方で言った。
けれども天さんの心地よいアルトの声が、頬を紅潮させたいつもの天さんらしからぬ表情が、私の鼓動を早くさせた。
その後は休みが重なったら、何がしたいとかどこに行こうとか。そう言う話をした後に通話を終了した。
一息つくと肩が下りた。今の今まで私の身体は強張っていたらしい。
メイクを落としてお風呂に入ったり、テレビを見ながら髪を乾かしてても、天さんが褒めてくれた言葉は頭の中を反芻した。
このままでは仕事に影響してしまう。さすがに寝れば少し気がおさまるだろうと思った。しかしそれは甘い考えで。
部屋の明かりを消して目を閉じても、高鳴る心臓はしばらく落ち着かず、寝つけなかった。
仕事が終わって家に着くと、天さんからラビチャの返信が来ていて、私は顔を引き攣らせた。
テレビ局を出る前に『もう仕事終わった?家に着いたら、ちゃんと連絡して。』と、天さんからメッセージをもらっていた。対して私は、マンションのエレベーターに乗ってる間に『今、エレベーター乗っていて、もうすぐ家に着きます。』と、返信した。
そして冒頭に戻り、家に着くなりラビチャを確認すると、天さんから縦に並んだ2つの吹き出しで返事が来ていたのだ。
『電話しよう。』
『ビデオ通話ね。』
既読をつけたと同時に私は顔を引き攣らせた。
いや、こんな顔見せられない。お付き合いしている天さんには尚更。メイク崩れが酷い働いた後の顔なんて、顔面凶器。
メイク治すからちょっと待ってもらおう。その旨を打つために、スマホの画面に指を伸ばした途端、天さんから着信が入った。もちろん、ビデオ通話で。
カメラは起動しないまま私は応答した。その瞬間、スマホの画面は目鼻立ち整った天さんの顔で埋め尽くされた。
「こ、こんばんは。」
「遅くまでお疲れ様。なんでカメラ起動しないの。」
「メイクが崩れていて、酷いクマも丸見えなものですから。見せられません。少しお待ちいただければ、治します。」
「いいから、カメラ起動して。」
なんだか天さんの声に怒りが混じっているように聞こえる。もしかして最近、お互いの時間が合わなくて会えていないからなのかな。なんて、クールな天さんに限ってそれは無いか。
「しばらく会えてないんだから顔くらい見せてくれたっていいでしょう。ほらカメラ起動して。」
やっぱりそうだったんですか!?
と言いそうになるのを喉の奥に引っ込めて、観念した私は返事をした。
内側カメラを起動するとスマホの画面の左上に、笑顔が引き攣った自分の顔が映る。
私の顔を見た途端、天さんは黙りこんだ。
「……」
ほらやっぱり、酷すぎて言葉を失っている。
「やっ、やっぱりもうダメ!恥ずかしいです…。こんな顔、天さんには見せられません!」
沈黙に耐え切れなくて、私は言いながらカメラを停止するボタンに指を伸ばす。しかし、それは天さんに制された。
「隠しちゃダメ。もっとよく見せて。今の君が一番輝いてる。」
「へ?」
「……夜の君が一番輝いてる。」
目の下の隈は君が誰かの為に一生懸命働いている勲章で。
メイク崩れは、メイクを治せないほど忙しい1日を乗り切ったって証拠。それらに無為な美しさを感じる。だから、夜の君が一番輝いてる。
私にはもったいない言葉尽くしで、天さんは褒めちぎってくれた。「顔面凶器」とも言える働いた後の自分の顔に、魔法をかけるかのように。
「一体これは……時間外ファンサービスですか?ありがとうございます。」
すると、不服そうにむくれる天さん。なにか気に障る言い方だったかな。あ、そっか。私も天さんを褒めて労わらなくては。さっきから私が褒められてばかりじゃない。
渾身の想像力を振り絞って頭を働かせるも、どれも世辞と受け止められるような、安い褒め言葉しか思いつかない。
「今日のファンサービスはとっくに終了してる。」
私は天さんがそう言うまで、見当違いの考えだったと気づけなかった。
「そ、そうですか。じゃあえっと……。」
言葉に窮していると天さんが口を開く。
「まだ気づかないの?僕がそれだけ君に首ったけだってことに。」
「は……い。」
歯切れの悪い返事しかできなかった。
もう私の今日のHPは限界だ。幸せすぎて瀕死状態。いや、このまま死んでも良いかも。
「分かったなら良し。全く……異性では君だけだよ。素の僕にここまで言わせるのは。」
天さんは抑揚のない話し方で言った。
けれども天さんの心地よいアルトの声が、頬を紅潮させたいつもの天さんらしからぬ表情が、私の鼓動を早くさせた。
その後は休みが重なったら、何がしたいとかどこに行こうとか。そう言う話をした後に通話を終了した。
一息つくと肩が下りた。今の今まで私の身体は強張っていたらしい。
メイクを落としてお風呂に入ったり、テレビを見ながら髪を乾かしてても、天さんが褒めてくれた言葉は頭の中を反芻した。
このままでは仕事に影響してしまう。さすがに寝れば少し気がおさまるだろうと思った。しかしそれは甘い考えで。
部屋の明かりを消して目を閉じても、高鳴る心臓はしばらく落ち着かず、寝つけなかった。
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