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その他ヒカ碁キャラ夢短編

◇呪いの赤い箱 【進藤ヒカル】◇

囲碁イベントの会場のとあるビルの屋上に夕方の休憩時間に何気なく行ってみた。重いドアを開けると目に入ったのは意外な光景。

「タバコ吸うんだ」
「……見られた」
「なんだよその人聞きの悪い言い方。むしろファンじゃなくてよかっただろ。」
「だからこの俺進藤ヒカル様に感謝しろと」
「そうは言ってねーだろ」

今日、同じイベントで大盤解説担当の女流棋士。伊角さんと同期で俺も知ってる顔。碁の話でも衝突することなく割とおんなじ事考えていたりプライベートでもよく飲みに行ったりして意外と気が合う。
だからいかにもタバコ吸わなさそうな感じなのに吸ってたのが意外だし、割とコイツのこと知ってたつもりなのに知らない一面を目の当たりにしてどこか気分が晴れない。自分だって人に言えないことがある癖にな。
しかも手元を見ると、見覚えのある赤い箱のタバコ。
面白くねぇ。

「……なんでその銘柄?」
「始めて好きになった人が吸ってたから……かな」

それが目に入っただけでそのタバコを吸ってるのを止めたくなる。

「──もう、それ吸うの止めろよ」
「あ、ごめん。苦手だった?」
「そうじゃなくて、これから先もずっと」

語尾を強めて言う。自分から屋上に来た癖に理不尽な態度。そんな俺に対して物腰柔らかくまぁ、健康に悪いもんね。タバコ代も高いしぼちぼち禁煙頑張るわ。と口角を上げて呑気に返事。
これじゃ埓があかない。
またコイツの吸ってるところを見る度俺のこと眼中にないのが嫌でも分かるのがムカつく。

あの人をチラつく物を消したい。
気づけば、手元から例の赤い箱を奪い取ってフェンスより上に投げ捨てる振り。いい歳になってこんな子供じみたことして意地悪いと自分でも思う。それなのに、アイツは止めに来ないからさすがにやり過ぎか。と思って顔を見るとまた知らなかった大人びた眼差し。

「───分かってる。もういい加減辞めなきゃいけないって。でも、お願い最後に1本だけ。そしたら……吹っ切れられそう」

多分。と一呼吸置いて、自信なさ気に笑いながら言われてしまったら何も言えなくなってしまった。早くコイツから赤い箱のタバコを忘れさせられたらどんなに楽なんだろう。
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