その他ヒカ碁キャラ夢短編
◇彼女の笑顔、彼だけが知っていれば良し 【芦原弘幸】◇
「なぁ、最近入ってきた
2階の売店のバイトの子、可愛くね?」
「知ってる。あの無表情な子だろ。
笑った顔も見てみたいけど無表情なのが似合うんだよなァ。」
「デートに誘おうと試みるヤツもいるらしーけど、わっかんねーよな。」
「バッカ、そこがミステリアスな女って感じでいいんじゃん!」
大手合いで何人かの若手の男性棋士が話してて、耳に入った情報。
俺も手合いが終わった後に見てみた。
噂の彼女は暗めのこげ茶色の髪を
一本に結っていて、
ぱっちり二重で可愛らしい黒目が印象的。
そこで俺は適当に商品を買って
興味本位で話をしてみることにした。
「せっかく、可愛い顔してんのに
そんな表情じゃ色々と損しちゃうよ」
「100円のお返しです。」
お釣りを渡されると、彼女は椅子に座り本を読んだ。
その姿を見て俄然やる気が出た。
無視なんて余裕で俺の許容範囲。
その日から、猛攻撃を始める。
大手合い以外にも棋院に何か用があるたびに売店に寄って彼女が居れば
「前髪切った?」
「なんかいつもと雰囲気違うね、メイク変えた?」
「あ、本読み終わったんだね。次何の本読むの?」
しつこいってくらいに
彼女のことを知ろうとして
一方的に話しかけて1ヶ月が経つ頃、
「なんでそんなに話しかけるんですか?」
ついに彼女が俺を意識してくれた。
相変わらず無表情ながらも
しつこいって言わないところが優しい。
まず理由から聞いて頭ごなしに人を怒らないとこ、相当性格がいいと見た。
「崩したくなるんだよ、そのキミの無表情を」
いつも通り、口角を上げて言った。
もちろん最初は興味本位からだったけど
次第に自分の欲望へと変わっていた。
「ねぇ、なんで全く笑わないの?」
「…面白いと思った時は笑いますよ。」
「なるほど」
こりゃお世辞が言えないタイプで
いい意味で言うと正直者、裏表がないってことね。
今日始めて話したことで
彼女への好感度はさらに上がった。
その後も棋院に用があるたびに
彼女がいる夕方の
売店に寄っては話をする。
無表情でありながらも
きちんと会話のキャッチボールをしてくれた。
聞くところによると
彼女は大学1年生で満18歳。
最初は事務として棋院のバイトに受かっていたはずが
突然3日間だけ、売店のヘルプを頼まれて彼女が店番をしていたら、
何故だかいつもよりも売上が伸びて、
3日間の約束がそのまま売店のバイトになってしまったらしい。
そこであの彼女の噂が繋がる。
つまり彼女のファンが
自分の顔を覚えてもらいたいばかりに
何かしら買って売上を伸ばしてるってわけか。
…そういう俺も彼女と話すのに何かしら買ってる。
彼女からしたら俺もそのファン(とは思ってないかもしれないけど)の1人としてしか見られてないのだろうか。
俺じゃないお客さんにもこうして会話をしてるんだろうか。
そう考えると、
他のヤツらと差をつけたい。
その一心で
次に彼女に会った時に
「ね、本好きならこーいうイベント興味ない?」
なんと運良く市ヶ谷駅の近くで
ブックフリマというイベントが今週末に開催されるらしく、それに誘った。
彼女にとりあえずチラシを渡して
「…そのチラシに書いてある時間ぐらいに市ヶ谷駅の改札出たとこで待ってるから」
それだけ言い残して
彼女の有無も聞かずに売店から離れた。
いざ週末がやってきて
イベント開催時間の10分前に着いてしまい、来なかったら来なかったでアキラでも誘ってメシ食って帰るか。くらいに気楽に待っていた。
はずなのに、改札を通った先には
髪を下ろしている彼女が立ったまま本を読みながら待っていて
「…来てくれるなら言ってよ。
そしたら俺、もっと気合い入れてレストラン予約したり私服も、もっと気使ったのに。」
嬉しいを通り越して
もっとちゃんとしたデートにしたかったとでも言うように
そんなことを言ってしまった。
すると本にしおりを挟み
パタンと閉じて
「人の有無も聞かずに自分から誘っといて何言ってんですか、アンタ。」
彼女の冷静なツッコミ。
年下にそんな扱いされるのもアキラのおかげで慣れている。
「ごもっともです。」
そう言いながら
あぁ、失敗したな。と
右手で顔を覆っていると
彼女が気を使って
「気合い入れてカッコいいとこ見せようとして猫かぶってるんだったら他の人と一緒です。
だから芦原さんは猫被らなくていいです。」
そう言い終わった後に
指と指の間に一瞬、
彼女の口角が上がったのが見えた。
「…今の、もう一回。」
バッと右手を顔から離したがもう遅い。
「時間です、行きましょう。」
「え~っ!」
彼女の表情はいつもの無表情へ。
ほんの一瞬の笑顔を見逃したのが後悔だけど
俺のことを1人の人として意識してくれたのでよしとしよう。
足早にイベント会場に向かう
彼女を見て思った。
君の笑顔なんて
これからいくらでも見てやるんだ、と。
「なぁ、最近入ってきた
2階の売店のバイトの子、可愛くね?」
「知ってる。あの無表情な子だろ。
笑った顔も見てみたいけど無表情なのが似合うんだよなァ。」
「デートに誘おうと試みるヤツもいるらしーけど、わっかんねーよな。」
「バッカ、そこがミステリアスな女って感じでいいんじゃん!」
大手合いで何人かの若手の男性棋士が話してて、耳に入った情報。
俺も手合いが終わった後に見てみた。
噂の彼女は暗めのこげ茶色の髪を
一本に結っていて、
ぱっちり二重で可愛らしい黒目が印象的。
そこで俺は適当に商品を買って
興味本位で話をしてみることにした。
「せっかく、可愛い顔してんのに
そんな表情じゃ色々と損しちゃうよ」
「100円のお返しです。」
お釣りを渡されると、彼女は椅子に座り本を読んだ。
その姿を見て俄然やる気が出た。
無視なんて余裕で俺の許容範囲。
その日から、猛攻撃を始める。
大手合い以外にも棋院に何か用があるたびに売店に寄って彼女が居れば
「前髪切った?」
「なんかいつもと雰囲気違うね、メイク変えた?」
「あ、本読み終わったんだね。次何の本読むの?」
しつこいってくらいに
彼女のことを知ろうとして
一方的に話しかけて1ヶ月が経つ頃、
「なんでそんなに話しかけるんですか?」
ついに彼女が俺を意識してくれた。
相変わらず無表情ながらも
しつこいって言わないところが優しい。
まず理由から聞いて頭ごなしに人を怒らないとこ、相当性格がいいと見た。
「崩したくなるんだよ、そのキミの無表情を」
いつも通り、口角を上げて言った。
もちろん最初は興味本位からだったけど
次第に自分の欲望へと変わっていた。
「ねぇ、なんで全く笑わないの?」
「…面白いと思った時は笑いますよ。」
「なるほど」
こりゃお世辞が言えないタイプで
いい意味で言うと正直者、裏表がないってことね。
今日始めて話したことで
彼女への好感度はさらに上がった。
その後も棋院に用があるたびに
彼女がいる夕方の
売店に寄っては話をする。
無表情でありながらも
きちんと会話のキャッチボールをしてくれた。
聞くところによると
彼女は大学1年生で満18歳。
最初は事務として棋院のバイトに受かっていたはずが
突然3日間だけ、売店のヘルプを頼まれて彼女が店番をしていたら、
何故だかいつもよりも売上が伸びて、
3日間の約束がそのまま売店のバイトになってしまったらしい。
そこであの彼女の噂が繋がる。
つまり彼女のファンが
自分の顔を覚えてもらいたいばかりに
何かしら買って売上を伸ばしてるってわけか。
…そういう俺も彼女と話すのに何かしら買ってる。
彼女からしたら俺もそのファン(とは思ってないかもしれないけど)の1人としてしか見られてないのだろうか。
俺じゃないお客さんにもこうして会話をしてるんだろうか。
そう考えると、
他のヤツらと差をつけたい。
その一心で
次に彼女に会った時に
「ね、本好きならこーいうイベント興味ない?」
なんと運良く市ヶ谷駅の近くで
ブックフリマというイベントが今週末に開催されるらしく、それに誘った。
彼女にとりあえずチラシを渡して
「…そのチラシに書いてある時間ぐらいに市ヶ谷駅の改札出たとこで待ってるから」
それだけ言い残して
彼女の有無も聞かずに売店から離れた。
いざ週末がやってきて
イベント開催時間の10分前に着いてしまい、来なかったら来なかったでアキラでも誘ってメシ食って帰るか。くらいに気楽に待っていた。
はずなのに、改札を通った先には
髪を下ろしている彼女が立ったまま本を読みながら待っていて
「…来てくれるなら言ってよ。
そしたら俺、もっと気合い入れてレストラン予約したり私服も、もっと気使ったのに。」
嬉しいを通り越して
もっとちゃんとしたデートにしたかったとでも言うように
そんなことを言ってしまった。
すると本にしおりを挟み
パタンと閉じて
「人の有無も聞かずに自分から誘っといて何言ってんですか、アンタ。」
彼女の冷静なツッコミ。
年下にそんな扱いされるのもアキラのおかげで慣れている。
「ごもっともです。」
そう言いながら
あぁ、失敗したな。と
右手で顔を覆っていると
彼女が気を使って
「気合い入れてカッコいいとこ見せようとして猫かぶってるんだったら他の人と一緒です。
だから芦原さんは猫被らなくていいです。」
そう言い終わった後に
指と指の間に一瞬、
彼女の口角が上がったのが見えた。
「…今の、もう一回。」
バッと右手を顔から離したがもう遅い。
「時間です、行きましょう。」
「え~っ!」
彼女の表情はいつもの無表情へ。
ほんの一瞬の笑顔を見逃したのが後悔だけど
俺のことを1人の人として意識してくれたのでよしとしよう。
足早にイベント会場に向かう
彼女を見て思った。
君の笑顔なんて
これからいくらでも見てやるんだ、と。