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その他ヒカ碁キャラ夢短編

◇好きになるもんか【倉田厚】◇

「おーい、そこの女子」

貫禄のある図体が印象的な倉田四段が
大多数を差す呼び方をするものだから私に向かって声をかけたのかが分からなくて念のため首を左右に動かす。

「お前のことだよ」
「あ、失礼しました。……なんの御用でしょうか?」

プロ棋士になって数年前に一緒に表彰式に出た時以来に棋院で同期の倉田四段に声をかけられかなり気を遣った口調に。

「今、暇?」
「……」

今まで学生時代を囲碁に費やして来たからか男の人から何かに誘われるのに耐性がついてなくて一瞬、固まった。

けどちょうど対局も終わって帰るだけだったし嘘をつく理由も何も無かったし、はい。と答えた。

そこで連れて行かれたのが丼物とかが似合いそうな倉田四段には似つかわしくない(失礼だけど)お店。
店内は甘い香りに包まれていて、周りには若い男女。
いかにも流行りのお店というところ。目の前に座る彼がこのお店の看板メニューのパンケーキを飲み物の如くたいらげていく姿を見て、口には出さないけどそりゃあ、その体型になるわけだと納得。

「あ、姉さん。パンケーキもう1つ追加で」
「かしこまりました。」

結構ボリュームがあったというのにまだ頼むのか。
にしても、私が連れてこられた理由はなんだろう。
考えられるのは男1人でこの店には入りにくいから、というくらい。

「あの、私をここに連れてきた理由って……」

追加で頼んだパンケーキが倉田さんの喉を通ってる最中に聞いた。

「あぁ、カップルだったらそれぞれパンケーキ半額っていうのがやってたから」
「えっ。」

倉田さんが食べているのを見て

「私のは!?」

指摘するも食べる口を止めずに飲み込んだと思ったら

「じゃ、はい。」

一口分に切られたパンケーキをフォークに突き刺し私の目の前に差し出す。

「いっ、いいですよ!もう食べちゃってください!」
「んだよ、人の厚意を受け取らないなんて失礼なヤツ」

口を尖らせて言うけど

「厚意の意味全く当てはまってませんから!」

失礼なヤツとはどっちのことだか。
と言いたいところを押さえた。

その後、私は自分が思いっきり利用されたことが悔しくて
次は私が思いっきり利用してお得に美味しい物が食べれるように
ネットを駆使して次に倉田さんに会った時用に探した。

お互いなにかと対局や指導碁やらが入り再開するのに少し間が空いたけど
私は1日たりとも倉田さんのことを忘れられなかった。

「お腹空いたー。今日はどこ行くんだよ」
「中華料理食べ放題です」
「お、いいじゃん。」

今のうちにそうやって喜んでいればいい。今日は1人五千円もするランチ食べ放題で2人で本来なら1万円かかるところが、片方は無料になるっていう割引。

思いっきり倉田さん利用してお得に食べてやるもんね。

と見えないようにニヤニヤする。
そして、また飲み物の如く様々な食べ物をお腹へと吸い込んでいく姿を見て、食べ放題の元取れるんじゃないかと心底思った。

「ぷはぁっ、食った食った。」
「満足そうで何より。さ、お会計に行きましょう。」

本日のお会計は五千円です。と言う言葉を聞くと倉田さんは何の躊躇することもなく「ご馳走様」と、五千円札1枚出してくれた。

「ん、2500円。」

ここまで言われるのは想定内。
さぁ、ここからネタバラシ。

「あの、実は今日の割引────」

内容を説明する。

「なーんだ、通りで上手いもんばっか食えたわけだ。」

────あれ?
なんか、予想してた反応と違う。

「え?倉田さん、私に利用されたんですよ?もっとこう、悔しがらないんですか?」

何言ってんだろう私。

「利用された?全然そんな感じしなかった。寧ろ五千円も払う価値が分かるくらいのレベルだったし、上手いとこ教えてもらっていいこと尽くしだったけど」
「……。」

こんなこと笑顔で、余裕で言われちゃ、倉田さんのこともう、憎めない。

「───はぁ。1日たりとも倉田さんのこと忘れられないくらい悔しい思いしたのに……。」

今更ながらその悔しさが何故碁に向かなかったんだと思う。

「なにソレ」

そう言いながら、私の少し前を歩いてた倉田さんが足を止めて振り返り
何を言うのかと思いきや

「1日も忘れなかったって……お前、俺のこと好きなの?」

拍子抜け。

「……倉田さん、どんだけ自信家なんですか!?」

そういうこと言っていいのイケメンだから許されるんですよ!

と、失礼ながら自分も顔に自信があるわけじゃないけど、
立ち直りが早そうな倉田さんだからこそ、冗談交じりに敢えて付け加えて言うと

「お前ってホント、失礼なヤツ!後から俺のこと好きって言っても相手してやんねーからな!」

プンスカして先に行ってしまった。

「だーれが、好きになるもんか!」

今年二十歳を迎えたばかりの私はまだ大人になれず、真昼間から街中で大声を出して倉田さんの背中にぶつける。

このまま、思い通りになってたまるものか。と、思いながら。
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