このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

その他ヒカ碁キャラ夢短編

◇真っ黒な食パン【加賀鉄男】◇

朝、うっかり食パンを焦がしてしまった。
朝からなんでこんな目に……と、声には出さず軽く落ち込みながらも、加賀の朝食も用意した。
きつね色の食パンと真っ黒な食パン、それからサラダとベーコンエッグ。2人分だけでもテーブルはぎゅうぎゅう詰めになる。もちろん、真っ暗な食パンは私の席に置いた。
最後に麦茶を用意するのに、冷蔵庫に向かう。
すると程なくして低音のあくび声が後ろから聞こえた。
「おはよう」
麦茶をコップに注いでたので振り向かずに、私は挨拶をする。すぐに、「おう」と、いつもの気だるそうな声で返事が返ってきた。今日も元気そうでなにより。

麦茶の入ったコップを両手に持って振り返ると、私は一瞬、目を丸くした。
加賀がいつもの席ではなく、私の席に座っていたからだ。そして手には真っ黒な食パン。ちょうどサクっと音を立てて加賀は一口食べてしまった。
「ちょっと加賀、寝ぼけてるよ。顔洗ってきな」
麦茶をテーブルに置いて、洗面所の方面を指差す。
「寝ぼけてねーよ」
加賀は私の言ったことには構わず、あっという間に真っ黒なパンを平らげてしまった。
頑丈そうに見える彼だけど、お腹を壊さないか心配になってきた。
「今日に限ってなんで私の席に座ったの?」
「あ?席なんてどうでもいいだろ。早く朝飯食えよ、冷めるぞ」と、具体的なワケを言わず、加賀はフォークを持ってベーコンエッグを食べ始めた。

ずるいぞ加賀、そういうところだよ。

加賀の顔をまじまじと見つめながらそう思った。
いつもそう。言い方にトゲはあるけれど、加賀のとる行動や仕草がトゲを抜いている。
「やっぱ、好きだなぁ…」
息を吐くかの様に自然と言葉が出た。すると、は? と返されたから焦げたパンを食べてくれたからと話した。
加賀は私から視線を逸らす。
「んなちんけな事で、腑抜けた顔して好きとか言うんじゃねえ」
またトゲのある言い方。
でも私は気づいてしまった。仏頂面の加賀の頬が、ほんのりと赤くなっていることに。
ほら、またトゲが抜けた。
可愛い、なんて声に出して言おうものなら、怒声が飛んでくるのが容易に想像できた。
だから私は声を出さず、静かに笑みを浮かべた。
10/12ページ
スキ