幼馴染だからって気楽な関係とは限らない(4話完結)
◇幼馴染だからって気楽な関係とは限らない①◇
「やっぱ無理かも」
学校の帰り道に寄ったファミレスで私の目の前に座る女友達が頬杖をつきながらそう呟く。
「大丈夫だよ」
なんて、根拠もなく無責任な言葉をかける。
「そうかなぁ。伊角君、絶対あんたのこと好きでしょ」
「ないない。」
中学から仲良くしてもらってる彼女は私の幼馴染の伊角慎一郎が好きで事あるごとに相談に乗る。
「だって高校受験の時、志望校あんたが居るからって今の高校に変えてたじゃない」
「いや、それ向こうが勝手にレベル下げて来たんだよ。囲碁で学校の勉強する暇すらも無かったみたいだからさ。私はオマケだよ。」
「そう?」
「うん、そうそう」
そう疑われて、いつも違うと否定するやり取りはもう数えきれないほど。
そして話題は
「ねぇ今度の週末、髪型とかこんなのどうかな?伊角君はどんな感じのが好みなんだろう」
院生の研修手合いがない今週の土曜日に3人で出かけることになって、その日の服装や髪型の相談に変わる。
これももう毎回のこと。
彼女が彼を好きになって、少しでも彼のことを知りたい。でもまだ2人きりは無理。と言われ、
そのどうしてもというのを断れないでいると出かけるのが2、3ヶ月に一度の恒例と化してしまっていた。
「こんなのとかどうかな?」
テーブルにヘアスタイルの雑誌を広げて指差されて聞かれる。
「うん、清楚な感じでいいんじゃないかな。多分、そういうの好きだと思うよ。」
「そっか!」
空っぽな共感、相槌。
答えが決まっているのに聞くのは、そういうあと一押しの言葉を欲しているからなんだろう。
すごく性格悪いな私。
でも心の中でぐらいしか私の本音を吐き出せる場所はない。
こうして濁りに濁っていく独り言の世界。
約束当日もいつものように家が隣同士の彼に会わないように、早めに出て駅前の本屋で適当に時間潰してから待ち合わせ時間ぴったりに駅に向かう。
そうすれば、2人の時間が少しでも多く確保できるから。
「お待たせ」
「あ、来た来た」
「それじゃ行くか」
何度、このままバックれてやろうかと思ったことか。
今だって、私の少し前を楽しそうに話しながら歩く2人。
────これ、私いる必要ある?
正直いうと私は長年、彼のおかげで何かと被害を受けているし、今も苦しめられていることがある。
彼のあの言葉に。
「元気か?」
「……冷た。」
お昼ご飯に友達が化粧室に行って席を外してるところ、頬に冷たいジュースを入れたグラスをあてられる。
「心ここにあらずって感じだな」
わざとだよ。出来るだけ2人の邪魔しないように気を逸すため。
また、独り言の世界を濁らせる。
とは言え、あからさまな彼女の態度に気づいてない彼にそう言ってもしょうがない。
「君のこと罪深い男だとつくづく思うよ。」
「え?」
こりゃ相当苦労するぞ、友達。
伊角慎一郎を16になった今まで見てきて、彼にピッタリの称号は『無自覚王子』。
自分のことイケメンだと思ってないしそもそも女子に好意を持たれることすら自分にはないと思ってる。
それなのに女子にとにかく優しくするしこれで何人もの女子が虜にされ、私も何度被害にあったことか。
中学なんか特に酷かった。彼と私が幼馴染と分かると急に女子が態度コロッと変えて私に近づいてきたり、彼に好意を持っているのかと聞かれるのは日常茶飯事。
今一緒にいる友達は幼馴染って知らない段階から、唯一仲良くしてくれていた子だからあんな性格悪いこと思いつつも、出来るだけ仲が拗れるようなことはしたくない。
そしてお昼を食べて、さぁどうする。ってなった頃、これ以上私が友人にしてやれることは無いと思ってついに痺れを切らす。
「私、そろそろ帰るね。」
「えっ、ちょっと」
不安そうな顔する友達に耳打ちを。
「───私が居てもこれ以上何も進まないよ、頑張って。大丈夫。」
そう言ってまた無責任な言葉を残しては友達の背中を押して、2人とは反対方向に歩く。
もっと早くからこうすればよかったんだ。
と、解放感に浸る。
それからは最寄駅に戻り、図書館で本を読んでいたらいつの間にか外はもう暗くなっていた。
読み途中の本と他数冊を借りて帰路につき始めると後ろから聞き覚えのある声で呼び止められる。
「……あらら、随分とお早いご帰宅で」
「どういう意味だよ」
無自覚王子をからかってみた。
すると、話題は早速核心をついたものだった。
「────お前が帰った後、言われたんだ。今すぐとは言わなくても今後、プロ試験合格した後とか彼女作る気ないのかって。」
彼と恋仲になる可能性を探っていただなんて、友達はなんて駆け引き上手。
「俺、なんて答えたと思う?」
「……分からない」
「今のところは予定ないって言った。」
「そう」
あれ……なんかすごく嫌な予感。
あの言葉がまた出てくるんじゃないかって。
「自分には予定なくてもさ、お前に彼氏が出来たら俺、多分独りぼっちだな。」
あぁ、やっぱり出てきてしまった。
この言葉に取り憑かれてかれこれ数年。
中学時代の苦い思い出が蘇る。
それは、初めて気になる人が出来たんだ。と、純粋に仲のいい幼馴染として彼に相談した時の事。
あれこれ話して言われたのが
『お前に彼氏が出来たら俺、多分独りぼっちだよ。』
さっきのこの言葉。苦笑いしながらそう言われたのをよく覚えている。
そこからだ、恋愛感情を持てなくなったのは。
彼だから特に深い意味もなく言ったのかもしれないけど、長年付き合いのある幼馴染にそう言われてしまうと放っておけなくて、気になる人への想いは一気に冷めていってしまった。
でもその言葉を言う割には、幼馴染のまま。
囲碁で恋愛なんかしてる暇ないのはしょうがないけど、幼馴染以上に思ってるという素振りは見せてこない。
彼が私を幼馴染として繋ぎ止めておきたい理由が全く分からないし、
友達の気持ちも知っているから、怖くて私は彼に踏み込んで聞くこともできない。
こんな複雑に絡まった気持ち、
どうせこれから先、誰にも理解されることはないんだろうな。
持つだけ無駄な期待は捨ててしまおう。
「やっぱ無理かも」
学校の帰り道に寄ったファミレスで私の目の前に座る女友達が頬杖をつきながらそう呟く。
「大丈夫だよ」
なんて、根拠もなく無責任な言葉をかける。
「そうかなぁ。伊角君、絶対あんたのこと好きでしょ」
「ないない。」
中学から仲良くしてもらってる彼女は私の幼馴染の伊角慎一郎が好きで事あるごとに相談に乗る。
「だって高校受験の時、志望校あんたが居るからって今の高校に変えてたじゃない」
「いや、それ向こうが勝手にレベル下げて来たんだよ。囲碁で学校の勉強する暇すらも無かったみたいだからさ。私はオマケだよ。」
「そう?」
「うん、そうそう」
そう疑われて、いつも違うと否定するやり取りはもう数えきれないほど。
そして話題は
「ねぇ今度の週末、髪型とかこんなのどうかな?伊角君はどんな感じのが好みなんだろう」
院生の研修手合いがない今週の土曜日に3人で出かけることになって、その日の服装や髪型の相談に変わる。
これももう毎回のこと。
彼女が彼を好きになって、少しでも彼のことを知りたい。でもまだ2人きりは無理。と言われ、
そのどうしてもというのを断れないでいると出かけるのが2、3ヶ月に一度の恒例と化してしまっていた。
「こんなのとかどうかな?」
テーブルにヘアスタイルの雑誌を広げて指差されて聞かれる。
「うん、清楚な感じでいいんじゃないかな。多分、そういうの好きだと思うよ。」
「そっか!」
空っぽな共感、相槌。
答えが決まっているのに聞くのは、そういうあと一押しの言葉を欲しているからなんだろう。
すごく性格悪いな私。
でも心の中でぐらいしか私の本音を吐き出せる場所はない。
こうして濁りに濁っていく独り言の世界。
約束当日もいつものように家が隣同士の彼に会わないように、早めに出て駅前の本屋で適当に時間潰してから待ち合わせ時間ぴったりに駅に向かう。
そうすれば、2人の時間が少しでも多く確保できるから。
「お待たせ」
「あ、来た来た」
「それじゃ行くか」
何度、このままバックれてやろうかと思ったことか。
今だって、私の少し前を楽しそうに話しながら歩く2人。
────これ、私いる必要ある?
正直いうと私は長年、彼のおかげで何かと被害を受けているし、今も苦しめられていることがある。
彼のあの言葉に。
「元気か?」
「……冷た。」
お昼ご飯に友達が化粧室に行って席を外してるところ、頬に冷たいジュースを入れたグラスをあてられる。
「心ここにあらずって感じだな」
わざとだよ。出来るだけ2人の邪魔しないように気を逸すため。
また、独り言の世界を濁らせる。
とは言え、あからさまな彼女の態度に気づいてない彼にそう言ってもしょうがない。
「君のこと罪深い男だとつくづく思うよ。」
「え?」
こりゃ相当苦労するぞ、友達。
伊角慎一郎を16になった今まで見てきて、彼にピッタリの称号は『無自覚王子』。
自分のことイケメンだと思ってないしそもそも女子に好意を持たれることすら自分にはないと思ってる。
それなのに女子にとにかく優しくするしこれで何人もの女子が虜にされ、私も何度被害にあったことか。
中学なんか特に酷かった。彼と私が幼馴染と分かると急に女子が態度コロッと変えて私に近づいてきたり、彼に好意を持っているのかと聞かれるのは日常茶飯事。
今一緒にいる友達は幼馴染って知らない段階から、唯一仲良くしてくれていた子だからあんな性格悪いこと思いつつも、出来るだけ仲が拗れるようなことはしたくない。
そしてお昼を食べて、さぁどうする。ってなった頃、これ以上私が友人にしてやれることは無いと思ってついに痺れを切らす。
「私、そろそろ帰るね。」
「えっ、ちょっと」
不安そうな顔する友達に耳打ちを。
「───私が居てもこれ以上何も進まないよ、頑張って。大丈夫。」
そう言ってまた無責任な言葉を残しては友達の背中を押して、2人とは反対方向に歩く。
もっと早くからこうすればよかったんだ。
と、解放感に浸る。
それからは最寄駅に戻り、図書館で本を読んでいたらいつの間にか外はもう暗くなっていた。
読み途中の本と他数冊を借りて帰路につき始めると後ろから聞き覚えのある声で呼び止められる。
「……あらら、随分とお早いご帰宅で」
「どういう意味だよ」
無自覚王子をからかってみた。
すると、話題は早速核心をついたものだった。
「────お前が帰った後、言われたんだ。今すぐとは言わなくても今後、プロ試験合格した後とか彼女作る気ないのかって。」
彼と恋仲になる可能性を探っていただなんて、友達はなんて駆け引き上手。
「俺、なんて答えたと思う?」
「……分からない」
「今のところは予定ないって言った。」
「そう」
あれ……なんかすごく嫌な予感。
あの言葉がまた出てくるんじゃないかって。
「自分には予定なくてもさ、お前に彼氏が出来たら俺、多分独りぼっちだな。」
あぁ、やっぱり出てきてしまった。
この言葉に取り憑かれてかれこれ数年。
中学時代の苦い思い出が蘇る。
それは、初めて気になる人が出来たんだ。と、純粋に仲のいい幼馴染として彼に相談した時の事。
あれこれ話して言われたのが
『お前に彼氏が出来たら俺、多分独りぼっちだよ。』
さっきのこの言葉。苦笑いしながらそう言われたのをよく覚えている。
そこからだ、恋愛感情を持てなくなったのは。
彼だから特に深い意味もなく言ったのかもしれないけど、長年付き合いのある幼馴染にそう言われてしまうと放っておけなくて、気になる人への想いは一気に冷めていってしまった。
でもその言葉を言う割には、幼馴染のまま。
囲碁で恋愛なんかしてる暇ないのはしょうがないけど、幼馴染以上に思ってるという素振りは見せてこない。
彼が私を幼馴染として繋ぎ止めておきたい理由が全く分からないし、
友達の気持ちも知っているから、怖くて私は彼に踏み込んで聞くこともできない。
こんな複雑に絡まった気持ち、
どうせこれから先、誰にも理解されることはないんだろうな。
持つだけ無駄な期待は捨ててしまおう。