賢者の石
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椅子の上には魔法使いのかぶるとんがり帽子が置かれた。この帽子ときたら、つぎはぎの、ボロボロで、とても汚らしかった。アイはその歴史を感じる帽子をじっと見つめた。
一瞬広間は水を打ったように静かになった。
すると、帽子がピクピク動いた。つばの破れ目が、まるで口のように開いて、帽子が歌い出した。
『私はきれいじゃないけど
人は見かけによらぬもの
私をしのぐ賢い帽子
あるなら私は身を引こう
山高帽子は真っ黒だ
シルクハットはすらりと高い
私はホグワーツ組分け帽子
私は彼らの上を行く
君の頭に隠れたものを
組分け帽子はお見通し
かぶれば君に教えよう
君が行くべき寮の名を
グリフィンドールに行くならば
勇気ある者が住う寮
勇猛果敢な騎士道で
他とは違うグリフィンドール
ハッフルパフに行くならば
君は正しく忠実で
忍耐強く真実で
苦労を苦労と思わない
古き賢きレイブンクロー
君に意欲があるならば
機知と学びの友人を
ここで必ず得るだろう
スリザリンではもしかして
君はまことの友を得る
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ
かぶってごらん!恐れずに!
興奮せずに、お任せを!
君を私の手にゆだね
(私には手なんかないけれど)
だって私は考える帽子!』
歌が終わると広間にいた全員が拍手喝采した。アイは手が真っ赤になるほど手を叩いた。4つテーブルにそれぞれお辞儀して、帽子が再び静かになった。
「僕たちはただ帽子をかぶればいいんだ!フレッドのやつ、やっつけてやる。トロールと取っ組み合いさせられるなんて言って」
ロンがハリーとアイに囁いた。
ハリーは弱々しくほほえんだ。
「フレッドは本当に悪戯好きなのね」
アイは小さな声でロンに言った。
マクゴナガル先生が長い羊皮紙の巻紙を手にして前に進み出た。
「名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組分けを受けてください」
「アボット、アンナ!」
ピンクの頬をした、金髪のおさげの少女が、転がるように前に出てきた。帽子をかぶると目が隠れるほどだった。腰掛けた。一瞬の沈黙……。
「ハッフルパフ!」
と帽子が叫んだ。
右側のテーブルから歓声と拍手があがり、ハンナはハッフルパフのテーブルに着いた。太った修道士のゴーストがうれしそうにハンナに手を振った。
「ボーンズ、スーザン!」
帽子がまた「ハッフルパフ!」と叫び、スーザンは小走りでハンナの隣に座った。
「ブート、テリー!」
「レイブンクロー!」
今度は左端から2番目のテーブルに拍手が湧き、テリーが行くと何人かが立って握手で迎えた。次の子もレイブンクローだったが、その次に呼ばれた「ブラウン・ラベンダー」が初めてグリフィンドールになった。1番左端のテーブルから弾けるような歓声があがった。アイはロンの双子の兄弟がヒューッと口笛を吹くのを見た。ハリーはいよいよ決定的に気分が悪くなってきた。アイはワクワクしていた。自分も早くあの赤毛の双子に口笛を吹かれながらグリフィンドールの席に座りたいと思っていた。
帽子がすぐに寮名を呼びあげる時と、決定にしばらくかかる時があることにハリーとアイは気付いた。
「僕どこにも選ばれなかったらどうしよう」
と項垂れたように弱気な声を出すハリー。
「あなたなら大丈夫よ。きっとグリフィンドールかスリザリンに選ばれるわ。優秀なはずだから」
アイがハリーの肩に手をやりながら言うと、ハリーはスリザリンは嫌だと更に項垂れた。
「フィネガン、シェーマス」はまるまる1分間椅子に座っていた。それからやっと帽子は「グリフィンドール」と宣言した。
「グレンジャー、ハーマイオニー!」
ハーマイオニーは走るようにして椅子に座り、待ちきれないようにグイッと帽子をかぶった。
「グリフィンドール!」
帽子が叫んだ。また左端のテーブルが騒がしくなった。ロンが呻いた。
ヒキガエルに逃げられてばかりいた「ロングボトム、ネビル」が呼ばれた。ネビルは椅子まで行く途中で転んでしまった。決定にしばらくかかったが、帽子はやっと「グリフィンドール!」と叫んだ。ネビルは帽子をかぶったままかけ出してしまい、爆笑の中をトボトボ戻って次の「マクドゥガル、モラグ」に渡した。
マルフォイは名前を呼ばれるとふんぞり返って前に進み出た。望みはあっという間にかなった。帽子はマルフォイの頭に触れるが触れないうちに「スリザリン!」と叫んだ。マルフォイは満足げに仲間のクラッブやゴイルのいる席に着いた。アイはマルフォイが椅子から立ちスリザリンのテーブルに向かう直前、自分の方に目をやり小さく手を挙げたのを見逃さなかった。
「ポッター、ハリー!」
ハリーが前に進みでると、突然広間中にシーッという囁きが波のように広がった。
「ポッターって、そう言った?」
「あのハリー・ポッターなの?」
広間中の皆が首を伸ばしてハリーをよく見ようとしていた。長い沈黙が流れる。
「グリフィンドール!」
ハリーは帽子が広間全体に向かって叫ぶのを聞いた。帽子を脱ぎ、ハリーはふらふらとグリフィンドールのテーブルに向かった。広間には割れるような歓声が響き渡った。ハリーはまだ順番を待っているロンやアイの方に目をやった。プレッシャーに押し潰されそうなロンはハリーの視線に気付かなかった。アイは自分の事のように喜び笑顔で拍手を送った。
監督生パーシーも立ち上がり、力強くハリーと握手した。双子のウィーズリー兄弟は、「ポッターを取った!ポッターを取った!」と歓声をあげていた。
まだ組分けがすんでいないのは4人だけになった。1人終わり次にいよいよロンの番がやってきた。ロンは青ざめていた。ハリーはテーブルの下で手を組んで祈った。帽子はすぐに「グリフィンドール!」と叫んだ。ハリーはみんなと一緒に大きな拍手をした。アイも前で大きな拍手をした。ロンはハリーの隣の椅子に崩れるように座った。
「ロン、よくやったぞ。えらい」
ハリーの隣から、パーシー・ウィーズリーがもったいぶって声をかけた。
先程まで明るい気持ちでみんなの組分けを聞いていたアイは急に不安にかられた。どうやら皆ABC順に呼ばれているらしかった。それならば、アイはもう少し前に呼ばれるはずだった。しかし、いよいよ2人きりというところまできてしまった。自分の名前はリストにないのではないかと不安になった。ハリーとロンはそれに気付いてか気付かずか心配そうに前を見つめた。
もう1人の名前が呼ばれ、スリザリンに決まった。マクゴナガル先生はくるくると巻紙をしまい、帽子を片付けようとした。アイの予感は的中した。広間がざわつき始めた。
「あ、あのマクゴナガル先生?私は…」
アイは待っていても仕方ないので片付けられる前にとマクゴナガル先生を呼び止めた。
マクゴナガル先生は驚いたように振り返った。
「あなた、名前は?」
「アイ・ブラウンです」
「あら、何故ここに?アイ、あなたは入学を辞退すると連絡が来ていましたよ?」
「え、そんなはずは」
アイは震える声で返した。念願のホグワーツに入学できないかもしれない、そう考えると大勢の前だが涙が出そうだった。
「確かにお父上から連絡が来ておりましたよ?そうでしたよね?校長」
アイは今朝見送ってくれた両親のことを思い返すがそんな素振りは思い出せなかった。
「いかにも」
「そんなはずはないです、校長!この間、この子の親に会ったが、両親は娘をよろしく頼むとおっしゃっておった!」
端の方に座っていたハグリッドが立ち上がった。座っていても大きな体は立ち上がると随分見上げなければならなかった。
大きな金色の椅子に座っているアルバス・ダンブルドアは考え込んでいるようだった。そして、マクゴナガル先生とスネイプ先生を近くへ呼び生徒や他の先生には聞こえないよう何かを耳打ちした。数秒程だったがアイには何時間にも感じる程長い気がした。
「待たせたね。アイ・ブラウンよ。君はここで学びたいかね?」
「もちろんです。ここで学んで立派な魔女になりたいです」
静まり返った広間にダンブルドアの声が響き渡った。アイはしっかりとダンブルドアの目を見て大きい声ではっきりと答えた。
「そういうことなら問題は無かろう。ホグワーツは学びたい者を退けることはしない。立派な魔女の原石を見逃しはせんよ」
「ということは、私は入学できるということですか?」
微笑むダンブルドアにアイは再び震える声で尋ねた。
「もちろんじゃ、歓迎するよ、アイ・ブラウン」
ダンブルドアの歓迎の言葉が放たれた瞬間、静かに行く末を見守っていたみんなが大歓声をあげた。アイは安堵から再び涙がこぼれそうになるのをグッと堪えた。
アイは大歓声に包まれながら、やっとの思いで椅子に座った。組分け帽子は1度片付けられそうになったためか、もう1度あの長ったらしい歌を歌った。帽子がやっとアイの頭に乗った時には広間は再び静まり返った。ハリーとロンはアイがグリフィンドールになることを祈った。マルフォイはすました顔をしていたが、内心はアイがスリザリンになることを祈っていた。
「フーム」
小さな声がアイの耳に響いてきた。
「君はどうやらグリフィンドールに入りたいようだね。父上のことを非常に尊敬しておるようだ。君は本当に優秀な魔女を目指しているようだ。そんな君に恥じないと言ったらやはりグリフィンドールかスリザリンか…」
「グリフィンドールが良いです」
アイが頭の中で考えていると帽子がそれに答えた。
「君は優秀で魔力も強いようだ。スリザリンに入れば将来名を残すような魔女となるだろう」
「グリフィンドールに入ろうと名を残すような魔女になります」
「ハハハ、強い意志をもつことは結構!よし、グリフィンドール!」
その瞬間ハリーとロンの座る左端のテーブルから大歓声が沸き立った。アイは心の中でお礼を言って帽子を脱いだ。そして、立ち上がり先生方の方を向いて深々とお辞儀をしてグリフィンドール生の待つテーブルへと向かった。