賢者の石
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「ごめんね。僕のヒキガエル見かけなかった?」
丸顔の男の子が泣きべそをかいてコンパートメントを開けた。
3人が首を横に振ると、男の子はメソメソ泣き出した。
「いなくなっちゃった。僕から逃げてばかりいるんだ!」
「きっと出てくるよ」
ハリーが言った。アイは励ますように頷いた。
「うん。もし見かけたら…」
男の子はしょげ返ってそう言うと出ていった。
「どうしてそんなこと気にするのかなあ。僕がヒキガエルなんか持ってたら、なるべく早くなくしちゃいたいけどなあ。もっとも、僕だってスキャバーズを持ってきたんだから人のことは言えないけどね」
ねずみはロンの膝の上でグーグー眠り続けている。
「死んでたって、きっと見分けがつかないよ」
ロンはうんざりした口調だ。
「あら、でもスキャバーズとっても可愛いと思うわよ」
アイがロンの膝の上のねずみを見ながら言った。ロンはアイにそう言われ、ほんの少しスキャバーズが可愛く見えた気がした。
「きのう、少しはおもしろくしてやろうと思って、黄色に変えようとしたんだ。でも、呪文が効かなかった。やってみせようかー見てて…」
黄色にされたらスキャバーズもたまったもんじゃないだろうなあとアイが考えているとロンはトランクからくたびれたような杖を取りだした。
「ロン、そのキラキラしたものはなあに?」
アイはロンの杖の端からキラキラした白いものがのぞいているのを見つけた。
「ユニコーンのたてがみがはみ出してるんだ。おさがりだから」
少し悲しそうな顔をしながらロンが杖を振り上げたとたん、またコンパートメントの戸が開いた。カエルに逃げられた子が、今度は女の子を連れて現れた。女の子はもう新調のホグワーツ・ローブに着替えている。
「誰かヒキガエル見なかった?ネビルのがいなくなったの」
なんとなく威張った話し方をする女の子だとハリーとロンは思った。栗色の髪がフサフサして、前歯がチョット大きかった。
女の子はロンの杖に気を取られていて、ロン達の返事は聞いていなかった。
「あら、魔法をかけるの?それじゃ、見せてもらうわ」
と女の子がアイの横に座り込み、じっとロンの様子を伺った。ロンはたじろいだ。
「あー…いいよ」
ロンは咳払いをした。
「お陽さま、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなねずみを黄色に変えよ」
ロンは杖を振った。でも、何も起こらない。スキャバーズは相変わらずねずみ色でグッスリ眠っていた。
「その呪文、間違ってないの?」
と女の子が言った。
「まあ、あんまり上手くいかなかったわね。私も練習のつもりで簡単な呪文を試してみたことがあるけど、みんなうまくいったわ。私の家族に魔法族は誰もいないの。だから、手紙を貰った時、驚いたわ。でももちろん嬉しかったわ。だって、最高の魔法学校だって聞いているもの…教科書はもちろん、全部暗記したわ。それだけで足りるといいんだけど…私ハーマイオニー・グレンジャー。あなた方は?」
女の子は一気にこれだけのことを止まることなく言ってのけた。ハリーはロンの顔を見てホッとした。ロンも、ハリーと同じく教科書を暗記していないらしく唖然としていた。アイはハーマイオニーを見て目を輝かやかせていた。
「私、アイ・ブラウン!よろしくね!」
とアイは尊敬の眼差しを向け言った。
「僕ロン・ウィーズリー」
とロンはモゴモゴ言った。
「ハリー・ポッター」
とハリーが名前だけ言うとハーマイオニーの目はハリーへ釘漬けになった。
「ほんとに?私、もちろんあなたのこと全部知ってるわ。」
ハーマイオニーはハリーのことが何の本に書かれていたか説明した。アイはよくそんなに覚えていられるなあと感心していた。ハリーは自分が参考書に乗ってるだなんてと驚いた。
「3人とも、どの寮に入るかわかってる?私、いろんな人に聞いて調べたけど、グリフィンドールに入りたいわ。絶対一番いいみたい。ダンブルドアもそこ出身だって聞いたわ。でもレイブンクローも悪くないかもね…とにかく、もう行くわ。ネビルのヒキガエルを探さなくちゃ。3人とも着替えた方がいいわ。もうすぐ着くはずだから。」
ヒキガエル探しの子を連れて女の子は出ていった。
「どの寮でもいいけど、あの子のいないとこがいいな」
杖をトランクに投げ入れながらロンが言った。
「あら、そう?私は彼女とお友達になりたいわ。だから、同じ寮になりたいなー。もちろん、ロンやハリーともね!」
と笑顔でロンとハリーを見るアイ。
「き、君が居るならあの子が一緒でも悪くないかも…なんて…へへ」
そう照れたようにロンは頭をかきながら笑い、ハリーも照れたように頷いた。
「それにしてもヘボ呪文め。ジョージから習ったんだ。ダメ呪文だってあいつは知ってたのに違いな」
「ジョージってさっきの双子のお兄さんの片割れ?」
「そうだよ」
「君の兄さんたちってどこの寮なの?」
とハリーが聞いた。アイも気になっていたところだ。
「グリフィンドール」
ロンはまた落ち込んだようだった。
「ママもパパもそうだった。」
「私のお父さんもグリフィンドールだったよ!もしかしたら私達本当に一緒にグリフィンドールになるかもしれないね!」
と明るく言うアイとは対照的にどんどん落ち込むロン。
「君なら入れるかもしれないね。でも、僕は自信ないよ。もし僕がそうじゃなかったら、なんて言われるか。レイブンクローだったらそれほど悪くないかもしれないけれど、スリザリンなんかに入れられたら、それこそ最悪だ」
「そこってヴォル…つまり『例のあの人』がいたところ?」
項垂れるロンにアイはなんて声をかけようか考えていると、ハリーが口を開いた。
「あぁ」
ロンはそう言うとガックリと席に座り込んだ。
「あのね、スキャバーズの髭の端っこがきいろっぽくなってきたみたいだよ!」
アイはロンの気を紛らわせようと話を変えようとするが上手くいかず途方に暮れる。
「それで、大きい兄さんたちは卒業してから何してるの?アイの両親は教師だって言ってたよね?」
ハリーが上手く話を変える助け舟を出す。
「ええ。2人とも先生をしてるわ。ロンのところは?」
「チャーリーはルーマニアでドラゴンの研究。ビルはアフリカで何かグリンゴッツの仕事をしてる」
と今度は話に乗ってきたロンが答えた。
「そういや、グリンゴッツのこと、聞いた?『日刊予言者新聞』にベタベタ出てるよ。でもマグルの方と日本には配達されないね…誰かが、特別警戒の金庫を荒らそうとしたらしいよ」
ハリーは目を丸くした。アイは何が何だかわからないという顔をした。
「ほんと?それで、どうなったの?」
「なーんも。だから大ニュースなのさ。捕まらなかったんだよ。グリンゴッツに忍び込むなんて、きっと強力な闇の魔法使いだろうって、パパが言うんだ」
「グリンゴッツから盗み出すのってそんなに難しいの?」
アイは疑問符を頭の上に出しながら尋ねた。
「そりゃあそうさ。あそこから盗むなんて、その上捕まらないなんて、ただ者じゃないよ」
「ハグリッドもそう言ってた」
アイがハリーの方を見ると、ハリーも知っていましたと言うように話した。アイは自分だけ知らないことに少し切なくなった。
「でも、なんにも盗っていかなかった。そこが変なんだよな。当然、こんなことが起きると、陰に『例のあの人』がいるんじゃないかって、みんな恐がるんだよ」
ハリーは『例のあの人』と聞くたびに、恐怖がチクチクとハリーの胸を刺すようになっていた。「これが魔法界に入るってことなんだ」とは思ったが、何も恐れずに『ヴォルデモート』と言っていたころの方が気楽だった。
そんなハリーの気持ちを組んでか組まずか、アイはハリーの手を握った。そして、大丈夫だよと微笑んだ。ハリーはその微笑みに少し胸の痛みが和らぐのを感じた。