賢者の石
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13 飛行訓練
一年生ではグリフィンドールとスリザリンが一緒のクラスになるのは魔法薬学の授業だけだったので、グリフィンドール寮生もマルフォイのことでそれほど嫌な思いをせずにすんだ。少なくとも、グリフィンドールの談話室に「お知らせ」が出るまではそうだった。掲示を読んで、みんながっくりした。たった一人を除いては。
――飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンとの合同授業です――
「そらきた。お望みどおりだ。マルフォイの目の前で箒に乗って、物笑いの種になるのさ」 何よりも空を飛ぶ授業を楽しみにしていたハリーは、失望した。
「そうなるとはかぎらないよ。あいつ、クィディッチがうまいっていつも自慢してるけど、口先だけだよ」
ロンが言った。
「え!飛行訓練、スリザリンと一緒なの?!」
アイは大きな声を上げた。
「そうさ。あのマルフォイがどんな飛行術を見せるか見物だよ」
ロンが鼻で笑った。
「でも、できることなら、僕は一緒にしたくなかったよ」
ハリーは肩を竦めた。
「ドラコと受けられる数少ない授業ね!楽しみだわ」
とアイは目を輝かせて言った。
「そうだった。アイはマルフォイを気に入ってるんだった」
ハリーとロンは目を合わせて落胆した。
マルフォイはよく飛行の話をしたし、一年生がクィディッチ・チームの寮代表選手になれないなんて残念だとみんなの前で聞こえよがしに不満を言った。
シェーマス・フィネガンは、子供のころいつも箒に乗って、田舎の上空を飛び回っていたと言う。
ロンでさえ、聞いてくれる人がいれば、チャーリーのお古の箒に乗って、ハンググライダーにぶつかりそうになった時の話をしただろう。
魔法使いの家の子はみんなひっきりなしにクィディッチの話をした。
ネビルはいままで一度も箒に乗ったことがなかった。おばあさんが決して近づかせなかったからで、ハリーも密かにおばあさんが正しいと思った。だいたいネビルは両足が地面に着いていたって、ひっきりなしに事故を起こすのだから。
ハーマイオニー・グレンジャーも飛ぶことに関してはネビルと同じぐらいピリピリしていた。こればっかりは、本を読んで暗記すればすむものではない。同じくアイも、飛ぶことに関して、自信がなかった。アイは運動神経もあまり良い方とは言えなかった。その上、高所もそこまで得意ではないから、不安で仕方なかった。
「ドラコと授業を受けられるのは嬉しいけど憂鬱だわ」
そう呟くアイにロンは気が知れないという顔をした。
1年生たちの箒の話やクィディッチの話は、大広間で食事をとる間も続いた。皆の話を聞きながら、憂鬱そうにしているアイを挟むように、双子がアイの両サイドに腰をかけた。
「浮かない顔をしているね、姫」
「どうやら、姫でも、心配事があるようだ」
くつくつと笑いながら、双子が話始める。アイはどっちがどっちだろうとぼんやりと考えながら、飛行訓練が不安であることを話した。
アイの左に座る双子の片割れは、得意げな顔で言った。
「飛行のことなら俺たちに任せろ、俺たちはクィディッチの名選手だからな」
右に座る片割れもニヤリと笑う。
「飛ぶことを恐れるな、大丈夫だ。どうしても怖ければ、今度最高の景色を見せてやるよ」
そう言って、双子は楽しそうに笑いながら、飛行やクィディッチの素晴らしさを語った。そんな二人の掛け合いを見て、アイはどっちがどっちかわからなかったが、意外にも二人の話し方や性格は微妙に異なるのだと発見した。まあ、双子と言えど、全く同じ人間などいるわけがないのだが。
楽しい会話を遮るように、フクロウたちがやってきた。メンフクロウがネビルに、おばあさんからの小さな包みを運んできた。ネビルはウキウキしながら、包みを開けた。
アイも気になり、ネビルの方へ目を向けた。
「思い出し玉だ!ばあちゃんは僕が忘れっぽいことを知っているから・・・何か忘れているとこの玉が教えてくれるんだ」
そういったネビルの手には、手のひらに収まるほどの大きさのガラス玉が握られていた。ガラスの中には、白い煙のようなものが詰まっていたのだが、その煙は次第に白から赤へと変化した。
「あれ?赤になるとなにか忘れているってことなんだ。何を忘れているのか思い出せないや」
「これじゃあ、おばあさんの期待には応えられそうにないな」
とロンがハリーに呟いた。
マルフォイが赤く染まった思い出し玉を、ネビルの手からひょいっと奪い取る。それを見て、すぐにハリーとロンが立ち上がった。今にも、喧嘩が起こりそうな雰囲気にアイはため息が出た。
双子は、「うちの弟は喧嘩っ早いなあ」と笑っていた。
「どうされたんですか?」
目ざとくいざこざを見つけたマクゴナガル先生が近寄ってくる。
「見ていただけですよ」
とマルフォイは答えて、アイの方へちらりと視線を向け、片手を上げて去って行った。アイもまた、マルフォイに手を振り返した。
その様子を見ていた双子は唖然とした表情で、アイに声をかけた。
「仲良いのか?あのマルフォイと」
「んーどうかな?仲良いと言うと、ドラコに怒られそうだけど。少なくとも、グリフィンドール寮生の中では、私が一番ドラコと仲が良いかもしれないわ」
アイは首を傾げながら困ったように言った。
信じられないというような表情をした双子を見て、ロンが口を開いた。
「僕もいまだに信じられないよ。あんな奴と名前で呼び合う仲だなんて」
「ドラコは本当に嫌われているみたいね。少なくとも私は好きだけど」
とアイが言うと、皆の信じられないという顔に拍車がかかった。
左に座る双子(アイから見て、どちらかと言うと、自信満々でお調子者、盛り上げ上手な印象の方)が、大笑いしてアイの肩をたたいた。
「姫はあんなのが好みなのか!」
左の双子が茶化すように言っているのを聞いて、アイはため息をついた。
右に座る双子(アイから見て、どちらかと言うと、落ち着いており相手を気遣う話し上手な印象)も、大笑いをしてロンの肩をたたいた。
「がんばれよ!負けるな!ロン!」
何を応援しているのかわからないアイが、ロンを見ると、目が合ったロンが顔を赤くしながら目を逸らした。
それを見て、右の双子は楽しそうに笑いながら、アイの頭をポンポンと軽くたたく。
「ウチの弟とも、仲良くしてやってくれよな」
その言葉に、笑顔でアイは頷いた。もちろん、ロンのことも大好きで仲良くしたいと思っている。
午後になり、飛行訓練へと向かうアイとハリー、ロンの足取りは重たかった。時刻は午後3時半を過ぎていた。正面玄関を出て、校庭へと急ぐ。
校庭には、すでにスリザリン寮生が到着していた。20本の箒が地面に並べられている。ハリーとアイは、フレッドとジョージ(アイには見分けがついていないが)から学校の箒について聞いたことを思い出していた。高いところに行くと震え出す箒とか、どうしても少し左に行ってしまうくせのある箒とか、乗り手の気持ちを汲み取って暴走する箒とか。
アイはぜひ、普通の箒、あわよくば、乗りやすい箒にあたりたいと心底願っていた。
マダム・フーチがやってきた。白髪を短く切りそろえており、鷹のような黄色い目をしていた。
開口一番、ガミガミした声が飛んできた。
「なにをぼやぼやしているんですか。みんな箒のそばに立って。さあ、早く」
アイは慌てて、箒の横に立った。アイの箒は、古ぼけて小枝が少し短くなっているようだった。これで本当に飛べるのだろうかと不安に駆られていると、フーチ先生の険しい顔が目に入った。
「右手を箒の上に突き出して、『上がれ!』と言う」
ハリーが「上がれ!」と言うと、すぐに箒は彼の手の中に吸い込まれていった。
アイも同じようにかけ声をかけるが、箒は半分上がり地面に落ちた。上手く箒を上がらせられた生徒は多くなかった。
その次に箒の握り方や跨り方などを学んだ。いよいよ、飛行という時、ネビルに不幸が訪れた。
ネビルは酷く緊張していた。そのため、フーチ先生の笛の合図を待たずに、空へ浮かんでしまった。フーチ先生は、大声で戻ってくるように叫んだが、焦るネビルはどんどんと空高く浮上していく。とたんに、声にならない悲鳴をあげ、ネビルが真っ逆さまに地面へと落ちた。箒はゆっくりと禁じられた森の方へ進んでいく。
アイをはじめ、グリフィンドール寮生とフーチ先生がネビルが落ちた草むらへ駆け寄った。
「手首が折れているわ」
そう言って、フーチ先生はネビルを抱えた。
「この子を医務室へ連れていきます。その間、動いてはなりませんよ。箒もそのままにしておくように。さもないとクィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出ていってもらうことになりますからね」
涙でぐしょぐしょになったネビルを抱えて、フーチ先生が歩いて行った。2人の姿が遠くなると、スリザリン寮生が笑い始めた。
「あいつの顔見たか?あの大まぬけの」
マルフォイの言葉がアイの耳に届いた。
「やめてよ、マルフォイ」
パーバティ・パチルがとがめた。
「へー、ロングボトムの肩を持つのか?」
また始まった、とアイは思った。
アイはマルフォイに近づいて言った。
「ネビルのことを悪く言わないで。もちろん、パーバティのことも」
「アイもか?」
怪訝な顔でマルフォイがアイを見つめる。
「ドラコ…そんな顔しないで」
そう言って、アイがマルフォイの手を握ろうとすると、間に気の強そうなスリザリンの女子、パンジー・パーキンソンが割って入ってきた。
「パーバティったら、あんたがあんなチビデブの泣き虫小僧に気があるなんて知らなかった。ブラウン、あんたもあの泣き虫小僧が好きなら、汚い手で触らないでね?」
キッと睨まれ、アイは出した手を引っ込めた。
「見ろよ、ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ!」
マルフォイの手には、思い出し玉が輝いていた。
「やめて、ドラコ!」
アイは必死に訴えるが、マルフォイは聞く耳を持たない。
「マルフォイ、こっちへ渡してもらおう」
ハリーの静かな声に、誰もが話を止めて2人に注目した。
マルフォイはハリーを挑発するように、箒に跨り浮上した。
「ここまで取りに来いよ、ハリー・ポッター」
その挑発に乗るハリー。ハーマイオニーが、辞めるようにハリーを説得するが、ハリーは無視して勢いよくマルフォイのところまで飛び上がった。
「ハリーは飛ぶの初めてだよね?」
アイはハリーの飛行能力に驚き、ロンに確認した。
「彼、初めてだって言ってたよ」
「すごいね、ドラコにひけをとらない。いえ、ドラコよりも優れているかもしれないわ」
2人は感嘆の声を上げながら、空に浮かぶ2人を見ていた。
マルフォイが思い出し玉をさらに高く放り投げた。それを見て、ハリーは急下降する。アイはハリーが地面に突っ込むのではないかと不安に駆られた。
しかし、その不安をよそに、ハリーは地面ギリギリのところで、思い出し玉を掴みとり、ゆっくり地面に降り立ったのだ。
「ハリー!!!大丈夫?!」
アイが駆け寄る。ロンも慌てて、後ろからやってきた。
「ハリー・ポッター!!」
マクゴナガル先生が走ってやってきた。ハリーは生きた心地がしなかった。箒で飛んでいた時の高揚感は消え、ぶるぶる震えていた。
ハリーを庇おうと、ロンやパーバティがマクゴナガル先生に話しかけるが、一蹴された。
ハリーはマクゴナガル先生に連れられて、その場から立ち去った。マルフォイは勝ち誇った顔をしていた。
「ドラコ、私はあなたを尊敬しているの、本当に素敵な魔法使いの一家に生まれた、素晴らしい魔法使いだと思っているわ。あなたと学べることを誇りに思っていたわ。お願い。私の友達を傷つけるのはやめて」
アイが今度こそ、マルフォイの手を取り、まっすぐ目を見つめながら言うと、マルフォイは居心地の悪そうな、困ったような顔をした。出来る限り、アイの前でことを起こすのは控えようと考えたマルフォイは、静かにクラッブとゴイルを引き連れて去っていった。
一年生ではグリフィンドールとスリザリンが一緒のクラスになるのは魔法薬学の授業だけだったので、グリフィンドール寮生もマルフォイのことでそれほど嫌な思いをせずにすんだ。少なくとも、グリフィンドールの談話室に「お知らせ」が出るまではそうだった。掲示を読んで、みんながっくりした。たった一人を除いては。
――飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンとの合同授業です――
「そらきた。お望みどおりだ。マルフォイの目の前で箒に乗って、物笑いの種になるのさ」 何よりも空を飛ぶ授業を楽しみにしていたハリーは、失望した。
「そうなるとはかぎらないよ。あいつ、クィディッチがうまいっていつも自慢してるけど、口先だけだよ」
ロンが言った。
「え!飛行訓練、スリザリンと一緒なの?!」
アイは大きな声を上げた。
「そうさ。あのマルフォイがどんな飛行術を見せるか見物だよ」
ロンが鼻で笑った。
「でも、できることなら、僕は一緒にしたくなかったよ」
ハリーは肩を竦めた。
「ドラコと受けられる数少ない授業ね!楽しみだわ」
とアイは目を輝かせて言った。
「そうだった。アイはマルフォイを気に入ってるんだった」
ハリーとロンは目を合わせて落胆した。
マルフォイはよく飛行の話をしたし、一年生がクィディッチ・チームの寮代表選手になれないなんて残念だとみんなの前で聞こえよがしに不満を言った。
シェーマス・フィネガンは、子供のころいつも箒に乗って、田舎の上空を飛び回っていたと言う。
ロンでさえ、聞いてくれる人がいれば、チャーリーのお古の箒に乗って、ハンググライダーにぶつかりそうになった時の話をしただろう。
魔法使いの家の子はみんなひっきりなしにクィディッチの話をした。
ネビルはいままで一度も箒に乗ったことがなかった。おばあさんが決して近づかせなかったからで、ハリーも密かにおばあさんが正しいと思った。だいたいネビルは両足が地面に着いていたって、ひっきりなしに事故を起こすのだから。
ハーマイオニー・グレンジャーも飛ぶことに関してはネビルと同じぐらいピリピリしていた。こればっかりは、本を読んで暗記すればすむものではない。同じくアイも、飛ぶことに関して、自信がなかった。アイは運動神経もあまり良い方とは言えなかった。その上、高所もそこまで得意ではないから、不安で仕方なかった。
「ドラコと授業を受けられるのは嬉しいけど憂鬱だわ」
そう呟くアイにロンは気が知れないという顔をした。
1年生たちの箒の話やクィディッチの話は、大広間で食事をとる間も続いた。皆の話を聞きながら、憂鬱そうにしているアイを挟むように、双子がアイの両サイドに腰をかけた。
「浮かない顔をしているね、姫」
「どうやら、姫でも、心配事があるようだ」
くつくつと笑いながら、双子が話始める。アイはどっちがどっちだろうとぼんやりと考えながら、飛行訓練が不安であることを話した。
アイの左に座る双子の片割れは、得意げな顔で言った。
「飛行のことなら俺たちに任せろ、俺たちはクィディッチの名選手だからな」
右に座る片割れもニヤリと笑う。
「飛ぶことを恐れるな、大丈夫だ。どうしても怖ければ、今度最高の景色を見せてやるよ」
そう言って、双子は楽しそうに笑いながら、飛行やクィディッチの素晴らしさを語った。そんな二人の掛け合いを見て、アイはどっちがどっちかわからなかったが、意外にも二人の話し方や性格は微妙に異なるのだと発見した。まあ、双子と言えど、全く同じ人間などいるわけがないのだが。
楽しい会話を遮るように、フクロウたちがやってきた。メンフクロウがネビルに、おばあさんからの小さな包みを運んできた。ネビルはウキウキしながら、包みを開けた。
アイも気になり、ネビルの方へ目を向けた。
「思い出し玉だ!ばあちゃんは僕が忘れっぽいことを知っているから・・・何か忘れているとこの玉が教えてくれるんだ」
そういったネビルの手には、手のひらに収まるほどの大きさのガラス玉が握られていた。ガラスの中には、白い煙のようなものが詰まっていたのだが、その煙は次第に白から赤へと変化した。
「あれ?赤になるとなにか忘れているってことなんだ。何を忘れているのか思い出せないや」
「これじゃあ、おばあさんの期待には応えられそうにないな」
とロンがハリーに呟いた。
マルフォイが赤く染まった思い出し玉を、ネビルの手からひょいっと奪い取る。それを見て、すぐにハリーとロンが立ち上がった。今にも、喧嘩が起こりそうな雰囲気にアイはため息が出た。
双子は、「うちの弟は喧嘩っ早いなあ」と笑っていた。
「どうされたんですか?」
目ざとくいざこざを見つけたマクゴナガル先生が近寄ってくる。
「見ていただけですよ」
とマルフォイは答えて、アイの方へちらりと視線を向け、片手を上げて去って行った。アイもまた、マルフォイに手を振り返した。
その様子を見ていた双子は唖然とした表情で、アイに声をかけた。
「仲良いのか?あのマルフォイと」
「んーどうかな?仲良いと言うと、ドラコに怒られそうだけど。少なくとも、グリフィンドール寮生の中では、私が一番ドラコと仲が良いかもしれないわ」
アイは首を傾げながら困ったように言った。
信じられないというような表情をした双子を見て、ロンが口を開いた。
「僕もいまだに信じられないよ。あんな奴と名前で呼び合う仲だなんて」
「ドラコは本当に嫌われているみたいね。少なくとも私は好きだけど」
とアイが言うと、皆の信じられないという顔に拍車がかかった。
左に座る双子(アイから見て、どちらかと言うと、自信満々でお調子者、盛り上げ上手な印象の方)が、大笑いしてアイの肩をたたいた。
「姫はあんなのが好みなのか!」
左の双子が茶化すように言っているのを聞いて、アイはため息をついた。
右に座る双子(アイから見て、どちらかと言うと、落ち着いており相手を気遣う話し上手な印象)も、大笑いをしてロンの肩をたたいた。
「がんばれよ!負けるな!ロン!」
何を応援しているのかわからないアイが、ロンを見ると、目が合ったロンが顔を赤くしながら目を逸らした。
それを見て、右の双子は楽しそうに笑いながら、アイの頭をポンポンと軽くたたく。
「ウチの弟とも、仲良くしてやってくれよな」
その言葉に、笑顔でアイは頷いた。もちろん、ロンのことも大好きで仲良くしたいと思っている。
午後になり、飛行訓練へと向かうアイとハリー、ロンの足取りは重たかった。時刻は午後3時半を過ぎていた。正面玄関を出て、校庭へと急ぐ。
校庭には、すでにスリザリン寮生が到着していた。20本の箒が地面に並べられている。ハリーとアイは、フレッドとジョージ(アイには見分けがついていないが)から学校の箒について聞いたことを思い出していた。高いところに行くと震え出す箒とか、どうしても少し左に行ってしまうくせのある箒とか、乗り手の気持ちを汲み取って暴走する箒とか。
アイはぜひ、普通の箒、あわよくば、乗りやすい箒にあたりたいと心底願っていた。
マダム・フーチがやってきた。白髪を短く切りそろえており、鷹のような黄色い目をしていた。
開口一番、ガミガミした声が飛んできた。
「なにをぼやぼやしているんですか。みんな箒のそばに立って。さあ、早く」
アイは慌てて、箒の横に立った。アイの箒は、古ぼけて小枝が少し短くなっているようだった。これで本当に飛べるのだろうかと不安に駆られていると、フーチ先生の険しい顔が目に入った。
「右手を箒の上に突き出して、『上がれ!』と言う」
ハリーが「上がれ!」と言うと、すぐに箒は彼の手の中に吸い込まれていった。
アイも同じようにかけ声をかけるが、箒は半分上がり地面に落ちた。上手く箒を上がらせられた生徒は多くなかった。
その次に箒の握り方や跨り方などを学んだ。いよいよ、飛行という時、ネビルに不幸が訪れた。
ネビルは酷く緊張していた。そのため、フーチ先生の笛の合図を待たずに、空へ浮かんでしまった。フーチ先生は、大声で戻ってくるように叫んだが、焦るネビルはどんどんと空高く浮上していく。とたんに、声にならない悲鳴をあげ、ネビルが真っ逆さまに地面へと落ちた。箒はゆっくりと禁じられた森の方へ進んでいく。
アイをはじめ、グリフィンドール寮生とフーチ先生がネビルが落ちた草むらへ駆け寄った。
「手首が折れているわ」
そう言って、フーチ先生はネビルを抱えた。
「この子を医務室へ連れていきます。その間、動いてはなりませんよ。箒もそのままにしておくように。さもないとクィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出ていってもらうことになりますからね」
涙でぐしょぐしょになったネビルを抱えて、フーチ先生が歩いて行った。2人の姿が遠くなると、スリザリン寮生が笑い始めた。
「あいつの顔見たか?あの大まぬけの」
マルフォイの言葉がアイの耳に届いた。
「やめてよ、マルフォイ」
パーバティ・パチルがとがめた。
「へー、ロングボトムの肩を持つのか?」
また始まった、とアイは思った。
アイはマルフォイに近づいて言った。
「ネビルのことを悪く言わないで。もちろん、パーバティのことも」
「アイもか?」
怪訝な顔でマルフォイがアイを見つめる。
「ドラコ…そんな顔しないで」
そう言って、アイがマルフォイの手を握ろうとすると、間に気の強そうなスリザリンの女子、パンジー・パーキンソンが割って入ってきた。
「パーバティったら、あんたがあんなチビデブの泣き虫小僧に気があるなんて知らなかった。ブラウン、あんたもあの泣き虫小僧が好きなら、汚い手で触らないでね?」
キッと睨まれ、アイは出した手を引っ込めた。
「見ろよ、ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ!」
マルフォイの手には、思い出し玉が輝いていた。
「やめて、ドラコ!」
アイは必死に訴えるが、マルフォイは聞く耳を持たない。
「マルフォイ、こっちへ渡してもらおう」
ハリーの静かな声に、誰もが話を止めて2人に注目した。
マルフォイはハリーを挑発するように、箒に跨り浮上した。
「ここまで取りに来いよ、ハリー・ポッター」
その挑発に乗るハリー。ハーマイオニーが、辞めるようにハリーを説得するが、ハリーは無視して勢いよくマルフォイのところまで飛び上がった。
「ハリーは飛ぶの初めてだよね?」
アイはハリーの飛行能力に驚き、ロンに確認した。
「彼、初めてだって言ってたよ」
「すごいね、ドラコにひけをとらない。いえ、ドラコよりも優れているかもしれないわ」
2人は感嘆の声を上げながら、空に浮かぶ2人を見ていた。
マルフォイが思い出し玉をさらに高く放り投げた。それを見て、ハリーは急下降する。アイはハリーが地面に突っ込むのではないかと不安に駆られた。
しかし、その不安をよそに、ハリーは地面ギリギリのところで、思い出し玉を掴みとり、ゆっくり地面に降り立ったのだ。
「ハリー!!!大丈夫?!」
アイが駆け寄る。ロンも慌てて、後ろからやってきた。
「ハリー・ポッター!!」
マクゴナガル先生が走ってやってきた。ハリーは生きた心地がしなかった。箒で飛んでいた時の高揚感は消え、ぶるぶる震えていた。
ハリーを庇おうと、ロンやパーバティがマクゴナガル先生に話しかけるが、一蹴された。
ハリーはマクゴナガル先生に連れられて、その場から立ち去った。マルフォイは勝ち誇った顔をしていた。
「ドラコ、私はあなたを尊敬しているの、本当に素敵な魔法使いの一家に生まれた、素晴らしい魔法使いだと思っているわ。あなたと学べることを誇りに思っていたわ。お願い。私の友達を傷つけるのはやめて」
アイが今度こそ、マルフォイの手を取り、まっすぐ目を見つめながら言うと、マルフォイは居心地の悪そうな、困ったような顔をした。出来る限り、アイの前でことを起こすのは控えようと考えたマルフォイは、静かにクラッブとゴイルを引き連れて去っていった。
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