賢者の石
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魔法薬学の授業は地下牢で行われた。ここは城の中にある教室より寒く、壁にずらりと並んだガラス瓶の中でアルコール漬けの動物がプカプカ浮いていなかったとしても、十分気味が悪かった。
スネイプはまず出席を取った。そして、ハリーの名前まできてちょっと止まった。
「ああ、さよう」
猫なで声だ。
「ハリー・ポッター。われらが新しいースターだね」
ドラコ・マルフォイは仲間のクラッブやゴイルとクスクス冷やかし笑いをした。出席を取り終わると、先生は生徒を見渡した。ハグリッドと同じ黒い目なのに、ハグリッドの目のような温かみは一かけらもない。冷たくて、虚ろで、暗いトンネルを思わせた。
「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」
スネイプが話しはじめた。まるで呟くような話し方なのに、生徒たちは一言も聞き漏らさなかったーマクゴナガル先生と同じように、スネイプも何もしなくともクラスをシーンとさせる能力を持っていた。
「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中を這い廻る液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力…諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法であるーただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」
アイは息を飲んだ。スネイプが父の言っていた後輩だろうか。父は頼るようにと言っていたが、優しく助けてくれるような先生ではないように見えた。
スネイプが突然「ポッター!」と呼んだ。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
ハリーはロンをチラッと見たが、ハリーと同じように「降参だ」という顔をしていた。アイはハリーに答えを教えたかったがあいにく席が遠く、それはかなわなかった。ハーマイオニーが空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
ハリーが答えた。スネイプは口元でせせら笑った。
「チッ、チッ、チ-有名なだけではどうにもならんらしい」
ハーマイオニーの手は無視された。
その後もスネイプはハリーにのみいくつか質問をした。その度にハリーはわからないと答え、ハーマイオニーの手は無視された。
スネイプは徐に質問の答えを説明し始めた。全員呆気に取られた様子で聞いていると、
「どうだ?諸君、なぜいまのを全部ノートに書き取らんのだ?」
スネイプの冷たい声が耳に響いた。いっせいに羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音にかぶせるように、スネイプが言った。
「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは一点減点」
その後の魔法薬の授業中、グリフィンドールの状況はよくなるどころではなかった。
薬の調合ではお気に入りらしいマルフォイを除いてほとんど全員が注意を受けた。ネビルが調合を間違え、大鍋が割れた時は何故かハリーがネビルに間違いを伝えなかったからこうなったと難癖をつけられ、またグリフィンドールが一点減点となった。
「スネイプ先生、ハリーは悪くないと思います。ネビルの横で作業していただけでペアではありませんし、それぞれ集中していたのでネビルの調合を止めるなんてハリーには無理だと思います」
さすがに理不尽だと考え、アイがスネイプに訴えるとスネイプはアイの前へ静かにやってきた。
「君が私のことをお父上になんと言われてここへ来たかは知らないがそれ以上私の機嫌を損なう無礼な態度をとるようであればもう一点減点することになるだろう」
アイはそれ以上何も言うことはできず、悔しさから歯を食いしばった。父が頼るようにと言った相手は卑劣な人間だ。頼るべき相手では無さそうだ。
地下牢の階段を上がりながらハリーは頭が混乱し、滅入っていた。アイはハリーの手を握った。ロンもハリーの肩に腕を回した。
「元気出せよ」
ロンが言った。
「フレッドもジョージもスネイプにはしょっちゅう減点されてるんだ。ねえ、一緒にハグリッドに会いに行ってもいい?」
「そうだよ。ハグリッドに会いに行って元気をわけてもらおう!」
3時5分前に城を出て、3人は校庭を横切った。