賢者の石
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「見て、見て」
「どこ?」
「赤毛の子の隣」
「メガネをかけてるやつ?」
「顔見た?」
「あの傷を見た?」
翌日ハリーが寮を出たとたん、囁き声がつきまとってきた。教室が空くのを外で行列して待っている生徒たちが、爪先立ちでハリーを見ようとしたり、廊下ですれ違った後でわざわざ逆戻りしてきてじろじろ見たりした。
ハリーの話題の後は決まってアイの話題が出た。
「見て、見て、ハリー・ポッターの横」
「あの子?」
「グリフィンドールに幸福をもたらす少女だって」
「幸福をもたらす女神じゃなかった?」
「幸福って何?」
「知らない、本人が言ったって」
「あの双子が今年はグリフィンドールが優勝だって騒いでた」
ハリーの横にいたアイもまた噂の的だった。アイは自分の昨日の発言を後悔した。特に深い意味もなく言ったことが今や他の寮の生徒まで知っているようだ。それもあの赤毛の双子のおかげで、やけに誇張された内容となってしまっているようだった。
「全く…あなたのお兄さんたちには参ったわ」
アイがロンに言った。
「僕もいつも困ってるさ」
ロンは困った顔をして笑った。
ホグワーツには142もの階段があった。広い壮大な階段、狭いガタガタの階段、金曜日にはいつもと違うところへつながる階段、真ん中あたりで毎回1段消えてしまうので、忘れずにジャンプしなければならない階段…。扉もいろいろあった。丁寧にお願いしないと開かない扉、正確に一定の場所をくすぐらないと開かない扉、扉のように見えるけれど実は硬い壁が扉のふりをしている扉。物という物が動いてしまうので、どこに何があるのかを覚えるのも大変だった。
ゴーストも問題だった。特に、ピーブズに出くわした時は最悪だ。ピーブズときたら、ゴミ箱を頭の上でぶちまけたり、足下の絨毯を引っ張ったり、チョークのかけらを次々とぶっつけたり、姿を隠したまま後ろからそーっと忍びよって、鼻をつまんで「釣れたぞ!」とキーキー声をあげたりした。管理人のアーガス・フィルチとフィルチの飼い猫のミセス・ノリスもやっかいだった。
やっとクラスへの道がわかったら、次はクラスの授業そのものが大変だった。魔法とは、ただ杖を振っておかしな呪いを言うだけではないと、アイたちはたちまち思い知らされた。水曜日の真夜中には、望遠鏡で夜空を観察し、星の名前や惑星の動きを勉強しなくてはならなかった。初めは満天の星空を眺め、幸せな気持ちになったが、段々と眠気との戦いになっていった。週3回、ずんぐりした小柄なスプラウト先生と城の裏にある温室に行き、「薬草学」を学んだ。他にも色々な授業と先生がいたが、マクゴナガル先生はやはり他の先生とは違っていた。逆らってはいけない先生だというハリーの勘は当たっていた。厳格で聡明そのものの先生は、最初のクラスにみんなが着席するなりお説教を始めた。
「変身術はホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なものの1つです。いい加減な態度で私の授業を受ける生徒は出ていってもらいますし、二度とクラスには入れません。初めから警告しておきます」
それから先生は机を豚に変え、また元の姿に戻してみせた。生徒たちは感激して、早く試したくてウズウズした。しかし、家具を動物に変えるようになるまでには、まだまだ時間がかかることがすぐわかった。さんざん複雑なノートを採った後、一人一人にマッチ棒が配られ、それを針に変える練習が始まった。授業が終わるまでにマッチ棒をわずかても変身させることができたのはハーマイオニー・グレンジャーとアイ・ブラウンの2人だけだった。マクゴナガル先生はクラス全員に、彼女たちのマッチ棒がどんなに銀色で、どんなに尖っているのかを見せた後、2人にめったに見せないほほえみを見せた。アイはハーマイオニーと共にあのマクゴナガル先生から褒められたことを誇りに思った。
みんなが1番待ち望んでいた授業は、「闇の魔術に対する防衛術」だったが、クィレルの授業は肩すかしだった。
ハリーは、他の生徒に比べて自分が大して遅れを取っていないことがわかって、ほっとしていた。マグルの家から来た子もたくさんいて、彼らもハリーと同じように、ここに来るまでは自分が魔法使いや魔女であるとは夢にも思っていなかった。学ぶことがありすぎて、ロンのような魔法家族の子でさえ、初めから優位なスタートを切ったわけではなかった。ただ、マグルの出身でもハーマイオニーは一際優秀だった。魔法家族のアイは入学まで魔法を使ったことはなかったが、ハーマイオニーと同じくらい優秀だった。
「今日はなんの授業だっけ?」
オートミールに砂糖をかけながら、ハリーがロンに尋ねた。
「スリザリンの連中と一緒に、魔法薬学さ。スネイプはスリザリンの寮監だ。いつもスリザリンを贔屓するってみんなが言ってるー本当かどうか今日わかるだろう」
とロンが答えた。
「今日スリザリンと一緒の授業なの?じゃあドラコに会えるのね!」
ハリーの横に座ってハーマイオニーと話をしていたアイが嬉しそうに言った。
「君は本当にマルフォイのことが好きだね」
ハリーは困った風に笑った。その横でロンは面白くなさそうにオートミールを混ぜた。
ちょうどその時郵便が届いた。アイはやっとこの光景に慣れてきた。1番最初の朝食の時、何百羽とふくろうが突然大広間になだれ込んできて、テーブルの上を旋回し、飼い主を見つけると手紙や小包をその膝に落として行くのを見て唖然としたものだった。
アイのところには毎日のように両親からの手紙が届いた。ハリーのところには今まで1度も何も運んできたことはなかった。でも、時々飛んできてはハリーの耳をかじったりトーストをかじったりしてから、ほかのふくろうと一緒に学校のふくろう小屋に戻って眠るのだった。
ところが今朝はハリーの皿に手紙を置いていった。ハリーは急いで封を破るようにして開けた。下手な字で走り書きがしてあった。
『親愛なるハリー
金曜日の午後は授業がないはずだね。よかったら3時頃お茶に来ませんか。君の最初の1週間がどんなだったかいろいろ聞きたいです。ヘドウィグに返事を持たせてください。
ハグリッド』
ハリーはアイの羽根ペンを借りて手紙の裏に「はい。喜んで。ではまた、後で。」と書いてヘドウィグを飛ばせた。
「私も行っていい?」
アイがハリーに尋ねた。
「もちろんいいよ。ハグリッドも喜ぶさ」
ハリーは笑顔で答えた。
ハリーはハグリッドとのお茶という楽しみがあったのはラッキーだった。なにしろ魔法薬学の授業が最悪のクラスになってしまったからだ。