目の前で突然広げ始められたやり取り。
「ちょっ、ちょっと文次郎！」
「大丈夫だ、伊作。こいつはそんな軟な野郎じゃねぇよ」
「だから野郎じゃないよっ、千代ちゃんは女の子だよ！」
いち早く反応した伊作に答える文次郎。相変わらず論点がずれている。
「そもそも女だって言っても忍者なんだから別に関係無いだろ」
「ふっ、ざけないで、くだ……さいよっ！」
文次郎の言葉に望月は拘束を振りほどき、一気に飛び退く。その俊敏な動きから、やはり忍者なんだなと実感せざるを得ない。
「あー、もう怒りました、今日は全力で反撃させてもらいますからねっ！泣いたって許しませんよ！」
そう言って望月は懐から苦無を取り出し、構える。
「本当にお前は上級生に対しての態度がなってねぇな。俺が教えてやるよ」
そう言って文次郎も苦無を手にする。
「うわぁ、何なんですか、その表情。そこら辺の野盗と変わりませんね……そもそも下級生相手に武器とか酷くないですか？」
「バカタレ、上級生に対して武器を掲げる下級生が言う台詞か」
――――なんだ、結構馴染んでるじゃないか。
「……良い後輩を入れたもんだな。」
隣で仙蔵が呟く。珍しく正面切って文次郎に食って掛かる下級生。
「ちぇっ、ずるいなぁ、文次郎の奴」
さらにその隣では小平太が不満そうに言葉を漏らした。ただ、当の二人はここが何処かすっかり忘れている様子。
「……席に、戻るぞ……」
長次の言葉に俺達は同意する。厨房から感じる殺気に、白熱している二人はまだ気付いてはいない。
――――あと、数秒だな。
「……伊作、ちょっと拗ねてるのか？」
俺は席に座りながら、隣の伊作に問い掛ける。
「ちょっと所じゃないよ、結構だよ」
ムスッとした表情で伊作は答えた。けれどその表情は直ぐに変わり、笑みを浮かべる。
「――――まぁ、彼女が楽しそうならそれでいいんだけどね。」
厨房から飛んで来る包丁を必死に避ける二人を見ながら、俺達は食事を再開した。