『――――えぇっ！？』
俺と仙蔵、小平太の声が重なる。伊作の言葉が正しいのであれば、今目の前にいる女が渦中の人物、望月千代。
「いやぁ、昨日は死にかけてましたが今は元気ですよ。あっ、六年生の皆さん、おはようございます」
伊作の隣にいる俺達を見て、望月はぺこりと頭を下げる。
「おい、伊作。こいつが、その、さっき言ってた……望月？」
「うん、そうだよ。会計委員会所属の望月千代ちゃんだよ」
「その会計委員会の委員長に昨晩殺されかけましたけどね」
伊作の言葉に望月は頬を膨らます。俺達三人は唖然とする。目の前にいる女は色白で幼い顔立ち。けれどその割には出る所はしっかり出て……随分と魅力的な体系をしている女だ。
「なんかイメージと違うな。随分と普通の女なんだな」
「えっ、七松先輩あたしに対してどういったイメージだったんですか？」
小平太の言葉に望月は顔をしかめる。
「だって文次郎とやり合う女って聞いたから、なんかもっと強そうなイメージだったぞ」
「やり合ってませんよ、ただひたすら逃げ回ってただけです」
「いや、それでも十分と凄いだろ」
俺は望月の言葉にツッコミを入れてしまう。この姿から裏裏山までランニングをした事すら想像が付かない。
「もう食満先輩からも言っといて下さいよ。あのギンギンに忍者する事しか考えてないアホな先輩に」
「――――ほぉ、誰がアホな先輩なんだ？」
入り口から聞こえた声。望月の動きはピタリと固まる。食堂の入口には先程忘れていた荷物を取りに戻ってきた文次郎の姿。
「……あー、潮江先輩おはようございます」
文次郎に背を浮かべたまま、心底嫌そうな表情で望月は答えた。
「俺は、誰がアホな先輩か聞いてるんだ」
「へぇ、自覚が無いんですか――――ぐふっ！？」
後ろから近付いた文次郎が望月の首に右腕を回し、絞め上げる。
「ちょっ、せんぱっ、首、絞まってるぅうっ！」
「そりゃそうだ、絞め上げてるんだからな」