「いや、文次郎の野郎もまた凄い奴を委員会に入れたみたいだな」
「そうだな、予算会議が楽しみだ」
俺の言葉に小平太は楽しそうに呟く。
「よく考えてみろ小平太、予算会議でそんな奴と戦うのは私達だぞ」
「だから楽しみだろう？あっ、文次郎の奴、忘れ物してるぞ」
仙蔵の言葉に答えながら、小平太が先程まで文次郎が座っていた場所を見つめる。そこには慌てて出て行ったせいで、数冊の本が置かれたままだった。
「あいつ伊作に説教されて、本当に焦って――――」
「おばちゃーん、朝市で頼まれてた物買ってきましたよ！」
その俺の言葉は遮られる。今の食堂内に似つかわしくない高い声が響いたのだ。
「あらあら、ありがとうね。本当に助かったわ。今日のお昼は新鮮なお魚ね」
声のする方を見ると、そこには厨房でおばちゃんと若い女の姿。白藍と桜色の綺麗な着物に、巷で流行の少し緩い髪の結い方。こちらには背を向けている状態なので、顔は伺えない。
「別に対した事じゃないですよ。あの時間じゃ寝ようにも寝れなかったですし」
上品そうな着物を着ている割には、女本人の喋り方は随分と砕けた口調。
「いを売り……か？随分と上質な着物を着ているようだが。」
「……違う」
呟いた仙蔵に長次が答える。
「あたし今からお昼御飯が楽しみに――――って、伊作先輩！？」
魚を置き終えた女がこちらに振り返り、俺達を見て驚きの声を上げる。
「朝御飯ですか？あたし今市場行ってきた所なんですよー」
ヘラヘラと笑いながらこちらに近寄ってくる女。
「夜はあんな事があったのに、朝から元気だね――――千代ちゃん」
その女に対して、伊作も笑いながら声を掛けた。