食満留三郎
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「おっ、やっと見つけだぞ!!」
望月の後ろから聞こえた声。
「留三郎ずるいぞ、望月の相手は私だ!」
そう文句を言いながら、全力でこちらに走ってくる小平太。
「……うわぁ」
その言葉を聞き、心底嫌そうな表情を浮かべる望月。確かに文次郎の言う通り、望月は直ぐに感情が表情に出る。
「どうするんだ、逃げ場はねぇぞ」
前には俺、後ろには小平太、左右は塀に囲まれている。
「なら正面突破するしか無さそうですね」
小平太が気に入る理由が良く分かった。こいつが男だったら俺だって毎日連れ回してるだろう。
「へぇ、やれるもんならやってみろ」
俺だって傷付けるような事はしないが、負ける気は一切無い。呼吸を整え、片足を後ろに引き、両手を胸の前で構える。そんな俺の様子を見ながら、望月は懐から何かを取り出し、火を着けた。この状況と形状から察すると煙玉なのは間違いない。拍子抜けの方法に、俺は少しがっかりしてしまう。
――――目くらましを使って逃げる気か。
投げられた煙玉は地面に到達すると同時に、白煙を辺りにまき散らす。この塀に囲まれた場所はあっという間に煙が広がった。俺は移動しようと足に力を入れたが、思わず立ち尽くす。俺の前方にある気配。足音はしないが確実にこちらに迫っている。本当に正面突破するつもりなのか?正直な所、左右の塀を乗り越えて逃げると思っていた。
「本当に正面突破とはな……いや、待てよ」
俺は思考を張り巡らす。なぜ、逃げるのにわざわざ正面突破なんだ?
左右に逃げると思わせて、裏をかいたつもりか?話に聞いたが望月は頭の回転は良い。そんな馬鹿みたいな事はしないだろう。なら、なぜ?
「――――あいつ、絵巻物を奪う気か?」
それしか、この正面突破の理由が無い。この前の合同演習での望月の行動を思い返す。あの時俺達の前に登場した望月は、自分の逃げ切れる間合いを正確に把握していた。その時点で自分の力量と相手の力量を理解している。なら今のこいつは馬鹿みたいに勢いで行動している訳でない。ちゃんと俺に勝てる見込みがあって、勝負を挑んできている訳だ。先程萎えてしまった気持ちが一気に上がる。後輩に正面切って勝負を挑まれるとは。
――――正直、こいつを委員会に入れている文次郎が羨ましいと思った。
いくら煙玉で視界を奪ったとしても、何も見えない訳では無い。一丈程で影が見えるし、五尺程度で姿を把握する事が出来る。俺は望月を組み敷けるように集中する。さて、あいつはどんな手で来るのか。伊作だって毒や薬を使う事があるが、それをメインにした望月の戦闘スタイルとは全く違う。近接型の毒剣使い。初めての対戦相手に気持ちはどんどんと高揚する。さて武器は何で来るか?毒を塗った得物か、はたまた暗器か。どのような武器で来ようが、対処出来るよう構えておく。
不意に白煙の中浮かんだ影。その間は一瞬、次の瞬間にはその姿を確認できた。間違いなく、望月だ。その両手に握られた武器は――――何も無い。暗器か?いや、そんな動きや素振りは一切無い。ただ、こちらに無防備に突っ込んで来ているだけだ。
――――何をする気だ、こいつ?
不可解に思うが、もう望月は目の前。俺は手を伸ばし、捕まえようという素振りをする。けれど迫り来る望月には一切変化が見られない。ただ本当に俺に近付いて来ているだけ。距離は一尺半を切った。その時、不意に望月の手が動いた。
――――暗器か?
いや、今更何も出来ないはずだ。距離は残り一尺を切る。俺も望月に自ら近付き、組み敷こうとする。
そして――――距離は無くなった。
思考、行動、時間、全てが停止する。状況が理解出来ない。望月の左手は俺のうなじを押さえ付けている。そして唇に触れる柔らかな感触。
……何が、起こった?いや、今、何が起こっているんだ?
頭の中が真っ白になる。
――――こいつ、何やってんだ?
不意に唇の感触が無くなり、目の前には少し困ったように笑う望月。次の瞬間こいつは俺の左肩に両手を添え、飛び越えて行った。姿が見えなくなっても、俺の思考回路は停止したまま。
今しがた、望月がした行動は――――
俺は振り返る事も、追う事も、言葉を発する事さえ出来なかった。
望月の後ろから聞こえた声。
「留三郎ずるいぞ、望月の相手は私だ!」
そう文句を言いながら、全力でこちらに走ってくる小平太。
「……うわぁ」
その言葉を聞き、心底嫌そうな表情を浮かべる望月。確かに文次郎の言う通り、望月は直ぐに感情が表情に出る。
「どうするんだ、逃げ場はねぇぞ」
前には俺、後ろには小平太、左右は塀に囲まれている。
「なら正面突破するしか無さそうですね」
小平太が気に入る理由が良く分かった。こいつが男だったら俺だって毎日連れ回してるだろう。
「へぇ、やれるもんならやってみろ」
俺だって傷付けるような事はしないが、負ける気は一切無い。呼吸を整え、片足を後ろに引き、両手を胸の前で構える。そんな俺の様子を見ながら、望月は懐から何かを取り出し、火を着けた。この状況と形状から察すると煙玉なのは間違いない。拍子抜けの方法に、俺は少しがっかりしてしまう。
――――目くらましを使って逃げる気か。
投げられた煙玉は地面に到達すると同時に、白煙を辺りにまき散らす。この塀に囲まれた場所はあっという間に煙が広がった。俺は移動しようと足に力を入れたが、思わず立ち尽くす。俺の前方にある気配。足音はしないが確実にこちらに迫っている。本当に正面突破するつもりなのか?正直な所、左右の塀を乗り越えて逃げると思っていた。
「本当に正面突破とはな……いや、待てよ」
俺は思考を張り巡らす。なぜ、逃げるのにわざわざ正面突破なんだ?
左右に逃げると思わせて、裏をかいたつもりか?話に聞いたが望月は頭の回転は良い。そんな馬鹿みたいな事はしないだろう。なら、なぜ?
「――――あいつ、絵巻物を奪う気か?」
それしか、この正面突破の理由が無い。この前の合同演習での望月の行動を思い返す。あの時俺達の前に登場した望月は、自分の逃げ切れる間合いを正確に把握していた。その時点で自分の力量と相手の力量を理解している。なら今のこいつは馬鹿みたいに勢いで行動している訳でない。ちゃんと俺に勝てる見込みがあって、勝負を挑んできている訳だ。先程萎えてしまった気持ちが一気に上がる。後輩に正面切って勝負を挑まれるとは。
――――正直、こいつを委員会に入れている文次郎が羨ましいと思った。
いくら煙玉で視界を奪ったとしても、何も見えない訳では無い。一丈程で影が見えるし、五尺程度で姿を把握する事が出来る。俺は望月を組み敷けるように集中する。さて、あいつはどんな手で来るのか。伊作だって毒や薬を使う事があるが、それをメインにした望月の戦闘スタイルとは全く違う。近接型の毒剣使い。初めての対戦相手に気持ちはどんどんと高揚する。さて武器は何で来るか?毒を塗った得物か、はたまた暗器か。どのような武器で来ようが、対処出来るよう構えておく。
不意に白煙の中浮かんだ影。その間は一瞬、次の瞬間にはその姿を確認できた。間違いなく、望月だ。その両手に握られた武器は――――何も無い。暗器か?いや、そんな動きや素振りは一切無い。ただ、こちらに無防備に突っ込んで来ているだけだ。
――――何をする気だ、こいつ?
不可解に思うが、もう望月は目の前。俺は手を伸ばし、捕まえようという素振りをする。けれど迫り来る望月には一切変化が見られない。ただ本当に俺に近付いて来ているだけ。距離は一尺半を切った。その時、不意に望月の手が動いた。
――――暗器か?
いや、今更何も出来ないはずだ。距離は残り一尺を切る。俺も望月に自ら近付き、組み敷こうとする。
そして――――距離は無くなった。
思考、行動、時間、全てが停止する。状況が理解出来ない。望月の左手は俺のうなじを押さえ付けている。そして唇に触れる柔らかな感触。
……何が、起こった?いや、今、何が起こっているんだ?
頭の中が真っ白になる。
――――こいつ、何やってんだ?
不意に唇の感触が無くなり、目の前には少し困ったように笑う望月。次の瞬間こいつは俺の左肩に両手を添え、飛び越えて行った。姿が見えなくなっても、俺の思考回路は停止したまま。
今しがた、望月がした行動は――――
俺は振り返る事も、追う事も、言葉を発する事さえ出来なかった。