「でもよ、六年生相手に生半可な作戦は通用しないだろ」
スタート地点に到着したと同時に、開口一番八がそう言い放つ。
「妥当なのは『能く寡を以て衆を撃つ者は、即ち吾が与に戦う所の者約なればなり。吾が与に戦う所の地は知る可からざれば、則ち敵の備うる所の者は多し』だね」
「まぁ、それが一番だろうけど、いくらなんでも向こうもそんな状況を作らないだろ。」
あたしの言葉に三郎が即答する。
「うわぁ、懐かしいな。千代の口からそんな言葉が出るなんて」
「最近は会計委員会のリアル鬼ごっこのイメージしかなかったからね。変わってないねー」
さらにその隣では兵助と勘右衛門がしみじみと言葉を漏らす。あー、これだからい組のド天然は困る。ツッコミを入れる気力がなく、あたしは項垂れた。
「相変わらず千代は頭が良いな。俺なんか意味がサッパリ分からないぞ」
「いやぁ、それもどうかと思うよ」
ニコニコと笑う八に、少し困ったようにツッコミを入れる雷蔵。このままでは六年生達に潰される。本来であれば逃げる側の彼らだが、先生の『何をしてもいい』という言葉を逆手にとって、全力であたし達を攻撃しにくるだろう。いわゆる、やられる前にやってしまえ戦法だ。
「あー、このまま負けたら潮江先輩に鍛練が足りん！って言われて特訓させられるじゃん。ねぇ、誰か良い案無いの？」
「―――いや、一つ良い案が思い浮かんだぞ」
三郎が、口角を釣り上げた。