1章
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ヨナは、慣れない距離を歩いて息が上がっていた。そして限界が近づき、とうとう地面に膝をついてしまった。
『…様、ヨナ姫様、大丈夫ですか?』
「少し休みますか?」
「……ハク、カナ」
カナがヨナを木にもたれかかるよう座らせる。
「ミンスは…死んじゃったの…?
私も…、死ぬのかな。ハクも…カナも、スウォンに…殺されて」
「あんなクソッタレにやる命なんて、持ち合わせてねぇですよ」
『私達は貴方を置いて逝ったりしませんよ』
「死なないでね……、ハク、カナ。死んだら…許さない…から…」
ヨナはそのまま気を失ったように眠りについた。
カナは羽織を脱ぎ、眠るヨナにかける。そんなカナの姿を見ながら、ハクは少し呆れたような声で話しかける。
「…カナ、傷を見せろ。さっきから少し息が荒いのバレバレだ」
『……やっぱりハクにはバレるか』
カナは目をパチクリさせた後、苦笑いする。
「当たり前だ、何年お前と一緒にいると思ってんだ。姫さんは寝たから、気を使う必要ねぇよ。…素直に見せろ」
カナはため息をついたあとハクに背を向け、肩を見せるように着物を脱ぐ。傷自体は深く無いが、晒に血が滲んでいる状態だった。カナが晒を緩め、脱いだ着物を前にあてる。そしてハクがその晒を傷口に巻き付けていく。
『…っ!…あの矢、毒矢だったみたい。…でも傷自体はすぐ治るよ。私が他の人より傷の治りが早いの知ってるでしょ?』
「……そうだな。お前のそれ生まれつきだったか?」
『さぁ?でも、姫様を守る上では重宝してるよ』
晒が巻き終わったのを確認したカナは着物を着始める。
「お前も少し休め、俺が見張りしとく」
『…交代制ね。ハクにも休んで欲しいから』
カナは、そう言いながらヨナの隣に片膝を立てて座り、長剣を横に添えて寝始めた。
ハクはカナに寄りかかって寝ているヨナを見ながら、昔のことを思い出していた。
ーー3年前
15歳のハクとカナ、風の部族長ソン・ムンドクは五部族会議に参加するため緋龍城に訪れていた。
カナは一人で空の部族長であり、高華国の五将軍の一人であるハン・ジュドに会いに行っていた。
『ジュドさん!』
「カナか、久しぶりだな」
『はい、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。今度、また手合わせお願いします!』
カナは満面の笑みで手合わせをお願いした。
その顔を見たジュドは、瞬きを数回したあとに少し微笑む。
「相変わらずだな…、お前にはムンドク将軍が近くにいるだろ」
『確かにムンドク将軍やハクはよく手合わせしてくれますけど…、色んな人とやって強くなりたいんです。女だからって言われるのが凄く悔しいので』
「わかった。今度時間あった時にやるか」
『お願いします!では私はムンドク将軍の所へ戻らなければ行けませんので、これで失礼します』
カナはムンドクやハク達の所へ向かうその途中、火の部族長カン・スジンの次男であるカン・テジュンがヨナを探している姿を見た。
カナはヨナから、最近テジュンに言い寄られてることを聞いていた。テジュンが玉座を狙う為にヨナを懐柔しようとしてるとカナは考えてるのでテジュンに良い印象が無い。なんなら、嫌いの部類だ。
そもそもヨナはスウォンのことが好きなので、スウォンがテジュンの事で何か勘ぐってヨナを傷つけても困る…。カナはため息をついた後、テジュンの所へ歩く。
『お久しぶりです、テジュン様。何かございましたか?』
「お前は確か…、風の部族の…」
テジュンはカナの方を向いたが、顔は分かっても名前は覚えてない様子だった。
『はい、ソン・カナと申します。ヨナ姫様を探している様子でしたが、姫様に何か御用でしたか?』
「姫様を遊びに誘おうかと思っていたのだが、いなくなってしまわれて…」
『そうでしたか…、ですが残念ながら姫様はこの後ご予定がございましたので遊びには行けなかったかと思います。今日のところはお引き取り願えますか?』
カナは笑みを浮かべ有無を言わさずにテジュンを部屋に戻した。そして再びハク達の元へ戻るため歩き出した。
カナは風の部族に宛がわれてる部屋で寛いでいたのだが…
「あ''ーーーっ、早く風邪の部族の屋敷へ戻ろうぜ、ムンドク将軍」
ハクがイライラした状態で寝そべっていたのを見て隣に移動する。
「お前…、何をイラついとるんだ。そしてじっちゃんと呼べ」
「イラついてなんかいませんよ」
『どう見たってイラついてるでしょ。……姫様と何かあったの?』
ハクがなんかある時は大体ヨナが関わってると思っているカナは疑いの眼差しをハクに向ける。
カナの言葉を聞いたハクは顔をしかめる。
「…うるせぇ」
ーーコン
カナとハクが音の鳴る方へ向くと、ヨナがいた。
「『ヨナ姫』」
「なんでここに…」
『姫様、危ないですよ』
カナの手を貸りながら、ヨナは肩ぐらいまである少し高い段差を乗り越えた。そして何個か持ってきた木の実を服から出し、ハクに渡す。
「昼間はごめんなさい…。私がふがいないから怒ったんでしょ?私は高華国の誇りある姫なんだから、うだうだ言ってないで自分で何とかしてみる。…じゃね」
「あっ、おい」
「それあげる。仲直りの賄賂ね、多めに持ってきたからカナにも分けてあげてね」
ヨナはそれだけを言って颯爽と帰って行った。
「…だから、姫さんとはあまり関わりたくねぇんだよ」
ハクは呆気にとられた後、近くにあった林檎を食べながらそう零す。
2人のやり取りを見てたカナは、やっぱり姫様と何かあったんだなって思っていた。
ーー次の日
ハクとカナは外で寛いでいた時、後ろから衛兵の2人がイルの事について話していた。
「部族会議での陛下ののご様子はどうだ?」
「あぁ、また部族長達の言いなりになっているらしい」
「火の部族は隣国から武器を買い占めているらしいぞ、王の許可もなく」
「このままでは部族達の力が増し、国王の力が衰える一方だ」
「あのような臆病な王にこの国を任せて良いのか?」
カナは眉をひそめ、イルは武器を確かに恐れてはいるが決して臆病なだけの王ではないと思っていた。
ハクは、無理もないかあの王じゃな。俺がじっちゃんの後を継いで、将軍になったら俺は王家の犬…か。と思っていた。
「やめといた方がいいですよ陛下。俺は…」
『ハク…?』
ハクが呟いた言葉の意味を理解できなかったカナは、不思議そうな顔でハクを覗く。
「嫌です!」
ヨナの嫌がる声が聞こえ、カナとハクはそっちに意識を向ける。
そこにはテジュンがまたヨナに言い寄っていた。
「私は貴方と離宮には行きませんっ」
「つれない事をおっしゃらずに。離宮には素晴らしい花の庭園があるとか、案内して下さらぬか?」
「放……っしてっ」
ハクはその様子を見て、舌打ちをしながらうぜェと思っていた。ここにスウォンがいればと思うが色恋に関してのほほんとしている坊ちゃんがいても姫が苦労すると思い返す。
カナは殺気が少しだけ漏れていた。だが、ここで自分が動いても意味が無いと思いハクの方を向く。
「おい……、姫様嫌がってないか?」
「誰かお止めしろ」
「しかし、カン将軍のご子息だぞ」
「下手な事して将軍に睨まれたら」
「では陛下をお呼びしろ」
さっきの衛兵2人がヨナを助けようとするも、我が身可愛さで自分達は助けに行かずに陛下を呼ぼうする。
ハクは貴族様とはまこと面倒な生き物だ、関わるな、放っておけ。放っておけ、でないと俺は…これからずっと…。と、ヨナの姿を思い浮かべながら考えるのだった。
『ハク』
カナが呼んだことにより、ハクは現実に引き戻され、隣にいるカナを見る。
『このままでいいの?ハクは…本当にいいの?』
カナの赤眼がハクの心を見抜く。
「や……っ、いい加減に…」
その間、テジュンがヨナの手を掴み、必要以上に迫る。
「ーーいい加減になさいませ、カン・テジュン殿」
「ハク」
ヨナの声に限界を迎えたハクは、柵を乗り越えヨナの肩を抱き、テジュンの手を掴んだ。
ヨナは驚き、ハクの方を見る。
「な…何だお前は、無礼者。それに姫に気安く触れるなど……」
「貴方こそ、誰の許可を得て俺の姫に触れやがってるんですか?」
狼狽えるテジュンに向かってハクは、ヨナを引き付けヨナを自分のものだと言う。
その言葉にテジュンもヨナも目が点になり、カナは口元をニヤニヤさせて話を聞くのだった。
「ガっ、ガキが出まかせを…」
「どうして嘘だと申されるんで?俺と姫は幼少時より将来を誓い合った仲ですよ。ね、姫」
「は?え''っ」
ヨナは話についていけず、戸惑う。
「どうしました姫様、そんなにテレなくても」
「ほほほ、やあね人前でーーっ」
ハクは、話し合わさんかいと思いながら、顔を近づける。
ヨナはやっと理解ができ、話を合わせようとする。
「姫は…、そやつがその…、お好きなのですか…?」
「う…、う……、うん。好き、大好き」
テジュンはあまりにも信じられず、ヨナに問う。
それに対してヨナは、例え演技だとしても好きという言葉を言うのに躊躇したが、覚悟を決めハクの腕に自分から抱きつき大好きだと言う。
ヨナから好きだと言われたハクは満更でもない顔で頬を少し赤らめた後、口元を手で覆う。
「みっ、認めん!たとえそうであれ、貴様のような者が姫と将来を誓うなど、私は火の部族長カン将軍が次男、カン・テジュンなるぞ。貴様はどこの誰だと言うんだ」
テジュンは諦め悪く、今度は立場を比べようとする。
「ーー俺は、風の部族次期将軍ソン・ハク。陛下直々にヨナ姫様専属護衛を命ぜられた者。異存あるか?」
「く…」
ハクは目線を少し下に下げたあと、覚悟を決めたような真剣な顔でテジュンに言う。
「ならばその実力を、今ここで見せてみよ」
立場も自分より上になりそうなハクに、とうとう実力行使でいこうと剣を抜きかけるテジュンだが、後ろから誰かが剣の刃を手で抑える。
「いけませんよ」
剣を抑えたのはイルだった。
「おっ、お許しを……」
「うん、いーのいーの」
テジュンはイルを傷つけてしまったことに焦り、そのままどこかへ行ってしまった。
それを見届けたイルは、血に染る手を後ろ手で隠しながらハクやヨナの方を向く。
「カナ、君も近くにいるんだろ?出ておいで」
呼ばれたカナは、すぐに柵を乗り越えハクの隣に立ち、申し訳ない顔をする。
『陛下、申し訳ありません。私が止めなかったばかりに…』
「気にしないでいーよ。…そんなことより、ハクとヨナがそういう仲だとは知らなかったよ」
カナの顔を見たイルはニコリと笑った後、話を変える。
「ち、父上誤解よ、あれはっ」
「ああ言えば、もう彼も来ないでしょう。あー、面倒だった」
『そんなこと言って、かなりノリノリだった様に見えたけど?』
イルの言葉を聞いたヨナは顔を赤らめ、必死に否定しようとする。
ハクは面倒な顔をして言うが、そんなハクを見ながらカナはニヤニヤし、素直じゃないなと思いながら言う。
「ハク、やっとヨナの護衛をする気になったんだね。ハクが護衛につけば、カナも一緒にいることになる。君達になら任せられると思っていた」
「…高いですよ、俺達は」
『…私は元より姫様の護衛に付きたいと考えておりましたので、精一杯お守り致します』
イルからの言葉に、ハクとカナは答えると二人同時に跪く。
「ハク、カナ。どうかヨナを頼む」
カナは、小さい頃からずっと見てきた姫様をこれから先もずっと守り続けていきたいと、そして自身に流れている血がこの人を守れと言っている不思議な感覚に襲われながら考えていた。
一方、ハクはこの親子はどうも放っておけない。それに、この王は臆病などではないと思っていた。
ーーこの出来事が、ハクとカナがヨナの専属護衛になるきっかけだった。
ーー現在
ハクは寝ているヨナとカナを見て、ヨナの涙を人差し指で拭いながら思う。
イル陛下、今もどこかで俺らを見ておいでか…?あなたの心残りは俺達が守る。そして必ず、あなたの城へ戻ります。…と