1章
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少し時間は遡り、ハクは静かすぎる城内を不審に思いつつ見張りをしていた。そこに差し入れのお酒を持ってミンスがやって来た。
「ハク将軍、見回りご苦労様ですっ」
「おっ、さすがミンス気が利くな」
「あれ?カナ副将軍はいらっしゃらないんですか?」
ミンスはお酒を渡しながら聞く。
「カナなら他の場所を見回りして貰ってる……、ん?」
他の場所で見回りをしていたはずのカナが小走りでハクの所へ来た。
『ハク!城内が静かすぎる気がするの…。スウォン様がいるから大丈夫だとは思うけど、心配だから姫様の所へ行ってくるわ』
「俺が何か言ったところで、お前は行くだろ?」
『そうだね、遠目から見てほんとに大丈夫そうなら戻ってくるよ。じゃ、行ってくる。お酒はほどほどにね、ミンスも今度は私にも差し入れお願いね!』
カナは長剣を腰に差し直し、ヨナのもとへ行った。
「でも、いいんですか?カナ副将軍は行きましたけど、ハク将軍はヨナ姫様のお側にいてさしあげなくて」
「あー、野暮野暮。姫さんにはスウォン様がついてるからな。カナもそれが分かってるから遠目に確認しに行っただけだろ」
「では、姫様のお心がスウォン様に通じたんですか?」
「さあな…、でも時間の問題だろ」
「ハク将軍やカナ副将軍はお2人の事よくご存知ですものね」
「見てたからな、昔っから。あの2人には…ま、何つーか、幸せになってほしいと俺達は思ってる」
ハクは空を見上げ、ヨナとスウォンの姿を思い描いていた…
――ピチョン
――ピチョン
血が滴る音が鳴る。
ヨナは口を震わせながら呆然と座り込んでいた。
「ス…、スウォン…、父上…、が…、早く…、医務官…を…」
「イル陛下はもう目を開けません…
私が殺しました」
ヨナは気が動転して、言葉をうまく発せない。
「な…にを、言って…、あ…、貴方は…、そんな事…、出来る人じゃ…」
「…貴方は知らない。私がこの日の為に生きてきた事を」
スウォンは語る……
自分の父、ユホンがイルに殺害された事実を。
誰もが勇猛果敢で利発なユホンが次期国王になる事を望み、それを疑わなかった。だが10年前、先王が国王に選んだのは軟弱な弟のイルだった。誰もが理解できなかった。なぜイルが選ばれたのか。
しかしユホンは、王座など自分にとっては些末事、弟を守り、民を守るために前線で戦い続けるスウォンに言っていた。
そんなユホンを、スウォンは誇り、深く敬愛した。いつかユホンと共に戦場に立ち、自分の命をユホンの為に捧げようと…
そう思っていたが、王位に就いた後にイルは実兄であるユホンを殺害した。
「そんな伯父上は事故で…!」
「表向きはそうですね。父上はイル陛下に剣で刺され亡くなった…。
わかりますか?武器を嫌い争いを避けていたはずのイル陛下が父上を剣で殺したのです。
ヨナ姫…、だから私は10年前からこの日の為に生きてきた。父上の敵を討ち、父上の遺志を受け継ぐ者として…
私はこの高華の王となる」
ヨナは現状を理解出来なかった。
カナはヨナやスウォンの部屋を訪ねたが、2人とも見当たらない事に焦っていた。
『…っ、姫様、いったいどこに…!?』
カナが見たのは、イルの部屋の前に大勢いる兵たちの姿だった。そしてその向こうには、見間違えるはずのない緋色。
走りながら長剣を抜き、衛兵達を薙ぎ払った後、スウォンに切りかかる。
――ガッ
スウォンは持っていた剣でカナの長剣を受ける。そしてカナはヨナ姫の前に出た。
「カ…、カナ…」
『これはいったい、どういうことですか?スウォン様。何故イル陛下は倒れ、姫様は泣いているんです……。答えて、スウォン!!』
カナの赤眼がスウォンを睨み叫ぶ。
「姫に…、まさか見られたんですか?ならば、話が早いではないですか。殺しておしまいなさい、スウォン様。姫の口を封じるのです」
そこに前髪で片目を隠している長髪の男ー―ケイシュクが前へ出る。
「これは、カナ副将軍ではないですか」
ケイシュクがカナの姿を認識すると、少し目を開いた後名前を口にする。
「この女が、高華の“鳥獣”、そして最強の女武人と噂される…」
周りの兵たちがザワザワしだす。
カナは今度はケイシュクを睨む。
『誰が、誰を殺すって?ふざけたことを言うのも大概にしてもらいたい…。姫様に手出しはさせない!』
カナは一声掛けてからヨナを横抱きにして外へ逃げる。
武人と言っても、カナは女。人ひとり抱えながら剣を振るうことは叶わない。衛兵たちを躱しながら逃げるが、肩に矢が刺さってしまった。
『うっ…!』
すぐに肩に刺さった矢を抜いたが、その間にカナとヨナは囲まれてしまった。
振り降ろされそうな剣をカナは受け止めようとするが…、ある人物を見て口角をあげる。
『遅いよ、ハク』
大刀を持ったハクが周囲の人を薙ぎ払う。
「…今夜はスウォン様がいらっしゃるから、邪魔者は遠慮したつもりだったんですがね。見張りだったはずの守護隊がここに勢ぞろいしてるし、見知らぬ輩もいやがりますし、なんならカナは怪我をしてるみたいですし。
…これはいったいどういう事ですか?なぁ、スウォン様」
「ハ…、ハク…」
ハクは後ろを振り向き、ヨナの前で膝をついた。
「お傍を離れて申し訳ありません、ヨナ姫様」
「ハク…、ハクとカナは…、私の味方…?」
「『――…』」
「…俺達は陛下からあんたを守れと言われている」
『だから何があろうと私たちは…』
「『それに絶対服従する』」
ハクとカナは立ち上がり、それぞれ武器を構えた。
「もうへばってんのか?カナ」
『はっ、誰が。遅刻してきたやつに言われたくないね』
ハクとカナは前を見据えながら、不敵に笑う。
「控えよ下郎。今より緋龍城の主となったスウォン陛下の御前なるぞ」
「…誰が、何の主だって?
どうも…嫌な予感がするんですがね、スウォン様。イル陛下は、どこにおられる?」
「――私が先程、地獄へ送ってさしあげた」
スウォンの言葉を聞いたハクは、大刀の柄の先を地面に打ち付けた。
「――酒にでも酔っておいでか?戯れ言にしては度が過ぎますよ」
「…ヨナ姫とカナ副将軍に聞いてみるといい。ヨナ姫はその目で王の死を確かめられたのだから」
ハクは目を開き、大刀をスウォンに振る。
スウォンは剣で大刀を受け、そのまま斬り合いが始まる。
――キインッ
――キインッ
「真実を言え…!」
「偽りじゃない」
「スウォン!!国王を
お前が、あの優しい王を…!」
そして、お互いが一旦距離をとる。
「スウォン様、ここは私が」
「下がっていなさい、近づけば首が飛びますよ。目の前にいるのはこの緋龍城の要、五将軍の一人、ソン・ハクです」
ある兵がスウォンに話しかけるが、制される。
「ハク……!?あいつが高華の‘‘雷獣”と噂される…」
周りの衛兵たちがハクの名前を聞き、又もやザワザワし出す。
「……なぜだ?王位の
『いや、あなたは…
「てめぇの誇りがそれを許したのか!?」
「ーー弱い王など……この国には必要ない」
今度はスウォンから刀を交えたが、相手は将軍、ハクの大刀がスウォンの肩に傷を負わせる。
ヨナは、自分の知らない冷たい眼差しをしているスウォンを見て涙を流す。
「待て!!そこまでだ」
兵たちが取り囲み、ハクとカナの首元に武器を向ける。
『スウォン。私達が見ていたスウォンは幻だったの?』
「お前になら姫を任せてもいいと…、思っていた…」
「……貴方達の知ってるスウォンは、最初からいなかったんです。道を阻む者があれば切り捨てます。誰であろうとも」
――ヒュッ
――カッ
そんな時…、一本の矢が地面に刺さった。
周りは動揺し、その隙をついてカナは逃げ道を作り、ハクはヨナを片手で抱え走り出す。
「ハク将軍…っ、カナ副将軍…っ。こちらです」
走った先には、ミンスがいた。
「矢はお前か、ミンス」
『ありがとう、おかげで助かった。…ミンス、陛下が…』
「はい、さっきの会話聞きました。姫様…、陛下は…、本当に亡くなられたのですか?」
ミンスは、ハクから降ろされ座り込んでいるヨナに問いかける。
ヨナは涙を流し続け、頷くことしかできなかった。
「……そうですか、申し訳ありません。どうしても信じられなくて……。
「…見つかるのも時間の問題だな」
ハクは少し遠くの方まで来ている兵に気づいた。
「私が逃げ道を確保します。お三方はこの城から脱出してください」
「それは…」
「緋龍城は、スウォン様が率いて来た兵とスウォン様を支持する兵が集まりつつあります」
『捕まれば間違いなく殺される…。それでもミンス、お前が…』
「どこへ…、行くの…?私……、宴の時……、父上が泣いて喜んでいたのに、一言も言わなかったわ。ありがとう……って。ここは父上の城よ…、父上を置いて…、どこへ…、どこへ行くというの…?」
悲痛な顔で話すヨナに、ハクは苦虫を嚙み潰したような表情をした後、ヨナを抱きしめる。
「どこへでも行きますよ、あんたが生きのびられるなら。それが陛下への想いの返し方です」
カナは血が滲むほど拳を握りしめていたが、手を緩めヨナの手を優しく握る。
『生きるために、ここから出ましょう姫様。私達が命にかえても、貴方をお守りします』
ミンスを先頭に、裏山に出られるところまで来たカナ達はすぐそこまで兵が近づいていた。それに気づいたミンスは自分が引き付けようとする。
『ミンス、必ず生きのびて』
カナはミンスを不安げな顔で見る。
その顔を見たミンスは笑みを浮かべ、ヨナの方を向く。
「姫様、どうかご無事で」
ミンスは着物を頭から羽織り、走っていく。
その間に裏山に出たカナ達は、無事に逃げ延びることができたのだ。