1章
夢小説設定
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――ドクンッ
カナは紅い髪が風に靡き、自分と同じ燃えるような赤い瞳をしているヨナの姿を見て心臓が大きく鳴る。
「馬鹿野郎…っ、なんで出て来た!?」
ハクの言葉にカナは我に返るが、兵士が背後から迫っていたことに反応が遅れてしまった。ハクが大刀を振ってなんとかなったが、さっきの毒が効きフラつき出した。
『ハク!』
フラついたハクのもとに駆け寄りたいカナだが、行かせまいと次々に兵士が剣を振るってくる。薙ぎ払う体力が残ってないカナは捌くだけで精一杯だった。
――ザッ
今が好機だと思った兵士がハクに剣を振る。もろに受けてしまったハクは後ろに下がってしまい、崖から落ちた。
「『ハク!!』」
ヨナとカナが叫ぶ。ハクは何とか左手で崖を掴み、宙吊り状態になる。
ーーザシュッ
『うっ』
ハクに気を取られてしまったカナは背中を大きく斬られた。その時カナの髪を留めていた組紐も一緒に斬られ、髪が垂れる。痛みに顔を歪めたが、すぐに周りの兵士たちを斬っていく。
ちっ、…早くハクの所に行きたいのに!姫様のもとにも行きたいし、きりがない!
『どけ!っく』
カナに焦りが生まれる。今までハクの相手をしていた兵士がカナの方に来たことにより戦う人数が増え、攻撃を捌ききれずカナもどんどん傷が増えている。
「よし!下は奈落だ。雷獣を落とせ!!」
ヨナは目の前が暗くなる。
死んじゃう。このままじゃ、このままじゃ、このままじゃ、ハクが、カナが…、ハクが、ハクが、
「姫!お待ち下さいっ」
ヨナはハクを助けようと下に降りようとするが、テジュンがヨナの髪を掴みそれを阻止する。
「あっ、う…」
「いけませんよ、姫。あの男のもとへ行こうなど、あなたは私と共に城へ行くのだ」
『姫様!!』
ヨナはテジュンの腰にあった剣に目を向け、その剣で自分の髪を切った。剣を持ったまま、‘‘殺させない‘‘その一心で崖を滑り下りる。
「高華国屈指の武人、ソン・ハク将軍を討ちとれるなど……。…なんたる名誉」
『やめろ――!!』
とどめを刺そうと剣を振り上げる兵士を止めようとカナが叫びながら走る。
「離れて!!ハクから離れなさい!!」
「姫…」
ヨナが来ることを予想してなかった兵士は少し戸惑う。
「離れなさい!!」
――ブン ブン
兵士に向かってヨナが剣を振る。武器など一度も持ったことないヨナの剣は当たるわけがない。その間にカナはヨナのもとへ来た。
「姫様は大人しく…」
「よせ、姫を傷つけるな!」
「しかし…」
兵士はヨナを斬ろうとするが、テジュンがそれを止める。
「…姫さん」
「ハク!今助けるから、くうっ」
『くうっ』
ヨナとカナは振り返り、ハクの腕を掴んで引き上げようと頑張る。
「馬鹿野郎…、逃げろ。おまえらには無理だ、早く遠くへ…」
「やだ!絶対。ハク、死んだら許さない…!!」
『姫様を…、私を…、置いていくなよ!死ぬなんて許さない!』
ヨナとカナが涙を流しながら言う。
「何をしている、ハクから姫を引き離せ!!」
テジュンが崖を下りながら指示を出す。
『これ以上、この人には指一本触れさせない!』
カナは立ち上がり、剣を構える。
――ガクッ
『姫様、ハク!』
崖が崩れヨナとハクが奈落へと落ちて行く。カナは振り返り、そのまま二人を追うように奈落へ落ちて行った。
――緋龍城
スウォンとテジュンが会っていた。
「やあ、すみません~お待たせしましたテジュン殿。今日はどうされました?」
テジュンの表情が強張ってることに気付いたスウォンは真剣な顔になる。
「大事な…、即位式前日に申し訳ありません。貴方様に……、どうしてもお渡ししたい物があって、参上しました」
テジュンが包みを開けると、そこには紅い髪と組紐があった。
「ヨナ姫が亡くなられました」
テジュンが事の顛末を話す。スウォンの命令は発見次第連絡しろという事だったが、ヨナを追いつめ殺したテジュンは大逆になる。
「そうだ…、私があの方を殺した…。どうか罰を与えて下さい……」
「今日は城でお休み下さい。明日の即位式には出席して下さいますよう」
スウォンはそれだけ言って立ち去る。それに納得のいかないテジュンはスウォンに詰め寄ろうとするが、ケイシュクがそれを止める。スウォンはある程度歩くと止まり、ヨナの髪とカナの組紐を強く握ったのだった。
――谷底
一人の少年がリンゴを食べながら歩いていると、淡いピング色の光があり、不思議に思った少年が近寄る。男が一人、女が二人倒れていた。光は男と紅い髪の女を包み込むように光っていた。
「…めんどくさ、人が死んでる。しかも何、この妙に光ってるの」
『…っう』
「あ、生きてた」
桃色の髪の女が少年の声で少し意識を取り戻す。それと同時に光が消え、髪の色も黒色に戻った。
『…お願い、…します。どうか、ハクを…姫様を…、…助けて…くださぃ…』
そしてまた意識を失ったのだった。
――次の日 緋龍城
スウォンは昔を思い出していた。
「スウォン、いらっしゃい。早く来て!今日はね梨の甘煮があるのよ」
ヨナが部屋の窓から身を乗り出し、スウォンに呼びかける。
「スキあり」
「いてっ」
ヨナの方を向いていたスウォンにハクが大刀の柄の部分をぶつける。
「トロいですよ、スウォン様」
『もっと鍛錬しなくてはいけませんね』
「ハク、カナ。いいなあ、ヨナはハクとカナが従者で」
『スウォン様にもいらっしゃるじゃないですか』
カナは不思議そうに言う。
「私はハクとカナが欲しいんですー」
「じゃ、王になって下さいよ」
ぶーたれた顔で言うスウォンにハクが言う。
「え…」
「ヨナ姫と婚姻を結んで王になって下さいよ」
「ええっ、そんな私がヨナと結婚なんて」
顔を赤らめたスウォンがハクに迫る。
『私たちが欲しいんでしょう?そうすれば、必然的にスウォン様をお守りする事になります』
カナがニヤリと笑いながら言う。
「それは言葉のあやで…」
「ま、どっちにしろ俺は、姫さんと結婚して次期王になるのはスウォン様しか認めねえけど。その時、俺たちは貴方様の右腕となり、滅びの時までお二人の傍らにいてさしあげますよ。ちなみに、三食昼寝付きでよろしく。おトクな物件ですぜ、高華の雷獣だからな」
『もれなく、鳥獣もついてきますよ』
スウォンは笑顔で言うハクとカナに目を少し開き、俯きながら思うのだった。
きっと、私が王になる時、ヨナもハクもカナも私の傍にはいない。
あたたかいこんな日は少しだけ迷う。
「ああ、それは…、幸せな夢ですね。ハク、カナ、ヨナを守って下さいね」
ハクとカナの間に頭を乗せ言うのだった。
――ギィィィ
扉が開く音にスウォンの意識が浮上する。
でも、もう‘‘右腕‘‘はいない。ぬくもりをくれたあの少女も、踏みつけて、切り捨てて、ここまで来た。だから、もう迷いはしない!!
「五部族承認のもと、ここに高華国空の部族第11代目、スウォン新王陛下が即位された」
これは、新しい王が誕生した日の出来事だった。
――谷底
――ピチョン、ピチョン
ヨナは目を覚ます。視界には、オレンジを力いっぱいに絞っている少年の姿が映った。
「あ、起きた。手疲れちゃったよ、食べちゃって」
少年は絞っていたオレンジをヨナの口に突っ込んだ。
「…
「俺はユン。ただの通りすがりの美少年だから、忘れていいよ。あんた達こそ誰?山賊には見えないけど、あの崖から落ちて生きてるなんてしぶといね」
「崖……、そうだ私…」
ヨナは崖から落ちたことを思い出し、起き上がる。
「ハク、カナ…!ハクとカナはどこ!?」
「ハク?カナ?ああ、一緒にいた黒髪の男と女ならあそこに…」
ユンが目で差した場所には全身包帯で寝ているハクとカナがいた。
「ハク、カナ…!」
「生きてるよ、かろうじてね。男の方は体に受けた毒は何とか抜いたけど、胸に刀傷と全身打撲、ろっ骨も何本かイッてる、女の方は全身に刀傷があって、特に背中の傷が結構深く斬れてて、二人とも出血多量であと少し治療が遅かったら死んでたね。たぶん崖から落ちる時、あんたをかばったんだ、女があんたを抱きしめて男がそんな二人を抱きしめるようにして倒れてたもん」
ヨナはハクとカナの怪我の事を聞いて、手を組んで安否を願う。
「そいつらあんたにそんなに尽くして何?男の方は恋人?」
「ううん、全然違う」
ヨナはハクが恋人という言葉に首をぶんぶん横に振って即答した。
「ふぅん……」
ユンは、即答するヨナに何かかわいそうだねとハクを憐れむ。
「ここは谷底?ここに住んでるの?」
「まあね」
「あなたは医術師?私、人を探しているのだけど……」
――どて、どて
ヨナとユンが話していた時、別の誰かが足音を大きく鳴らしてやって来た。
「ユン君っ、ユン君っ。聞いてくれっ、僕の話を聞いてくれっ」
「ちょっと、もう!なんで泥だらけだよ、来ないでくれる?」
ユンはこちらに向かって来た、金髪の後ろに三つ編みをしている男性を足で蹴りながら言う。
「みんなが幸せであるといいなって天に祈りを捧げてたら滑って転んじゃって」
「めんどくさ!あんた、天に見放されたんだよ」
「ガーンッ」
男性はユンの言葉にメソメソしてたが、二人のやりとりを見てたヨナに気付き笑顔になる。
「目を覚まされたんですね!!良かった~~。どもです、僕イクスと申します。ユン君の保護者みたいなものでして」
「私は…」
ヨナはユン達が悪い人達には見えないけど、ここは火の部族の地に近いし…と名を名乗るのを言い淀んでいた。
「ほん…とに…、つらかったですね…」
イクスはポロポロ泣き出した。
「………や、私は何も…。崖はハクとカナが庇ってくれたので」
「いえ、よく旅立ちの決心をされた」
「………………………ん?たびだち?」
ヨナは言われたことが理解できず、目が白黒になっていた。
「ましてや、ヨナ姫ともあろう方が…、ご立派です」
「……………ちょっと、なぜ私の事を知ってるの……」
「それは神様のお告げで…」
そこでイクスはハッとする。
「バカじゃないの?そんなに簡単に喋って隠れ住んでる意味ないじゃん」
ユンがイクスに呆れながら言う。
ヨナは気づいた、このイクスという男性が神官様であることを。
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