1章
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ーー北山
ヨナとハク、カナは休憩をしていた。
「ハク、カナ、何か見えた?」
『いえ、何も見えませんね』
「皆無。あのジジイ、どこにいるのかわからんヤツを探せっつってもな」
「神官?」
「そう、古よりこの高華国の未来を見据えてきた神官様が風の地のどこかにおられるという。姫様がこれからどうすべきか迷っておられるなら神官様のもとへ行きなされ。きっと道を示して下さる」
カナたちが風の都を旅立つ際に、ムンドクが教えてくれたことを思い出す。
「神官ねぇ…」
『昔から神官は王宮の神殿に住まい、国の
「ユホン様が神官を弾圧してからは城から出て、今は人里離れた場所にひっそりと暮らしているんだと」
『人里離れた――ってことでここに来てみたんですが…』
カナが周りを見渡しながら言う。
「まず人が住めそうにないわね」
「まー姫さんが住んだら、即崖から転がり落ちるかもしれんが、何とか住めるだろ」
「えーい、うるさい。だってこんな寒い山で……」
「火の部族の支配する北はもっと瘦せた土地だ。どこの干渉もないこういう場所は案外住み良いかもしれねぇな」
ヨナは思う。私はこの国の姫を名乗っていたのに、知っているのは緋龍城だけ、「知らない」なんて愚かな響きだと
「ところでお姫サマ。この辺をしらみつぶしに探すとなると野宿になるがどーします?」
ハクはソワソワしながら聞く。カナはハクの言いたいことに気付き、クスクス笑いだす。
「野宿?少し慣れたわ」
「城の裏山と違ってここは冷えますよー」
大刀をブンブン振り回しながら聞く。
「その時は、ハクとカナにくるまって寝るから」
しまいには大刀を投げ飛ばした。
『あ、そこはくるまって寝るの私だけじゃないんですね』
ハクの理性持つかなー、…まぁ今何かしようとしても止めるだけなんだけど…。と、何ともないように言ってるヨナに、カナは苦笑いしながらハクに同情するのだった。
「いーけど、いたずらしますよ?」
「いたずら?」
ハクはヨナに近づきニヤリと笑うが、ヨナはキョトンとした顔になる。
「いたずらってのは、こーゆー事とか」
ハクはヨナに抱きつく体制になる。さすがのヨナも、そんなハクに焦る。
「ハク…、ちょっと、何す」
「静かに」
ハクは崖に耳を付け、カナは目を閉じて集中する。
「足音…、50…いや60か」
『うーん…、もう少し多いかも』
ハクとカナが人の影がある方に目を向ける。
「『追手だ(ね)』」
追手が来てることに驚くヨナ。
「もう追う気がねーのかと思ってたけど…」
『気合いの入りようからして、全然そんなことないみたいだね』
ヨナは胸に手をあて、羽織を握る。
「姫様、やっぱくるまって寝るんならもーちょい抱き心地良くないと、いたずらする気も起きないですよ」
「何の話だ、何の!」
ヨナの頭にフードを被せたハクが、ぶんぶん腕を振りながら殴ろうとするヨナから、奇妙な動きで逃げ回る。カナは腕を伸ばしてストレッチしながら二人を追う。
「さてと、準備運動もしましたし働きましょーか」
『姫様、ハクと私から離れないでくださいね』
ヨナを囲うようにハクとカナは立ち、武器を構える。
――カラン
石が転がり落ちる音で火ぶたが切られる。
――ゴオッ
四方八方から兵士が襲いかかりにくるが、ハクはニヤリと笑い大刀を大きく振る。囲んでた兵士がバタバタと倒れていく。
――ダッ
――ザシュッ ザシュッ
カナは倒れた兵士たちを飛び越えて、ひるんでいる兵士たちをある程度斬ったあとにもう一度飛んでハクたちのもとへ戻る。
ヨナはハクとカナが戦ってる姿を見て、昔スウォンが言っていたことを思い出す。
「ハクの技は稲妻みたいで、カナは羽が生えてるように飛びながら綺麗に戦うんです。本気で闘えば私はきっとこてんこてんですよ~」
「やっぱり、あんたらか。火の部族」
テジュンが前へ出る。
「雷獣と鳥獣は健全だな。ソン・ハク将軍、ソン・カナ副将軍。そしてヨナ姫。火の部族カン・テジュン、この時を待ちわびていましたよ」
「見て下さい姫様、自然がいっぱいだ」
『あ、あそこに鳥もいますよ』
「ハク将軍を…ってええ―――――っ」
ハクとヨナ、カナはテジュンの話を無視し、自然を満喫していた。
「なぜ…っ、私が話しかけてる最中に自然を満喫するのだ…っ」
テジュンは少し涙目で言う。
『えっ、何だ私たちに話しかけていたんですね』
ハクとカナは立ち上がり、テジュンに向き合う。
「俺たちは今、将軍や副将軍でも、‘‘ソン‘‘でもないんで。すみませんね、どうも」
「いや、そんなわかってもらえれば良いのだ………って、何!?将軍でも副将軍でもない!?」
テジュンは口をあんぐり開けて驚く。
『はい、私たちはただのさすらいの旅人、ハクとカナです』
「つーわけで、俺たちがこれから何をしても風の部族は何ら関係ございませんので、あしからずカン将軍の次男殿」
話を聞いていたテジュンは少しは冷静になる。
「そういう事か……、でもまあ風の部族はどうでもよい。お前らを殺して…、そこにいるヨナ姫に用があるのでな!!」
テジュンが腰の剣を抜き、掲げたのを合図に矢の雨が降り始めた。
――ブァ
――カン カン
――カラン カラン
――ヒュン
ハクがヨナを左手で抱きしめ、右手で持ってる大刀で矢からヨナを守る。カナはハクの背後で矢をはじき、隙あらば自分からも矢を射て相手に攻撃する。
「休む間を与えるな!ヤツらを止めろ!」
遠距離攻撃から接近戦に移りかわるが、
「ダメです!接近戦は…」
ハクの大刀が敵を近づけさせない。カナは完全にヨナをハクに託し、ハクの大刀に当たらないように動きながら周りの兵たちを斬っていく。
「矢を放て」
――ヒュン ヒュン
「姫さん、太ったな」
「一言多い」
無駄口を叩ける余裕がまだハクたちにはあった。
「走るぞ」
ハクは前にいる兵士を斬りながらヨナを連れて走り、カナは後ろから来る兵士を、ハクたちとあまり距離があかないようにしながら斬っていく。
怖いとヨナは思っていた。四方から矢と兵が押し寄せて、いくらハクとカナでもこんなに……
――フラッ
ヨナは考え事をしていたせいで、石に躓く。そして、標的がヨナになる。
「姫を狙え!」
――ドッ
「ハク!!」
ハクがヨナを庇ったことにより、背中に矢が刺さる。
『っハク!矢抜くね』
駆け寄ったカナがハクの背中に刺さってる矢を抜く。
「ハク!大丈夫!?ハク…」
「は…っ、心配なんてしないで下さいよ。気持ち悪い」
舌を出しながら余裕そうに言うハクだが、汗の量が尋常じゃない。
「お前は…っ」
心配したのに、生意気な事言ったハクに怒りそうになったヨナだが、ハクがそんな事お構いなしに小脇にヨナを抱え、兵士たちを飛び越えて走り出す。カナもハクの後を追うように飛び越えて走っていった。
「すげ…」
「感心するな、追え」
ハクとカナの戦いぶりに、敵ながら感心する者も出てきた。
「隠れて、絶対動かないで下さいよ」
「ハク、お前血が…っ」
「返り血ですよ」
ヨナは自分の手に血がついてることに気付き心配するが、はぐらかされた。
『姫様、必ず戻ってきますので、ここで待っていてくださいね』
カナが微笑みながら言ったあと、ハクと共に走っていく。
ヨナは自分が足手まといにしかなっていないことに悔やんでいた。
「ヨナ姫はどこに消えた?」
ちょうどヨナが隠れていた場所の近くにテジュンが来た。
「ハクとカナがどこかに逃がしたようですね。しかし、二人して戻ってきたということは、ヨナ姫はそう遠くには逃ることはないと思います」
「必ず見つけ出せ!」
ヨナは聞き耳を立てる。
「雷獣も鳥獣も人の子よ、だいぶ疲れがあるようだな。特に鳥獣は女だから雷獣よりも早く力尽きるだろう」
「ハクの方は、先程当てた矢は毒矢です。常人ならばまず動けません。恐ろしい男です」
「何!?それを姫に向けたのか!?」
「向ければハクかカナ、運が良ければどちらも体を張ってでも矢を止めると確信がありましたから」
「じゃあ、次に鳥獣が背中を向けた時を狙え。鳥獣が急に動けなくなれば雷獣にも隙が生まれる、その時にもう一度雷獣に矢を射ればいい」
ハクとカナが殺されると思ったヨナはバッと起き上がり、助けようとするが、ハクとカナの言葉を思い出して考える。
私が出て行ってもかえって足をひっぱる。さっきみたいに。じっとしてた方がいい。息を殺して、大丈夫よ、ハクとカナはあんなに強いんだもの。ハクとカナなら矢くらいよけられる。ここで大人しくしてハクとカナが来るのを待とう。死んだりなんか…
――キリ…
弓を構える音が聞こえた。
ちがう、私はなんのために風牙の都を出たの?ハクとカナに守られて、こそこそ生きるため?それなら風牙の都にいればよかったんだ。これでは、ハクとカナの足枷になるだけ。ハクとカナがいなくなったらどうするの?自分は非力だとあきらめて、このままじっとしているつもり?神に問う前に自分に問うことがあるはずよ
「うわっ」
ヨナは弓を構えていた兵士に突進する。そして、その兵士は崖から落ちて行った。崖の上にいる者はヨナとテジュンだけになった。ヨナは振り返りテジュンを見る。
「ヨ…、ヨナ姫…。まさかそちらから来られるとは…」
テジュンは城を追われて、もっと精気を失ってると思っていたヨナの迫力に怖気づく。
「お話をしたいと思っていたのですよ。そんなに警戒しないで、私は貴方に危害は加えたりしません。私は貴方を迎えに来たのです」
「迎え…」
「明朝にはスウォン様が新王に即位なさいます」
テジュンの言葉にヨナは目を細める。
「お可哀そうに、姫様。陛下を亡くされ城を追われるなど身を切られる思いでしょう。貴方が私と来てこの件を公表すれば、貴方を追い出した憎きスウォンを玉座から引きずり降ろし、陛下の仇を討つ事が出来ます。ですから姫、私と…」
「…そこまで知っていて…、火の部族はなぜ風の部族に圧力をかけたの…?」
「えっ…、いや、あれは…っ、父上の指示で私の意志では…」
テジュンは話せばこちらに来ると思っていたヨナに、予期せぬ質問をされ戸惑う。
「なぜ商団まで襲ったの?真実を知っているのなら、風の部族を追いつめる前に、罪のないハクやカナを殺す前に、お前のすべき事があるはずだ!!」
テジュンは、ヨナの燃えるような瞳になぜか目がそらせなかった。
「私は何も知らない姫だが、道理もわからぬ者の言葉に耳を貸す程、落ちぶれてはいない!!」
ヨナの紅い髪が言葉とともに風に靡くのだった。