1章
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ヨナは自分にあてがわれた部屋で膝を抱えて座っていた。
何も考えたくなかった。でも、生きてる限りその存在を感じずにはいられない。スウォンが即位する、そして風以外の部族はそれを認めた…。風の部族はどうなるの…?と、顔をうずめて考えていた。
「リナ!」
「え」
ヨナに声を掛けたテヨンにヨナは驚いて顔を上げる。
「どーした?お腹すいた?ご飯だぞ」
「でも、水が不足してるのに私にばかり」
「だいじょうぶ!リナを太らせてこいってハク兄ちゃんが。それにー、お客様にはたんまりおもてなしして、銭もらうのが風の流儀ーー…」
ーーバターン
テヨンはハクのみの流儀を鵜呑みにして口に出すが、話してる最中にふらついて倒れてしまった。
「テヨン!?」
「どうした!?」
ヨナの声を聞きつけてハクとカナ、ムンドクが部屋に入ってくる。
「テヨンが急に倒れて…」
「発作じゃ。テヨンは昔から肺が悪くて、時折呼吸マヒを起こすんじゃ。なに、薬を飲めばすぐ…」
「それが、今日薬を届けてくれるはずの商団がまだ来ねェんだ」
「大変だ!!」
テヨンの薬のことを話してると、里の人が部屋に入ってくる。
「商団がここに来る途中何者かに襲われた!!」
『そんな…、商談の皆は?』
「わからないです。大けがをしているようですが、商品は全滅らしいです」
『じゃあ、水を入手する手段は絶たれたという事か…』
カナは顎に手を置いて難しい顔をする。
「薬は…っ、テヨンの薬は…っ」
ヨナはテヨンを抱え、泣きそうになりながら聞く。
「……っ、くそ…」
「火の部族のヤツらだ」
「ナメやがって、もう許さん!」
「若長、何黙ってんだよ!」
「カナ様、何とか言ってください!」
「らしくないですよ!長老っ」
火の部族の行いに、とうとう堪忍袋の緒が切れた風の部族の人たちはハクたちに指示を仰ぐ。ヨナは、ゼェゼェ苦しそうに息を吸ってるテヨンを見て、もう誰かが死ぬ所を見たくないと涙をこぼしテヨンを抱きしめる。
ーーぽむ
そんなヨナの頭を撫でたのは、包帯だらけのヘンデだった。
「ヘンデ、お前…」
「血の気の多いバカ共落ち付けー」
「お前が一番先に特攻したんじゃねーか」
テウがヘンデにツッコむ。
「大事な事から考えよー。とりあえず、急を要するのはテヨンの薬。俺、薬持ってる東森の医術師のとこまで行ってくるわ」
「あんな所までそのケガでか?」
「俺、風邪の部族一早く馬を駆れるもんー。ねっ、いいでしょ若長」
「…薬代値切れよ」
ヘンデの言葉にハクはニヤリと答える。
「ヘンデにお任せっ。でわ~」
「速っ」
『ヘンデ、気を付けて行ってきなさい!』
「無茶しやがって」
ヘンデは走って馬を取りに行き、カナとテウはヘンデに声を掛ける。
「…てめぇら、聞け」
今まで黙っていたハクが口を開く。
「お前らの怒りはわかるが、火の部族は相当な兵力を持っている。今、戦争すんのは許さねぇ。この件は俺らが必ず何とかする。川が止められたからって、すぐに乾涸びる俺らじゃなし、俺らに命預けたと思って黙って待ってろ。風の部族長、ソン・ハクの命令だ」
ハクが腰に手を置き、皆に言う。
「…聞いた?」
「若長が‘‘命令だ‘‘なんて」
「あの、めんどくさがって将軍嫌がってたハク様が」
「かっけ――♡」
「ハク様ー、シビレルー、抱いてー」
と、風の部族の人たちは盛り上がる。
『…その俺らって、私も入ってるでしょ?』
ハクの顔を覗くようにカナが聞く。
「当たり前だ。でか、そう言わないとお前が怒るだろ」
『当然!ハクだけに頼るものですか!』
ハクの答えにカナはニヤリと笑って言う。
ヨナは「水がなければ、酒を飲めばいいじゃなーい」と笑ってる風の部族の人たちを見て、ほっとする。
「少し持ち直したな」
「ハク…。あの……、私に何か出来る事……ない?」
ヨナは強いまなざしでハクを見据える。
「……そーだな。女官殿はもーちっと色気を気につけるこったな」
「な……」
『ちょっ』
「こいつらを見ろ、あんたと同じ年のこいつや、あんたと二歳しか変わらないカナもあっちこっち違うだろ?」
ハクはヨナと同い年の女の子とカナを引き寄せ、ヨナに言う。
「ハクお前、私がマジメな話を……」
ハクはヨナの頬を引っ張る。
「いーんだよ、あんたは
『姫様は難しい事を考えなくていいんですよ』
カナはさりげなくハクの手をはたき、ヨナに笑顔で言う。
――夜
「失礼、長老様」
『一杯、どうですか?』
ハクとカナはムンドクの部屋へお酒を持って訪れた。
「珍しいな、ハクがワシにこんな良い酒を」
「いや、これはジジイ秘蔵の酒蔵から」
ムンドクはハクの言葉を聞き、酒を吹く。カナは「これ使って」とムンドクにタオルを渡す。
「……で、何の用じゃ」
「…ちょっと、考え事。じっちゃんがたった独りなら槍一つ掲げて城に乗り込んだんだろーって」
「小僧が…。人の事言えるのか」
『確かに、言えてる』
カナがムンドクの言葉に微笑む。
「老体に色々しょいこみ過ぎだろジジイ」
「フン」
『無理しないで、おじいちゃん』
ハクがおちょこを置き、カナもそれに倣う。そして二人は真剣な顔をムンドクに向ける。
「……頼みがある。スウォンの新王即位を承認してくれ。俺らは明朝、風邪の部族を去る。あんたに‘‘ソン‘‘の名をお返しする」
『おじいちゃんは風邪の部族を守る事だけ考えてほしい。承認すれば、火の部族も手出しはしない』
話を聞いていたムンドクは目を開く。
「……賞金首にでもされるかもしれんぞ」
「いいねぇ。高華一の悪党にでもなるか」
「…姫様は、置いてゆく気か?」
『…やっと少し、笑えるようになってきたの。連れてきてよかった思ってる』
「頼みはもう一つ。ヨナ姫を城から隠し、一生この風牙の都で風の部族の人間として生かしてやってくれ」
『お願いします』
ハクとカナは頭を下げてお願いする。
「嫌ぢゃ」
ムンドクの言葉に二人ともガクリとなる。
「ジジイ…」
「孫のお願いなんざワシは聞かん。ワシはお前らを手放したりせんぞ。部族長の命なら従わん訳にもいかんが…」
ムンドクは顔を背けながら言う。
「風の部族長、ソン・ハクの最後の命令だ」
「御意」
ハクの言葉に涙を流しながらムンドクは了承する。
『…ありがとう、おじいちゃん。私たちにソンの名前を与えてくれて…、本当の孫のように育ててくれて…。こんな私を大切に思ってくれて…、私はとても嬉しかったです。どうか、お身体に気を付けて」
カナもまた、涙を流していた。ムンドクはカナを優しく抱きしめ、ハクはカナが泣き止むまで頭を撫でるのであった。
――ガシャガシャ
「あー、もっと小振りなのがいいんだよなー」
『これなんかどう?』
「お、それいいな」
ハクとカナは旅に出るため、武器の調達を武器屋から漁っていた。
「あっ、ちょハク様!カナ様!何やってんのこんな夜中にウチの商品を」
「悪ィ、オヤジ」
『起こしちゃって、ごめんね。おじさん」
「いや、そうじゃなくて、戸壊れてるし」
ハクとカナは当然鍵を持ってるわけがないので、戸を壊して武器屋に入っていた。
「小振りの剣が欲しい」
『あと弓も欲しいな』
「狩りにでも行かれるんで?」
「…そうだな、行ってくる。長旅になるかもしれないが」
『お邪魔しました。これ、代金です』
カナは銭が入ってる巾着をおじさんに渡す。
「えっ、カナ様だけならまだしも、ハク様がお代を!?いつもはじっちゃんにツケとけとか言うのに」
「オヤジ、世話になったな。長生きしろよ」
『おじさん、行ってきます!」
カナは小さく手を振りながら、ハクと共に武器屋をあとにした。
「…なんか、しんみりしてきたぞ。バカ雷獣にやんちゃ鳥獣。なんだってんだ」
おじさんは腑に落ちない顔をしてハクとカナを見送ったのであった。
「…お前、ホントにこのまま俺についてくる気か」
ハクが前を向きながらカナに聞く。ハクの方に顔を向けたカナだが、すぐに前を向いて答えた。
『ハクの隣には私がいて、私の隣にはハクがいる…。昔からずっとそうだったんだ、これから先もそれは変わらない。姫様を守ることは放棄してしまうけど、ここにいれば安全に暮らせる。なら、ハクを一人にしない…、それが私のしたいこと』
ハクの前に出て、カナの赤い眼がハクを見る。
『だから、私はハクと一緒にどこまでも行くよ』
ハクは目を開いたあと、フッと笑う。
「ではお願いしようかね、鳥獣殿」
『はい、雷獣殿』
二人して笑いながら、最後にテヨンのもとへ行くのだった。
『テヨン』
カナの言葉にテヨンがこちらを振り向く。
「ハク兄ちゃん、カナ姉ちゃん!」
「薬が効いたみたいだな」
「もう、行くのか?」
テヨンは悲しい顔をしてハクとカナに聞く。
「あぁ…、テヨン、リナのこと守ってくんねぇか。頼んだぞ」
ハクはテヨンの頭を撫でる。
『テヨン、これ覚えてる?』
カナは服の下にしまってるネックレスを出し、羽の飾りをテヨンに見せる。
「…これ、俺とおんなじ羽?」
『そう、テヨンと同じの。これ私のお守りなんだよ。これを見てテヨンをいつも思い出す。だからさ、テヨンも羽を見て私たちを思い出して』
カナはネックレスをしまい、テヨンを抱きしめる。
『体調に気をつけて…。リナをお願い。元気でね、行ってきます』
カナはテヨンを離し、最後に頭を撫でてからハクと門へ向かう。テヨンは涙を流しながら二人を見送るのだった。