pure drink
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「戻りました」
お行儀の悪いこと。
窓から帰還した彼を見てぼんやりと思う。
行動を共にしてしばらく経つが、ハッカーがドアから出入りするところなんて数えるほどしか見たことがなく、大抵がドローンに乗って窓を玄関代わりにしていた。
「おかえり〜〜。お土産買ってきてくれた?」
「仕方なしですけど」
ハッカーからポイッと投げられたそれをうまくキャッチする。
これこれ、やっぱわかってくれてる。
「愛しのひやしあめちゃーん!ありがとね!」
「ええ、どういたしまして」
缶の封を切るとフワッと甘い香りが鼻に抜けた。
キンと冷えたそれを喉に流し込む。
生姜の独特の風味がクセになっちゃう。
「それにしてもカノンは本当にいつも幸せそうに飲みますね」
訝しげな声。じっとりとした視線をハッカーから感じた。
「だっておいしいんだもん。ハッカーだってそのゼリーばっか食べてんじゃん」
「時間は有限ですから」
「可愛くない……」
つまらない解答に口を尖らせる。
そういえばハッカーがinゼリー以外のものを口にしてるのって見たことがないかも……。
水くらいかな。
ーーそうだ。
「ねねね、これちょっと一口飲んでみなよ」
彼に近付いてずいっと手に持った缶を差し出した。
ハッカーはというと突然の私の行動に目を点にしていた。
「……いいです。僕そういうの興味ないんで」
驚き混じった声で言うと、ぷいとそっぽを向いてしまった。
あれ、機嫌損ねちゃったかな。
「じゃあさ、代わりにハッカーのもひと口ちょうだい。味見し合おうよ!」
「あなた正気ですか?」
「えー」
こちらに目も合わせようとしない。
「そんなに嫌ならもういいよう」
「…………別に嫌ってわけじゃ……」
ごにょごにょと不満そうに呟く声が聞こえた気がした。
まあ嫌じゃないって聞き取れたし?交換こしていいってことかな?
「ならもーらいっ」
隙を見てその手からゼリーのパックを奪う。
ふむふむバナナ味か……。生のバナナなんて高級品食べたことはないけれど、人口品なら口にしたことがある。
封の開いたそれを口に運んだ。
「あ、あっま……!!」
冷やしあめなんて比じゃないほど甘かった。
そして美味しい。トロリとした食感も相まってなるほどこれはお腹が満たされそうだ。
「初めて飲んだけどこんな感じなんだぁ……思ってたよりずっと美味しいねこれ。
ハッカーがヘビロテするわけだよ」
ごちそうさま、と少し中身の減ったそれを彼に返した。
返した……いや、返せない。
「ハッカー?」
パックを差し出すも、動かない彼は受け取ってくれなかった。
「おーい」
帽子の鍔が邪魔をして彼の表情を全く読み取れない。
仕方なく下から顔を覗き込む。
「カノン……あなたって人は……」
そこには目を泳がせて顔を紅潮させる彼がいた。
ん?なんだこれ。なんでこんなことに……。
クエスチョンを浮かべる私に突然視線の照準を合わされた。
「……僕も貰います」
言うが早いか私の手から冷やしあめを奪うとぐっと、一気に、
「あーーーーー!!」
飲み干された。
「酷いよー!全部飲んでいいなんて言ってないのにー!」
すっかり空になった缶を渡される。
うう、まだ半分も飲んでなかったのに……。
「僕の純情を弄んだ代金です」
「え?なんてーー」
咄嗟の呟きを聞き取れず、
「……僕のゼリー返してもらいますって言いました」
気がつくと手に持っていたハッカーのゼリーが彼の元に帰り、私の手元には冷やしあめだった物だけが残った。
「く……割に合わない……。私にもそれ寄越しなさいよ……!」
「な……嫌です。自分で買ってきたらいいでしょう!?カノンは指名手配もされてないんですから!」
「うるさいうるさい!ハッカーが買ってきてくれたのが飲みたかったのー!」
この後、ゴネる私にやれやれと彼が折れて、再び買い物に走ってくれるまでそう時間は掛からなかった。
end.
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