隣人
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隣人を愛せよ。
何の言葉だったか記憶を掠める。
今隣にいる人間を大切にしなさいという意味なのか。
大昔に流行った言葉だが、僕には未だに分かりかねる。
無防備にも口を開けたまま僕に寄りかかって寝息を立てている女性。
最初はお構いなしにキーボードを叩いていたが、音を出すたびにむーむーと唸るので触るのをやめた。
「全く何もできやしない」
カノンの顔をじっと観察する。
顔を緩めてたまにむにゃむにゃと食べ物の名前を呟いているのを見ると、相当幸せそうな夢を見ているらしい。
起きたらどこか連れて行こうか、なんて柄にもないことを考える。
(まつ毛が長い……)
思わず触れそうになって手を止めた。
「……ん…………」
「あ……」
「あれ、ハッカー?」
じっと見つめていたせいか、目を覚ましたカノンとパチリと目が合った。
突然のことに一瞬怯んでしまう。
「わぁ……さっきねえ、ハッカーとおいしいもの沢山食べる夢見たんだぁ。ふふ、いっぱいご馳走あるのにハッカーったらゼリーばっか食べてるんだよ」
寝ぼけているのか、へらへらと笑いながら夢の世界の出来事を嬉しそうに話すカノン。
「へぇ……夢の中の僕と随分とお楽しみだったようで」
もやっとする気持ちが皮肉となって口をついた。
子供っぽすぎて自分でも嫌になる。
「ジェラシー感じてるんだー?かーわいい」
機嫌良く更に僕に密着するカノン。
むっとする僕。
「なら、責任をとってもらいましょう」
「へ?……ひゃっ!」
突然立ち上がった僕にカノンがバランスを崩して倒れ込んだ。
呆けている彼女の手を掴んで引っ張り上げる。
「さあ、これから現実の僕とも贅沢してもらいますよ。現金も……そうですね、今日中に使い切れない程度に持っていきましょうか」
「えっ、え!?」
「カノンの言う通りジェラシー、感じちゃったもので。責任とってフォローしてください」
にっこりと笑いかける僕とは対照的に青ざめていくカノン。
「きょ、今日はーー」
「まさか行かないだなんて言いませんよね?
ええと、確か……たい焼き、寿司、パフェ、焼肉、クレープ、たこ焼き……」
寝言で呟いていた言葉を並べていく。
「う、うう……頭が……いや、お腹が……」
「さあ、行きましょう」
ゴネるカノンを無視して手を引いて歩いた。
この僕にもその嬉しそうな顔を見せてくれないとフェアじゃないじゃないか。
隣人を愛せの意味は未だ思い出せないが、僕にとっての隣人はカノンだけで十分だと一人納得した。
end.
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