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外に出る気になれないほどの土砂降りの雨。
最近は天気予報も当てにならない、スコールのようなにわか雨の日が続いている。
元々外に出る予定の少ない僕には関係のないことだが。
どうやら彼女は違ったらしい。
「ハッカー、ちょっとだけ雨宿りさせて……」
全身ずぶ濡れのカノンが僕の部屋へとやってきた。
全身から滴り落ちる水滴。捨てられた子猫のようなその姿に一瞬情けをかけそうになるが、
「濡れたまま入らないでください。電子機器が多い部屋なので」
「ううぅ……」
そのまま入ろうとした彼女にすんでのところでストップをかけた。
僕の多くない荷物の中から一番大きなタオルを取り出してカノンの頭から被せてワシワシと拭いてやる。
「流石にその状態で入られると困ります」
「ごめん……ありがとぉ」
うなだれる彼女をよそに、タオルを預けた僕は着替えになりそうなものを探した。
「ほら、拭けたらこれに着替えて。別の部屋にいるので終わったら声掛けてください」
「ハイ……」
見たことがないほどしょんぼりと覇気のないカノン。
これはこれで面白いが、少し可哀想な気もする。
姿が見えなくなった途端に心配になってきた。
「大丈夫ですかー」
しばらくして言葉を投げると、
「うん、ごめんね。お待たせしちゃって」
扉が開き、バツの悪そうにはにかんだカノンが姿を現した。
正直小柄な僕の服は彼女にとってもそんなに大きくはなかったようで、少し肩と袖が余っている程度に見えた。
まだ少し髪が湿っている。
「すみませんね、ドライヤーみたいに気の利いたものがなくて」
「イエイエ……とっても助かりました」
初夏とはいえ濡れると冷えるようで、小さく肩を震わせるカノンの姿を見てどうにかできないかと思案するも、自分の着ている上着を羽織らせるくらいしか思いつかない。
日頃ベッドで寝ることはほとんどなく、今の部屋ではソファに横になって休んでいるこの場所に、毛布などあるはずもなかった。
「何か温かいものでも買ってきましょうか」
「さ、流石にそこまでお世話になれないから!」
頭と手をブンブンと横に振るカノン。
どうしたものか、と、僕愛用の丸いドローンが目に留まった。
「取り敢えずこれ」
起動させて発熱させる。じんわりと温かくなったそれをカノンに渡して手を引いた。
上着を脱いでソファに腰掛ける。
「じゃ、ここどうぞ」
足を開いて間に座るよう促すも、
「ここ……って、なっ……ムリムリムリ!!」
何を気にしてるんだか。
先程よりも激しく頭を振る彼女の姿に少しむっとなった。
「あーーー、もう!面倒くさいなあ」
立ち上がった僕はそのままカノンの体に腕を回し、再びストン、と今度は彼女と一緒に座った。
僕の前で背中を向けて座る彼女の前から上着をかけてやる。
「うぇ……あ……恥ずかしいんだけど……」
「我儘言わないでください」
触れてみて初めて分かったがカノンの身体は相当に冷えていた。
少しでも温まるようにと腕に力が入る。
「取り敢えずあなたの震えが落ち着くまではこうしましょう」
「別の意味で震えてくるんですけど……」
「…………何か言いました?」
「イエ、なんでもございません」
しばらく止みそうにない雨音を聴いていると、彼女の方から静かに寝息が聞こえてきた。どうやら眠ったらしい。
僕もそっと目を閉じた。
目覚める頃には雨も上がっているだろう。
end.
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