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いつかとはいつなのか

 昔々、あるところに一人の人間がいました。その人間はとても怠惰でした。自分が黙ることで物が円滑に進む事があると物心がつく頃に理解していました。自分の意見を押し通すことを面倒だと感じました。幼い頃はそれで生活が出来ました。大人しく優しく真面目な良い子だと褒められました。しかし少し成長した人間はそれを快く思わない人種がいることも理解し始めました。面倒ごとを避けるためそういう人種には余計に親切にしました。「動機がわからない」と気持ち悪がられましたが少なくとも危害を加えられることは無かったので、人間はその状態で放置しました。「害はないのだから利用するだけしておけばいいのに」とそういう人種を少しだけ哀れみもしました。人間は怠惰に加え傲慢になりました。

 人間はさらに成長しました。人間は成長に罪を覚える変な生き物でした。人間は齢十五にして成長を本格的に拒みだしました。肉体の成長は仕方なくとも、精神の成長ならば多少は意識して抑えられるだろうと考えました。人間は思春期とは思えない悲観と達観に塗れた己の精神に満足してしまっていたのです。下手に上を目指さなければ落ちて痛い目を見ることもないと、老衰しかけた精神は保守に走り出しました。客観的に見れば高二病でしょうか。こうして人間は考えることをやめました。

 途中までは上手くいきました。数多の特に関係のない子供の将来を考えなければいけない教師という人種のおかげです。
「こういう道を目指すのが良いと思います」
「そうですね」
人間は大人しく真面目な生徒として捉えられていたので、会議にかけられることもなく何も頑張っていない数字を元に何の変哲も刺激もない自称新学校へ進みました。そこは虚無でした。正直今書くことにすら悩むレベルです。一人で静かに過ごしたかったのに、一人でいることを恥ずかしく思うような人種が集まってきて特に興味のない話を延々と続けられて苛立っていた記憶はあります。最後の半年に至っては朝起きて行きたくないとすすり泣いては引きずりだされていました。そこにいた教師という人種はまぁ庭に佇む岩のような人物でした。自分の担当科目はほぼ毎回赤点をとられても何も言わない人物でした。人間はいつも通り何も頑張っていない学力通りの学校を提示しました。当然反対意見は出ませんしもちろん合格です。何も考えていない人間が試験会場で精神的動揺をするわけがないのですから。人間は卒業式が終わり次第家に帰りました。歩きながらLINEのグループも連絡先もすべて消しました。解放された気がしていました。

 その反動からか、人間は入った短期大学という名の就職専門学校で本当にいい子になっていました。最高にハイってやつでした。一年は持ったでしょうか。いざ就職活動本番になると、人間が何も考えていない虚無だということを見抜かれていたのでしょうか。ことごとく落ちました。落ちました。動機を、長所を、絞り出すことがとても苦しくなりました。そしてハイになっていたものは地に落ちめり込み大学に行けなくなりました。
 
 人間は再び虚無になり今は何もしていません。時々虚無に耐え切れず文章にも満たない何かを吐き出しては読み返すこともなくネットの海に投げたり投げなかったりしています。

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