7年目の人倫
現在中学二年生のあたしたちは、7年後には20歳をこえ、大人の仲間入りをする。
「山本さあ、20歳の自分ってどんな感じだと思う?」
「ん?どーしたんだいきなり?」
「今朝部屋の引き出しあさってたら、10歳の時にやった“二分の一成人式”のときの手紙が出てきたから、ちょっと読んでたんだけど」
「だから今日家出るの遅かったのな」
「ちゃんと朝練には間に合ったっての!」
野球部の山本は毎日朝練のために朝早くから学校へ来るのだが、
その道中で同じく朝練に向かうあたしとよく一緒になるのだ。
しかし、今朝はあたしが家を出るのが遅かったので、会わなかった。そのことを言っているのである。
あたしの抗議に「さすが##NAME1##だな!」と爽やかな笑顔で返してくるこの男には、
嫌味や皮肉などを言っても、軽やかに、鮮やかにかわされるのだろう。
クラスの人気者で頼りがいのある男前のくせに、天然記念物かと思うくらいの天然気質の持ち主なのだ。
「20歳って言えば、早生まれなら7年後だけど、オレだと6年後だなー。
オレどうしてるんだろうな!」
「聞いといてなんだけど、山本は何かしらの形で野球続けてそう」
「んー、確かに野球はやりてーかな!」
あれ。
将来の夢はプロ野球選手だって前言ってたから、もっとはっきりとした物言いでもいいだろうに。
山本にしてはなんだか煮え切らない印象を受ける言い方だ。
そういえば前に、よくつるんでいる沢田くんたちと一緒に“マフィアごっこ”をしていると言っていた。
この年になってごっこ遊びはどうかと思い、聞いた当初は呆れた返事しかしていなかったが、ここにきてどうも引っかかる。
まさか、何か関係があるんじゃ……
怪訝そうにするあたしの視線を受けた山本だが、得意の笑顔でにかっと笑って済ませてしまう。
その笑顔の奥に秘めた気持ちの変化を、あたしがくみ取れるはずもない。
「##NAME1##は隣町の大学目指してるんだったよな」
「うん。家から近いし、レベルもそこそこだから。まあその前に、いい高校受からないといけないんだけどねー。
希望通りの進路なら、20歳のあたしは華の女子大生で、日々勉学とバイトに追われながら過ごしてるのかも」
ここまで言って、ふと考える。
その時、山本はどうしているのだろう。
同じ時間帯に歩けばよく一緒になる朝の道のりも、この何気ない会話のできる帰り道も、7年後には存在しないのだ。
自分で提示した話題だったのに、考えれば考えるほど、暗い思考に陥っていくのがわかる。
光陰矢のごとし。
今の一瞬一瞬の時間を大切に生きろという言葉が、今のあたしには重くのしかかってくる。
「山本ォー。進む道は違っても、たまにはおしゃべりしてよ~。あたしと仲良くしてよ~!」
「またいきなりなのなー」
「だってさあ、同じ町内に住んでても、生活圏が変わるだけで顔を合わせなくなってくんだよ?
近くにいるのになんだか遠いみたいで、悲しーじゃん。
だから、どうなってるか分からない未来のために、今のうちに約束してほしいんだよ」
「まー確かに、未来はどうなってるかわからねーもんな」
頭の後ろで手を組んだ山本が空を見上げて、つぶやく。
そのまま考え込んでいるような風情で歩いていたのが、ふと足を止めた。
隣を歩いていたあたしもつられて歩みをとめる。
立ち止まったあたしを、背の高い山本が夕日をバックにして見下ろした。
精悍な顔立ちが、夕焼けに映えている。
「でもさ…未来はどうなってるか、わからねーんだぜ?」
あたしに語りかける山本の表情はやさしげだ。
だがまっすぐあたしを見据えるその瞳に強い力が宿っているのを感じる。
同じ台詞なのに、込められたものがまるで違う。
胸の奥が、ぞくりとした。
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7周年ありがとうございます!
時期的には黒曜編の前あたり?という感じです。
中学一年生にすれば7年後きれいに20歳になってくれたんですが、一年生の時期だとまだ山本氏はツナのファミリーの一員だっていう意識が弱いかなー、と思い、泣く泣く中学二年生に。
ちょっと7年要素が少ないお話になってしまいました。
・人倫…人と人との間柄・秩序関係。君臣・夫子・夫婦などの間の秩序。
本作品では単純に「人と人との間柄」という意味合いを込めて、“人倫”という言葉を使っています
15/02/18 春樹