好きな人を引き当てて!
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休日の稲妻町。平日よりも人通りの少ない商店街を、奏音は剣城と並んで歩いていた。
「京ちゃん、今日はどこに行くの?」
「特に決めてない。お前は?」
「んー……お散歩!」
「……それ、いつもと同じだろ」
「えへへぇ〜♪京ちゃんと一緒なら、どこを歩いても楽しいもん!」
あっけらかんと笑う奏音に、剣城は小さく息を吐いた。呆れているようにも見えるけれど、その表情はどこか柔らかい。
そんな他愛のない会話を交わしながら、二人は商店街を歩いていた。ふと、奏音の目に色鮮やかな看板が飛び込んできた。
「あっ、京ちゃん! あそこ、おもちゃ屋さんがあるよ!」
指差した先には、昔ながらのおもちゃ屋があった。店先には色とりどりのおもちゃが並び、ガラス越しの棚には、カードゲームやプラモデルがぎっしりと詰まっている。
「ちょっと見ていこうよ!」
奏音が期待に満ちた目で見上げると、剣城は店先に並ぶおもちゃに目を向けた。
「……たまには寄るか」
「ほんと? じゃあ、行こう!」
ぱっと顔を輝かせた奏音に、剣城は小さく口元を緩めた。弾む足取りで店の扉を開ける。からん、と軽やかなベルの音が鳴った。
店内には、色とりどりのおもちゃが所狭しと並んでいた。どこか懐かしい雰囲気に、奏音はあちこちの棚を覗き込む。
「京ちゃん、何か探してるの?」
「別に」
そう答えながらも、彼の視線はとあるコーナーに釘付けになっていた。
「あっ、カードゲーム!」
トレーディングカードの棚だった。ずらりと並ぶパックを前に、剣城の視線が一つの新商品に吸い寄せられた。
「……新しいパック、出てたのか」
「ふふっ。京ちゃん、カードゲーム好きだもんね」
「悪いかよ」
「ううん! 京ちゃん、好きなものの前だと楽しそうだなって思って」
「……そうかよ」
剣城はそっぽを向いた。けれど、耳がほんのり赤くなっているのを、奏音は見逃さなかった。しばらく棚を眺めたあと、剣城は目当てのパックを手に取った。
「これ、買ってくる」
「私もやってみたい!」
「お前、ルール分かるのか?」
「ううん!」
「……じゃあ、なんで」
「京ちゃんと一緒に開けてみたいんだもん!」
あまりにも迷いのない返事に、剣城は一瞬言葉を失った。やがて、呆れたように息をつく。
「……好きにしろ」
「やったあ!」
結局、奏音も同じパックをひとつ購入した。店を出ると、二人は近くの公園へ向かった。木陰のベンチに並んで腰を下ろし、さっそくパックを開封することにする。
「じゃあ、せーので開けよう!」
「ああ、いいぞ」
「せーのっ!」
ぱり、と袋が破れる音が重なった。
奏音はカードを一枚ずつ取り出しながら、興味津々で絵柄を眺めていく。どのカードもイラストが綺麗で、見ているだけで楽しかった。
その隣では、剣城が真剣な顔でカードを確認していた。カードをめくっていた剣城の指が、ある一枚の上で止まる。
「京ちゃん?」
覗き込んだ奏音は、剣城の手元にあるカードを見て、ぱっと顔を輝かせた。
「わあっ! 豪炎寺さんだ!」
そこに描かれていたのは、炎を背負うように立つ一人のサッカー選手。しかも、カードのイラストは必殺技を繰り出す直前の姿。力強い眼差しも、躍動感のある構図も、実に格好いい。
「すごいね、京ちゃん!」
「……ああ」
返事は短かった。けれど、剣城の視線はカードに釘付けになっている。いつもは感情を表に出すことの少ない彼の口元が、ほんのわずかに緩んでいた。
「……これ、いいな」
ぽつりと呟き、カードの絵柄をじっくりと眺める。折れないように気をつけながら扱う指先には、隠しきれない愛着が滲んでいた。
(京ちゃん、こんなに嬉しそうな顔するんだ!)
奏音は、思わず頬を緩めた。豪炎寺への憧れは、奏音もよく知っている。
幼い頃の剣城は、豪炎寺の必殺技を真似して、何度もシュートを打っていた。夢中になってボールを蹴る横顔を、奏音は今でも覚えている。そんな彼にとって、豪炎寺はずっと特別な存在なのだ。
だからこそ、普段は表に出さない喜びが、その横顔に滲んでいるのが嬉しかった。
「ふふっ」
「……何笑ってんだ」
「ううん。京ちゃん、嬉しそうだなあって」
「……別に、普通だろ」
「そうかなあ?」
「そうだ」
きっぱりと言い切る剣城。けれど、カードをしまおうとする手つきは、やっぱりどこか浮き立っていた。
「大切にするんだね」
「当たり前だろ。豪炎寺さんのカードだぞ」
あまりにも真面目な顔で言うものだから、奏音はとうとう吹き出してしまった。
「あははっ、うん! そうだよね!」
「……お前な」
呆れたように眉を寄せる剣城だったが、カードを手放す気配はない。そんな彼を微笑ましく見つめながら、奏音も自分のカードへと視線を落とした。残りのカードをめくっていくと、最後の一枚が目に留まる。
「あっ……!」
思わず声が弾んだ。そこに描かれていたのは、若き日の円堂守。
今よりもずっと幼い顔立ちをしているけれど、真っ直ぐな瞳と、見る人まで元気にしてしまうような笑顔は変わらない。
「わああっ! 円堂監督だ!」
奏音はカードを両手で持ち、思わず身を乗り出した。
「見て、京ちゃん! 若い頃の円堂監督だよ! すごい! こんなカードもあるんだね!」
「……本当だな」
「ふふっ、可愛い! 今の監督も素敵だけど、この頃の監督もいいなあ。なんだか初々しいね!」
カードを眺めながら、奏音はすっかり夢中になっていた。
円堂は雷門中の監督であり、奏音が尊敬してやまない人だ。今よりも幼いその姿は、どこか初々しい。今の円堂へとつながる過去を覗き見たようで、奏音の胸は弾んだ。
「……よかったな」
隣から声がした。顔を上げると、剣城がこちらを見ていた。
「うん! すごくすごく嬉しいよ!」
奏音は満面の笑みで頷く。
「京ちゃんも、豪炎寺さんのカードが引けてよかったね!」
「ああ」
今度の返事には、先ほどよりもはっきりと喜びが滲んでいた。二人はそれぞれのカードを手に、しばらく夢中になって眺めていた。やがて、奏音がふと思いついたように顔を上げる。
「ねえ、京ちゃん」
「なんだ?」
「今日のお出かけ、大成功だね!」
「……カードを買っただけだろ」
「でも、京ちゃんは大好きな豪炎寺さんのカードを引けたし、私は円堂監督のカードを引けたんだよ? すっごくいい日じゃない?」
奏音はカードを胸元に抱きしめた。
「好きな人のことって、見てるだけで嬉しくなるでしょ? このカードを見るたびに、今日のことを思い出せるんだろうなあって思うの」
そう言って、彼女は柔らかく微笑んだ。
剣城は手元のカードに視線を落とした。確かに、そうかもしれない。豪炎寺の姿を見るたびに、今日のことを思い出すのだろう。
偶然見つけたおもちゃ屋、隣で楽しそうに笑っていた奏音。そして、思いがけず手に入れた大切な一枚。たったそれだけのことなのに、不思議と心に残る。
「……まあ、悪くないな」
「でしょ?」
奏音が嬉しそうに笑う。その笑顔を見ていると、剣城の口元にも自然と笑みが浮かんだ。やがて二人はカードを大切にしまい、再び並んで歩き出した。
「ねえねえ、京ちゃん! 今度はほかのパックも見てみたいな!」
「またかよ」
「だって、ほかにも円堂監督のカードがあるかもしれないよ?」
「……そういうお前は、俺が豪炎寺さんのカードを引いたからって、もう一回やりたいだけじゃないのか」
「えへへ。ばれちゃった?」
「まったく……」
呆れた声とは裏腹に、剣城は奏音の歩幅に合わせて歩いていた。休日の稲妻町を、二人は並んで進んでいく。手の中には、それぞれが引き当てた大切な一枚。何気ない寄り道だったはずなのに、帰り道の景色は、いつもより少しだけ特別に見えた。
「京ちゃん、今日はどこに行くの?」
「特に決めてない。お前は?」
「んー……お散歩!」
「……それ、いつもと同じだろ」
「えへへぇ〜♪京ちゃんと一緒なら、どこを歩いても楽しいもん!」
あっけらかんと笑う奏音に、剣城は小さく息を吐いた。呆れているようにも見えるけれど、その表情はどこか柔らかい。
そんな他愛のない会話を交わしながら、二人は商店街を歩いていた。ふと、奏音の目に色鮮やかな看板が飛び込んできた。
「あっ、京ちゃん! あそこ、おもちゃ屋さんがあるよ!」
指差した先には、昔ながらのおもちゃ屋があった。店先には色とりどりのおもちゃが並び、ガラス越しの棚には、カードゲームやプラモデルがぎっしりと詰まっている。
「ちょっと見ていこうよ!」
奏音が期待に満ちた目で見上げると、剣城は店先に並ぶおもちゃに目を向けた。
「……たまには寄るか」
「ほんと? じゃあ、行こう!」
ぱっと顔を輝かせた奏音に、剣城は小さく口元を緩めた。弾む足取りで店の扉を開ける。からん、と軽やかなベルの音が鳴った。
店内には、色とりどりのおもちゃが所狭しと並んでいた。どこか懐かしい雰囲気に、奏音はあちこちの棚を覗き込む。
「京ちゃん、何か探してるの?」
「別に」
そう答えながらも、彼の視線はとあるコーナーに釘付けになっていた。
「あっ、カードゲーム!」
トレーディングカードの棚だった。ずらりと並ぶパックを前に、剣城の視線が一つの新商品に吸い寄せられた。
「……新しいパック、出てたのか」
「ふふっ。京ちゃん、カードゲーム好きだもんね」
「悪いかよ」
「ううん! 京ちゃん、好きなものの前だと楽しそうだなって思って」
「……そうかよ」
剣城はそっぽを向いた。けれど、耳がほんのり赤くなっているのを、奏音は見逃さなかった。しばらく棚を眺めたあと、剣城は目当てのパックを手に取った。
「これ、買ってくる」
「私もやってみたい!」
「お前、ルール分かるのか?」
「ううん!」
「……じゃあ、なんで」
「京ちゃんと一緒に開けてみたいんだもん!」
あまりにも迷いのない返事に、剣城は一瞬言葉を失った。やがて、呆れたように息をつく。
「……好きにしろ」
「やったあ!」
結局、奏音も同じパックをひとつ購入した。店を出ると、二人は近くの公園へ向かった。木陰のベンチに並んで腰を下ろし、さっそくパックを開封することにする。
「じゃあ、せーので開けよう!」
「ああ、いいぞ」
「せーのっ!」
ぱり、と袋が破れる音が重なった。
奏音はカードを一枚ずつ取り出しながら、興味津々で絵柄を眺めていく。どのカードもイラストが綺麗で、見ているだけで楽しかった。
その隣では、剣城が真剣な顔でカードを確認していた。カードをめくっていた剣城の指が、ある一枚の上で止まる。
「京ちゃん?」
覗き込んだ奏音は、剣城の手元にあるカードを見て、ぱっと顔を輝かせた。
「わあっ! 豪炎寺さんだ!」
そこに描かれていたのは、炎を背負うように立つ一人のサッカー選手。しかも、カードのイラストは必殺技を繰り出す直前の姿。力強い眼差しも、躍動感のある構図も、実に格好いい。
「すごいね、京ちゃん!」
「……ああ」
返事は短かった。けれど、剣城の視線はカードに釘付けになっている。いつもは感情を表に出すことの少ない彼の口元が、ほんのわずかに緩んでいた。
「……これ、いいな」
ぽつりと呟き、カードの絵柄をじっくりと眺める。折れないように気をつけながら扱う指先には、隠しきれない愛着が滲んでいた。
(京ちゃん、こんなに嬉しそうな顔するんだ!)
奏音は、思わず頬を緩めた。豪炎寺への憧れは、奏音もよく知っている。
幼い頃の剣城は、豪炎寺の必殺技を真似して、何度もシュートを打っていた。夢中になってボールを蹴る横顔を、奏音は今でも覚えている。そんな彼にとって、豪炎寺はずっと特別な存在なのだ。
だからこそ、普段は表に出さない喜びが、その横顔に滲んでいるのが嬉しかった。
「ふふっ」
「……何笑ってんだ」
「ううん。京ちゃん、嬉しそうだなあって」
「……別に、普通だろ」
「そうかなあ?」
「そうだ」
きっぱりと言い切る剣城。けれど、カードをしまおうとする手つきは、やっぱりどこか浮き立っていた。
「大切にするんだね」
「当たり前だろ。豪炎寺さんのカードだぞ」
あまりにも真面目な顔で言うものだから、奏音はとうとう吹き出してしまった。
「あははっ、うん! そうだよね!」
「……お前な」
呆れたように眉を寄せる剣城だったが、カードを手放す気配はない。そんな彼を微笑ましく見つめながら、奏音も自分のカードへと視線を落とした。残りのカードをめくっていくと、最後の一枚が目に留まる。
「あっ……!」
思わず声が弾んだ。そこに描かれていたのは、若き日の円堂守。
今よりもずっと幼い顔立ちをしているけれど、真っ直ぐな瞳と、見る人まで元気にしてしまうような笑顔は変わらない。
「わああっ! 円堂監督だ!」
奏音はカードを両手で持ち、思わず身を乗り出した。
「見て、京ちゃん! 若い頃の円堂監督だよ! すごい! こんなカードもあるんだね!」
「……本当だな」
「ふふっ、可愛い! 今の監督も素敵だけど、この頃の監督もいいなあ。なんだか初々しいね!」
カードを眺めながら、奏音はすっかり夢中になっていた。
円堂は雷門中の監督であり、奏音が尊敬してやまない人だ。今よりも幼いその姿は、どこか初々しい。今の円堂へとつながる過去を覗き見たようで、奏音の胸は弾んだ。
「……よかったな」
隣から声がした。顔を上げると、剣城がこちらを見ていた。
「うん! すごくすごく嬉しいよ!」
奏音は満面の笑みで頷く。
「京ちゃんも、豪炎寺さんのカードが引けてよかったね!」
「ああ」
今度の返事には、先ほどよりもはっきりと喜びが滲んでいた。二人はそれぞれのカードを手に、しばらく夢中になって眺めていた。やがて、奏音がふと思いついたように顔を上げる。
「ねえ、京ちゃん」
「なんだ?」
「今日のお出かけ、大成功だね!」
「……カードを買っただけだろ」
「でも、京ちゃんは大好きな豪炎寺さんのカードを引けたし、私は円堂監督のカードを引けたんだよ? すっごくいい日じゃない?」
奏音はカードを胸元に抱きしめた。
「好きな人のことって、見てるだけで嬉しくなるでしょ? このカードを見るたびに、今日のことを思い出せるんだろうなあって思うの」
そう言って、彼女は柔らかく微笑んだ。
剣城は手元のカードに視線を落とした。確かに、そうかもしれない。豪炎寺の姿を見るたびに、今日のことを思い出すのだろう。
偶然見つけたおもちゃ屋、隣で楽しそうに笑っていた奏音。そして、思いがけず手に入れた大切な一枚。たったそれだけのことなのに、不思議と心に残る。
「……まあ、悪くないな」
「でしょ?」
奏音が嬉しそうに笑う。その笑顔を見ていると、剣城の口元にも自然と笑みが浮かんだ。やがて二人はカードを大切にしまい、再び並んで歩き出した。
「ねえねえ、京ちゃん! 今度はほかのパックも見てみたいな!」
「またかよ」
「だって、ほかにも円堂監督のカードがあるかもしれないよ?」
「……そういうお前は、俺が豪炎寺さんのカードを引いたからって、もう一回やりたいだけじゃないのか」
「えへへ。ばれちゃった?」
「まったく……」
呆れた声とは裏腹に、剣城は奏音の歩幅に合わせて歩いていた。休日の稲妻町を、二人は並んで進んでいく。手の中には、それぞれが引き当てた大切な一枚。何気ない寄り道だったはずなのに、帰り道の景色は、いつもより少しだけ特別に見えた。
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