拓にぃみたいになりたい
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休日の午後。神童家の拓人の自室には、穏やかなピアノの音が流れていた。
窓辺から差し込む柔らかな陽射し。その奥に置かれたグランドピアノの前で、拓人が静かに鍵盤を奏でている。
その少し離れたソファでは、奏音が本を開いていた。けれど、さっきからページは一向に進んでいない。いつの間にか、意識は本ではなくピアノの音へ向いていた。
(やっぱり好きだなぁ〜拓にぃのピアノ!)
繊細で、丁寧で、落ち着いていて。拓人が奏でる音には、聴いているだけで心が穏やかになるような心地よさがある。奏音は頬杖をつきながら、じっと兄の背中を眺めていた。やがて最後の音が静かに消える。
「……ふぅ」
拓人が小さく息を吐き、楽譜へ目を落とした。その瞬間、奏音はぱたんと本を閉じた。
「拓にぃ!」
「ん?」
「私も弾く!」
勢いよく立ち上がり、奏音がピアノへ駆け寄ってくる。拓人は目を瞬かせたものの、すぐに笑った。
「奏音も?」
「うん!」
「何を弾くんだ?」
「今、拓にぃが弾いてたやつ!」
「ああ、これか」
拓人が楽譜を指差す。奏音は嬉しそうに頷くと、ピアノの椅子へ腰を下ろした。
「じゃあ、聴いててね」
「ああ」
奏音が鍵盤に指を置く。次の瞬間、先ほどまで拓人が奏でていた旋律が、部屋の中へ再び流れ始めた。
同じ曲でも響き方は少し違う。奏音の指先から紡がれる音は柔らかく、それでいて芯がある。音の強弱も自然で、旋律の一つひとつが丁寧に歌うように響いていく。
拓人は黙って妹の演奏を聴いていた。やがて最後の音が消える。奏音がくるりと振り返った。
「どう?」
「……やっぱり上手いな」
「ほんと?」
「ああ。綺麗に弾けてる」
「えへへ。拓にぃのピアノもすごく綺麗だったよ! 音が優しくて、聴いてると落ち着くし……私、拓にぃの弾くピアノ、大好き!」
奏音が嬉しそうに笑うと、拓人はふと不思議そうな顔をした。
「でも、どうして急に同じ曲を弾きたくなったんだ?」
「えっ?」
奏音はきょとんと瞬きをする。
「だって――拓にぃが弾いてたから」
「……それだけ?」
「うん!」
あまりにも迷いのない返事に、拓人は思わず笑ってしまう。
「奏音は、本当に俺の真似が好きだな」
「真似じゃないよ」
「じゃあ、何だ?」
奏音は少しだけ考える。そして、にっこりと笑った。
「拓にぃと同じがいいの!」
その言葉に、拓人は一瞬だけ黙った。けれどすぐに、柔らかな笑みを浮かべる。
「そうか」
「うん!」
「じゃあ、今度は一緒に弾くか?」
「弾く弾く!」
奏音はぱっと顔を輝かせ、拓人の隣へ詰める。二人で並んで椅子に座り、もう一度楽譜を開いた。
「今度は連弾にするか」
「うん!」
拓人が主旋律を奏で、奏音がその音に寄り添う。二人の音が重なり合い、穏やかな旋律が部屋いっぱいに広がっていく。
「拓にぃ!」
「なんだ?」
「楽しいね!」
「ああ」
拓人が笑う。奏音も嬉しそうに笑った。
――拓にぃがやっていることなら、自分もやりたい。
それは、奏音にとってごく自然なことだった。上手くなりたいからでも、負けたくないからでもない。ただ、大好きな兄と同じことをしたい。隣に並んで、同じ時間を過ごしたい。それだけで、奏音は嬉しかった。
窓辺から差し込む柔らかな陽射し。その奥に置かれたグランドピアノの前で、拓人が静かに鍵盤を奏でている。
その少し離れたソファでは、奏音が本を開いていた。けれど、さっきからページは一向に進んでいない。いつの間にか、意識は本ではなくピアノの音へ向いていた。
(やっぱり好きだなぁ〜拓にぃのピアノ!)
繊細で、丁寧で、落ち着いていて。拓人が奏でる音には、聴いているだけで心が穏やかになるような心地よさがある。奏音は頬杖をつきながら、じっと兄の背中を眺めていた。やがて最後の音が静かに消える。
「……ふぅ」
拓人が小さく息を吐き、楽譜へ目を落とした。その瞬間、奏音はぱたんと本を閉じた。
「拓にぃ!」
「ん?」
「私も弾く!」
勢いよく立ち上がり、奏音がピアノへ駆け寄ってくる。拓人は目を瞬かせたものの、すぐに笑った。
「奏音も?」
「うん!」
「何を弾くんだ?」
「今、拓にぃが弾いてたやつ!」
「ああ、これか」
拓人が楽譜を指差す。奏音は嬉しそうに頷くと、ピアノの椅子へ腰を下ろした。
「じゃあ、聴いててね」
「ああ」
奏音が鍵盤に指を置く。次の瞬間、先ほどまで拓人が奏でていた旋律が、部屋の中へ再び流れ始めた。
同じ曲でも響き方は少し違う。奏音の指先から紡がれる音は柔らかく、それでいて芯がある。音の強弱も自然で、旋律の一つひとつが丁寧に歌うように響いていく。
拓人は黙って妹の演奏を聴いていた。やがて最後の音が消える。奏音がくるりと振り返った。
「どう?」
「……やっぱり上手いな」
「ほんと?」
「ああ。綺麗に弾けてる」
「えへへ。拓にぃのピアノもすごく綺麗だったよ! 音が優しくて、聴いてると落ち着くし……私、拓にぃの弾くピアノ、大好き!」
奏音が嬉しそうに笑うと、拓人はふと不思議そうな顔をした。
「でも、どうして急に同じ曲を弾きたくなったんだ?」
「えっ?」
奏音はきょとんと瞬きをする。
「だって――拓にぃが弾いてたから」
「……それだけ?」
「うん!」
あまりにも迷いのない返事に、拓人は思わず笑ってしまう。
「奏音は、本当に俺の真似が好きだな」
「真似じゃないよ」
「じゃあ、何だ?」
奏音は少しだけ考える。そして、にっこりと笑った。
「拓にぃと同じがいいの!」
その言葉に、拓人は一瞬だけ黙った。けれどすぐに、柔らかな笑みを浮かべる。
「そうか」
「うん!」
「じゃあ、今度は一緒に弾くか?」
「弾く弾く!」
奏音はぱっと顔を輝かせ、拓人の隣へ詰める。二人で並んで椅子に座り、もう一度楽譜を開いた。
「今度は連弾にするか」
「うん!」
拓人が主旋律を奏で、奏音がその音に寄り添う。二人の音が重なり合い、穏やかな旋律が部屋いっぱいに広がっていく。
「拓にぃ!」
「なんだ?」
「楽しいね!」
「ああ」
拓人が笑う。奏音も嬉しそうに笑った。
――拓にぃがやっていることなら、自分もやりたい。
それは、奏音にとってごく自然なことだった。上手くなりたいからでも、負けたくないからでもない。ただ、大好きな兄と同じことをしたい。隣に並んで、同じ時間を過ごしたい。それだけで、奏音は嬉しかった。
