一目惚れアンサンブル(GO21話)
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サッカー部の練習が始まる。準備運動を終えた部員たちは整列し、円堂の指示を待っていた。その列の最後尾には、新しく雷門サッカー部へ加わった狩屋の姿もあった。まだ袖を通したばかりのユニフォーム。新しい環境への緊張と、どこか高揚した表情が入り混じっている。
「よし!」
パン、と円堂が両手を打ち鳴らす。その音に、部員たちの視線が一斉に集まった。
「これから二対二で攻撃と守備の練習だ! 攻撃はゴールを狙い。守備はそれを阻止する」
その一言を合図に、グラウンドの空気がぴんと張り詰める。つい先ほどまで笑い声を交わしていた部員たちの表情から笑みが消え、それぞれが静かに気持ちを切り替えていく。
「最初の攻撃は……天馬と神童!」
「はい!」
天馬と拓人が揃って一歩前へ出る。
「守備は霧野と……狩屋だ」
「はい!」
霧野はいつも通り爽やかに返事をすると、ピッチへ歩み出した。
一方、突然名前を呼ばれた狩屋は、一瞬だけ目を見開く。まさか最初の組に選ばれるとは思っていなかったのだろう。しかし驚きはすぐに消えた。表情を引き締めると、一歩前へ踏み出す。
「はい!」
グラウンドに響いた返事は、迷いのない力強いものだった。その姿を見て、部員たちは自然と新入部員へ視線を向ける。
少し離れたベンチでは、マネージャーたちが練習メニューを書き込みながらグラウンドを見守っている。
「大丈夫かぁ? 入部したばっかなのに」
水鳥が少し心配そうに呟く。
「入部したばかりだから試すんじゃないかしら」
春奈が穏やかに微笑む。
「チームに馴染ませようとしてるのかも」
葵も頷いた。
三人が話す横では、茜がカメラを構える。
「……始まる」
ファインダー越しに狩屋へレンズを向け、静かにシャッターへ指を添えた。
グラウンド脇では、奏音も新入部員の姿をじっと目で追っていた。
(どんなサッカーをするんだろう)
新しく加わった仲間への好奇心から、そのプレーを楽しみに見つめている。
「攻撃も守備も全力をだせ!」
円堂の声が飛ぶ。
「行くぞ」
「はい!」
拓人が静かに前へ出る。ボールが足元へ収まり、試合が動き始めた。拓人と天馬の呼吸は完璧だった。言葉を交わさなくても、お互いの考えが手に取るように分かる。
細かなワンツーパスが小気味よく繋がり、二人は一気に守備陣を切り裂いていく。ボールを受けた拓人へ霧野が素早く寄せる。
「行かせないぜ!」
「……天馬!」
「はい!」
拓人は迷わない。正確無比なパスが芝を滑り、天馬の足元へ吸い込まれる。そのまま天馬は得意の細かなステップへ切り替えた。右、左、鋭いフェイント。一瞬で狩屋を抜き去った――誰もがそう思った。だが次の瞬間には、狩屋がぴたりと隣へ並んでいた。まるで影が追いかけてくるような速さ。
「速いなぁ……」
思わず奏音が驚いたようにつぶやく。狩屋の重心はまったくぶれない。どんな角度へ切り返されても、足が止まらない。身体の軸が驚くほど安定している。
「振り切れない……!」
天馬の表情にも驚きが浮かぶ。
――ドンッ!!
鋭いショルダーチャージ。狩屋の肩が天馬を正面から捉えた。
「うわぁっ!」
勢いを失った天馬はバランスを崩し、そのまま芝生へ転がる。狩屋はその隙を逃さなかった。ボールを奪うと迷いなくタッチラインの外へ蹴り出す。グラウンドが静まり返る。狩屋はすぐに険しい表情を解き、倒れた天馬へ手を差し出した。
「大丈夫?」
申し訳なさそうに笑う。
「やられたよ! すごいね!」
天馬はその手を掴み、にっと笑う。
「練習だからなんとか止められたんだ。まぐれだよ」
立ち上がると、その笑顔に狩屋もようやく肩の力を抜いた。その様子を見ていた拓人は静かに頷く。
「いや」
穏やかな声で評価する。
「あのスピードとボディバランスはなかなかのものだ」
率直な賞賛だった。その言葉に、狩屋は照れたように頭をかいた。
「どうも……」
その笑顔を見た誰もが、新入部員の健闘を素直に認めていた。
――ただ一人を除いて。
「実力は認めるけど、ちょっと強引だったぞ」
霧野の言葉に、狩屋の笑顔がすっと消えた。張りつめたような鋭い眼差しが霧野へ向けられる。しかし、それも一瞬だった。次の瞬間には、何事もなかったかのように柔らかな笑顔へ戻っている。その変化を見ていた奏音の表情が、わずかに曇った。
(今の……)
ほんの一瞬だった。けれど、その瞳だけが妙に胸へ残った。
「奏音」
隣へ来た剣城が声を掛ける。
「……何か引っ掛かるのか?」
奏音は狩屋を見つめたまま、小さく首を傾げた。
「うーん……」
少し考え込むように呟く。
「すごく速かったね。天馬くんもびっくりしてたし……ただ、ちょっとだけ怖い感じがしたの」
剣城も狩屋を見る。狩屋は、もういつもの穏やかな笑顔に戻っている。さっき見えた表情など、最初からなかったかのように。
「……気のせいかな?でも、何か引っ掛かるんだよね」
剣城は何も答えなかった。ただ、狩屋から視線を外さない。奏音が「引っ掛かる」と言ったなら、気のせいではないのかもしれない。そんな考えが、胸の奥に残った。
「神童妹ー!」
円堂の明るい声が響く。
「次、お前だ!」
「はーい!」
さっきまで考え込んでいた少女とは思えないほど、奏音はぱっと笑顔を咲かせた。
「行ってきます!」
元気よく返事をすると、フィールドへ軽やかに駆け出していく。その背中を見送りながら狩屋はふと目を細めた。
(神童奏音、か……)
あの笑顔は、嘘ではない。
だからこそ、少しだけ眩しく見えた。
「よし!」
パン、と円堂が両手を打ち鳴らす。その音に、部員たちの視線が一斉に集まった。
「これから二対二で攻撃と守備の練習だ! 攻撃はゴールを狙い。守備はそれを阻止する」
その一言を合図に、グラウンドの空気がぴんと張り詰める。つい先ほどまで笑い声を交わしていた部員たちの表情から笑みが消え、それぞれが静かに気持ちを切り替えていく。
「最初の攻撃は……天馬と神童!」
「はい!」
天馬と拓人が揃って一歩前へ出る。
「守備は霧野と……狩屋だ」
「はい!」
霧野はいつも通り爽やかに返事をすると、ピッチへ歩み出した。
一方、突然名前を呼ばれた狩屋は、一瞬だけ目を見開く。まさか最初の組に選ばれるとは思っていなかったのだろう。しかし驚きはすぐに消えた。表情を引き締めると、一歩前へ踏み出す。
「はい!」
グラウンドに響いた返事は、迷いのない力強いものだった。その姿を見て、部員たちは自然と新入部員へ視線を向ける。
少し離れたベンチでは、マネージャーたちが練習メニューを書き込みながらグラウンドを見守っている。
「大丈夫かぁ? 入部したばっかなのに」
水鳥が少し心配そうに呟く。
「入部したばかりだから試すんじゃないかしら」
春奈が穏やかに微笑む。
「チームに馴染ませようとしてるのかも」
葵も頷いた。
三人が話す横では、茜がカメラを構える。
「……始まる」
ファインダー越しに狩屋へレンズを向け、静かにシャッターへ指を添えた。
グラウンド脇では、奏音も新入部員の姿をじっと目で追っていた。
(どんなサッカーをするんだろう)
新しく加わった仲間への好奇心から、そのプレーを楽しみに見つめている。
「攻撃も守備も全力をだせ!」
円堂の声が飛ぶ。
「行くぞ」
「はい!」
拓人が静かに前へ出る。ボールが足元へ収まり、試合が動き始めた。拓人と天馬の呼吸は完璧だった。言葉を交わさなくても、お互いの考えが手に取るように分かる。
細かなワンツーパスが小気味よく繋がり、二人は一気に守備陣を切り裂いていく。ボールを受けた拓人へ霧野が素早く寄せる。
「行かせないぜ!」
「……天馬!」
「はい!」
拓人は迷わない。正確無比なパスが芝を滑り、天馬の足元へ吸い込まれる。そのまま天馬は得意の細かなステップへ切り替えた。右、左、鋭いフェイント。一瞬で狩屋を抜き去った――誰もがそう思った。だが次の瞬間には、狩屋がぴたりと隣へ並んでいた。まるで影が追いかけてくるような速さ。
「速いなぁ……」
思わず奏音が驚いたようにつぶやく。狩屋の重心はまったくぶれない。どんな角度へ切り返されても、足が止まらない。身体の軸が驚くほど安定している。
「振り切れない……!」
天馬の表情にも驚きが浮かぶ。
――ドンッ!!
鋭いショルダーチャージ。狩屋の肩が天馬を正面から捉えた。
「うわぁっ!」
勢いを失った天馬はバランスを崩し、そのまま芝生へ転がる。狩屋はその隙を逃さなかった。ボールを奪うと迷いなくタッチラインの外へ蹴り出す。グラウンドが静まり返る。狩屋はすぐに険しい表情を解き、倒れた天馬へ手を差し出した。
「大丈夫?」
申し訳なさそうに笑う。
「やられたよ! すごいね!」
天馬はその手を掴み、にっと笑う。
「練習だからなんとか止められたんだ。まぐれだよ」
立ち上がると、その笑顔に狩屋もようやく肩の力を抜いた。その様子を見ていた拓人は静かに頷く。
「いや」
穏やかな声で評価する。
「あのスピードとボディバランスはなかなかのものだ」
率直な賞賛だった。その言葉に、狩屋は照れたように頭をかいた。
「どうも……」
その笑顔を見た誰もが、新入部員の健闘を素直に認めていた。
――ただ一人を除いて。
「実力は認めるけど、ちょっと強引だったぞ」
霧野の言葉に、狩屋の笑顔がすっと消えた。張りつめたような鋭い眼差しが霧野へ向けられる。しかし、それも一瞬だった。次の瞬間には、何事もなかったかのように柔らかな笑顔へ戻っている。その変化を見ていた奏音の表情が、わずかに曇った。
(今の……)
ほんの一瞬だった。けれど、その瞳だけが妙に胸へ残った。
「奏音」
隣へ来た剣城が声を掛ける。
「……何か引っ掛かるのか?」
奏音は狩屋を見つめたまま、小さく首を傾げた。
「うーん……」
少し考え込むように呟く。
「すごく速かったね。天馬くんもびっくりしてたし……ただ、ちょっとだけ怖い感じがしたの」
剣城も狩屋を見る。狩屋は、もういつもの穏やかな笑顔に戻っている。さっき見えた表情など、最初からなかったかのように。
「……気のせいかな?でも、何か引っ掛かるんだよね」
剣城は何も答えなかった。ただ、狩屋から視線を外さない。奏音が「引っ掛かる」と言ったなら、気のせいではないのかもしれない。そんな考えが、胸の奥に残った。
「神童妹ー!」
円堂の明るい声が響く。
「次、お前だ!」
「はーい!」
さっきまで考え込んでいた少女とは思えないほど、奏音はぱっと笑顔を咲かせた。
「行ってきます!」
元気よく返事をすると、フィールドへ軽やかに駆け出していく。その背中を見送りながら狩屋はふと目を細めた。
(神童奏音、か……)
あの笑顔は、嘘ではない。
だからこそ、少しだけ眩しく見えた。