駆け出すアンショーソ(GO15話)
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「拓にぃ、大丈夫?」
奏音が駆け寄り、そっと拓人の腕を支える。拓人は体勢を立て直しながら、小さく息を吐いた。
「ああ……少し衝撃が強かっただけだ」
そう答えはしたものの、その表情には悔しさが色濃く滲んでいる。転がるボールを見つめ、拓人は静かにつぶやいた。
「……ダメだ。ボールの力に負けてしまう」
仲間たちがつないだエネルギーは、想像をはるかに超えていた。最後の一撃を受け止め切れなければ、アルティメットサンダーは完成しない。
「やっぱりな……」
車田は拳を強く手のひらへ打ちつけ、悔しさをにじませる。拓人は顔を上げ、もう一度挑戦しようと前を向いた。
「もう一度――」
そう言いかけた、その時だった。
「次は俺がやる」
拓人の言葉を引き継ぐように、倉間が一歩前へ歩み出る。その瞳には、ストライカーとしての強い意地が宿っていた。拓人は一瞬だけ倉間を見つめると、小さくうなずく。
「……分かった。頼む」
そして仲間たちへ向き直り、声を張る。
「よし、位置につけ!」
「がってんだド!」
天城の威勢のいい返事を合図に、雷門イレブンは再びそれぞれの持ち場へ散っていく。
「いくぞ!」
浜野の掛け声と同時に、アルティメットサンダーが再び動き出した。仲間たちのパスが重なるたび、ボールは眩い光をまとい、その輝きは次第に激しさを増していく。
「倉間!」
天城の力強いラストパスが放たれる。
四人分のエネルギーを宿したボールは、轟音を響かせながら倉間の足元へ滑り込んだ。
「うおおおおっ!」
倉間は雄叫びとともに右足を振り抜く。
その瞬間――
バチィッ!!
耳をつんざくような衝撃音がグラウンドに響き渡る。暴れ狂うエネルギーが一気に弾け、凄まじい反動となって倉間の体を吹き飛ばした。
「ぐあっ!」
倉間は数メートル後方まで弾き飛ばされ、人工芝の上を転がる。
「倉間!」
拓人たちが慌てて駆け寄る。倉間は歯を食いしばりながら上半身を起こすと、悔しさを隠せない表情で転がるボールを睨みつけた。
「ちくしょう……蹴り返せねぇ」
ボールはゴールへ向かうことなく、力を失って虚しく地面を転がっていた。
拓人はその様子を見つめ、小さく息を吐く。
「……倉間でもダメか」
誰も言葉を返せなかった。
「そんな……キャプテンや倉間さんでもできないなんて……」
天馬は目を見開き、拓人と倉間を交互に見つめる。隣では信助も不思議そうに首をかしげていた。
「どんなボールなんだろ……」
その疑問に答えたのは三国だった。
「アルティメットサンダーは、強力なエネルギーを注ぎ込んだボールを敵陣に蹴り込む、ディフェンス突破に力を発揮する必殺タクティクスだ」
浜野が続ける。
「パスを重ねるごとに、ボールにはエネルギーが蓄積されていく」
「そのボールを敵ディフェンスのど真ん中に蹴り込む」
車田が力強くうなずく。
「相手ディフェンスを蹴散らすド!」
天城も拳を握り締める。
「後は、その隙にシュートを決めるだけだ」
車田が言葉を締めくくる。だが、速水は浮かない表情のまま肩を落とした。
「……でも、エネルギーの溜まった最後のボールを蹴るのが大変なんです」
最後のキッカーには、ポジションを問わず、これまで何人もの部員が挑戦してきた。しかし、誰一人として暴れ回るエネルギーを受け止め、狙いどおりに蹴り出すことはできなかった。だからこそ、アルティメットサンダーは今なお未完成の必殺タクティクスなのだ。
「最後の選手には……並外れたキック力が必要ということだ」
三国が静かに結論づける。
拓人は悔しさを押し殺すように、ぎゅっと拳を握り締めた。
「俺に……もっと力があれば」
その隣では、倉間も唇を噛み締める。
「……俺もだ」
ストライカーとして、あの一撃を決められなかった悔しさが胸を締めつける。
そんな二人を見つめ、三国は静かに口を開いた。
「倉間も神童も、パワーよりもテクニックでシュートを決めるタイプだからな」
三国の言葉に、拓人も倉間も何も返さなかった。それでも、その慰めには責めるような響きはなく、二人の実力を認めたうえでの言葉だということだけは、しっかりと伝わっていた。
グラウンドには重い空気が流れる。拓人は腕を組み、仲間たちを見渡した。
「……一人だけ、まだ試していない選手がいる」
その視線が向けられた先で、奏音がきょとんと目を丸くした。
「え、私?」
「ああ」
拓人は真っ直ぐ妹を見つめる。
「奏音は屈指のパワー型フォワードだ。シュートの威力は誰にも引けを取らない。それに、体幹も強い。あの反動に耐えられる可能性があるとすれば……奏音、お前だ」
突然の指名に、部員たちの視線が一斉に奏音へ集まる。
「確かに……」
霧野が納得したようにうなずく。
「奏音のシュート力なら、神童や倉間以上かもしれない」
「今まで誰が蹴ってもダメだった。だったら試してみる価値はある」
三国も腕を組みながら頷く。
奏音はボールへ視線を落とした。アルティメットサンダー。誰一人として完成させられなかった、雷門最後の切り札。その最後の一撃を、自分が任されようとしている。
奏音は静かに深呼吸すると、顔を上げて仲間たちを見渡した。
「……分かった」
その瞳には、不安よりも挑戦への決意が宿っていた。
「私、やってみる!」
その一言に、雷門イレブンの表情が少しだけ明るくなる。拓人は小さく微笑んだ。
「頼んだぞ、奏音」
奏音は力強くうなずき、ゆっくりとキッカーの位置へ歩き出した。
全員が再び配置につく。四人の想いが重なり、光を帯びたボールは轟音を響かせながら奏音の足元へ飛び込んできた。
「アルティメットサンダーッ!」
奏音は迷いなく右足を振り抜く。
――バァンッ!
拓人や倉間を弾き飛ばした光の球は、今度は勢いよく前方へ撃ち出された。
「やった!」
天馬が思わず声を上げる。
奏音は最後までしっかりとボールを蹴り抜いていた。圧倒的なキック力で暴れるエネルギーを押し切り、アルティメットサンダーは初めて前へ飛んだのだ。
しかし――
「……あっ」
奏音の表情が変わる。一直線に飛んでいたはずの光球が、徐々に軌道を右へ逸れ始めた。
「曲がってる!?」
信助が叫ぶ。奏音は必死に行方を見つめる。だが、勢いだけを乗せたシュートは狙いを定めきれず、大きくゴールから外れていく。眩い光はそのままピッチの外へ飛び出し、衝撃とともに光が四散し、黄金色に輝いていた球体は、力を使い果たしたようにただのサッカーボールへ戻って転がった。
グラウンドは静まり返る。奏音はゆっくりと足元を見つめ、悔しそうに唇を噛んだ。
「……ごめん」
拓人は首を横に振る。
「いや、お前は十分蹴り切った」
その視線は、転がるボールへ向けられている。
「キック力は足りている」
拓人は静かに続けた。
「だが、あれだけのエネルギーを受け止めながら、狙った一点へ正確に蹴り込むには、まだコントロールが足りない」
奏音にはボールを蹴り返すだけの力はあった。しかし膨大なエネルギーを制御しきれず、アルティメットサンダーは完成には至らなかった。その時、不意に拓人の脳裏へ、一人の少年の姿が浮かんだ。
「……剣城」
気づけば、その名が口をついて出ていた。
「剣城なら……あのボールを蹴ることができるかもしれない」
誰も、その言葉を否定しなかった。沈黙こそが答えだった。やがて倉間が悔しそうに拳を握り締める。
「……悔しいが、あいつのパワーは俺たちより上だからな」
フィフスセクターのシードにして、圧倒的な破壊力を誇るストライカー。彼なら、暴れ回るエネルギーすらねじ伏せ、アルティメットサンダーを完成へ導けるかもしれない。そんな期待が、誰の胸にも浮かんでいた。
「……剣城」
天馬もぽつりとその名を繰り返す。しかし、倉間は静かに首を横へ振る。
「でも、あいつは来ない」
その短い一言が、現実を突きつける。浜野も複雑そうな表情を浮かべた。
「シードなのにフィフスセクターに楯突いちゃったから、まずいことになってるのかもな」
剣城はもう何日も練習に姿を見せていない。雷門のユニフォームを着ていても、その心はまだフィフスセクターという見えない鎖に縛られたままだった。
拓人たちは互いに視線を交わす。何か言葉を探そうとしても、誰一人見つけることができない。
その沈黙の中、奏音はそっと目を伏せた。
(……京ちゃん)
幼馴染の名前を、そっと胸の内で呼ぶ。
すると、先ほどのアルティメットサンダーの光景が、静かに別の景色へと変わっていった。
最後のキッカーに立っているのは、自分ではない。雷門の背番号十番を背負った剣城。仲間たちの想いを乗せた光のボールを受け止めると、迷いなく足を振り抜く。
放たれた一撃は敵ディフェンスを力強く突き破り、その光景が、まるで目の前で本当に繰り広げられているかのように鮮やかに脳裏へ浮かんだ。
もし彼が雷門へ戻ってきてくれたら。そんな希望が胸をよぎる。けれど同時に、その願いがどれほど難しいものなのかも、奏音は誰よりよく分かっていた。
ふと脳裏に浮かんだのは、稲妻総合病院での出来事だった。車椅子で穏やかに微笑む優一。そして、その傍らで苦しげに表情を曇らせていた剣城の姿。その横顔が、今も鮮明に焼き付いて離れない。
きっと剣城は、誰にも見せられないほど重いものを一人で背負っている。だからこそ、「雷門へ戻ってきて」という一言だけで解決できるほど軽いものではない。奏音はぎゅっと拳を握り、静かに息を吐いた。
「……そんなに簡単な話じゃ、ないよね」
そのか細い呟きは誰の耳にも届くことなく、静まり返ったグラウンドへそっと溶けていった。
今、自分にできることは無理に引き戻すことではない。いつか剣城自身が前を向けるその時まで、信じて待つことだけなのだと、奏音は改めて心に言い聞かせた。
奏音が駆け寄り、そっと拓人の腕を支える。拓人は体勢を立て直しながら、小さく息を吐いた。
「ああ……少し衝撃が強かっただけだ」
そう答えはしたものの、その表情には悔しさが色濃く滲んでいる。転がるボールを見つめ、拓人は静かにつぶやいた。
「……ダメだ。ボールの力に負けてしまう」
仲間たちがつないだエネルギーは、想像をはるかに超えていた。最後の一撃を受け止め切れなければ、アルティメットサンダーは完成しない。
「やっぱりな……」
車田は拳を強く手のひらへ打ちつけ、悔しさをにじませる。拓人は顔を上げ、もう一度挑戦しようと前を向いた。
「もう一度――」
そう言いかけた、その時だった。
「次は俺がやる」
拓人の言葉を引き継ぐように、倉間が一歩前へ歩み出る。その瞳には、ストライカーとしての強い意地が宿っていた。拓人は一瞬だけ倉間を見つめると、小さくうなずく。
「……分かった。頼む」
そして仲間たちへ向き直り、声を張る。
「よし、位置につけ!」
「がってんだド!」
天城の威勢のいい返事を合図に、雷門イレブンは再びそれぞれの持ち場へ散っていく。
「いくぞ!」
浜野の掛け声と同時に、アルティメットサンダーが再び動き出した。仲間たちのパスが重なるたび、ボールは眩い光をまとい、その輝きは次第に激しさを増していく。
「倉間!」
天城の力強いラストパスが放たれる。
四人分のエネルギーを宿したボールは、轟音を響かせながら倉間の足元へ滑り込んだ。
「うおおおおっ!」
倉間は雄叫びとともに右足を振り抜く。
その瞬間――
バチィッ!!
耳をつんざくような衝撃音がグラウンドに響き渡る。暴れ狂うエネルギーが一気に弾け、凄まじい反動となって倉間の体を吹き飛ばした。
「ぐあっ!」
倉間は数メートル後方まで弾き飛ばされ、人工芝の上を転がる。
「倉間!」
拓人たちが慌てて駆け寄る。倉間は歯を食いしばりながら上半身を起こすと、悔しさを隠せない表情で転がるボールを睨みつけた。
「ちくしょう……蹴り返せねぇ」
ボールはゴールへ向かうことなく、力を失って虚しく地面を転がっていた。
拓人はその様子を見つめ、小さく息を吐く。
「……倉間でもダメか」
誰も言葉を返せなかった。
「そんな……キャプテンや倉間さんでもできないなんて……」
天馬は目を見開き、拓人と倉間を交互に見つめる。隣では信助も不思議そうに首をかしげていた。
「どんなボールなんだろ……」
その疑問に答えたのは三国だった。
「アルティメットサンダーは、強力なエネルギーを注ぎ込んだボールを敵陣に蹴り込む、ディフェンス突破に力を発揮する必殺タクティクスだ」
浜野が続ける。
「パスを重ねるごとに、ボールにはエネルギーが蓄積されていく」
「そのボールを敵ディフェンスのど真ん中に蹴り込む」
車田が力強くうなずく。
「相手ディフェンスを蹴散らすド!」
天城も拳を握り締める。
「後は、その隙にシュートを決めるだけだ」
車田が言葉を締めくくる。だが、速水は浮かない表情のまま肩を落とした。
「……でも、エネルギーの溜まった最後のボールを蹴るのが大変なんです」
最後のキッカーには、ポジションを問わず、これまで何人もの部員が挑戦してきた。しかし、誰一人として暴れ回るエネルギーを受け止め、狙いどおりに蹴り出すことはできなかった。だからこそ、アルティメットサンダーは今なお未完成の必殺タクティクスなのだ。
「最後の選手には……並外れたキック力が必要ということだ」
三国が静かに結論づける。
拓人は悔しさを押し殺すように、ぎゅっと拳を握り締めた。
「俺に……もっと力があれば」
その隣では、倉間も唇を噛み締める。
「……俺もだ」
ストライカーとして、あの一撃を決められなかった悔しさが胸を締めつける。
そんな二人を見つめ、三国は静かに口を開いた。
「倉間も神童も、パワーよりもテクニックでシュートを決めるタイプだからな」
三国の言葉に、拓人も倉間も何も返さなかった。それでも、その慰めには責めるような響きはなく、二人の実力を認めたうえでの言葉だということだけは、しっかりと伝わっていた。
グラウンドには重い空気が流れる。拓人は腕を組み、仲間たちを見渡した。
「……一人だけ、まだ試していない選手がいる」
その視線が向けられた先で、奏音がきょとんと目を丸くした。
「え、私?」
「ああ」
拓人は真っ直ぐ妹を見つめる。
「奏音は屈指のパワー型フォワードだ。シュートの威力は誰にも引けを取らない。それに、体幹も強い。あの反動に耐えられる可能性があるとすれば……奏音、お前だ」
突然の指名に、部員たちの視線が一斉に奏音へ集まる。
「確かに……」
霧野が納得したようにうなずく。
「奏音のシュート力なら、神童や倉間以上かもしれない」
「今まで誰が蹴ってもダメだった。だったら試してみる価値はある」
三国も腕を組みながら頷く。
奏音はボールへ視線を落とした。アルティメットサンダー。誰一人として完成させられなかった、雷門最後の切り札。その最後の一撃を、自分が任されようとしている。
奏音は静かに深呼吸すると、顔を上げて仲間たちを見渡した。
「……分かった」
その瞳には、不安よりも挑戦への決意が宿っていた。
「私、やってみる!」
その一言に、雷門イレブンの表情が少しだけ明るくなる。拓人は小さく微笑んだ。
「頼んだぞ、奏音」
奏音は力強くうなずき、ゆっくりとキッカーの位置へ歩き出した。
全員が再び配置につく。四人の想いが重なり、光を帯びたボールは轟音を響かせながら奏音の足元へ飛び込んできた。
「アルティメットサンダーッ!」
奏音は迷いなく右足を振り抜く。
――バァンッ!
拓人や倉間を弾き飛ばした光の球は、今度は勢いよく前方へ撃ち出された。
「やった!」
天馬が思わず声を上げる。
奏音は最後までしっかりとボールを蹴り抜いていた。圧倒的なキック力で暴れるエネルギーを押し切り、アルティメットサンダーは初めて前へ飛んだのだ。
しかし――
「……あっ」
奏音の表情が変わる。一直線に飛んでいたはずの光球が、徐々に軌道を右へ逸れ始めた。
「曲がってる!?」
信助が叫ぶ。奏音は必死に行方を見つめる。だが、勢いだけを乗せたシュートは狙いを定めきれず、大きくゴールから外れていく。眩い光はそのままピッチの外へ飛び出し、衝撃とともに光が四散し、黄金色に輝いていた球体は、力を使い果たしたようにただのサッカーボールへ戻って転がった。
グラウンドは静まり返る。奏音はゆっくりと足元を見つめ、悔しそうに唇を噛んだ。
「……ごめん」
拓人は首を横に振る。
「いや、お前は十分蹴り切った」
その視線は、転がるボールへ向けられている。
「キック力は足りている」
拓人は静かに続けた。
「だが、あれだけのエネルギーを受け止めながら、狙った一点へ正確に蹴り込むには、まだコントロールが足りない」
奏音にはボールを蹴り返すだけの力はあった。しかし膨大なエネルギーを制御しきれず、アルティメットサンダーは完成には至らなかった。その時、不意に拓人の脳裏へ、一人の少年の姿が浮かんだ。
「……剣城」
気づけば、その名が口をついて出ていた。
「剣城なら……あのボールを蹴ることができるかもしれない」
誰も、その言葉を否定しなかった。沈黙こそが答えだった。やがて倉間が悔しそうに拳を握り締める。
「……悔しいが、あいつのパワーは俺たちより上だからな」
フィフスセクターのシードにして、圧倒的な破壊力を誇るストライカー。彼なら、暴れ回るエネルギーすらねじ伏せ、アルティメットサンダーを完成へ導けるかもしれない。そんな期待が、誰の胸にも浮かんでいた。
「……剣城」
天馬もぽつりとその名を繰り返す。しかし、倉間は静かに首を横へ振る。
「でも、あいつは来ない」
その短い一言が、現実を突きつける。浜野も複雑そうな表情を浮かべた。
「シードなのにフィフスセクターに楯突いちゃったから、まずいことになってるのかもな」
剣城はもう何日も練習に姿を見せていない。雷門のユニフォームを着ていても、その心はまだフィフスセクターという見えない鎖に縛られたままだった。
拓人たちは互いに視線を交わす。何か言葉を探そうとしても、誰一人見つけることができない。
その沈黙の中、奏音はそっと目を伏せた。
(……京ちゃん)
幼馴染の名前を、そっと胸の内で呼ぶ。
すると、先ほどのアルティメットサンダーの光景が、静かに別の景色へと変わっていった。
最後のキッカーに立っているのは、自分ではない。雷門の背番号十番を背負った剣城。仲間たちの想いを乗せた光のボールを受け止めると、迷いなく足を振り抜く。
放たれた一撃は敵ディフェンスを力強く突き破り、その光景が、まるで目の前で本当に繰り広げられているかのように鮮やかに脳裏へ浮かんだ。
もし彼が雷門へ戻ってきてくれたら。そんな希望が胸をよぎる。けれど同時に、その願いがどれほど難しいものなのかも、奏音は誰よりよく分かっていた。
ふと脳裏に浮かんだのは、稲妻総合病院での出来事だった。車椅子で穏やかに微笑む優一。そして、その傍らで苦しげに表情を曇らせていた剣城の姿。その横顔が、今も鮮明に焼き付いて離れない。
きっと剣城は、誰にも見せられないほど重いものを一人で背負っている。だからこそ、「雷門へ戻ってきて」という一言だけで解決できるほど軽いものではない。奏音はぎゅっと拳を握り、静かに息を吐いた。
「……そんなに簡単な話じゃ、ないよね」
そのか細い呟きは誰の耳にも届くことなく、静まり返ったグラウンドへそっと溶けていった。
今、自分にできることは無理に引き戻すことではない。いつか剣城自身が前を向けるその時まで、信じて待つことだけなのだと、奏音は改めて心に言い聞かせた。