お帰りアルペジオ(GO17話)
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
前半終了を告げるホイッスルが、スタジアムいっぱいに響き渡った。スコアボードには、帝国学園が一歩リードしたままの数字が刻まれている。
雷門の選手たちは誰一人として口を開かなかった。肩を落とし、うつむいたまま、重い足取りでベンチへ戻っていく。誰もが分かっていた。このままでは勝てない、と。
「ちゅーか……何とか二点で済んだなぁ」
浜野が腰を下ろしながら、苦笑混じりにつぶやく。無理に空気を軽くしようとした言葉だったが、返事はない。沈黙だけが、重苦しくその場を支配していた。
「でも……」
速水が膝の上で手を握り締め、小さく顔を上げる。
「このままじゃ勝てませんよ……せめて、アルティメットサンダーを成功させないと……」
その声には焦りが滲んでいた。帝国学園の守備を崩すには、あの必殺タクティクスしかない。
「くっ……!」
倉間が拳を強く握り締める。何度挑戦しても完成しないアルティメットサンダー。あと一歩届かないまま、帝国学園の鉄壁の守備に阻まれ続けていた。
ベンチの隅では、奏音も静かに膝へ視線を落としていた。アルティメットサンダー。その最後を託されるキッカーは、自分と倉間だ。だからこそ、失敗するたび胸へ突き刺さる責任は重い。
(私が……もっと正確に蹴れていたら)
仲間たちが繋いできたボールを、あと一歩のところで決めきれなかった。
(悔しい……もっともっと、みんなの力になりたいのに)
自分の未熟さが、こんなにも歯がゆい。その思いは、きっとここにいる全員が抱えていた。誰も諦めてはいない。けれど、焦りだけが少しずつ心を蝕んでいく。
アルティメットサンダーを完成させなければ、帝国学園には勝てない。その現実だけが、重くベンチへ圧しかかっていた。
沈黙を破ったのは、天馬だった。ゆっくりと立ち上がると、倉間と奏音の前へ歩み寄る。
「倉間先輩、神童妹先輩」
二人が顔を上げる。
天馬の瞳には、不思議なくらい迷いがなかった。
「もう一度、挑戦しましょう!」
真っ直ぐな声が、ベンチへ響く。
「天馬……」
倉間が小さく名前を呼ぶ。
天馬は深く頭を下げた。
「挑戦しなきゃ、何も始まりません……お願いします!」
その姿には、意地も見栄もない。必死だった。だからこそ、その言葉は胸へ届く。
奏音は目を丸くしたあと、小さく微笑んだ。
「……うん」
ゆっくり立ち上がる。
「私にできることなら、全部やるよ」
その笑顔は少しぎこちなかった。それでも瞳の奥に宿る光は消えていない。失敗してもいい。まだ、自分にできることが残っているならそのために走りたい。それが奏音の答えだった。
「簡単に言うな!」
鋭い声が空気を切り裂いた。
倉間だった。俯いたまま肩を震わせ、拳を強く握り締めている。
「これだけやって……上手くいかねぇのに!」
勢いよく顔を上げた瞳は赤く滲んでいた。
「どうやって成功させるんだよ!」
その叫びは、誰かを責めるためではない。努力しても届かない自分自身への怒りだった。
誰も言葉を返せない。奏音も、天馬も、拓人も、苦しさは皆同じだった。だからこそ、慰めの言葉など見つからなかった。
「諦めるな!」
よく通る声が、ベンチへ力強く響く。
全員が顔を上げた。円堂が、まっすぐ選手たちを見つめている。
「諦めない奴にだけ、掴めるものがある!」
その言葉が、重く胸へ響いた。
円堂は、それ以上何も言わなかった。ただ、選手たちを信じるように、まっすぐその場に立っている。
拓人は静かに拳を握り締めた。
(どうすれば……)
諦めたくはない。絶対に勝ちたい。それでも、あと一歩を越えるための答えが見つからない。焦りを抱えたまま、時間だけがただ流れていく。その時だった。
「――俺を出せ!」
低く、よく通る声がベンチに響く。
聞き覚えのあるその声に、全員の視線がベンチの入口へ向いた。
「剣城……!」
天馬が思わず息を呑む。奏音も大きく目を見開いた。そこに立っていたのは、ついさっきまで病院にいたはずの剣城だった。
迷いを振り切ったような、まっすぐな眼差し。ベンチのざわめきにも動じることなく、剣城はゆっくりと前へ歩き出す。
「俺を……試合に出してくれ!」
その一言に、空気が張り詰めた。
拓人がそっと口を開く。
「……今度は逃げないのか?」
責めるような口調ではない。ただ、その覚悟が本物かを確かめるような問いだった。
剣城は真っ直ぐ拓人を見返す。
「シードじゃない。一人のサッカープレイヤーとして……頼む!」
その言葉がベンチに響いた瞬間――
「信用できるわけないだろ!」
倉間の怒声が空気を切り裂く。
その叫びは、倉間一人の感情ではない。ベンチにいる誰もが、一度は抱いた疑いだった。部員たちの視線が剣城へ集まる。
厳しい視線、戸惑いの視線。それでも剣城は動かなかった。ただ黙って、その視線を受け止め続ける。それが、自分のしてきたことへの責任だと分かっていたからだ。
その姿を見つめる奏音は、小さく息を呑む。
(京ちゃん……)
剣城の瞳に宿る覚悟を確かめるように見つめたあと、何かを決意したように表情を引き締める。そして、くるりと身を翻すとベンチの奥へ駆け出した。
「神童妹先輩?」
天馬が思わず声を上げる。しかし奏音は振り返らない。部員たちは戸惑いながら、その背中を見送るしかなかった。
「円堂監督……」
沈黙に耐えきれず、葵が不安そうに口を開く。その先を促すように円堂を見る。
「決めるのは、お前たちだ」
低く、それでいて力強い声だった。円堂は、それ以上何も言わなかった。受け入れるのか、拒むのか。その答えを出すのは、雷門イレブン自身だった。
「京ちゃん。これ、必要でしょ?」
柔らかな声が静寂を破る。全員が振り向く。そこには、ベンチの奥から戻ってきた奏音の姿があった。
胸に大切そうに抱えられているのは、一枚のユニフォーム。黄色と青の雷門ユニフォーム。十の背番号が刻まれていた。剣城のユニフォームだった。ざわめきが広がる。
「神童妹先輩……?」
天馬が驚いたように目を丸くする。奏音は誰の顔も見ず、ゆっくりと剣城の前まで歩いていく。そして、両手で抱えていたユニフォームをそっと差し出した。
剣城は、しばらく受け取れなかった。そのユニフォームが、自分には眩しすぎたからだ。
「京ちゃん」
静かな呼びかけに、剣城が顔を上げる。
奏音は優しく微笑んだ。
「私は信じるよ」
剣城の瞳が、小さく揺れる。
「ここまで来たってことは……」
奏音は剣城をまっすぐ見つめた。
「本気なんでしょ?」
返事はなかった。けれど、その沈黙が答えだった。奏音はそっと頷く。
「だったら、私は信じたい」
一歩だけ、剣城との距離を縮める。
「幼馴染としてじゃない」
奏音は、剣城の胸へそっとユニフォームを押し当てる。
「雷門の仲間として――京ちゃんを信じたい」
剣城は震える手でユニフォームを受け取った。指先が、わずかに震えている。
「奏音……」
掠れた声だった。それ以上、言葉が続かない。こんな自分を、まだ信じてくれる人がいる。その事実だけで、胸がいっぱいになった。
「俺も剣城を信じます!」
天馬も一歩前へ踏み出した。剣城をじっと見つめる。その瞳には、少しの迷いもなかった。
「剣城はいつも俺たちを苦しめて来た。前の試合で、少しは信じられるかと思ったが……その後は練習にも来ない。今日の試合には遅刻する。それで、信じられるか!」
倉間が吐き出すように言う。その言葉に、天馬は一瞬だけ黙った。けれど、すぐに顔を上げる。
「思い出して下さい、剣城のプレーを!」
力強い声が響く。
「サッカーが好きじゃなきゃ、あんな凄いプレーは出来る筈ないです」
万能坂中戦で見せた、誰よりもサッカーを愛しているようなプレー。天馬は、あの姿を忘れていなかった。
「だから俺、信じます!」
その言葉を受けた剣城の表情が、ほんの少しだけ変わる。それを見た拓人は、静かに口元を緩めた。
「俺も信じる」
それはキャプテンとしての判断ではない。雷門の仲間として、剣城を信じるという意志だった。
「キャプテン……!」
天馬が嬉しそうに振り返る。その言葉をきっかけに、信助たちも次々と頷いた。先ほどまで剣城へ向けられていた疑いの眼差しは、少しずつ和らいでいく。一人、また一人と。雷門の輪が、剣城のもとへ広がっていった。
ただ一人、倉間だけは腕を組んだままだった。しばらく黙っていたが、やがて大きくため息をつく。
「……チッ」
頭を掻きながら、剣城を見据える。
「そこまで言われたら、俺だけ反対してるのも馬鹿らしい。お前が本気で戦うってんなら、プレーで証明してみせろ」
「……はい」
剣城は、その言葉をしっかりと受け止めた。それを見届けた円堂が、力強く頷く。
「剣城、行ってこい!」
「はい!」
迷いのない返事が、ベンチに響いた。
交代の時間が迫る。奏音はタッチラインへ向かう。入れ替わるように剣城が隣へ立った。ほんの一瞬だけ、二人の視線が重なる。
「京ちゃん」
奏音はいたずらっぽく笑った。
「優一さんに、ちゃんと見せてあげようよ」
「……何を」
「京ちゃんが、サッカーしてるところ」
一瞬だけ、剣城は目を丸くする。次の瞬間。自然と笑みがこぼれた。
「……ああ、任せろ」
「うん!」
二人は同時に手を上げる。
――パシン。
乾いたハイタッチの音が、響いた。
「いってらっしゃい、京ちゃん」
「ああ、行ってくる」
その声に背中を押されるように、剣城はゆっくりとピッチへ歩き出す。後半開始を告げるホイッスルが、帝国学園のスタジアムに高らかに響き渡った。
雷門の選手たちは誰一人として口を開かなかった。肩を落とし、うつむいたまま、重い足取りでベンチへ戻っていく。誰もが分かっていた。このままでは勝てない、と。
「ちゅーか……何とか二点で済んだなぁ」
浜野が腰を下ろしながら、苦笑混じりにつぶやく。無理に空気を軽くしようとした言葉だったが、返事はない。沈黙だけが、重苦しくその場を支配していた。
「でも……」
速水が膝の上で手を握り締め、小さく顔を上げる。
「このままじゃ勝てませんよ……せめて、アルティメットサンダーを成功させないと……」
その声には焦りが滲んでいた。帝国学園の守備を崩すには、あの必殺タクティクスしかない。
「くっ……!」
倉間が拳を強く握り締める。何度挑戦しても完成しないアルティメットサンダー。あと一歩届かないまま、帝国学園の鉄壁の守備に阻まれ続けていた。
ベンチの隅では、奏音も静かに膝へ視線を落としていた。アルティメットサンダー。その最後を託されるキッカーは、自分と倉間だ。だからこそ、失敗するたび胸へ突き刺さる責任は重い。
(私が……もっと正確に蹴れていたら)
仲間たちが繋いできたボールを、あと一歩のところで決めきれなかった。
(悔しい……もっともっと、みんなの力になりたいのに)
自分の未熟さが、こんなにも歯がゆい。その思いは、きっとここにいる全員が抱えていた。誰も諦めてはいない。けれど、焦りだけが少しずつ心を蝕んでいく。
アルティメットサンダーを完成させなければ、帝国学園には勝てない。その現実だけが、重くベンチへ圧しかかっていた。
沈黙を破ったのは、天馬だった。ゆっくりと立ち上がると、倉間と奏音の前へ歩み寄る。
「倉間先輩、神童妹先輩」
二人が顔を上げる。
天馬の瞳には、不思議なくらい迷いがなかった。
「もう一度、挑戦しましょう!」
真っ直ぐな声が、ベンチへ響く。
「天馬……」
倉間が小さく名前を呼ぶ。
天馬は深く頭を下げた。
「挑戦しなきゃ、何も始まりません……お願いします!」
その姿には、意地も見栄もない。必死だった。だからこそ、その言葉は胸へ届く。
奏音は目を丸くしたあと、小さく微笑んだ。
「……うん」
ゆっくり立ち上がる。
「私にできることなら、全部やるよ」
その笑顔は少しぎこちなかった。それでも瞳の奥に宿る光は消えていない。失敗してもいい。まだ、自分にできることが残っているならそのために走りたい。それが奏音の答えだった。
「簡単に言うな!」
鋭い声が空気を切り裂いた。
倉間だった。俯いたまま肩を震わせ、拳を強く握り締めている。
「これだけやって……上手くいかねぇのに!」
勢いよく顔を上げた瞳は赤く滲んでいた。
「どうやって成功させるんだよ!」
その叫びは、誰かを責めるためではない。努力しても届かない自分自身への怒りだった。
誰も言葉を返せない。奏音も、天馬も、拓人も、苦しさは皆同じだった。だからこそ、慰めの言葉など見つからなかった。
「諦めるな!」
よく通る声が、ベンチへ力強く響く。
全員が顔を上げた。円堂が、まっすぐ選手たちを見つめている。
「諦めない奴にだけ、掴めるものがある!」
その言葉が、重く胸へ響いた。
円堂は、それ以上何も言わなかった。ただ、選手たちを信じるように、まっすぐその場に立っている。
拓人は静かに拳を握り締めた。
(どうすれば……)
諦めたくはない。絶対に勝ちたい。それでも、あと一歩を越えるための答えが見つからない。焦りを抱えたまま、時間だけがただ流れていく。その時だった。
「――俺を出せ!」
低く、よく通る声がベンチに響く。
聞き覚えのあるその声に、全員の視線がベンチの入口へ向いた。
「剣城……!」
天馬が思わず息を呑む。奏音も大きく目を見開いた。そこに立っていたのは、ついさっきまで病院にいたはずの剣城だった。
迷いを振り切ったような、まっすぐな眼差し。ベンチのざわめきにも動じることなく、剣城はゆっくりと前へ歩き出す。
「俺を……試合に出してくれ!」
その一言に、空気が張り詰めた。
拓人がそっと口を開く。
「……今度は逃げないのか?」
責めるような口調ではない。ただ、その覚悟が本物かを確かめるような問いだった。
剣城は真っ直ぐ拓人を見返す。
「シードじゃない。一人のサッカープレイヤーとして……頼む!」
その言葉がベンチに響いた瞬間――
「信用できるわけないだろ!」
倉間の怒声が空気を切り裂く。
その叫びは、倉間一人の感情ではない。ベンチにいる誰もが、一度は抱いた疑いだった。部員たちの視線が剣城へ集まる。
厳しい視線、戸惑いの視線。それでも剣城は動かなかった。ただ黙って、その視線を受け止め続ける。それが、自分のしてきたことへの責任だと分かっていたからだ。
その姿を見つめる奏音は、小さく息を呑む。
(京ちゃん……)
剣城の瞳に宿る覚悟を確かめるように見つめたあと、何かを決意したように表情を引き締める。そして、くるりと身を翻すとベンチの奥へ駆け出した。
「神童妹先輩?」
天馬が思わず声を上げる。しかし奏音は振り返らない。部員たちは戸惑いながら、その背中を見送るしかなかった。
「円堂監督……」
沈黙に耐えきれず、葵が不安そうに口を開く。その先を促すように円堂を見る。
「決めるのは、お前たちだ」
低く、それでいて力強い声だった。円堂は、それ以上何も言わなかった。受け入れるのか、拒むのか。その答えを出すのは、雷門イレブン自身だった。
「京ちゃん。これ、必要でしょ?」
柔らかな声が静寂を破る。全員が振り向く。そこには、ベンチの奥から戻ってきた奏音の姿があった。
胸に大切そうに抱えられているのは、一枚のユニフォーム。黄色と青の雷門ユニフォーム。十の背番号が刻まれていた。剣城のユニフォームだった。ざわめきが広がる。
「神童妹先輩……?」
天馬が驚いたように目を丸くする。奏音は誰の顔も見ず、ゆっくりと剣城の前まで歩いていく。そして、両手で抱えていたユニフォームをそっと差し出した。
剣城は、しばらく受け取れなかった。そのユニフォームが、自分には眩しすぎたからだ。
「京ちゃん」
静かな呼びかけに、剣城が顔を上げる。
奏音は優しく微笑んだ。
「私は信じるよ」
剣城の瞳が、小さく揺れる。
「ここまで来たってことは……」
奏音は剣城をまっすぐ見つめた。
「本気なんでしょ?」
返事はなかった。けれど、その沈黙が答えだった。奏音はそっと頷く。
「だったら、私は信じたい」
一歩だけ、剣城との距離を縮める。
「幼馴染としてじゃない」
奏音は、剣城の胸へそっとユニフォームを押し当てる。
「雷門の仲間として――京ちゃんを信じたい」
剣城は震える手でユニフォームを受け取った。指先が、わずかに震えている。
「奏音……」
掠れた声だった。それ以上、言葉が続かない。こんな自分を、まだ信じてくれる人がいる。その事実だけで、胸がいっぱいになった。
「俺も剣城を信じます!」
天馬も一歩前へ踏み出した。剣城をじっと見つめる。その瞳には、少しの迷いもなかった。
「剣城はいつも俺たちを苦しめて来た。前の試合で、少しは信じられるかと思ったが……その後は練習にも来ない。今日の試合には遅刻する。それで、信じられるか!」
倉間が吐き出すように言う。その言葉に、天馬は一瞬だけ黙った。けれど、すぐに顔を上げる。
「思い出して下さい、剣城のプレーを!」
力強い声が響く。
「サッカーが好きじゃなきゃ、あんな凄いプレーは出来る筈ないです」
万能坂中戦で見せた、誰よりもサッカーを愛しているようなプレー。天馬は、あの姿を忘れていなかった。
「だから俺、信じます!」
その言葉を受けた剣城の表情が、ほんの少しだけ変わる。それを見た拓人は、静かに口元を緩めた。
「俺も信じる」
それはキャプテンとしての判断ではない。雷門の仲間として、剣城を信じるという意志だった。
「キャプテン……!」
天馬が嬉しそうに振り返る。その言葉をきっかけに、信助たちも次々と頷いた。先ほどまで剣城へ向けられていた疑いの眼差しは、少しずつ和らいでいく。一人、また一人と。雷門の輪が、剣城のもとへ広がっていった。
ただ一人、倉間だけは腕を組んだままだった。しばらく黙っていたが、やがて大きくため息をつく。
「……チッ」
頭を掻きながら、剣城を見据える。
「そこまで言われたら、俺だけ反対してるのも馬鹿らしい。お前が本気で戦うってんなら、プレーで証明してみせろ」
「……はい」
剣城は、その言葉をしっかりと受け止めた。それを見届けた円堂が、力強く頷く。
「剣城、行ってこい!」
「はい!」
迷いのない返事が、ベンチに響いた。
交代の時間が迫る。奏音はタッチラインへ向かう。入れ替わるように剣城が隣へ立った。ほんの一瞬だけ、二人の視線が重なる。
「京ちゃん」
奏音はいたずらっぽく笑った。
「優一さんに、ちゃんと見せてあげようよ」
「……何を」
「京ちゃんが、サッカーしてるところ」
一瞬だけ、剣城は目を丸くする。次の瞬間。自然と笑みがこぼれた。
「……ああ、任せろ」
「うん!」
二人は同時に手を上げる。
――パシン。
乾いたハイタッチの音が、響いた。
「いってらっしゃい、京ちゃん」
「ああ、行ってくる」
その声に背中を押されるように、剣城はゆっくりとピッチへ歩き出す。後半開始を告げるホイッスルが、帝国学園のスタジアムに高らかに響き渡った。