本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
メールを送った翌朝に返信があり私の希望通りの場所で良いことがわかった。場所は少しマイナーな遊園地を指定したのだが、尾形さんは遊園地行けるタイプの人のようだ。人混みや子どもっぽい事が苦手そうなのに…そう考えながら確認した旨を返信しスマホの電源を落とした。
スマホを鞄にしまい、恐る恐る出社する。尾形さんとは別フロアで勤務しているのでばったり出会うリスクは低いと思うが、いかんせん突然殺そうとしてきた人だ。気まずいどころではない…どうか出会いませんようにと祈りながらエレベーターに乗り込んだ。
…祈ろうとすると逆にフラグに繋がるものだと痛感した。
昼休み、食堂に向かう途中ばったりと尾形さんに会った。こんな事ほとんどなかったのにこういう時に限って会ってしまうものなのだろうか。
私は今までしてきたように軽く会釈して通り過ぎる。ややぎこちなかっただろうが…。
過ぎようとしたら、尾形さんがゆっくり距離を詰めるようにこちらに踏みより対面する形になった。
「お、尾形さんこんにちは。今から昼食ですか」
「用があって昼はずらしてる。名前さんは今からですか」
は、はいと狼狽えながら答えながら手提げを目の前に掲げた。尾形さんはフンと鼻を鳴らして「ごゆっくり」なんて思ってるのか思ってないような挨拶をして歩き去っていった。遊園地、選んだのは失敗だったかな、なんて週末のことを考えると気が滅入ってしまい、ご飯でも食べて考えるのをやめようと、よろよろと食堂に入った。
※
週末
私の命日当日だな、なんて考えながら支度をし待ち合わせ場所に向かった。正直逃げ出したい気持ちで一杯だった。住所も仕事先も一緒で、きっと実家にだって追いかけてくる可能性もあると震えが止まらない。
尾形さんのことだから遊園地のような人目がつきやすいところで殺人はしないと…思いたい。きっと一通り終わってからだろう。
こうなれば腹を括って全力で楽しんで、潔く死のうと意気込む。もしとの時にと遺書は自宅の机に設置済みだ。ぐっと顎を引気胸を張って待ち合わせ場所へと足を踏み出した。
待ち合わせ場所では既に尾形さんが待っていて、あのツーブロックが視界に入ると反射でギクリと身体が固まってしまう。内心自分に喝を入れつつ尾形さんに声をかける。
「お待たせしてしまってすみません」
「俺が早くきただけだ。…行くか」
そう切り出して遊園地のチケットを2枚買い入場門を潜った。週末にも関わらず、人は少なめですんなりとアトラクションに乗る事ができた。待ち時間をどう過ごせば良いか頭を悩ませていたが杞憂だったようで安堵する。
尾形さんはジェットコースターは少し苦手だったようで、乗った後に「どうでした!?」と興奮気味に声を掛けたら少し顔を顰めて「こんな物に嬉々として乗り込む奴が最低1人は居るんだな」と愚痴を漏らしていたので思わず笑ってしまった。お腹がふわっとするのが苦手なのだろうか。…その後バイキング船だとか、ショーアトラクション、ダークライド等片っ端から乗り込んでいく。
その中で尾形さんが特に楽しそうにしていたのはシューディングアトラクションで尾形さんはほとんど外さず高得点を挙げていた。
「こんなに気持ちのいい動き初めて見ました!」なんて伝えると景品のぬいぐるみを持ち直して満更でもなさそうに髪を撫で付けていた。趣味も時々サバゲーでエアーガンを使うと話していた。尾形さんの趣味を初めて知ったがあの無駄のない動きに説得力が増すなと思った。
園内の軽食コーナーで昼食をつつきながら一緒になってマップを眺めて次は何処に行こうかと話し合う。
思いの外遊園地デートが充実しているなぁなんて考えながらまだ乗っていないアトラクションを眺めていると尾形さんの指が静かにマップ上に置かれた。…観覧車だ。
「ここはどうだ」とそっと呟くように尾形さんが話す。
観覧車は…長時間2人きり、周りに人がいないとかなり殺される確率が高そうな予感がぐっとこみ上げそれに伴って血液が足元に落ちていく感覚がした。
「あ、あー。私、高所恐怖症なんですよね。ジェットコースターなら一瞬なんですけど観覧車はゆっくり上がって下がるのでそれが怖くて」
「…そうか。ならやめておくか」
案外すんなり引き下がる尾形さんに安堵した。露骨に表情に出ていたのか苦笑された…どういう意味の笑顔なんだ。
これで最後にしようとメリーゴーランドへと向かった。尾形さんがメルヘンな馬に乗ってる姿が見られるとウキウキしたが「お前だけ乗れ」とばっさり断られてしまい何故か私だけ乗ることになった。
「見るだけって楽しいですか?」と問うと「まぁな」なんて言われてしまいそのまま尾形さんに見られながらアトラクションがスタートした。
「は〜うぇ…」
曲が終わりメリーゴーランドの回転スピードがゆっくりと停止した。最初は案外楽しいなと気楽に乗っていたが大人になってからなのか、三規管が弱くなっている気がする。ジェットコースターはそんなに酔わないのだが。
大人になるものとはこんな壁があるのかと辟易しているとまだ少し目が回っていたのか段差に気づかず目の前によろめいた。
「あっ」
「おい」
顔面衝突は免れようと必死に顔を手で庇おうとした瞬間尾形さんに受け止められていた。
見た目によらずがっしりとした体格に思わずフリーズする。視界は回っているがしっかりと支えてくれる胸筋と腕の暖かさのギャップでグッと顔を寄せてしまうと尾形さんの体がぎくりと震えた気がした。
数秒後、自分がしていることに気づき慌てて距離を取る。
「す、すみません…!」
「いや……大丈夫か」
と少し心配するように声をかけられた。ドキドキしながらもありがとうございますと礼を言う。変に意識をしてしまう。このドキドキは何なのだろう。
遊園地の門へ向かう途中にふと視線を足元へ移すとと尾形さんの影と自分の影が真っ直ぐ前に落ちていた。
「楽しいこともあっという間に終わっちゃいましたね。来週も何処か出かけられたらいいですけど」
まぁこの後は殺されて終わりだろうが。
「…!いいぞ。どこが良い」
「え、良いんですか!?」
思わぬ展開に驚き尾形さんを見ると彼も驚いたように目を見開いている。
「そ、それじゃあ行きたいところ考えるのでまた連絡しますね」
「ああ」
尾形さんの顔がいつもよりほんの少し緩んでいた。そんな顔もできるんだ。
じゃあまた週末に、なんて別れて電車に乗り込む。
なんだかんだ楽しめたし、寿命が1週間延びてラッキーだなんで思いつつ、用意していた遺書は残しておくべきか否かを考えながら家に向かった。
2/2ページ