本編
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※で視点変わります
「完全に風邪ひいた…」
布団の中でため息をついた。
朧くんと仲直りしてから数日、輝かしい通学を謳歌していたところにこれだ。ここ数年風邪をひかなかったのに…いろんなイベントが起きて知恵熱でも出たのだろうか、先生に絶対バカは風邪ひかないと言うんじゃないのかって言われる未来が簡単に想像ができた。
あ、朧くんとの連絡手段がない。スマートホンを取り出しトークラインをぼうっと見つめる。連絡を交換しておけば良かったな。
待ち合わせ時間が過ぎたら先に行ってもいいと前に約束してたから凄く待たせるということはないだろうけど申し訳ないなぁと思いつつ、私は布団を被り直した。
※
…こない。
名前はいつもの時間になっても来なかった。一応10分ほど待つが来る気配がない。
寝坊、風邪…事故。思考を巡らせるほどに悪い予想がよぎり、軽く首を振る。いや重大な問題があるとは思えない、明日になればまた待ち合わせ場所に居るだろうと思い歩き出す。ふとあまり使わない携帯を取り出して見つめる。連絡先を聞いておけば良かったか、そう考えながら学校へ向かった。
以前は一人で登校したことに対し、何も感じていなかったはずの自分が、少し物足りなさを感じていた。
※
「で、」
銀八先生が口を開く。
「なんでお前がここにいんの」
3年Z組、帰りのホームルームに皆と違う色の学ランを着用した一人の男が当たり前のように空いている座席に鎮座していた。
「用があってきただけだ。お前たちの高校を潰すために来たわけではない」
「そりゃそうだろうよ、何さらっと名前の机についてんの当たり前のようにホームルーム受けてんの」
ざわつく周りからニコニコと微笑む男が朧に近づく。
「朧、彼女が提案した通り遊びに来たんですね」
「松陽先輩」
「いや同学年だろ」
銀八先生のツッコミがスルーされながら会話が続く。
「でも今日名前さんは来てないですよ。風邪で」
「そうですか…」
心なし肩を落としている彼をみかねた銀八先生は軽くため息をついて朧にクリアファイルを放り投げる。
「それ、今日の課題。名前に渡しといてくれねぇか」
「なぜ俺が」
「それが目的なんじゃねーのかよ。じゃあ神楽、行ってこい」
「しかたないアルな」
「いや待て」
朧が持っているファイルを神楽が受け取ろうとした時さっとファイルを持っている腕を届かないように挙げた。
「名前だけおれの住所を知られているのは些か不当だ。だから俺が行く。住所を教えろ」
「しかたないアルな〜名前に礼として風邪治ったら酢昆布5箱献上するように伝えといておけヨ」
ニヤついている彼女に対して何故名前が謝礼を?と不思議そうな顔をする男に対し、周りの視線は柔らかかった。
※
なんとか住所を教えてもらい、待ち合わせ場所からやや離れた一軒家を訪れた。
少し緊張した面持ちでインターホンを押す。インターホン越しから名前とは違う女性の声がした。プリントを届けにきたという旨を説明すると玄関の向こうから歩いてくる音がし、扉を開けたのはおそらく名前の母親だろう。目が合い、微笑まれる。
「あなたがおぼろ…くん?名前がお世話になってるわ
ね、あの子よくあなたのこと話すのよ〜!さ、入って入って」
ニコニコしながら名前の部屋は二階の突き当たりにある。そう説明され室内へと促される。母親は急用で少しだけ家を空けるけどすぐ帰ることを伝えて出て行ってしまった。あまりにも無用心すぎないかと心配したがそんなところが名前に遺伝しているんだろう、なんて考えながら階段を登った。
目的の部屋の扉には名前のプレートがありすぐ分かった。
数度ノックしてみる…が返事はない。入るぞ、と一応声をかけながら扉を開けると、ベッドの上に小さく蹲っている塊が視界に入った。
同学年の女の部屋に入るという経験が一度もなく妙な気分になる。恐る恐る部屋に入りベット近くに鞄を置いた。恐る恐る膝をついて覗き込むとウンウン小さく唸り寝苦しそうにしている名前がいた。額に汗がにじみ前髪が少し張り付いている。
名前が眉根を寄せている姿を見た事は一度もなかった。いつもひょうきんな表情で会話する彼女だけが自分の中にある。こんな表情もするのか、と考えながら無意識にゆっくりと口角が上がる。
ふと、邪魔だろうとパラついた前髪を避けようと指先を名前の額に滑らせた。
「ん…?ぅ…」
「!?」
触れた瞬間、暖かい…より熱くて小さな手が俺の手を掴んだ。手の甲を頬に寄せられる。かなり熱い。ビクリと掌が揺れたがガッチリ固定されては手を引っ込めることはできない。おい、と声をかけるも当の本人は気持ちよさそうに寝ている。…名前の眉間の皺がいつのまにか消えていることに気づきいた。
この行為がいいのか俺にはわからなかったが…暫く、もう少し暫くはこうした方がいいかもしれないとこの体勢のまま考えた。
※
額にひんやりとしたものが当たる。冷たくて気持ちいいなとそれを掴んで頰に当てた。悪い夢を見ているような気持ちが薄れていく。しかし少しずつ自分の体温が移り緩くなるそれに対し、うら寂しくなりうっすら目を開ける。
ぼやける視界がだんだんと明瞭になっていく。
そこに朧くんがいた。
ん?まだ夢見てるのか、自分の部屋に朧くんがいるわけないしね。そう言い聞かせたが握っていたそれが朧くんの手だと認識してしまったが最後冷や汗が止まらなかった。そっと握る手を緩めて彼を見る。
「朧くん…もしかして私まだ夢見てる感じ?」
「名前、起きたか」
「アッハイ」
いつもの調子で話しかけられたのでむくりと体を起こす。だいぶ体の怠さが引いているようだ。取り敢えず1番の疑問をぶつけてみる。
「なんで私の家にいるの?」
「頼まれたプリントを届けにきた」
「えっ他校なのに…?ありがとう?」
「まぁ…事情があってな」
プリントを受け取りながらハッとする。髪の毛ボサボサだし部屋は散らかしてるし寝起きだしでめちゃくちゃだ!慌てて顔を覆うと朧くんが心配そうに「まだ体調が悪いのか」と話しかけてくれてる。まぁそうだけどそうじゃない…
「名前」
「何?朧くん…」
「連絡を、一応交換しておきたいのだが」
「確かに!私も思ってた…メールの方がいい?」
「好きなようにしてくれ」
まさか朧くんから切り出してくれるとは思わなかった。やはり待ち合わせに来ないと不便に感じたのだろうか。待ち合わせ時間以外でも連絡していいのかな、いいよね。なんて考えながら携帯を胸に抱く。すっかり自分の身なりや部屋のことなどどうでも良くなってしまった。
連絡を交換した後、朧くんは立ち上がって帰る旨を伝えてくれた。確かに風邪を移しちゃうかもしれないしね。
彼に心配されたが無理を言って玄関まで送り出して、手を振った。
「また連絡するね!今日はありがとう」
「また。しっかり休め」
彼の優しさが染み入って、早く風邪治さなきゃな、頑張って寝よう…そう思って部屋に戻りベッドに潜り込む。ふとあのひんやりとした手を思い出して顔が熱くなる。ぶり返しそうになってどうする!そう思いながら布団を頭から被った。