本編
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その日は大事をとって帰りなさいと月詠先生に促されて帰宅することになった。私の状態はちょっと頭の皮膚が切れてたみたいで包帯を巻いて、擦り傷に絆創膏が何箇所あった。見た目が凄い怪我人スタイルだ。
みんなどんな様子ですか、無事ですかと必死に訴えたら無事だ、と。詳しくは明日でも聞くが良いという話で無理やりに終わってしまった。
けが人が無理をしないようと配慮してくれたのだろう。押し切っても迷惑かと思って渋々保健室を出る。
トボトボと歩きながら考える。私が気絶した後一体何があったのか、みんな怪我してないのか、詳しくはわからない。お腹の中がズシリと沈む様な気持ちだった。
スマホを鞄から取り出して眺める。LINEで事情を聞くのも手だったがこういうのは直接聞いた方が詳しくわかるかと思い、時間だけ確認して鞄にしまった。
翌朝
8時。少しソワソワしながら例の場所へ歩を進める。
ここで待ち合わせだねと決めた電柱に誰もいないことを確認して肩を落とした。
まぁそうだよね、こないか…気まずいどころの騒ぎじゃないしねと心の中で呟く。
朧くんはもう、会うことができないのだろうか。あの話さえしなければ関係は続いていた?でもいずれ話すことだったし、遅かれ早かれこうなっていたのかも。頭がぐらぐら朦朧となる感じがして気分が良く無い。…酷いことをされたのだ、嫌いになってもおかしくない。でもまた一緒に登校したい、話したいと思っている自分がいた。私はゆっくりと歩く速度を緩め、立ち止まる。
少しだけ、電柱前で彼を待ってみる。ーーーなんの期待だろう…来る訳ないのに。暫く電柱にもたれかかれ空を見る。嫌なくらい快晴だ。そろそろ遅刻しそうだから行かないと、そうぼんやりと考えて無理やり納得させ学校に向かった。
教室に入ったらみんなにすごく心配された。どうやらみんな怪我もなく無事のようで内心ほっとする。
「名前!大丈夫アルか?!」
「見た目の割には元気だよ」
大丈夫アピールでピースして見せる。早速ホームルームが始まる前に私が殴られた後どうなったのか聞いてみると私は目を丸くした。
要約すると、どうやら私が意識が飛ぶ前に大きな音が鳴ったのは、朧くんが私を殴った生徒を殴り飛ばした音らしい。彼の突拍子のない行動に互いが攻めあぐねて均衡状態が続いてる時に松陽くんが出てきて彼を説得した…という流れみたいだ。
いや朧くん身内に厳しくないか?まぁ急に黙らせるために殴ることはなかったと私も思うけど、怖かったし…
「人質と言っても傷つける予定は更々なかったみたいですよ」
「松陽くん…」
松陽くんが私の肩を軽く叩いてそう伝えた瞬間銀八先生が気怠そうに教室の扉を開けてホームルームを始めた為みんな席に各々戻っていく。
この事件は一旦解決したということでみんなそこまで気にしていない様だ。朧くんが何でそんな過剰な反応をしたのかが私にはわからなかった。いや見当違いかもしれないが友達だから…という可能性もなくは無い。確かめなければこのモヤモヤは晴れなさそうだなと考えながらある決心をした。
休み時間、ダメ元で松陽くんに尋ねてみたらあっさり朧くんの住所を教えてくれた。転校する前に訪ねたことが何度かあるらしい。個人情報をそんなあっさり教えていいのかと思ったけど…
「名前さんならいいですよ、彼とは直接話したほうが手っ取り早いですしね」
頑張ってくださいね〜なんて言われてなんだか見透かされている様だ。朧くんについてよく知ってるからこそのアドバイスを貰い私は何度も教えてもらった住所を地図アプリで確認した。
翌朝。名一杯の早起きをして早々と家を出る。歩いて数十分、待ち合わせ場所からそれほど遠くないところに朧くんの家…アパートがあった。
時刻を確認すると7時くらいだろうか、自分の行動力に関心してしまう。というか早すぎたかな、いやでも敢えて早めに家出てるからこれくらいでいいのかも…?なんて悶々と考えて十数分。なんかストーカーみたいなことしちゃってるよねとストーカー代表の近藤さんについて考えていると、ガチャリとドアの開く音がした。思わず死角にさっと隠れる。見つかった瞬間ドア閉められたら悲しくなっちゃうし。カンカンと階段を降りてしばらく通学路を歩き出した朧くんに向かって走り出した。
「朧くん!」
「ッ…?!名前…」
彼はかなり驚いた様子で振り向いた。私の顔を見た瞬間少し顔を歪ませて…深く頭を下げた。
「先日は…怖い思いをさせてすまなかった。怪我はさせるつもりはなかったが…結果的にこんな、怪我をさせてしまった」
いつもの安心感のある低い声ではなく、少し声が震えていた。朧くんは…優しい。さらった本人だけど。
朧くんが徐に鞄からハンカチを取り出す。あの時の、怪我だと勘違いして渡したハンカチだ。
「返すタイミングを失っていた。これを持っていたら…まだこの関係が続くかもしれないと考えたが、迷惑だろう。返す」
そう言って朧くんは綺麗に畳まれたハンカチを手渡そうとした。
…そんな都合のいい事されたって私は納得いかない。
「謝るなら、待ち合わせ時間に来なかったこともだよ…怪我も誘拐も怖かったけどそれよりももう、突然友達でいられないのは嫌だよ」
「名前」
「ま、まだハンカチ返さなくていい!そんな理由ならずっと朧くんがそれ持っててよ」
「だが」
「まだわたしのこと全然話せてないから…まだ途中だったよね、わたしのクラスの話」
ニッと笑って見せる。朧くんは少し黙って目を伏せて数秒。
あ、すこし眉間に皺寄ってる…なんて彼の顔を覗き込むと私と朧くんの目が合う。
「待ち合わせについては…すまない、合わせる顔がなかった」
「うん」
「そうだな… 名前のまだ他に聞けてないことが多かった。お前の話が聞きたい」
そう朧くんは少し笑った。
だいぶ早い登校時間になってしまった。でもその分ゆっくり歩いていっぱい話そう、まずは続きのクラスメートの話をしようか。近々松陽くんとどんな関係だったかも聞きたいな。