本編
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突然の連絡拒否に戸惑う。
なんで急にそんな事を、そう思ったが少しだけ心当たりはあった。もしかしたら…あの不良に絡まれた後の少し悲しそうにしていた朧くんの顔を思い出す。
もし私のためだとしたら。確かに立場とか、危険性とか色々大変なことがあるのは実感している。一緒にいたらきっと危ない目に合うかもしれないことも。そんな彼の私に対しての気持ちがなんとなく伝わって嬉しいと思う反面、それよりも無性に腹が立った。
思い立てば行動だと彼のもとへ駆け出す。連絡先を断たれていても住所は割れているので早速放課後彼の自宅で待つことにした。原始的だけど一番手っ取り早い。私のためだとしても、単に私との関係が嫌になったとしても、聞かなければ気が済まなかった。
朧くんが住んでいるアパートにたどり着き、電気がついているか確認する。電気がついていない事を確認するとドアの前で小さくしゃがみ込んだ。隣人に不審者だって思われそうだがどうでもいい…あやふやのままで終わらせたくなかったのだ、絶対に。
暫くして辺りが段々と薄暗くなり静かになる。人通りから外れているアパートだからか、閑散としていて遠くから車1台通るだけでもわかるくらいだった。玄関扉にある心許ない蛍光灯に映る自分の影が濃く映る。静かでヒヤリとしていてまるで現実と切り離されたような空間でぼんやりと空を眺めていると、じゃり…と歩く音が聞こえた。
そっと柵から顔を出し辺りを見回すと見慣れたあの髪色の彼を見つける。遠くから見つけているのがバレたらどうにかしてでも避けられそうでなるべく見つからない様に柵から離れ身を潜める。カンカンと階段を上る音がしてもう目の前まで来ることを察知しゆっくりと立ち上がって深呼吸をした。
登っている途中私に気づいたであろう朧くんは目を見開いて登るのをやめていたが、少し経てば元の無表情に戻ってゆっくりと二階へと登り切ってこちらに歩いてきた。目の前で立ち止まる。
「そこを退いてくれないか。家に入れない」
「朧くん」
「もう関わるなと、伝えたはずだが」
「わかった。なんて言ってないよ」
何か言いたげに、眉根を寄せて苦しそうな顔をしている彼を見て、そんな顔を私がさせているのかと思うと悲しくなる。でもきっちり話し合わなければきっとずっとお互い苦しくなるから、話さなければならない。
「2人で話してるのを他の人に見られたくないなら…中で話さない?話すことだけ話したら帰るから…」
「…わかった」
1歩横にずれて扉をあけてもらうように促すと彼は鍵を開けてドアノブをひねり部屋に入れてくれた。
初めて彼の部屋を訪れたが、イメージ通りシンプルであまり物を置いていなかった。けれど部屋の端にある棚の上に綺麗に畳まれたハンカチと絆創膏が、ひっそりと鎮座していた。それをみるとぐっと喉が締目つけられる感覚に陥った。私はまだそれを返してもらう気は無かった。彼は返す気なのだろうか。
荷物を床に下ろし中央に置いてある座卓近くにお互い向かい合わせになるように座る。
「もう、関わらないでくれ」
座った瞬間彼が開口一番にそう言葉を放った。私はなるべく冷静に、冷静になれるように話す。
「理由を教えて」
「お前と関わると…ろくなことが無い」
「嘘、私を危険な目に合わせたく無いから?」
「……。そうだ」
ハァと思いため息をついてそう答える彼を見る。まったくこっちを見ないから、きっと違うんだろうなと思ったが当たりみたいだ。朧くんは優しい。突き放すために悪役を演じようとする所も、私がそれで落ち込んだ後に彼のせいにできてしまうような言い方も。…あんまりにもひどいじゃないか、自分自身に対して。
「今後、付き合うことになったら危険な目に遭うのは明白だ。そんな状況にさせたくない」
「いや私の首に当身して気絶させて誘拐したよね?!」
朧くんはム、と言い返せなくて少し黙り込む。
「それでも、俺と関わりがなくなれば前の日みたいに危険に晒されることはないだろう」
「その時は…朧くんがまた守ってよ、それじゃダメなの?」
「…」
「朧くんがそんなこと言ったとしても私は諦めないから…朧くんの彼女だって言いふらしちゃうからね!両想いなんだから、嘘はついてないよ」
「名前」
段々と視界が霞む。じんと眉間のあたりが重くなる…朧くんは優しすぎるのだ。
「もし私が朧くんのために傷ついたり、酷い目にあったら…なんとも思わない?当たり前だと思う?」
「当たり前じゃない、大切だからその為に」
「朧くんがやってることはそういうことだよ…私のためだとわかるけど、嬉しいじゃなくて、寂しいし悲しいよ」
「…すまない」
朧くんは下を向いたままだ。何かいい策はないか考えているのだろうか。何かを言おうとして口を開いてはゆっくり閉じている…答えはもうあるのに。私は膝立ちになって彼のもとへ回り込む。下を向いたままだった彼が私の行動をゆっくりと視線を向ける。私は彼の肩を両手でギュッと掴んだ。ビクリと肩が少し揺れて、視線が合う。 ゆっくりと息を吸い込む。
「朧くん。あなたのことが好きです。恋人として、私と付き合ってください」
絶対に返事を聞くぞの姿勢で返事を待つ。朧くんは何度も瞬きをして口を固く結んだ。視線が外れることなく見つめること数秒。
「俺で…いいのか」
震える声でそっと呟く。未だ信じられないような口ぶりだ。
「朧くんじゃなきゃ嫌だよ。返事!返事は!」
朧くんはまた下を見てしまった。
「ねぇ、朧く
ギュッと…というよりはガバリと思い切り抱きつき返された。その勢いで思い切り後ろに倒れそうになるがギリギリ踏ん張る。きつく抱きしめられてちょっと苦しい。
「好きだ、名前。俺と付き合って欲しい」
「今さっき私も言ったよ」
必死に、絞るような声がする。あ、泣きそうになってる。
ちょっと気が抜けて、私も涙が滲み出てくる。それを拭うように彼の胸板に擦り付けるようにこっちも抱きしめ返した。嬉しい。好きな人に抱きしめられるのってこんなに胸が暖かくなるんだ。ずっとこうしていたいくらいに多幸感が溢れる。
ゆっくり抱きしめる力を緩めて改めてお互い見つめ合う。朧くんはどこか吹っ切れたように笑っていた。
「惚れたら負けとはよく言うものだな。本当は離れたく無かった」
「残念!私も負けてるから引き分けだよ。…ハンカチはもう暫く返さなくていいよ」
そんな事を言いながら私も笑う。さっきまでの緊張感が嘘かのように柔らかな空気が満ちていく。付き合うことになったのか、私達。あんまり実感がないなぁ
「付き合うことになっても…あんまりいつもと変わらないね」
「そうだな」
「あ!でも手とか…繋いでもおかしくないって事だよね、恋人って事は」
そう私が言った瞬間朧くんは私の手をとった。形を確かめるようにそっとなぞってからゆっくりと手を握った。不良達から一緒に逃げた時のつなぎ方と違ってなんだかその行動が恥ずかしくて、照れてしまう。
「恋人だから、それ以上もしてもいいということだ」
朧くん、なんでこういう時は余裕があるんだ…ずるい奴め。さっきの肩を落として俯いてた彼の姿はもうなく、こちらを見つめながら指を絡ませる。その仕草にビックリしてしまい肩が跳ねる…すごく顔が熱い。思わずたじろいでしまう。
「うっ…」
「逃げないで欲しい」
「逃げるというかステップが早くないデスカ」
「恋人つなぎだけで早いのか」
じゃあ、と朧くんの顔が近づいて視界が彼いっぱいになる。唇に触れる。彼の匂いと、ほんの少しカサついた中で柔らかい感触があった。視覚と触覚、嗅覚の情報で脳がショート寸前だ。
ゆっくり離れていった朧くんは満足げだった。
「これはもう少し先か」
「も、もうしちゃってるじゃん…」
「ふふ」
朧くんが笑ってる。
笑顔が一番素敵だなぁ、なんて思いながらきっと真っ赤になっているだろう自分の顔を見せないように彼の胸に飛び込んだ。
親愛度あれそれ おわり