ホホエミ大作戦!
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「笑顔って、素敵ですよねぇー」
「は?」
私が呟けば、飛段君が「何言ってんだー?」と茶化す。その隣では、角都さんが静かに新聞を読んでいる。いつもの光景だ。
「私、思うんです。いくら浸りきった日常であろうと、それに満足しきって成長をとめるなど愚の極み!少しでも不満違和感及び改善点を見付けたならば、それらを解消するため尽力すべきだと!」
「……角都ゥ。名前が何か難しい事言ったぜ」
多分、私が言った事の半分も理解していない飛段君が、角都さんに助けを求める。
角都さんはそれを無視して、新聞をたたむと立ち上がり、自室へ戻ってしまった。
「角都は相変わらず愛想が無ェよなぁ。で、さっきのは何なんだよ?」
「だから、私は現状に飽き飽きしちゃったんです」
「つまり」
「…………角都さんの笑顔が見たい」
「へっ?」
「角都さんが笑った顔が!見たいんです!」
飛段君は、まさに「ぽかん」という表現をするにふさわしい表情をしていた。が、すぐにいつも通り、げははと笑う。
「なーんだそんな事かよ!角都ならいっつも笑ってるじゃねーか!賞金首殺したときとか!」
「いえ、そういう邪悪な笑みではなく」
まあでも、邪悪な笑みが無しと言うならば、暁のみんなは中々笑ってくれないという事になる。サソリさんとか。
「でも、何かこう……ありませんかねぇ。少女漫画やらでよくある、ふっと零れる笑み、と言いますか」
「そりゃ難しいなぁ」
「……試してみる価値はありそうですね」
「ん?」
「何をしたら角都さんが笑うのか」
「面白そう」
「はい決まり!」
飛段君はノリが良いから助かる。
そんな訳で我々は、「角都さんを笑顔にする会」を発足したのであった。
「手段としてはやはり定番!くすぐってみましょう!」
高らかに宣言すると、何とあの飛段君が、一歩身をひいた。
「おや、怖気付いてんですか?」
「ンな事したらおめー、死ぬぞ」
「やだなぁ私がやるわけ無いじゃないデスか。勿論、実行犯は飛段君ですよ?」
「やっぱりかよ!何となくそんな気はしてたんだよなー」
「へえ、私の考えが分かってたんですか。お馬鹿のクセに中々」
「お前さぁ、さりげなく罵るのやめねぇ?」
だって飛段君がお馬鹿なのは、100人集って100人が肯定する程、つまり火を見るよりも確かなのだ。
彼も自分の馬鹿さ加減を否定出来まいに、それでも飛段君は不服らしく拗ねたように口を尖らす。
「俺、やだからな」
「えぇー!良いじゃないですか死ぬわけじゃなし!」
「死んっ…………………………………………………………死なねえけど!」
ほら死なないんじゃん。
「ねぇねぇ行きましょうよ!取り敢えず戦地に!赴きましょう!」
嫌がる飛段君を、私が引きずり連れていく。これは中々珍しい光景だ。目指すは勿論、角都さんの部屋。任務が無い日はこの時間なら、角都さんは帳簿の整理をしている筈だ。
まずはドアをノック。返事は無い。角都さんは居ようと居まいと返事なんてしないから、これもいつもの事だ。
「かーくーずーさーーん」
そっとドアを開けると、角都さんは振り返らないままで「名前か」と呟いた。ちょうどマスクはつけてないみたいだ。これなら表情までよく見える。
「それと、飛段。何の用だ?小遣いなら増額せんぞ」
「いえ、そのようなご相談ではなく……」
今だ飛段君、やれ!
と、小声で指示を出すと、腹を括ったらしい飛段君は「角都、覚悟ーー!」とか言いながら角都さんに飛び掛かって行った、が。
「……で、何をしようとしていたんだ?返答内容によっては握り潰すぞ」
「ごめんなさいごめんなさい勘弁して下さい」
ちなみに角都さんが掴んでいるのは私の頭だ。
握り潰されてはたまらない。いや、たまらないっていうか、割と冗談抜きで死ぬ。
「飛段君けしかけて、角都さんをくすぐろうとしてたんです」
「ほう……何故そんな事を?」
「痛い痛い痛いです角都さん!頭!頭!」
当たり前だ、痛くしている。なんて涼しげに言う角都さんからは、余裕しか感じられない。
ちなみに飛段君は、さっき角都さんに飛び掛かった際に見事に返り討ちに合い、壁ぎわまで吹っ飛ばされて悲惨な事になっている。助けてあげたいが、今は私も危機的状況なんだ。
「ごめんなさい角都さん……全ては飛段君が言い出した事なんです」
「オイ名前コラァ!!!」
チッ、起きたか。
「あっ飛段君、無事でしたか」
「おう、無事無事……じゃなくてテメェ!今全てを俺のせいにしようとしたろ!」
「やだなぁそんな酷い事する筈無いじゃないデスかぁ…………はぁ、はいそうです全ては私の差し金でございますぅ」
不貞腐れながら形だけの謝罪をすると、角都さんのチョップが脳天にめりこんだ。多分、手加減はしてくれてるんだろうけど。
「いっっっったーーーーい!!!」
「馬鹿な事を考えるからだ」
「飛段君ー!角都さんが酷いですよう!」
「おっ名前泣くのか?泣き顔見せてみろよ泣き顔」
「飛段君のばぁーか!」
くそっ相変わらずロクな事考えないヤツ!
飛段君に泣き顔なんか見られたら、絶対誇張されつつ暁中に拡散されるに決まってる。つーか泣いてないし。
「で、お前たちは何をしようとしてたんだ?」
「え?いや、だから角都さんをくすぐろうと」
「それはもう聞いた。ならば質問を変えるぞ。何故そのような馬鹿な考えに至った?」
「え、あー……」
言うべきか、否か。
言ったら怒られそうな気がするなあ。角都さんの笑顔が見たかったなんて。我ながら馬鹿らしいと思うし、角都さんにしてみれば尚更だろう。
「…………秘密です」
「そうか良い度胸だ」
「ちょ、いたたたた!角都さん握力!握力!」
「まだ強くなるぞ」
「頭蓋骨耐久レース!?ごめんなさい言います!言います!」
ようやく解放された頭をさすりながら、ちらりと角都さんを見上げる。出来ればはぐらかしてしまいたいんだけど、絶対零度の冷たさで見下ろしてくる角都さんを見る限り無理だろう。観念するしかない、か。
「…………笑った顔、」
「…………」
「角都さんの笑顔が見たかったんです!純粋な!笑った顔が!」
「……………」
「え、ちょ……何で言ったそばからマスクつけるんですかー!」
意地悪だ!この人は根本的に意地悪なんだ!
「だからくすぐったら笑うかと思ったんですー!笑って下さいよォー!」
「煩い黙れ」
相変わらず私の頭を押さえ付けながら、角都さんは再び帳簿へと向かう。
「チクショー飛段君!相方のキミからも、何か言ってやって下さいよぉ」
「取り敢えず起こしてくんねェかなー。骨ボッキボキで立ち上がれねぇんだわ」
「相変わらずオカルトな身体してますね。ゾンビが伝染りそうなので嫌です」
「伝染らねーよ!」
「知らないんデスか飛段君!ゾンビってのは僅か数日で全米に蔓延するんデスよ!」
「何の話だよ!」
B級パニック映画の話だよ。
そもそも、ちょっと触っただけで痛がる人間を、どう運べって言うんだ。この際言っておくけど、私は髪の毛掴んで頭部を運ぶようなドSと違うんだから。
「治りは早いんでしょう?治るまで安置しましょう。色々アレですがまあ何とかなりますよ」
「ならねーよ!おい角都ゥ、助けろよォー」
飛段君がいつものように救助を求める。っていうか、自分に危害を加えた張本人に頼むっておかしくないか。今更だけど。
「自業自得だ、しばらくそうしていろ」
「ほとんどアイツのせいじゃねーか!なあ角都ゥー!」
「何が私のせいですか。実行犯は飛段君でしょう」
「唆したのはテメェだろ!」
「そんなの関係ありまっせーん」
チクショー覚えてろよ!と、飛段君が喚く。
まあいつものパターンだと、私が覚えていたところで、先にすっかり忘れてしまうのは飛段君なのだけれども。
「ハイハイ、じゃあ飛段君の記憶中枢が、いつもより良い働きをしてくれる事を期待しましょうね」
「何言ってんだお前」
「そもそも飛段君は攻撃が直線的すぎ……る、」
「ん?」
「……………」
「どうしたんだよ?間抜けな顔して」
「いえ……」
なーんか、視界の隅で角都さんがちょっぴり――ホントにちょっとだけ、笑ったような気がしたんだけど。
「……気のせい、デスかね角都さん」
「何がだ?」
「えへ、」
ニヤつくと、気持ちが悪いと一蹴される。
マスクの向こう側だったからよく分からなかったけど、まあ。
ちょっぴり人を馬鹿にしたような、アレが角都さんの笑顔なんだって。
(そういう事に、しときましょう!)
→御礼
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