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探偵ワトソンは眠らない



#3 探偵と密室(解決編)








本部棟から渡り廊下を渡った先にある特別棟。その最上階である3階の一番奥、そこには使われなくなったら図書室がある



現在は別館として図書室が作られたためにお役御免になったのだ

殆どの本が別館のほうに移されたが、あまりにも古い本なんかはまだそこに残されている

まぁ正直、薄暗いし埃っぽいし誰も来たいとは思わないところであろう



そんな図書室の一番奥の机の右から2番目の椅子に彼はいつも座っている



黒髪赤目で白衣を着た彼は僕に気がつくと心底嫌そうな顔をした


『やぁワトソン君。事件だよ!』


「またお前かよ……面倒事は嫌いだって言ってんだろ…」


ワトソンはチッっと舌打ちを打つ

せっかくホームズが謎を持ってきてやったのだ

少しくらい歓迎してくれてもいいじゃないか



「まずその呼び方をやめろ。和戸さんと呼べ。いいな」

『えーいいじゃないですか!ワトソンで!!先生のいいあだ名だと思うんだけどなぁ』


彼の名前は 和戸壮哉

わとそうや、わとそう、わとそん!、ワトソン!ね!ピッタリだと思うでしょ?!
まぁそれ以外にも僕が彼を"ワトソン"と呼ぶのには理由があるがあるんだけど…



「よくねぇよ!!あとな、その先生ってのもやめろ。俺はもう先生じゃ無い。お前の先生だった事も無い」

『でも前は先生だったじゃないですかぁ』

「今は違うだろ」



ワトソンが鋭い眼光でこちらを見る
はぁ仕方ないなぁ、と言うように僕はため息をつく


『分かりましたよワトソン"先生"♪』


「チッ…てめぇ、喧嘩売ってんだろ…話聞いてやんねぇぞ?どうせまた手詰まりして泣きつきに来たんだろう?」


『違いますよ!!ふふっ、今回は僕、ちゃーんと考えて来ましたよ……!だから答え合わせをしようと思いまして!!そんな事言っちゃって、ワトソン先生も、本当は話聞きたいんですよね?』



ふふふっ、と挑発すればワトソンは明らかに苛ついた顔をする。が、すぐに諦めた表情をしため息をついた


「分かった分かったよ、良いよもうワトソンで。だからさっさとその話聞かせろよ、ホームズ君?」

ワトソンがニヤッと笑いながら言う


『んふふーそうこなくっちゃ!今回は密室殺人事件なんです!』


そう言って僕はこれまであったことを説明した。





______




「ふーんなるほど。密室、壊れた石膏像、開いた窓、ね。で、名探偵の見解は?」


『僕はまず犯人の侵入方法を考えたんです。ドアからと開いた窓から。ほかにもベランダや準備室を通るとかもあるけど完全に施錠されていて不可能。開いてた窓は一番現実的な方法だと僕は思っていました』


「思っていた?今は違うのか?」


『はい。どうやってもあの3人には不可能。入れない。開いた窓から何らかの攻撃をダニエルに加えるというのも無理。そこで僕は推理したんです。犯人は正々堂々、ドアから入ったのではないのかってね!』


「でも君は見ているんだろう?ドアの鍵が閉められたところも、開けられたところも。それがフリだったとでも?」


『あれは本当に閉められていました。でも僕、先輩が鍵をちゃんとあるべき場所に返したかどうかは知らないんですよ』



「ほォーなるほどな」



『そう、あのとき先輩が職員室に返したのは美術室の鍵じゃない。僕の自転車の鍵だったんですよ』


人差し指を立てて僕は言う。鍵がなかったのは落としたからではなかったのだ


「でもその後その先輩とお前はずっと一緒だったんだろう?鍵を持っていたところで何ができるんだい?」

『持っていたのではなかったんです。きっとどこかに隠したんです。共犯者に渡すために…』


「ふーんつまりは、お前と先輩が戻ってくるまでに共犯者が美術室の鍵を入手。
そして開け、石膏像を壊し、また鍵を閉め、予め決めておいた場所にでも鍵をおいておく。
そうすれば先輩がその鍵を回収し、あたかも職員室から持ってきたかのように振る舞うことができる。本当に持ってきたのはお前の自転車の鍵なのに。
まぁお前の自転車の鍵はそのあと机の上に放り投げておいた、と、いうことかな?
でもどうしてそんな面倒くさいことをしてまで石膏を壊したんだ?怒られるのは先輩なんだろう?」


『そんなこと決まってるじゃないですか、密室にしたことの最大のメリット……それは……ダニエル君の自殺に見せかけるということ……
そしてそうする理由はただ一つ。実花ちゃんです。
実花ちゃん、ダニエル君が死んだって知ったときすごく悲しそうな顔をしたんです…だからきっと彼女、ダニエル君が好きだったんですよ…だから諦めさせるためにダニエル君を自殺に見せかけて殺した。
全て先輩が僕にモデルを頼んだときから仕組まれていた事だったんです。共犯者は恐らく秋沢先輩。
一番最後に帰ってますからね。超怪しいです。
さぁこれが僕の推理です。どうです?完璧でしょう?』



どうだとばかりに僕はワトソンを見る

ワトソンはニヤッと笑い、手を叩きながら言った

「ふん、とんだ"メイスイリ"だなホームズ君」

『名推理?つまりワトソンもそう思ってるって事……』

嬉しそうに僕が言おうとした言葉をワトソンが遮る

「んなわけあるか!!迷推理だよ!!迷うほうだ。驚くほど全て外れてんだよ!大体なんだよ自殺に見せかけるって…石膏像が自殺とかありえねぇだろ!」

ツッコミどころありすぎなんだよ、お前の推理は!!とワトソンが苛立ちながら言った

『んな…!!だって、だってダニエル君を殺す動機なんてそれくらいしか無くないですか!!!』

僕は驚き、ワトソンな詰め寄る。この推理、結構自信あるんだぞ!!昨日夜なべして考えたんだぞ!!7時間寝たけど!!


「あ゛??動機なんて必要ねぇんだよ、これは計画的な犯行じゃねぇんだから」


は???ますます意味かわからない。衝動的な犯行ってこと??そんなんで密室が作れるわけないじゃないか


「そもそも、たかが石膏の像1つ壊すためだけにこんな計画するかよ。アホかお前は」


アホ?!聞き捨てならない言葉に僕は言葉を荒らげる。


『じゃあ犯人はダニエルの殺害以外に目的があったってことですか!!!?』

「ああそうだよ。むしろ壊すつもりはなかったと言ったほうが正しいな」


壊すつもりはなかった…??


『じゃあなんの目的で犯人は鍵の閉まった部室に忍び込んだんですか?先輩が描いた僕の絵が見たかったんですか?』

「ちげぇよ。犯人は忍び込んだんじゃない。最初から居たんだよ密室の中にな」


え……最初から居た??
全ッ然理解できないんだけど


『つ、つまり…??』


「まだ分かんねぇのかよ?じゃあお前があの美術室に閉じ止められたと仮定しよう。出入り口を使わず脱出しなければならない。さぁどうする?」

『そんなの決まってるじゃないですか。椅子を使って、廊下側の上の窓から脱出!』

「じゃあそれでも届かないほど高い位置に窓があったら?」

『んーじゃあ机を使います!』

「それでも届かなかったら?」

『えっと…梯子?』

「…梯子なんてあったか?」

『なかったです。えっとじゃあ何を使えば……』

「あっただろ。お前の身長より高くて登りやすそうなやつ」

『えっと……あっ!!』


………っなるほど…!だからか…


「はぁやっと気づいたか。そう。犯人は踏み台にあの石膏像を使ったんだよ。
よく思い出してみろ。両手を腰に当てていただろう。そこに足を掛ければ簡単に肩の部分まで登れる。便利な踏み台だな。
犯人はそれでなんとか窓まで上がれた。しかしそのときに足で蹴飛ばして倒してしまったんだろうな。そして倒れた衝撃で運悪く首が折れてしまった」


だから"壊すつもりはなかった"か…

そしてそんなことをする必要がある犯人なんて一人しかいない




「そう、犯人は石膏像に乗らなければ窓に届かないほど小柄な人物。加賀野実花しか居ねぇんだよ」


『でも、ちょっと待ってください!彼女は2番目に帰ったじゃないですか!それにどうしたらあの窓から脱出する状況になるんですか?』

「分かった分かった、順を追って説明してやるよ。頭の悪いお前にも分かるようにな」


ムカつく言い方に僕はイラッとしながらも無言で頷く。クソッさっきの仕返しをしてきてやがる……


「柳田が帰った後、加賀野実花は寝てしまっていた。机の影で。
そして秋沢が加賀野が帰ったと思い込み帰る。
そして、高槻とお前も加賀野に気が付かずに帰る。まぁ、お前らは入り口付近にいたからな。奥の方なんてチラッとしか確認しなかったんだろう。
そして鍵を閉めて密室に閉じ込められた犯人の完成だ」



なるほど、秋沢先輩の誤解に実花ちゃんが話を合わせていたのか…
納得する僕の前でワトソンは続けた。



「お前らが帰った後すぐに加賀野は目覚めたんだろう。さぞかし慌てただろうな。急いで帰らなければ怒られてしまう。なのに入り口には鍵。
普通はそのまま中から鍵を開けて出ればいい。でも彼女はそれをしなかった、いや出来なかったんだ」



出来なかった?鍵の開け方くらいわかるだろうし……
不思議そうにする僕を見てワトソンは言った。


「加賀野は嫌だったんだよ。部長の高槻が美術室の戸締りがちゃんとしていないことで怒られるのがね」



あっ、と僕は声を上げる。

桜先輩は秋沢先輩の戸締り怠慢で先生によく怒られると言っていた。これは実花ちゃんも知っていることだ。

そして、実花ちゃんが1年生で鍵がおいてある場所を知らないだろうことや、真面目で優しい性格であるだろうかとを考えると、きっと入り口のドアからは出られないだろう。
出れば、閉める方法がないからドアの鍵は開けっ放しになり、桜先輩が怒られてしまう……



「そう、そこで加賀野は例の窓から出ることを決めたんだろう。窓なら開いていても気づかれない可能性が高い。
しかし、彼女の身長や力じゃ簡単には出られない。そこであの石膏像だ。それを足場にして窓に登ったんだろう。そして窓に乗り移り出ることができた。
だが、そのときに足場を蹴飛ばしてしまい、倒してしまった」


『そうか、だからダニエルが死んだって、首が折れたって知ったとき悲しそうな顔をしたんですね……倒したことはわかってもダニエルがどんな状況かはその時は分からなかったから…』


「そうだ。これが事件の全容だな」


『でもどうしてワトソンは気がついたんですか?三人の帰った順番が違くて、実花ちゃんが犯人だって…秋沢先輩がやったって事もありえますよね……?』


「そんなの簡単だろ、柳田はあの窓をデカすぎて通れない。秋沢は前にも施錠し忘れたことがあるくらいだからきっと気にせずドアから出るし、鍵の場所くらい知ってる。そうなったら加賀野しかいない。極めつけは、説明してないのに加賀野がお前が自転車の鍵を美術室に忘れたことを知っていたからだ。高槻は結構適当に説明していたからな。事実、秋沢は意味が分からなそうにしていた」



なるほど…
全てに納得しスッキリした顔の僕にワトソンは言った。



「これで満足かな…?ホームズ君?足りない頭脳でもちゃんと理解できたか?」


したり顔でワトソンが言う。
ほんっと頭はいいのにいちいちムカつくんだよなぁコイツ。


『ふん助手の癖に偉そうにしないでください。心配しなくてもちゃーーーんと理解してますよ。ワトソン君』


苛立ちを押し殺し僕は言う。


「すまないね、助手としてホームズ君のアホさが心配でね」


カチン。流石に頭に来た僕は言う。


『ほんっと口が悪い助手ですね。1回死んで頭を入れ替えてほしいくらいです』


そう言い僕は手でピストルの形を作りワトソンの額に突きつける。



「それは無理な相談だ。生憎俺はもう死んでるんでね」


これ以上どうやって死ねと言うんだ。
そう言うかのように立ち上がり、彼は両手を広げる。

その拍子に僕の手は彼の身体を貫通する。
 



そう、彼は幽霊なのだ。もう死んでいる。




「ちなみに、お前が自転車の鍵を落としたのは仕組まれたものではない。ただの偶然だ。ったく…ドジなホームズだこと…」


ハッっとバカにするように笑いワトソンは言った


『仕方ないですよ。"名"探偵にはハプニングはつきものですから』

「名、探偵ね……"迷"探偵の間違いだろ…」


ワトソンがボソッと言う


『えっなんか言いました?』


威圧するように僕は言った。まぁ聞こえてたんだけどね。


「いいや、何でも無いですよ。"名"探偵」


ため息混じりにワトソンは言った




夕暮れの紅い光が窓から差し込み僕らを照らす

その光が図書室の床に一つの影を落としていた

彼、和戸壮哉はもうこの世には居ない
しかし彼は僕だけが知る世界で生きている




僕の"助手"として______





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