ぱろっ
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桃色の花びらがちらつく視界の中、彼は彼女に恋をした。
名前も年齢も知り合いですらない初対面であったが、間違いなく彼は自信をもって恋をしたと言えた。
「あのっ好きです付き合ってください!」
だから彼女にすぐに告白をして、逃げられた。
「あぁ、それで落ち込んでるんだね」
「…」
「いきなりは流石にまずかったかもね…」
「うっ」
賑わう食堂で苦笑いの青年と机に伏せた青年は話をしていた。
「それで?そのあとその人は見つかった?」
「全然…ていうか大学の人なのかも知らないし…」
「でも門前で見たっていうなら可能性はあるよ!元気だして!」
「ソラ…」
伏せた青年に呼ばれたソラという青年は肩を叩いて励ましている。
彼らは大学に入学した新入生であった。その入学した数日後に前述した事件を起こしてしまったのだ。
「トキ、その人の特徴教えてよ。僕も探してみるから」
「本当!?えーとね…」
伏せていた青年、トキは勢いよく起き上がり、女性の特徴を教えていく。先ほどの落ち込んだ顔とは変わって嬉しそうに、少し興奮した顔であった。
「わかった。女の子の知り合いがいるから、その子にも聞いてみていい?」
「助かる!ありがとう!」
「どういたしまして」
トキは感動してソラの両手を握って謝辞を述べる。彼は彼女のことが諦められないのだ。
「でも、一目みて好きになったなんて、一目ぼれだったの?」
「…そう、です」
「へー!そういうのって本当にあるんだね!」
「僕も全然信じてなかったけど、まさか自分が当事者になるなんて思わなかったよ…」
恥ずかしそうにトキは頬を赤らめながら視線をずらした。ソラはニコニコ笑いながらそれを見る。
二人は食堂で食事をとると、それぞれ取った授業に出席するために一旦別れた。広い大学に未だ慣れない道はまるで迷路のようである。
やっとの思いで教室にたどりつくと、トキは後ろの席を選ぶ。そして単位のために足を運ぶ生徒を怪しまれない程度に盗み見をする。
「…いない」
探している女性がいないかを見つけるために、彼は後ろの席をとったのだ。授業の見やすい見やすくないは今のトキにとって二の次であった。
しかし変わらず目的の女性は見つからず肩を落とした。
簡単に見つかれば苦労はしないのである。
その日の学校ではトキもソラも見つけることはできないまま帰宅時間になった頃であった。
「ねぇ、聞いていい?」
「なに?」
「トキは、その女性が見つかったらどうするの?」
「えっ」
ソラの質問にトキは固まった。
考えていなかったのだ。彼女に再び出会うことにしか意識がなかったのである。確かに、初対面の彼女にまた会ったところでどうしたらいいのだろうか。
「あ、謝る!いきなりだったし…怖かったと思うから…」
「それで?」
「それで!?えぇと、えーと、友達から、お願いする…?」
「そっかぁ…」
「えっえっ僕何か間違えたかな!?ダメ!?」
「違うんだ。ただ僕が気になっただけで…ほら、せっかくまた会えても印象悪くて二度と会えなくなった、とかになったら嫌だろう?」
「それは、そう…」
「僕もトキのことは応援したいし、できれば叶ってほしいからね」
ソラの言葉に、トキは真剣に考えた。彼女と付き合うためには出会うだけでは駄目である。印象も彼女の好みも把握し、女性が喜ぶようなものもリサーチせねばならない。彼の場合特に第一印象が悪い。
「ど、どうしよう…!僕と話してくれるかな…!?」
「落ち着いてトキ、大丈夫だよ!まず、さっき言ったみたいに謝ってみよ?ね?」
「うん…」
また会えるかどうかもわからないのに、トキは彼女に出会ったことを考えてどんどん不安になっていってしまった。ソラはトキを慰めながら一緒に帰路についた。
大学生になってから一人になったトキはまだ物が少ない鮮やかな部屋で恋をした相手のことを考える。たった数分の出会いでしかないが、彼にとっては忘れられない時間であった。
「はぁー…」
考えれば考えるほど心は高鳴り、締め付けられていく。何もかもが初めての感情である。トキはもう一度深くため息をついた。
「どうしよう、話したこともないのに、こんなに好きなんて」
もし彼女と付き合えたら、自分はいったいどうなってしまうんだろう。
不安と期待が同時に押し寄せて彼の心をかき乱す。
「まずちゃんと謝らないとなぁ…うー…」
彼の不安を受け止めるのは返事をしない枕だけであった。
運命というのは悪戯なもので、彼の心とは関係なしに突然くるものである。
「えっ見つかったの!?」
「うん、友達の友達が友達だったよ」
「う、うん?友達の…?」
「一応間違いないか遠くから見てもらおうって話しになってるけど…」
「見る!見る!!」
「じゃあ伝えておくね」
「ありがとう!本当にありがとうソラ!そのお友達!」
まだ探してる本人かわからないのにトキはお礼を何度も言っていた。ソラはスマホからメッセージを送っている。
「今日のお昼、食堂に連れてくるって」
「わ、わかった!」
突然の朗報にトキの心臓は苦しくなってしまった。あの時の彼女に会えるのかもしれないと思うと、嬉しい気持ちが抑えられそうになかった。
昼時になるまで、彼は授業が頭に入らなかった。
なんて言おうか、なんて謝ろうか、なんて顔すればいいんだろうか。
そればかりが頭の中を埋め尽くしていく。
午前中の授業等これっぽちも頭に入らずに、トキにとって長い時間を過ごした後、まっすぐ食堂に向かった。
「トキ、大丈夫?」
「だ、だだっだいじょーぶ!」
「リラックスして!肩あがってるよ!」
「りらっくしゅ…」
「確認するだけだから!話かけたりしないから!」
「そう、だよねっ確認だけ、確認だけ!」
食堂に来たソラはがちがちに固まったトキの緊張をほぐそうと揺らしたり、肩をもんだりとしている。おかげか多少は緩んだようで、大きく深呼吸をしていた。
「あ、あの人たちだよ」
「どこ!?」
「ほら、あの3人の」
「3人…あ」
ソラの言葉と小さく指をさした方向を勢いよく確認する。
「あっ…あの人」
「合ってる?」
あの人だ。
トキは視線の先の人物から目が離せなくなった。あの時見た彼女だと彼は確信した。
「トキ、トキ!」
「ぁ、あの、あのひと、あぅっ」
「間違いなさそうだね」
彼は見ただけで体が熱くなった。また心が締め付けられた。涙が出そうになった。でも、どれも全部嫌ではない。
「ぼ、ぼく」
「見つかってよかったね!」
ソラの言葉にトキは無言で強くうなづいた。
「じゃあ僕その人とどうにか会えるように話をつけてくるよ」
「いいの!?」
「もちろん!友達だろ?任せてよ」
雰囲気がゆるやかなソラだが、彼は意外としっかりとしている頼りになる青年だった。トキは本当に良い友達をもったと思った。
「後で何かおごるねぇ…!」
「いいよそんなことしなくても」
うれし泣きしそうなトキをソラは笑って、その場に残した。そして示し合わせたように一人の綺麗な女性がソラに近寄り、一緒に3人のところに向かった。
それから何か会話を始めたが、にぎやかな食堂ではそれを聞き取ることはできない。視線をちらりと寄こされた、残りの人たちも、彼女も視線を向けてきた。
トキは一瞬で固まり、何もできずにその場で待っていることしかできなかった。
暫く待っていると、ソラだけが戻ってきた。
「トキ、16時くらいなら会えるって言ってたけどどうする?」
「え?なにが?」
「あの子、トキと会って話してくれるって言ってたよ」
「え」
聞き間違いだろうかと自分の耳を疑った。
「トキと、会っていいよって!」
「えっえっ!?嘘!?ほんと!?なんで!?」
「そこは直接聞いてよ。ほら、どうするの?」
「会う!絶対会う!何があっても会います!」
「よーし!」
トキの返事を聞いて、ソラは遠くにいる彼女たちにサインを送った。すると女性たちは笑って彼女に話したり、笑ったりと楽しそうにしているが、肝心の彼女は深くお辞儀をするだけだった。
またしても長い時間を超えて16時の食堂にトキは一人で座っていた。この時間帯は人がまばらで空いている。探せば彼女はすぐに見つかるだろう。
彼は落ち着かずに食堂の出入り口を何度も確認したり、自分のスマホの時間を見たりと忙しい。
「…あのぅ」
「はっはい!!」
スマホの時計を見ているときに声をかけられ、トキは思い切り立ち上がり、椅子を倒し、並んでいる椅子にぶつかって倒れた。
「だっ大丈夫ですか!」
「あ、あの、すいませんだいじょうぶです!」
痛みでぼやける視界には、待っていた彼女がいた。トキはすぐに立ち上がって返事をする。
驚いている彼女は視線を少しだけ泳がせた。
「えと、その、あの時はすみませんでした!」
「あの」
「はい!」
「とりあえず、椅子とか、戻しませんか?」
散らばった椅子と、まばらではあるものの人の視線の中であったことを、彼はこの言葉で思い出した。
すぐに椅子を戻し、深呼吸をして彼も彼女も座った。
「えっと、謝りたいって聞きまして」
「そうです!急に、そのっ…こ、こくはくなんて…っ!」
「あぁ…」
「知らない初対面で、いきなり言っちゃって、怖がらせちゃったって思って…」
緊張で声が裏返りながらも、なんとか言葉を吐き出す。段々自分がしでかしたことを振り返り、落ち込んでいく。
「本当にごめんなさい…」
最後の言葉は小さく、か細いものだった。
それでも彼女には聞こえたのか、首を横に振った。
「確かに怖かったけど、ちゃんと謝ってくれたから、もういいです」
「怖かったんだ…」
「まぁ…」
「はぁー…ほんっとにごめんなさい」
好いた人を怖がらせた事実がトキにとって心に違う痛みを与えた。そんなことをしたかったわけではないのに。
「じゃあ、もうこの話はいいですよね」
「あ、」
「わざわざ、ありがとうございました」
「あのっ!」
「何か?」
「僕と、友達になってください!」
謝罪が本当の目的ではない。別れそうな雰囲気をトキは壊した。この機会を逃してはいけないと魂が叫んだ。
「おこがましいと思うけど、君と友達になりたいんだ!告白のことは一回忘れて、友達に、なってほしい…」
「ともだち…」
「やっぱり、ダメかな…」
「まぁ、友達なら」
「本当!?」
「は、はい」
「やっったぁ!!」
彼女の返答にトキはまた椅子を倒しそうになった。彼女とまだつながりが切れないことが嬉しかった。彼女とこれからも会話できることが嬉しかった。
「えっと!Rain交換してください!」
「はい」
「あ、あーと、僕トキって言います!」
「ナナです。よろしくお願いしますトキさん」
「お願いします!」
アドレスを交換し、今度こそ彼女、ナナは席を立っていなくなった。残されたトキは自分のスマホの中に彼女のアドレスがあることをじっと見つめて、何度も夢ではないことを確認する。
「ナナ、ナナ…あの人の名前…っくー!」
うわごとのように何度も彼女の名前を反芻し、頭に、心にしみ込ませる。実感が沸けば、顔も体も熱くなって胸が締め付けられていく。幸せがあふれてどうにかなりそうである。
ソラが様子を見に来るまで、トキは食堂で溶けていた。
翌日から、トキの大学生活は大きく変わった。ナナに拙いながらもチャットで会話をしたり、見かければすぐに駆け寄って授業で別れるまで共にいた。たまに彼女の友達や、ソラといることもあった。
桃色の景色から若草の景色に代わるころのことだった。
「っはぁ!…はぁ、はぁ…」
夜、彼は飛び起きた。
息があがり、脂汗がひどい状態である。
「…また、変な夢」
どうやら夢見が悪かったようだ。夢だとわかれば安心するが、見て気持ちのいいものではない。
「さいあく」
彼は汗を乱暴にぬぐい、呼吸を整えて再びベッドに戻った。
「トキ、大丈夫?」
「え?」
「最近顔色悪いよ」
図書室でナナとレポートの約束をしたトキは、集合時間になってナナと会っていた。
すると彼女から顔色の悪さを指摘されたのだ。
「そ、そう?」
「うん」
「夢見が悪いからかな…ごめんね、別に病気とかじゃないから」
「…」
心配する彼女に大丈夫というが、ナナは当然納得しない。
「夢見、悪いの?」
「うん…蒸し暑くなってきたからかな…あはは」
「…もしよかったら話聞くよ」
「大丈夫だよ!」
「ちょっと話せば楽になるっていうしさ。どう?」
「うーん…」
純粋に彼女に心配されるのが嬉しかった。
嬉しさと、納得しなそうなナナを見て、トキは少しだけ夢の話をすることにした。
「あのね、人が死ぬ夢見ちゃうんだ」
「…そう」
「いつも僕が近づくと倒れてる…ほら、こんな話やめよう?暗くなっちゃうよ」
「…無理に聞いてごめんなさい」
「どうして?ナナは何も悪くないじゃないか。心配してくれたんでしょ?」
「そうだけど、そうね…」
ナナの反応と空気を感じて、やはり話すべきではなかったと反省をした。すぐにこの空気を払拭するように話題を変えようとする。
しかしナナは神妙な顔をしていた。
「ねぇトキ」
「何?」
「そんな夢、忘れちゃっていいよ」
「え?」
「嫌な夢は忘れちゃうのがいいって事」
「…そうだね!」
彼女の励ましを素直に受け止めた。
「さ、レポート書かなきゃ」
「よぉし頑張るぞ!」
それ以来、ナナとのやりとりの頻度が下がっていった。チャットを送っても反応が悪く、校内で出会っても長く共にいることが減ったようにトキは感じていた。
「だから僕に相談しにきたの?」
「やっぱり夢の話したからかなぁ!?気持ち悪いもんね人が死ぬ夢なんてさ!うわぁぁやっちゃったどうしよう!」
夏休みに入る前。食堂でソラにトキは泣きついていた。
「でも嫌いとか言われたわけじゃないだろ?」
「いわれてないけどそういう空気だったよ絶対!」
「うーん…荒れてる」
「もうダメだぁナナに嫌われたぁ!告白する前に振られたぁ!」
「早いよまだ」
まるでお酒で酔いつぶれたように泣き出した彼をソラは慰めながら悩んだ。トキが彼女の嫌がることをするわけがないと信じていたためである。
「ちゃんと話したらいいよ」
「僕のこと嫌いって聞くの!?いやすぎる…!」
「そうじゃなくてさ…いやそういうことか…」
「うわー!いやだー!」
「でもこのままじゃよくないよ」
「そうだけどぉ…そうだけどぉ!」
トキはぐずぐずになってしまった。
「とにかく、ナナの口から直接聞かないことには始まらないよ。男は度胸だよトキ!」
「…ぐす」
「先に進むためには、壊す勇気も必要なんだよ」
ソラは静かにそう言った。
その日の夜、また夢を見た。
また人が死ぬ夢だ。
でも
あれ
あの人は
だめだ
そのひとはだめだ
そのひとだけはだめだ
かのじょだけは
「駄目だ」
彼は起きた。いつもより酷く静かに、しかし苦痛が一番強かった。
汗も息切れもないはずなのに、一番心が痛む夢。
「…どうして」
彼の苦痛を受け止めるのは返事をしない枕だけだ。
トキはすぐにスマホを手に取り、文字を打って送信する。返事が来ないとは思っているが、それでも送らずにはいられなかった。
そこから眠れずに、朝日を迎えた。もちろんスマホに連絡はないし、夢は夢のままである。
「…」
無言でトキは身支度を整えて、一人の女性へと電話をかけた。
何コールかぐらいに電話はつながった。
「もしもし?」
「ナナ?」
「はい」
「…あの、今から会えないかな」
「え?」
ナナの反応は当然だった。朝いきなり電話をかけられて、会いたいなんて言われれば戸惑いもする。しかし
「…大学で、待っててくれる?」
「いいよ」
「30分後には、着くと思う」
「わかった。待ってる」
ナナはすぐに受け入れて会う約束をしてくれた。トキは彼女の声に安心して小さく息を吐いた。電話が切れると、彼はすぐに外に飛び出して大学へと向かう。
誰もいない大学は驚くほど静かである。なるべく日陰になるところを選び、ナナを待つ。
「トキ」
少し待てば、約束通りにナナが来た。
「ごめんね、急に呼び出して」
「ううん。何かあったんだよね」
「…わかる?」
「声が、真剣だったから」
一定の距離を保ち、二人は会話をはじめた。
「あのね、夢を見たんだ」
「あの夢?」
「うん、でも、今日は、ナナが死ぬ夢だった」
「…そう」
「その夢があまりにもリアルすぎて、夢だと思えなかった」
「…」
「ナナ、あのさ」
「トキ」
彼の言葉をナナが遮った。
「私と、離れてくれませんか」
「え?」
「友達じゃない、知り合ってもない最初のころになりたいの」
「なん、なんで!?やっぱり僕のこと嫌いだった!?」
「ううん、嫌いとかじゃないの」
「じゃあなんで!」
酷い言葉を伝えるのに、ナナは笑顔だ。
「あなたに、幸せになってもらいたいから」
「…どういうこと」
「ねぇ、私と会わない期間は、夢見は悪かった?」
「……いいや」
彼女の言葉で思い出す。あの時は人が死ぬ夢なんて見なかった。今考えると不思議だ。
「やっぱり、そうなんだね」
「なんのこと?」
「私と一緒にいないほうがよかったんだ」
「ねぇナナ」
「…勝手なことばかりでごめんなさい。もう、あなたと関わるのやめます」
「だからっ」
「さようなら」
手を掴む。
「僕の幸せは、ナナと最初に出会ったときに言ったはずだよ」
「やめて」
「ナナのことが好きなんだ!」
「もう言わないで!」
「君と海に行きたい、花を一緒に見たい、見たことない景色を一緒に見たい!」
「なんで…」
「ナナと一緒なら他に何もいらない、必要なら僕が頑張るから…だからお願い、はい、って言って!」
「なんでよ…」
ナナの足元が濡れていく。
「本当に好きなんだ…ナナのことが、本当に…だから」
「なんで、同じこと言うのよ!」
彼女はトキの胸を叩いた。特に痛くはないが、その行動に驚いてよろけてしまった。
「なんで、あきらめてくれないのよ!なんでまた好きになるのよ!なんで、なんで…」
「えっと、あの、何の話…?」
「なんで私は、あなたを自由にできないの…」
遠慮なく涙を流すナナと、その言葉に彼は混乱した。だから、彼女の行動を受け止めることしかできなかった。
「…ナナ、何のことかわからないけど、ごめん」
「わかんないのに謝んないで!」
「ご、ごめんなさい!」
ごもっともな言葉にトキは謝った。しかし泣くナナをそのままにしておくことができない。好きな人がこんなに泣いて怒っているのに、それがおそらく自分のせいなのに。
トキは、ナナの背中に腕を回した。
「やだ、やめて!」
「やだ!」
「はなして!」
「やだ!こんなに泣いてるのに!好きな人が泣いてるのに!」
「やめて…」
「やめない」
トキに抱擁されたナナは身動きを段々小さく、弱弱しくなっていく。比例して彼女を抱きしめる腕の力を強めた。
「…何度でも言うよ。僕は、ナナが好き。何があっても、君だけは諦められない」
「…」
「ナナは…僕のこと、嫌い?」
ナナは、トキの服を握る。
「私も、前から好きでした…」
「…本当?」
「好きで、仕方なかったのよ…本当に」
「本当の本当に!?」
「本当に!」
抱擁を、さらに強めた。
「嬉しい。嬉しい…ありがとうナナ」
「ううん…私のほうこそ、ごめんなさい…」
「ナナは何も悪くないじゃないか」
「でも、ごめんなさい。あなたの気持ちに応えるのが遅くなって」
抱擁から抜けた彼女の腕が、トキの背中へと回った。
幸せにしようと思います。
「無事に付き合えたんだってね」
「うん、本当によかった」
「ソラ頑張ったもんね」
「そうでもないけど…まぁ、トキのおかげで僕も彼女のこと見つけられたからね」
「あら、探してないのかと思ってた」
「ひどいな!僕のあきらめの悪さ忘れてる?」
「まさか」
「もう!でも今度は僕が頑張る番だね」
「そうね。応援してるわ!」
「ありがとうゼルダ」