ぱろっ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
中間テストの図書館勉強が板についてきた。
「トワーこれなに」
「ん?…トキこれさっきも言ったけど」
「えー?嘘だよ初めて見るよ」
「応用って書いてあんだろ」
「と、トワくん私も…」
「あ?あー…ここで間違ってる」
「嘘!結構最初のほうじゃん…」
テーブルに広げた教材とノートを睨めっこして小さく言葉が飛び交う。
「トワってナナちゃんに優しいよね」
「普通だろ」
「絶対優しい、僕にそんな丁寧に教えてくれないもん」
「何度言っても理解しない奴が悪い」
「ま、まぁまぁ。トキくんだってちょっとずつ式は解けてるし、私も同じこと聞いちゃうし…」
「甘やかすな。コイツ前からずっとこうなんだから」
「トワの教え方が悪いんだよー!」
「そーかいじゃあもうお前には教えない」
「うそでーす!本気で言うわけないじゃーん!?」
勉強中に挟まる男子二人のやりとりを眺めるのがナナの日課になっていた。適度に挟まるこの会話は彼女にとっては休憩時間のようなものだった。
「…ナナ、この文章の意味がわかんねぇ」
「どれ?…えーっと…ここの話かな?この単語が過去って意味だから昔話をしている文章を抜き取ればいいと思う」
「サンキュー」
「どういたしまして」
「ナナちゃん僕も…」
「はいはい」
わからない所を教えて、教わる。学生特有の苦くも楽しい時間が過ぎていく。暗くなる前に勉強会を終えて、3人で帰るのが当たり前になっていた。
「また明日!」
「気を付けてねー」
「おう、また明日」
先に別れるトキは手を振って一人で帰る。トワとナナはまだ同じ道のため二人になった。
「あと1週間でテストだけど、トワくんどう?」
「別にどうも…まぁ教えてもらった分の点は取れるといいな」
「私も教えてもらった分は点数とらなきゃね」
「聞いた事なかったけど、ナナは成績悪いのか?」
「そんなことないと思うけど…中学もまぁまぁ普通だったし…」
「じゃあそんな心配することないんじゃね?」
「そうなんだけどね…」
今までなら彼女も同意していたが、今年初めてのテスト勉強はとんでもない人も関わっているため、なるべく悪い点は取りたくなかった。
「じゃあまた明日」
「うん、明日ね」
別れ道で挨拶をしていると、ふいに何かの鳴き声が聞こえた。
「あれ、猫ちゃん」
「え?あっお前またきたのか!」
トワの自転車の後部座席に猫が丁寧に座っていた。逃げる様子がないため、人に慣れているのかもしれない。
「降りろって」
「すごい、全然逃げないね」
猫はナナに視線を向けてすんすんとヒゲを揺らした。それからトワに向かって一つ鳴いた。
「ばっ違うって!いいから今日は降りろ!」
「ミャー」
「近いだけ!全然関係ない!」
「にゃあ」
彼の声に驚く様子も逃げる様子もなく鳴いて返事をしている。そのやりとりがまるで会話をしているように見えて仕方ない。
騒ぎを聞きつけてか、猫が一匹、一匹と増えてきた。
「ほらお前が変なこと言うから!」
「えっ何々?猫ちゃんいっぱい!」
「違うっつの!お前らも帰れ帰れ!照れてない!」
「かわいいー」
一匹はトワをのぼったり、一匹はナナの足にすり寄ったりと猫ペース全開である。ナナが一匹にそっと手を出すと、猫は自ら頬を寄せてきた。
「すごいねトワくん!猫ちゃんに人気なんだ!」
「なんでそんなすぐ受け入れてんだ⁉ってあーもううるさいなぁ!」
少々荒っぽく猫の首根っこを掴んで離したりするが猫は臆することなくトワに飛びついたりしている。相当なつかれているようだ。
「にゃーお」
「だから、違うって!俺には関係ない話だよ!」
「にゃ」
「トワくん猫ちゃんと話してるみたい。仲いいんだね」
「えっあー、えー…たまたま、遊んでやったらなつかれて…」
「そうなんだ。猫ちゃんたちも遊んでもらえてよかったねぇ」
「にゃう」
「そこのお前余計なこと言うんじゃねぇ!」
トワが珍しく慌てている。普段はトキやナナの面倒をよく見るお兄さんのような存在であった。しかし今猫たちに翻弄されて狼狽えるトワは、いつも見ているお兄さんのような存在には思えなかった。
「トワくんって、本当に優しいんだね」
「は?」
「だって、こんなに猫ちゃんに好かれてるんだもん。優しくないとこんな風にらないよ」
「別に、優しいわけじゃないし…」
「ううん、いつもトキくんや私のこと考えて行動してくれるし、特にトキくんの面倒すごく見てるし。お兄ちゃんみたい」
「ん…」
彼は本当に照れくさいのか返事が短く顔も赤くしてそっぽを向いてしまった。それがなおのこと彼女にはお兄さんよりも素直になれない男の子というイメージがついていく。
「あ、猫ちゃん…」
猫たちは急にそそくさといなくなっていった。トワはまた顔を赤くして猫たちに怒っていた。
「もう二度と変なこと言うなよ!」
「猫ちゃんばいばーい」
「余計なことしか言わねぇなあいつら…!悪かったな。大丈夫か?」
「何が?猫ちゃん好きだし癒されたよ」
「そっか…なら、いい」
また二人だけの空気に戻ったが、なんとなく変な空気が流れているような気がして次の言葉を言えずにいた。
「じゃあ、俺行くわ」
「うん、また明日」
「おう、気を付けて帰れよ」
そう言って自転車に乗り颯爽と走り消える。手を振らずに顔も見ずに。
彼と知り合って初めてのことだった。
「そんなに猫ちゃんになつかれてたの、恥ずかしかったのかな」
見送ったナナは自分の帰宅への道を歩き始めた。
中間テストを無事に乗り切った生徒たちはいつもより賑やかに教室を騒がせていた。ナナもトキも一息をついている。
「終わったぁ」
「しばらく勉強したくないー…」
「そうだね」
テストが1週間前になると部活や委員会は活動を停止している。翌日からそれも開始されるため、ナナは委員会の担当日を確認しなければならない。
「ねぇナナちゃん、次の休みの日遊びに行かない?」
「いいよ。前に言った約束まだだったもんね」
「やったぁ!どこ行くか決めよ!」
にこやかな笑顔のトキにナナも嬉しそうに笑う。その時部活の仲間か誰かがトキに声をかけた。少し不機嫌になったが、すぐに戻ると言い残して呼ばれたほうへと向かった。
「…」
普段子供っぽい表情が多い彼だが、別の人の前だと爽やかに笑い、真剣に話を聞いている。未だに彼が王子様と影で呼ばれているのも頷ける表情だった。ナナの前ではそのような顔をすることはない。それだけ仲がよいということだろう。
彼女はちゃんと彼が成長しているのが、昔を知る身として少しだけ誇らしかった。
共に帰るはずだったが、借りた本があるためナナは図書館に寄っていた。一緒に行くと聞かないトキをトワに押し付けて先に帰ってもらっている。久しぶりの一人下校になるだろう。
「あのー」
「スー…」
そう思っていた。
「そ、ソラせんぱーい…」
「すぴー…」
本の返却と同時に委員会のスケジュールを確認しにパッドを取りに来た時だった。
ソラがいつものようにテーブルに伏せて寝ていた。ナナは苦笑いをしてそのままにし、スケジュール確認と再び借りる本を選んでいった。
それが終わったのが図書館利用時間終了前だった。夢中で見ていたため遅くなってしまったのだ。
早く帰ろうと何冊か本を抱えて受付まで向かおうとするが、ソラが起きてるのか少し気になった。
委員会で使う個室に向かうとまだソラが寝ていた。
「ど、どうしよう…起こさないと…」
ティアのぶったたき事件以来トワも遠慮なく叩いて起こすようになっていたが、ナナが起こすことはなかったのだ。人のことを叩くことに起こす行為だと知っていてもなかなか踏ん切りがつかなかったのだ。
「おきてください!もう閉館ですよ!」
「すー…」
「せんぱーい!」
肩を思い切りゆすっているがまったく起きる気配がない。ここまでして起きないのはもう逆に才能だろうと思う。全力でゆするというより揺らすになっている。その時に掴んでいた手が滑り彼の首に触れてしまった。
「ひゃああー!?」
「きゃー⁉」
すると急にソラが飛び起きて椅子から落ちた。
「な、なに⁉誰!?」
「ソラ先輩!?どうしたんですか!」
「えっ!ナナさん!?」
図書館での当たり前の規則を大声で破った二人は職員に見つかり、注意されて外に出された。
「ご、ごめんね!急に大きな声を出して」
「いえ!ちょっとびっくりしたけど…」
「僕、首が弱くて。触られただけでも飛び跳ねるくらい駄目なんだ」
「それはすみませんでした!」
「いいよ、起こそうとしてくれたんでしょ?事故だし仕方ないよ。起こしてくれてありがとう」
いつものように朗らかに笑ってお礼を言った。
「もうすぐ暗くなっちゃうね。危ないから家の近くまで送るよ」
「えっそんないいです!まだ明るいですし」
「歩いてたら暗くなっちゃうだろ?僕のことは気にしないで」
「でも、そんな迷惑かけられません…」
「僕のお礼だと思って受け取って。ね?」
彼の言葉に迷ったが、日はどんどん落ちていく。一人で帰るより確かに安全だと思い。ソラの言葉に甘えることにした。
「学校生活はどう?慣れた?」
「はい、テストも勉強を協力してもらって無事に終われたし、委員会も難しいことがなくて安心しました」
「そうだね。僕もテストが終わってほっとしてるよ…」
「二年になると内容難しいんですか?」
「うーん、一年で習ったことが基本になるからなぁ…ちゃんと勉強してないと難しいかも」
「そうなんですね…」
暗くなりつつある帰路を歩く。いつもの賑やかな会話ではなく柔らかい静かな会話が広がる。
「ナナさんってトワ君と昔から知り合い?」
「え?」
「すごく仲がよさそうだったから…違うの?」
「違います!高校になって初めて会いました!」
「そうなんだ!すごいねナナさんってコミュ力高いほうなんだ」
「いえ私全然そんなことないです!」
「そうかなぁ」
「そうですよ!今だって先輩の質問に答えてばっかりだし…トワくんも話を振ってくれるからで…」
「でも会話を切らずに続けられるの凄いことだと思うな。きっとナナさんのいい所だね」
手放しで褒めてくれるソラにナナは照れて顔を赤くしてしまった。まっすぐな言葉は心に届きやすい。
「せ、先輩も優しく教えてくれるし一緒にいると安心するみたいな感じでいいと思います!」
「そうかな…そうだと嬉しいなぁ」
褒めてくれたお礼として彼の良い所を伝える。ソラはその言葉に少しだけ恥ずかしそうにしたが、すぐに嬉しそうにわらった。
「あ、ここでもう大丈夫です」
「本当?じゃあ気を付けてね」
「はい!ありがとうございました!先輩も気を付けて!」
「ありがとう、ばいばーい」
あと数メートルで家にたどり着く頃にソラと別れた。
ソラは歩いてきた道を振り返り歩いていく。やっぱり家までの道が違うんだと考え、自分も家に向かった。
「えぇ!ソラ先輩学生寮なんですか⁉」
「そうだよー」
「言ってくださいよ!私のこと送る事ないじゃないですか!」
「ほら、女の子一人じゃ危ないし」
「大丈夫ですって!」
翌日の図書委員の業務担当であるナナとソラが図書館の個室で話していた。
ソラは学生寮で暮しているらしく、外を歩く必要はない。つまりナナを送るためだけに歩いたのだ。
「これからは遅くならないように帰らないとねぇ」
「そうですね!気を付けます!」
「じゃあ作業やろっか。今日はポスターの張り替えとアンケートの途中経過の集計ね」
「はい!」
図書館の掲示板は階層によって複数設置されている。それを全て張り替える作業だ、ばらけて行ったほうが効率はいいが、まだ不慣れのため二人で行う。トワは教師に用事があり遅れるようだ。
「ポスターって毎週変わるんですね」
「うん、新聞部の記事が毎週変わるし、部活勧誘も順番待ちみたいになってるからね」
画鋲を外してポスターを取る。
「あんまり気にしたことなかったなぁ」
「見ると意外と面白いよ。図書委員も新しい本が入荷されたらポスターを作ったり記事にしたりして張り出すんだ」
「へー、そうなんですね」
「そのうちやると思うから、その時にね」
高いところの画鋲はソラが取り、新しいものを付ける時も同じようにさして行く。問題なく作業が終わったがトワが来る様子がない。
「じゃ、ちょっと休憩しようか」
「え、いいんですか?集計」
「トワ君が来てからね、説明もあるし」
一つのパッドをテーブルに置いて、二人は委員会で使用する個室で休憩をし始めた。
「計算ミスとかしそう…」
「ふふ、大丈夫だよいる人皆で確認するから。計算もそんな難しいことしないし」
「なんとかミスしないように頑張ります!」
「失敗してもいいんだよ。無理に張りつめてると疲れちゃうし」
緊張とは無縁そうなソラがリラックスするように伝える。
「でも、失敗したら皆に迷惑をかけます…」
「最初から完璧に出来る人なんていないよ。僕だって最初は計算ミスいっぱいして同級生に散々怒られたし」
「そうなんですか?」
「今思うと緊張してたんだなって思う。普段ならしない失敗をよく起こしてた」
「先輩も緊張するんですね…」
「高校初めての後輩で緊張してたよ」
「そんな風に見えませんでした!寝てたし!」
「あぁ、うん、それはごめんね」
初対面の感想を改めて聞くとソラは思うところがあるのか謝った。
「気を張ってると普段しないことをやっちゃうこともあるから、程よく構えるぐらいでいいと思うよ」
「うーん…」
「僕も偉そうに言えた立場じゃないけどね」
「…じゃあ、ソラ先輩も私に教える時はリラックスしてくださいね!」
「え?」
「緊張して大変な思いをしたソラ先輩に、一人でも気を使わない後輩がいてもいいかと思いました!」
ナナの言葉にソラは少し驚いたが、すぐに柔らかく笑って頷いた。
「ありがとう、それならナナさんも僕にくだけた感じで話てね」
「えっそれはその…」
「おーっすやっと来れたー」
「こんにちはトワ君。ずいぶん遅かったね」
「ちょっと聞きたいことあっただけなのに部活にいないの勿体ないだのなんだのって捕まったんだよ。すんませんね!」
「勿体ないっていうのはわかるなぁ、トワくん」
「やらねえよ」
ようやく来たトワを二人はそれぞれ迎え入れた。
「じゃあ早速集計のやり方を教えるね。でも計算するのは全部トワ君がやってね」
「はぁ⁉」
「来るの遅かったし、それくらいやってもいいだろ?理系専攻だし」
「遅かったのは俺のせいじゃねぇよ!」
説明を受けながら彼は嫌々全てを集計した。
次の休日、ナナは外出用の私服に着替え、少しの化粧をした。約束をしたトキと遊ぶためである。母親からトキが迎えに来たことを知らされて、カバンを肩に下げて玄関に向かう。
「おはようナナちゃ…」
「おはよう!」
「…」
「トキくん?」
「あっ、えっと!おはよう!行こ!」
「うん?」
靴を履いたナナの手を掴んで少しだけ慌てた様子で外に出た。
いつもと違う反応にナナは不思議そうにトキを見る。
「どうしたのトキくん。私何か変かな?」
「ちがっあの、えっと…」
「うん」
「か、か、かわいくて、びっくりしただけ…」
顔を赤くしてトキは震える声でそう言った。
かわいいと素直に褒められたナナは熱が移ったように顔を赤くしてしまう。
「あ、の、ありがとう…トキくんもかっこいいね!」
「えっ!本当⁉」
「うん!制服とは違う感じでかっこいいと思う」
「かっこいい…僕かっこいいって…えへ、えへへ」
褒められたのが相当嬉しいのか今までにないくらいふやけた笑顔だ。その笑顔は慣れない人が見たら卒倒するであろう破壊力があった。
ナナも普段から見慣れていなかったら倒れていただろう。
「トキくん、早く行かなきゃ。人がいっぱいになっちゃうよ!」
「そ、そうだね!行こう!」
二人はすぐに目的地へと歩を進めた。
学園から離れた場所に店が立ち並ぶ通りがあり、学生から家族まで楽しめる場所である。
「まず何処行く?」
「そうだなぁ…トキくんが嫌じゃなければ洋服とか見たいんだけど…」
「いいよ!行こ!」
嫌な顔をせずに彼女が気になる店に入る。女性に人気の店の中ではやはり女性が多く、男性は女性の付きそいでちらほらいる程度だ。
「ナナちゃん、どれ見るの?」
「これから夏になるし、やっぱり夏向けの服かなぁ。あれ見ていい?」
「うん」
女の子らしい薄手の服を物色していく。トキはそれを見ながら、たまに肌が見えすぎだとか、裾が短すぎるだとか、おじいじゃんのような発言をした。
女子の買い物は長い。買う買わないを悩んでいるうちにお昼になった。
今度は昼食の店をスマホで調べる。
「何食べようか」
「僕ナナちゃんが入りたい店でいいよ」
「それは駄目だよ!トキくんが食べたい物ちゃんと言って!」
「うーん…」
ナナの言葉に従う意思を見せたが、彼女はトキの意思も大事にしたいらしく、意見を求める。
結局店に入るのではなく、食べ歩き可能なクレープを買い、食べながら次に行く場所を探す。
「ねぇここは?」
「う、うんいいよ!」
トキのスマホのため、自然と体が接してしまう。トキはそれに頬を赤らめながらもなんとか返事をした。
クレープを食べ終えると、次に来たのは大きなゲームセンターである。やはり人気なのか大人から子供まで幅広く人がごった返していた。
「ナナちゃん、手つないで。はぐれちゃう」
「わかった」
トキの手を握り、中を進む。1階のクレーンゲームの商品を眺めながら気になる物を探す。
「あっかわいい!」
「どれ?」
丸い胴体に四つ羽が生えた妖精がモデルのストラップがあった。大きくないクレーンゲームの前でナナは立ち止まり可愛いと見ていた。
「じゃあとってあげる!」
「えっいいよ!自分でとるよ!」
「任せて!簡単にとれるから」
簡単に取れなかった。
アーム本体がふらふら動く糸式のため上手くつかめないのである。
「ほら、うまくいかない。私やるから変わって?」
「うー、あと一回!」
「それ3回目だよ!」
取れないことが悔しいのか何度もルピーを払って挑戦する。
やっと一つ取るのに50ルピーを使っていた。
「そこまでしなくていいのに…」
「でも欲しかったんでしょ?」
「欲しいけどそこまでじゃないよ。ほら、ルピー渡すから」
「いい!これ受け取って!」
「悪いよ!」
「いいの!僕がしたいんだから!」
半ば無理やり渡されてしまった魔法でほんのり明るいストラップを見ると、やはり嬉しいものだった。
「トキくんありがとう」
「どういたしまして。他に欲しいのある?僕頑張るから!」
「頑張らないでいいから!」
ゲームセンターを隅々まで歩るいて見回れば、時間はすでに夕暮れであった。今はナナを送ると言うトキと帰り道を歩いている。
「今日は楽しかった。ありがとう!」
「僕も楽しかった!クレーンゲームもっと練習しておくね!」
「それはしなくていいよ…」
「だって、ナナちゃんが喜んでくれるから」
「私のためにしなくていいんだって!気持ちだけでも嬉しいから」
「ナナちゃんの喜ぶ顔が見たい」
トキが立ち止まった。
「ナナちゃんが笑って、喜んでくれたら僕嬉しいんだ」
「トキくん…」
「昔から僕のこと心配してくれて、一緒に遊んでくれて嬉しかったから。その恩返しがしたいんだ」
「そんなこと」
「そんなことじゃないよ。僕の大事な思い出なんだ」
ナナの手をゆっくりと握る。
「あ、あのねナナちゃん」
「なあに?」
「ぼく、あの、ずっと、ずっと昔からナナちゃんが」
「あれ、ナナさんこんにちは!」
トキの言葉が遮られた。声のほうへ顔を向けると、私服のソラがいつもの笑顔で荷物を抱えて立っていた。
「あ…えっと。お邪魔しちゃった?」
「いいえ?」
「そう?」
しかし状況を見て流石にソラもタイミングを間違えたかと気まずそうにしている。ナナはなんとでもないように否定した。トキは少しだけ泣きそうである。
「トキくん、この人が委員会でお世話になってる先輩」
「…はじめまして」
「は、はじめまして…なんかごめんね?」
「いいえ別に!」
「どうしたのトキくん。ソラ先輩は買い物帰りですか?」
「うん、そっちも帰りかな。ナナさん私服似合ってるね」
「あ、ありがとうございます!」
「もういいですか!遅くなっちゃうんで!」
「ちょっとトキくん!」
何故かお怒り気味のトキは無理矢理会話を切ってナナの手を今度はしっかり握って逃げるように道を進んだ。彼女は連れられながらソラに挨拶をした。
「…うーん」
笑って見送ったソラは複雑そうな顔をしていた。
「それで、そのストラップつけてんのか」
「うん、可愛いでしょ!」
委員会の帰り、部活で遅れているトキを置いてトワとナナは自転車置き場にいた。
「…俺ならもっと早く取れたな」
「トワくんゲーム得意なほうなの?」
「得意とかじゃないけど、少なくともトキより取るのは上手いと思うぞ」
「へー」
「なんだその顔、信じてねぇな?」
「し、してないよそんな顔!」
疑いの目でナナを見ている。
そして言葉をつづけた。
「そういえば、テスト勉強のお礼まだ貰ってなかったよな」
「えっそうだっけ!?ごめん忘れてた!」
「まぁ俺も忘れてたけど…それ今度の休み俺とデートでいいか?」
「で、デートぉ!?」
「一緒に遊ぶだけだよ」
「な、なんだそっか…そんなことでいいの?」
「いいんだよ。俺にとっては十分だ」
トワは笑ってそう言った。ナナは首をかしげる。
「私と遊ぶの、そんなにいいことかなぁ」
「良い事だよ。俺はナナの事が」
「でやぁあ!」
「いってぇ!!」
トワの頭を思い切りカバンが襲った。
「トワー!何言おうとしたお前ー!」
「いきなりカバンで殴る馬鹿がいるかよ!ふざけんな!」
「ふざけてない!絶対言わせないからね!」
「はー??」
「ふ、二人とも…」
頭をカバンで殴ったのは走ってきたトキだった。二人のいつもと少しだけ違う喧嘩にナナは間に入って止めようとする。
しかし珍しく喧嘩は止まらず、彼女はいよいよ苛立ちを感じてしまった。
「もういい私先帰る!じゃあね!」
「えっ」
「わ、悪いナナ!帰ろう!」
「まって!ごめんナナちゃん」
「知らない!ていうか謝るのは私にじゃない!」
初めて怒る彼女に、二人は慌てて追いかけた。
図書委員担当の週にナナは専用パッドを取りに個室に入った。
「ソラ先輩!」
「こんにちは」
「今日は寝てないんですね!」
「僕いつも寝てるみたいに思われてる?」
「違います?」
「違わないけど…」
個室にはパッドの画面をスライドさせて何かを確認しているソラがいた。
「パッド見たらわかるんだけど、そろそろ本の入荷時期なんだ」
「そうなんですか?」
「うん、生徒が欲しい本を提出して票が多い中から僕たちが選んで申請するんだ。後で確認してみてね」
「はい!」
「新しく来た本の紹介記事も僕たちが書くから、その時はよろしくね」
「は、はーい…」
前に言っていた事のことだろう。
記事を書くなんてしたことがないナナは自信がなさげである。
「…聞いていいかな」
「はい?」
「えっと…嫌なら答えなくていいんだけど…この前ナナさんと遊んでた男の子いたでしょ?」
「あぁトキくんですか?…彼何かやらかしたんですか⁉」
「違う違う!そのあと大丈夫かなって…」
「?特に何もありませんでしたけど…」
「そっか…そうなんだ…」
その言葉を聞いて、ソラは安心した顔をした。
「あの、ソラ先輩は何も悪くありませんよ?」
「うん?うん、そうだね?」
「あの後私が叱っておいたので!」
「ありがとう…あのさ、ナナさん」
「はい?」
「…いきなり言われるのはびっくりすると思うんだけど、でも先に言わないと手遅れになりそうだから言うね」
「はい…」
「僕はね、君が」
「失礼します!!」
扉が壊れそうな音を、それに負けないような声が響いた。
「びっっくりしたぁ…」
「ティア君…?どうしたの…?」
「…すみません。勢いあまってしまいました」
顔はいつもの無表情である。
ナナは扉が壊れてないか心配になり確認している。
「ソラ先輩。少しいいですよね」
「うん、いいけど…」
「えっと、じゃあ私業務してきますね!」
ティアの空気感がいつもと違うことを察して、ナナは個室から抜け出した。ソラとティアの二人だけの空間は、確かに少しだけ居心地が悪そうだ。
「わざとやったの?」
「…何のことですか」
ソラの質問にティアは素知らぬ顔で返した。
学校でかかわりがないが、Rainでずっと食べ方等のやり取りをしている。その時の感想が送られてくるのは素直に嬉しかった。
テスト勉強の時も、食べ物関係で一緒に行く時も彼は常に女装で変装し続けている。ナナも見慣れて、しまいには化粧やアクセサリーを勧めている。
「この店のメニューが気になるのですが、おススメの食べ方はありますか?」
「私も気になってたところです!確かピザにバター炒めのほうれん草をトッピングすると美味しいって聞きました!」
「ありがとうございます。気になっているということなので、今度一緒に行きますか?」
「いいですか?是非お願いします!」
文字を送って日程や時間を決めていく。男性ではあるが、変装して常に女性のように振る舞うため、女友達といるような感覚になっていた。
次はどのような服を着てくるのか、どんなイヤリングを勧めようか考えていた。
そう、考えていた。
「ナナさんこんにちは」
「…えっ」
「…ああ、今日は女装してませんからね」
眼鏡と帽子で顔の印象は変わる程度のことはしているが、いつも見ている女装ではなく誰が見ても男性とわかる服装だった。
「な、なんで⁉」
「今日行くお店のこと調べたんです。カップル割があるみたいなのでそれを狙おうと思って」
「かっ…ぷるわり…」
何でもないように話すティアにナナは混乱した。
見慣れた女装から見慣れない男性としての彼に情報が一気に流れ込み、さらにカップルとして入ろうというのだ。
「安いほうがお得でしょう?」
「そりゃ、そうですけど…」
「大丈夫ですか?」
「だいじょばないです…ちょっと落ち着かせてください…」
「どうぞ」
突発的な行動に慣れてきたと思っていたが、未だ慣れることはないと彼女は思った。どうもこの副会長はすこし変わっているようだ。
「す、みません。行きましょう」
「はい。あ、カップルに見せたいので、口調を崩していいですか?」
「へ」
「敬語で話すカップルなんておかしいでしょう?ナナさんも敬語やめてくださいね」
「は、へ!?そんな!いや、でも…」
「元々同級生ですし。今更気にすることでもないでしょう」
「そう、ですね?」
「じゃ、そういうことで」
普段無表情のティアがゆるく笑った。
ナナは落ち着いた心をまた荒くさせた。
「てぃ、ティアくん今!笑って…!」
「…そうかな」
「かな!?」
「何かおかしい?」
「い、いえ!別に!」
「敬語なしだよナナ」
破壊力がすごかった。
雰囲気が穏やかになる時を見たことは何度もあったが、笑うところは見たことがない。早速敬語もなくなり、さらに呼び捨てにされた。ナナのキャパは爆発しそうである。
「本当に大丈夫?」
「は、ぁ、い」
「…」
ナナの反応を見ていたティアは、心配はしているものの、ちょっとだけまた笑っていた。
「脈ありでいいかな」
「あの、ティアくん、もういきま、いこう?」
「うん、行こうか」
「ひぃっ!」
店に入る時にフリをすればいい話なのだが、ティアはすでにそういうスイッチを入れているのかナナの肩を掴んで自分に寄せた。
体験したことのない男性とのやりとりにナナは顔が真っ赤である。
「いつも言えなかったんだけど。ナナはいつも可愛くおしゃれしてくるね」
「あぅ…」
「俺は好みだよ」
「も、もう勘弁してください私の心臓がもちません!」
「ほら敬語になってるよ」
今にも泣きそうな顔でいると、ふいに肩にあった手が離れた。
「オイ、てめぇ何してんだ」
「…」
「ふえ、え、あっトワくん!?」
ティアの手を強く握り、睨みつけていたのは私服姿のトワだった。
「そいつは俺の連れだ。手出すな」
「…それは変ですね。今日の予定は俺とのはずです」
「は?何言って…」
「あ、あのトワくん彼は…」
眼鏡を少しだけ外して顔を見せた。トワはその見慣れた顔にさらに睨みをきかせた。
「副会長さんがコイツになんの用だよ」
「彼女と約束して会っているだけです」
「はぁ?ナナどういうことだ」
「あ、あの…」
付き合いがないはずの二人が約束をして出かけるまでの仲になっていることに、トワは疑問しかなかった。問い詰めるようなトワにナナは少し怖くなり声がどもる。
すぐにティアが彼女の前に入ってかばった。
「女性にそのような態度はどうかと思います」
「お前のせいだよ」
「ナナ、友達は選んだほうがいいよ」
「偉そうにコイツ!」
「あ、あのトワくん!ほ、本当に約束してご飯食べるだけなの!」
「いや、だからいつからそんなに仲良くなって」
「時間がないんでもういいですか?席が埋まってしまう」
「は、オイ!」
「行こう」
ティアはナナの手を取り人込みの中を素早くすり抜けていく。トワも負けじと追いかけるが、学校とは違う人込みに見失ってしまった。
二人は人込みを抜けて例の店にたどり着いていた。
「ごめん急に走って。大丈夫?」
「だ、大丈夫です…」
「じゃあまた頑張ってね。敬語はなしだよ」
「は、あっう、がんばる…」
「…ふはっ本当に可愛いねナナは」
また彼は笑った。
夏休みが近づいてくる季節。
ナナは一人で食堂の自販機に立っていた。飲み物を悩むのと同時に、最近の男子4人の行動について考えていた。
以前よりやたらと絡んでくるし、遊びに誘われる。別にそれが悪いわけではないが、なんというか友達という感じの絡み方ではない気がするのだ。
自販機のボタンを押して飲み物を購入した。
一度だけ何かを言いかけたことを邪魔されて結局聞きそびれたことがある。あの言い方はまるで告白でもされるような言い方だった。
ナナは察しが悪い女子ではない。ただそういう雰囲気だったかも、という感じである。
購入した飲み物の蓋を開ける。
「いやぁないなー!ここ美人な女の子たくさんいるし!私別に美人でもなんでもないし!取り柄もないしね!」
一口中身を飲み込む。
「乙女ゲームじゃなんだから!」
夏休み、えらいことになるのをこの時は知らない。