ぱろっ
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桜の花が視線を集める季節。一人の少女が真新しい学生服に身を包み玄関の外で一つ背筋を伸ばした。そして新品の靴を鳴らして目的の場所へと歩を進めた。少女らしい明るい声を置いて。
「いってきまーす!」
大人、小さな子供、彼女と同じくらいの人たちや種族がそれぞれ目的地へと進んでいく。少女も人込みを避けたり逆らったり、時に流されたりと動きを変えて進んでいった。
見えてきたのは大きな学園。少女は今日からここに通う新一年生であった。
同じような新一年生に、慣れたように通う先輩の生徒が次々に門を通り過ぎていく。彼女もその中の一人になったのだ。
ハイラル学園。
この国一番の大きな学園であり、種族問わずに入学している。小学生から大学までも担っており、エスカレーター式で上がるものもいれば、途中編入で入学する者と様々だった。
授業内容も普通の座学から武術、魔術といった選択授業、そこからさらに細かく分かれた学びが可能である。勿論、スポーツ、芸術ともに充実した学園であった。
「えっと…高校の体育館は…どこ?」
それだけ自由な選択と多くの生徒を抱えるとなれば学園そのものが大きなものだ。もはや学園というより町である。そのため地図がとんでもないことになっていた。
なんとか地図と案内人の声がけで辿りつくと、やはり大勢の生徒が座って待機していた。友人同士で座っていたり一人でぽつんといたりとそれぞれだが、彼女は一人側だった。
彼女にはここに友人と呼べる人はいない。悲しい理由とかではなく仕方のないことだった。
何故なら彼女は引っ越してきたのだから。
時間になると式の進行が始まった。
粛々としかし明るく進み、いよいよ教室へと向かう。自分の名前を探し、教室の番号を確認する。友人同士であれば一緒だったり別れたりでドキドキの瞬間だが、彼女にとっては無縁のものだった。
「あった!えっと…E-1…ど、どこ!」
自分の名前を見つけて、もらった地図を確認する。慣れるまでは地図とお友達だ。
地図をさかさまにしたりそれっぽい人について行ったりしてたどり着いた。教室の中を見ると、すごい王子様系の男子がいた。
「えっ」
他の女子も気になっているのか遠目で見たり友人であろう人と話してたりとざわついていた。あの人と同じなのかと思うと、何となく落ち着かない気がした。
しかし自分の教室になっている以上入るしかない。扉をくぐって空いていそうな席を探す。
「…」
その時、何故か王子さま系男子に見られていた。
担任になる教師の自己紹介と学園の説明が細かくされる。今日は入学式のため、午前で下校となった。
「ねぇ」
「はい?」
席を立とうとすると誰かに声をかけられた。顔をあげると王子様系男子がそこにいた。声をかけられるようなことは何もしていないはずだ。
「えっ…と…」
「…」
「あの、何か用ですか…?」
男子の視線もそうだが、周りの視線も痛い。
彼女は早く帰りたかった。
「…ナナちゃんだよね」
「へ」
「僕!覚えてない!?引っ越す前まで一緒に遊んでたんだけど!」
「え、えぇ⁉」
今までのすました顔と違って笑顔で、興奮気味に声を荒げた。彼女、ナナは必死で引っ越す頃を思い出す。
引っ越す前に、よく一緒に遊んだ男の子、金髪で青い目で、女の子みたいな、それでよくからかわれて泣いていた。
「トキ、くん?」
「覚えててくれたっ!そう!僕だよ!」
「ええぇー!?嘘ー!」
ナナは叫んだ。その時の彼はまだ小さくて、泣き虫で自分の後ろを一生懸命ついてきていた記憶しかない。
それが今や注目を集める王子様系になっていた。
「こっちに帰ってきてたんだね!なんで連絡してくれなかったの!」
「え、あの、だって」
「まぁもういいけど!ナナちゃんと同じクラスなんだぁ…へへ、また一緒に遊んだりしようね」
本当に嬉しそうに笑う彼の笑顔で数人が倒れる音がした。
ナナはその笑顔で、あの時のままなんだと感じた。
「ナナちゃん、家どこ?おじさんおばさん元気?」
「うん、元気だよ!家は商店街の道を通って…」
「あー僕と途中で違う道になっちゃう…隣だったらよかったのに」
「そんな偶然ないよ。でもよかった、知ってる友達がクラスにいてくれて」
「僕も!明日から一緒に行こ!」
「え、あ、うーん…」
無邪気に笑うトキの声にナナは少し曖昧な返事をしてしまった。
今の彼は女性なら振り向く格好良い姿に成長している。女子のやっかみ等は別の学校で痛いほど見てきた。自分はその対象になりたくはなかったのだ。
「だ、駄目なの…?」
「う…」
とは言え顔が良く自分に懐いてくれている彼を無下にできるわけもなかった。捨てられた仔犬のような顔でじっと見ている。
「い、一緒に行こうか」
「やったー!僕迎えにいくね!」
「いいよ!分かれ道で待ち合わせしよ⁉」
「やだ!僕が迎えにいく!昔ナナちゃんがやってくれたみたいにやるの!」
彼女は、確かに昔迎えにいっていたなと思い出した。それを真似てやりたがるなんて、まるでなんでも真似をしたい小さな子供だ。
ナナは笑ってしまった。
「なんで笑うの!」
「だ、だって!私の真似なんて、あはっ、昔と変わらない!」
「しょうがないだろ!ナナちゃんがやってたこと全部かっこよく見えたんだから!」
「うそー!私なにもしてないよー!」
「してたー!ナナちゃんは僕のヒーローだったの!」
「そんな、あははっ」
ナナが笑いながら逃げるように教室を出た。トキは追いかけるように歩を進める。新しく始まる生活はおだやかに始まるようだった。
1週間学園生活を続けると、部活やら委員会やらの入部勧誘が増えた。正式に担任からも申請することが知らされた当日昼休みのことだ。
「ナナちゃん、部活と委員会どっちにいくの?」
「うーん、私は委員会かな…」
「えっ…」
「そ、そんなにショックなの?」
食堂に向かう途中の会話だった。トキは彼女の発言にショックを受けて落ち込んだ。
学園は部活は委員会のどちらかに所属しなければならなかった。一見自由がなさそうに見えるが、大会に出場するような部活や委員会があれば、少人数でゆるやかに活動するものまで様々である。勿論存続のためのある程度の報告や条件は存在するが、ほぼ何でもあると思って差し支えないだろう。
「じゃあ僕も委員会にする!」
「やめなって!自分のやりたいの選びなよ!」
「だって…」
「私が入る委員会、図書委員だけど」
「う、図書…」
「トキくん本とか苦手でしょ?」
彼女の言う通りなのか、本と聞くとげんなりとした顔になった。そもそも勉強というものが好きではないようだ。
「ずっと別れるわけじゃないんだから。ね?」
「そうだけど…」
渋っているトキとナナの後ろが急に騒がしくなった。
「オイどけ!」
「へ」
確認する間もなく、誰かがトキの頭を跳び箱のように飛び越えた。
「いって何すんだよ!」
「わり…あ、ちょうどいいやつ!」
「は!?あっトワ!」
「コイツ!コイツが代わりに入るってさ!」
「え⁉何!?」
わけもわからないままに飛び越えた男子にトキは両肩を掴まれて突き出された。目の前には部活勧誘の生徒たちが大勢おり、トキは一瞬で理解した。
「トワ!」
「だから俺は遠慮させてもらうぞ!」
「話聞けよ!僕は入らないから!」
「俺と同じで運動神経いいから適役だぞ!じゃあな!」
「待て!勝手に話すすめるなー!」
トワと呼ばれた男子はまた器用に人々を飛び越えたりすり抜けたりして逃げていく。トキは怒って追いかけ、勧誘の生徒たちもそれに続いた。
ナナは置いてきぼりである。
彼らが見えなくなりそうなときに、何かに止められた。
騒わぎが急に静かになり、我に返ったナナは問題の場所へと走っていく。避けて案外人がいない隙間を難なく通り抜けると、倒れるトキとトワ、それともう一人の髪が少し長い見目が綺麗な生徒が服の埃をほらっていた。
「廊下は走らないでください」
なんの感情もない声でそう言った。
「あなた方も、無理な勧誘は推奨されてません」
「いってー…」
「何今の…」
「失礼します」
立っていた生徒はその場を礼儀ただしく去っていった。
「だ、大丈夫トキくん」
「うん…」
「あーなんだよアイツ腹立つ!」
「何があったの?」
「さっきの生徒に、トワと一緒に転がされて…すごかったなぁ」
「何関心してんだよ」
「あの、あなたも大丈夫、ですか?」
騒ぎが一通り収まりはじめた。勧誘していた生徒も謝罪しながら去り、野次馬していた生徒も話をしながらその場をあとにしていく。
その中でもまだ倒れているトキとトワに彼女は声をかけていた。
「あ?あぁ別に」
「こいつの心配なんかしなくていいよ。無駄に頑丈なんだから」
「心配はしろ」
「えーと、知り合い?」
「僕の親戚」
「初めまして」
ちょっと雑に紹介するトキを無視してトワは挨拶をした。
親戚と言われて納得する。顔がどことなく似ているからだ。王子様系のトキよりも正真正銘のイケメンに分類される系の顔つきである。
「はじめまして!私はナナ」
「ナナ…あぁトキが昔から話してた人か」
「え、そうなの?」
「そうそう。お前大好きだったもんなこの人のこと」
「だ、まっててよ!!」
立ち上がりながらトキはトワの口を思い切り塞いだ。そのやりとりは相当仲が良いようだ。
昔から自分を好いてくれているという話を聞くとナナは嬉しくなった。
「いてぇな!力加減考えろ!」
「おまえに言われたくないよ!ナナちゃんもう行こ!」
「えっあの、」
「またなー」
トキは顔を赤くしてナナの手を引っ張った。トワは騒動が落ち着いたからか二人に手を振って見送った。
またな、という言葉と軽く笑って手を振る行為が様になるトワに一部女子が倒れた気がした。
数日後に申請した部活や委員会に直接顔合わせとして放課後に挨拶をすることになっているようだ。ナナは図書委員に、トキは剣技系統の部活に入るようだ。
「ナナちゃん!絶対待ってて!」
「わかったわかった。行ってらっしゃい」
懇願するトキを見送り、学園の図書室に向かう。本が貯蔵されている場所は別にあり、もはや図書館と言われても差し支えがない。
学生証を認証する青い光がきれいな端末に翳して中に入った。
「えっと、確か3階の個室だったかな」
階段、エスカレーターと言う名のワープ機器が備わっていた。もちろんワープが楽だが、階段で登るのも趣がある。学校の図書だというのに棚の飾り方、階段のデザインがまるで美術館である。
ナナはあえて階段を使い、貯蔵された本やそのデザインを楽しみながら3階へとあがった。
「失礼します」
図書委員説明会という張り紙の個室扉を軽く叩いて扉を開ける。中には自分以外の十数名の新入生と
「あれ」
「よう」
数日前に騒ぎを起こしたトワがいた。
「こんにちは、トワくん」
「数日ぶりだな」
「うん、トワくんも選んだんだね」
知り合いがいることでナナは安心し、空いている彼の隣に座った。
だが、彼女は意外だと思った。
「トワくん部活に入るんだと思ってた。トキくんみたいな所に」
「あー…めんどいから入らない」
「めんどい…でも、あの時もすっごい動きだったのに、勿体ない」
「いいんだよ前からずっと運動部だったし、勧誘うっとおしいし」
「あ」
あの時の騒動を思い出すと簡単には否定できなかった。苦笑いをしてその言葉を流すことにした。
「ナナは?なんでここ?」
「私?元々本が好きだからかな…あと運動とかそいういうのちょっと苦手なの」
「へぇ、トキと逆なんだな」
「そうだね。トキくんは昔から勉強はあんまりだったかも」
くすくすと笑っていると、図書委員の先輩たちが揃い説明を始めた。その中で机に伏せてずっと寝ている生徒がいた。
同級生に肩や頭を強く手や書類でたたかれてやっと起きた。
軽い挨拶と、委員会としての役割と行事の説明を受けた。実際に行動するのは翌日からだが、新入生の説明と監督として数人のグループに先輩が一人付くという形になるようだ。
複数のグループをその場で区切って担当の先輩が割り当てられていく。
「こんにちはー、僕ソラっていうんだ。よろしくね」
「こ、こんにちは!ナナです!」
「トワです」
「ナナさんに、トワ君だね」
人数的にナナとトワでグループが出来、ソラという先ほどたたき起こされた先輩が付いたようだ。
「詳しい話は明日するから、とりあえずこれ軽く読んでおいてね」
「はい」
和やかに笑うソラから書類を受け取る。中身は委員会における規則と図書委員の作業内容等であった。
「あと、これは個人的なことなんだけど」
「はい」
「僕すぐ寝ちゃうから、寝てたら叩いて起こしてね」
「え」
「いや、先輩相手にそれどうなんすか…」
「大真面目だよ。僕全然起きれなくて、ロフトバードに突いてもらわないと起きれなくて!」
「ソラ先輩の頭が心配です!ロフトバードって鳥乗り部の大きな鳥ですよね!?」
人ひとりを乗せられるほど大きなロフトバードの嘴で起こされているらしい。ナナもトワも変な目でソラを見ていた。
「大丈夫大丈夫、たまに血が流れるけど」
「全然大丈夫じゃない!」
少し不安が残る顔合わせになってしまった。不安をよそにソラは笑って解散を告げる。二人は図書館を出た。
「トワくん自転車なんだ」
「あぁ。まぁ10分くらいだけどな」
「そうなんだ、家どのあたり?」
「東のほう。商店街あるだろ?そこ通り過ぎる」
「私の家と近いかもね!」
「そうなのか?せっかくなら送っていこうか?」
「ううん、トキくんと帰る約束してるから遠慮しとくね」
「わかった。気を付けて帰れよ」
自転車にまたがり、軽く手を振ってトワは帰っていった。
彼女も手を振って見送り校門へと足を進める。日が傾き、景色も夕暮れになっている。
「ナナちゃんおまたせ!」
「そんなに待ってないよ。部活お疲れ様」
「ありがとう!じゃあ帰ろう?」
少し経ってからトキが走ってきた。それからいつものように二人で帰宅し始める。
「委員会どう?いじめられたりしてない?」
「そんなことないよ。でもトワくんがいてよかったかも!」
「え⁉あいついるの⁉」
「うん。部活はもういいんだって」
「あのやろ…」
彼女の話を聞いてトキは悔しそうに顔を歪めた。
「僕やっぱり図書委員に変える!」
「えっ駄目だよ!」
「トワばっかりずるい!僕もナナちゃんと一緒がいいもん!」
「クラス一緒じゃない!」
「でも席は近くない!」
子供のようにわがままを言うトキにナナは困ってしまった。なついてくれているのは嬉しいことだが、自分のやりたいことを捨ててまで付いてきてほしいとは思っていない。
「せっかくまた会えたのに…」
「今度の休みに遊びに行く?」
「いく!」
その言葉に機嫌はすぐに直り、どこに行こうかという話をしながら二人は別れ道まで歩いた。
「そ、ソラ先輩…」
「スー…スー…」
「マジで起きねえなこの人」
翌日の委員会の集まり。
ソラは椅子に座って寝ていた。先ほどからゆすったり声をかけたりしているが一向に起きる気配がなかった。
「トワくんお願いします!」
「嫌だよ。ナナがやったほうが怒らねぇよ。たぶん」
「私もヤダよ人のこと叩くなんて!」
「でもどっちかがやらないと先進まないぞ」
「…じゃんけんで」
ナナの提案にトワも頷いて手を出す。
「さーいしょーは」
バンッ
掛け声をかけている途中で強く叩く音が響いた。
驚いて振り向くとソラの頭を二人以外の生徒が丸めた紙で叩いていた。
「えっ!」
「あ、お前この前の!」
「躊躇してたら業務が進みませんよ」
トワのいうこの前の生徒、トキとトワを一人で止めた生徒だった。
「あれ…おはよう」
「ソラ先輩、委員会の業務連絡が貴方だけありません」
「あ、ティア君。そうだったね、ごめんごめん」
強く叩かれたにも関わらずソラは何事もなく挨拶とティアと呼んだ生徒にパッドを取り出して画面をスライドさせていく。
「今そっちに送ったから確認お願い」
「わかりました。今後遅れないようお願いします。では」
自分の手元にあるパッドを確認して、ティアという生徒は礼儀正しくお辞儀をして帰っていった。
「あいつ何?」
「あれ?知らない?生徒副会長のティア君。二人と同じ一年生だよ」
「1年生で副会長ですか!?」
「すごいよね。中学から推薦なんだって」
「じゃー頭いいんスねアイツ」
「中学は学年トップをずっと維持してたらしいよ」
すごい同級生がいたようだ。生徒会に入るのもこれまでの成績や実績である程度篩がかけられてしまうという話である。
「運動部でも大会で優勝取ったこと多いみたいだししかも見た目も綺麗系で、女子からすごい人気だって聞いた。天才っていうの本当にいるんだねぇ」
「すっご…」
「ごめんね話それちゃった。図書委員の説明しなきゃ」
ようやく本来の目的である説明が始まった。
二人は電子パッドの使い方や活動内容を聞いて、たまにナナがメモを取っていく。
「…以上が細かい内容だよ。今の説明でわからないところあるかな?」
「私は大丈夫です」
「俺も」
「よかった!普段の活動は1週間交代だからいつ担当になるかスケジュールの確認はしておいてね」
「はい」
「今日はこれでおしまい。お疲れ様!」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました。ところでこのパッドは返すやつ?」
「ちょっとトワくん!先輩に向かって失礼だよ!」
「いいんだ。僕あんまりそういうの得意じゃなくて…トワ君みたいにくだけてると嬉しいな」
「はぁ…」
「ナナさんも敬語とかなしでいいからね?」
一つ上なだけと言えど先輩に対してタメ口はナナにとってはハードルが高いため、丁寧にお断りを入れた。
ソラは別の作業のために図書館に残り、ナナとトワが外に出るとトキが不機嫌そうな顔で待っていた。
「部活終わり?早いね」
「頑張ってトレーニング先に終わらせたからね!」
「お前体育系は成績いいもんな」
「トワにだけは本当に言われたくない!」
トワの発言により、誇らしげな顔からまた不機嫌な顔に戻った。しかしトキの言う言葉にもナナは納得する。
「ナナちゃん帰ろう!トワばいばい!」
「俺帰る道ナナとほぼ一緒なんだけど」
「なっ…そ、自転車じゃん!」
「必ず乗らなきゃいけないルールないだろ」
「でも道幅取るじゃん!ほら帰れ!トワに用なんかないんだから!」
「ほーん…?」
子供の喧嘩のような会話だが、トワ自身は特に気にすることもなく、なんなら悪い顔をしていた。そんな顔も様になるのだからイケメンとはずるいとナナは思った。
「俺に用はないんだな?」
「ないよ!」
「今後ないんだな?」
「な、ないよ…!」
「…じゃあナナ、また明日」
「うん…?気を付けてね?」
また手を振ってトワだけ先に帰る。ナナも手を振って見送り、トキは少し不思議そうな顔で見ていた。
この発言が、今トキの首を絞めていた。
「お願いします数学教えてください!」
「どーしよっかなー」
「トワくん…」
お昼休み。食堂でトキはトワに頭を下げていた。
こんな状況になってしまったのは学生は決して逃れられない中間テストが控えていたからである。前述したとおり、トキは勉強自体がそもそも苦手であり、成績があまりよろしくなかった。
「用がないなんて言ってごめんー!めっちゃあるー!」
「ナナは数学わかんないとこあんの?」
「あ、うん…あんまり得意じゃなくて…」
「お昼ご飯おごるから聞いてー!」
椅子にふんぞり返らんばかりの態度のトワにトキは必死にお願いをする。
「トワくん…もう許してあげなよ…」
「ナナちゃん!」
「なんかもう、見てられないっていうか…哀れみが強くなってきた」
「ナナちゃん!?」
「…じゃ勉強教える代わりにテスト終わるまで昼飯奢れ」
「はー!?それはやりすぎじゃない!?」
「俺の勉強時間を割いて教えてやるんだから正当な報酬だと思うけどな?」
「そ、それは…ぐぅ…」
そう言われるとトキは少し納得しかける。
「あ、あんまり高いのは頼まないで…」
「はい決まりー!」
「トキくん、私も半分出すから…」
「あ?ナナは出す必要ないだろ」
「でも、私も教えてもらう身だし、トワくんの時間を取っちゃってるから」
「あー…いや、ナナは別に悪いことしてねぇし…」
「教えてもらうお礼だと思って!ね?」
「…いや、お礼なら別のにしてくれ。流石に女子に奢られるってのは男として駄目な気がする」
「そんなことないと思うけどな…」
彼女の発言にトワは眉間を歪ませて拒否をした。
「とりあえずトキは今日の昼飯から奢れよ」
「えー⁉…わかったよ…」
「でもトワくんが数学専攻クラスなの意外だな」
「そうか?」
「うん。だってトワくんも運動系か文系の印象があるから」
「文系より理系のほうがわかりやすかっただけだし…」
「えー!すごーい!逆に理系わかんなくない!?」
「文章読み解くほうがめんどくね?」
彼は別クラスの理系専攻だった。以外にも座学の成績も悪くないようだ。
「ぼ、僕だって苦手なだけで出来ないわけじゃないからね!やる気になったらトワより勉強できるんだから!」
「そ、そうなんだ?」
「見栄張るな」
「はってない!」
「とりあえず、次のテストまで頑張ろう?トワくんも、私が教えられそうなら教えるから」
「それは助かるな。なら放課後から図書館でやるか。トキ、今日の昼飯これがいい」
「わかった…」
テストに向けての勉強会の約束をし、昼食を選ぶためようやく席から離れた。友人たちの勉強会にナナはひっそりとワクワクしていた。
テスト勉強を順調に行いながら、ナナの休日は一切勉強をせずに羽を伸ばす。今日は女性のリピーターが多いカフェの新作のデザートとショッピングを楽しむ予定のようだ。
制服ではなく私服に着替え、家を出た。
「新しい服も欲しいけど、スマホのカバーも欲しいんだよね…いいの売ってないかなぁ」
休日ということもあり、店が並ぶ通りは人が多い。並ぶことも考慮して先にカフェに向かうことにした。開店前に着いたはずだが、それでも並ぶ列はできており、ナナは気合をいれて列に並ぶ。
暫く待っていれば列は動き、店内に入ることができた。
「あれ?」
先に席を決めようと見渡していると、金髪が視界を横切った入った。トキかと思い視線を戻すと知らぬ女性であった。
なんだぁ、とすこし肩を落としたが、なんとなくその顔に見覚えがあった。
はて自分にあんな美人な女性の知り合いがいただろうか。疑問に思いながらも見たことがある顔を思い出そうと凝視してしまう。
「…」
「あっやばっ」
女性が顔を上げてナナのほうを見てきた。彼女はすぐに顔を逸らして席を探す。そしてちらりと先ほどの女性を盗み見た。
女性はすでにメニューに視線を向けておりナナを見ていなかった。それにほっと息を吐いたが、顔がやはり見たことがありすぎる。しかし何処で見たのか思い出せない。
「最近なんだよな…何処だっけ…お店じゃなくて、学校で…」
席を確保しながらメニューよりも女性の顔が気になって仕方がなかった。
「学校の…女の子?じゃないな…あんな無表情な美人がいたらトキくんやトワくんみたいに騒ぎに……あ」
無表情な美人。
そのワードがでてきた途端にすぐに思い出した。生徒副会長であるティアと顔がそっくりなのである。
「兄弟か双子なのかな…?でもソラ先輩そんなこと言ってなかったし」
あそこまで飛びぬけた人の家族なら噂や話が出てきてもおかしくない。だがそんな話は聞いたことがなかった。首を傾げながらもう一度女性に視線を向けた。
今度はしっかりと目が合ってしまった。しかも相手が睨んでいるという最悪の形である。急いで顔をそむけたがおそかった。女性がナナに近寄ってきたのだ。
「あああのすみません勝手に見てしまって別に悪気があったわけじゃなくて」
「…ちょっとこっち来て」
「へ、え、」
女性は、女性にしては低い声でナナの腕を優しく、しかし離さぬようにしっかりと掴んでトイレの方へと歩いた。
開店したばかりではそこに人はおらず、二人だけの空間になったような錯覚になる。
「あ、あの、私別に、本当に」
「誰にも言わないでください」
「え?」
女性が無表情ながらも焦ったように声を出した。
「えっと…」
「俺に出来ることならします。だから、どうか秘密にしてください」
「俺?え、嘘、まさか、あなたは…」
「…」
最後まで言わずとも女性が、いや彼が何者なのかナナは察してしまった。衝撃が強すぎてナナは何度も彼の姿を見てしまう。
女性にしては体格が角ばっているが、服でこうもごまかせるものなのか。
「え、なんで女装なんか…」
「…」
「そういう趣味?」
「断じて違います」
「じゃあなんでですか?!」
「…変装です」
「えぇ…?」
彼、ティアの顔は恥なのか顔を少し赤らめていた。まさに女性のような表情である。
「わ、わざわざ女装選びます普通?」
「得することもあるので…」
「はぁ…」
「…一方的に黙秘しろ、というのは無理な話ですね。詳しく話します。まず席に戻りましょう」
「はい…」
ナナが選んだ席に二人は座り、ティアが咳払いを一つして改めて向き直るように話を始めた。
「先ずいきなり脅迫するような形をとってしまいすみませんでした」
「え、いえ。大丈夫です」
「俺がこのような恰好をしているのは、先ほども言ったように変装と得があるからです」
「得…」
「はい。例えばこの店のような女性に人気のデザートを気兼ねなく食べられます。女性が多い喫茶店でもこの姿なら気にせず入っていけます」
「はぁ」
「男が、まして生徒に顔が知られている自分がこういった物を食べているのを見られたら、次の日から噂がたちます。なので女装という変装をしています。男の自分が女になっているなんて誰も思わないでしょう。そういった点でこの恰好がちょうどよいと思ったんです」
「…はぁ」
ティアの説明にナナは気の抜けた返事しかできなかった。情報量が多すぎる。
「あの、理由はわかったんですけど…」
「はい」
「変装してまで、お店に入りたいんですか?」
「…」
情報の大洪水だが、そこまでして店に入るとは相当な思いや意思があると考えた。それこそ罰ゲームでもなければ普通はやらないだろう。
詳しくは知らないが、ティアのような人が女性目的でそのような恰好をするとはナナは思えなかった。
「……お恥ずかしい話ですが」
「はい…」
「食べるのが、好きでして…」
「はい?」
「新作や、人気のメニューがあるとわかると、どうしても食べたくて…しかし女性の中に男の俺が行くのは、憚られるといいますか」
つまり彼は料理を食べたくて変装までしているということだ。理由がなんともシンプルでナナは余計に混乱してしまう。
「そ、そこまでしてですか…?」
「そこまでしてです。わからないでしょうけど」
「あ、いえ、その…すみません」
「…いえ、こちらこそすみません。話を戻しますが、生徒会役員である自分が女装してまで食べ歩きをしているなんて事は学園の恥。生徒代表としてあるまじき行為であることはわかっています」
「そんなことはないと思いますけど…」
「ですので、どうかこの事は黙っていてほしいのです。お願いします」
深々と礼儀正しく頭を下げてきた。ナナは慌ててすぐに頭を上げるように伝える。
「あのっ誰にも言いませんから!」
「…ありがとうございます」
「生徒会は忙しい身だし、息抜きは必要ですもんね!」
「…いえ、そうですね」
「…あの、注文しませんか?せっかく来たんですし」
「そうですね。このまま相席してもいいですか?席が埋まってしまったみたいなので」
「えっ!あ、はいどうぞ!」
衝撃の出来事であったが、本来二人の目的である料理とデザートを注文しに向かう。ナナのほうが先に席に戻り、ティアは後から戻ってきた。
彼のトレーには二種類のサンドイッチと新作デザートがしっかり乗っていた。
「朝ごはん食べてなかったんですか?」
「いえ、食べてます」
「えっ食べたのにサンドイッチ食べるんですか?」
「はい」
具材はサーモンと肉という割とガッツリしたものだ。流石男子と言うべきなのか。見た目のギャップが強いと彼女は思った。
対してナナのトレーにはバターで軽く焼かれたベーグルと蜂蜜、新作のデザートである。
「いただきまーす」
「いただきます」
彼女はベーグルを、彼はサンドイッチに手をつけて食べ始める。向き合う形で座っているため、ティアの食事風景がどうしても目に入ってしまう。丁寧にサンドイッチを食べすすめる彼は、無表情ながらもどこか幸せそうな雰囲気だ。
先に食べ終わったのはティアのほうで、デザートに移っていた。ナナも食べ終わり、デザートに移る。
「んー!美味しいー!」
デザートの美味しさにナナは笑顔がこぼれた。ティアも返事はしないが黙々となんとなく嬉しそうにデザートを食べている。
半分ほどナナは食べた後、彼女は残っていた蜂蜜をデザートにかけた。
「えっ」
「はい?」
その行動を目にしたティアが声を出した。
「何してるんですか?」
「蜂蜜をかけてます…?」
「そうではなく、かけるなんてことどこにも…」
「あ、あぁ、これ女子の間でちょっと盛り上がってるんです。蜂蜜かけて食べると意外と合うって…あれ?」
話を聞いたティアは今まで見たことないほど大きく目を開いていた。彼のデザートはもうなくなりかけている。
「あ、あの」
「そんな食べ方知らない…!」
「副会長…さん?」
今まで崩さない表情が崩れ、ショックで落ち込んでいるのがわかった。
「ご、ごめんなさい私なにか悪いこと…」
「いえ、逆に教えてくれてありがとうございます…どうそ、食べてください」
「は、はい…」
彼の言う通り、蜂蜜のかかったデザートを一口食べる。
「さらにおいしー!」
「…」
「はっ!ごごごめんなさい!」
「いいえ、大丈夫です…」
顔を両手で隠している。相当ショックだったようだ。また二回しか出会ったことはないが、あの副会長がそこまで感情を揺さぶるとは。本当に食べることが好きなようだ。
可哀そうに思えてきたナナは味わいながらも早めに完食した。
「あの、そういう食べ方は他にもあるんでしょうか」
終わったのを見計らってかティアが聞いてきた。
「そうですね…ここだとビーフシチューにトーストを入れて一緒に食べるとか…」
「なんだそれ絶対美味いやつ…」
「他のお店にもそういったものはありますけ、ど」
「もう一つお願いしていいですか」
「えあのはいなんでしょう!?」
「これから俺にそういった食べ方を教えてくれませんか?」
「え、あ、はい。いいですけど」
「ならRain交換しましょう。俺と会うことが多いなんて目立ちすぎますし、貴方の学生生活に支障がでかねません」
「えっえっ」
「教えてもらうだけでは不公平です。お礼に何かしましょう」
「お礼なんてそんな!大した事してません!」
「納得できません。何かありませんか」
断りを入れても彼は引きそうにない。どうしたものかとナナは悩んだが、一つだけ良いことを思いついた。
「あの、副会長さんは勉強ができるって聞いたんですけど」
「出来るとはいいませんが、一応Aクラスにはいます」
「A!?特進クラスじゃないですか!」
「まぁ…」
「あ、あの、ご迷惑でなければ勉強を教えてくれませんか⁉」
「は?」
今まで驚かされ続けてきたナナは、今度はティアを驚かせた。
「テスト勉強はしてるんですけど、どうしてもわからないところが出てきちゃって…副会長さんならわかる問題だと思うし、食べ方を教えるお礼になります!」
「…なるほど。わかりました。では今後勉強する機会も連絡します。コード交換をしましょう」
「はい!」
お互いのスマホを取り出してコードを読み込み交換を完了する。ティアのアイコンが料理になっていることにナナは少し笑った。
「改めて、俺はA-1クラスのティアです。名前で呼んでください」
「あ、ナナです!E-1です!ティア、くん!」
「これからよろしくお願いします。俺は次の予定があるので失礼します」
「はい!よろしくお願いします!」
ティアは伝票をもって小さくお辞儀をして席を離れた。
なんとも衝撃的な出来事だったが、副会長は意外と思っていたよりも怖くないのかもしれない。ナナはそう考えながら自分の予定を進めるために席を伝票を持ち立つ。
「あれ?伝票は!?」
レジに向かうと店員が、相席の方が支払われましたよ。と告げた。