ぱろっ
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昔々あるところに、赤いずきんを被った小さな女の子がおりました。
女の子はナナといい、外で遊ぶのが大好きでした。
ある日、ナナは人を食べる狼が出る危険な森へと足を踏み入れてしまったのです。
こわいおおかみさんなんていないわ!
彼女はそう信じていました。何せその森は自然豊かで景色もきれいでした。
「おかあさんもしんぱいしょーね。おーかみさんなんてみたことないもの!」
そうナナという少女はこの危険な森の侵入常習犯でした。子供にありがちな行動ではありますが、大人は皆近寄ることがないため、子供が居るなんて知りもしません。
「…あ」
「?あらこんにちは!」
「ま、またここにいる!」
ナナの近くで茂みが揺れました。中から彼女と同じくらいの男の子が現れました。
「あぶないからきちゃだめっていったじゃないか!」
「こんなにきれいなのに?」
男の子は焦った顔でナナに走り寄ります。この森の危険性を訴えていますが、彼女は聞く耳をもちません。
「ぼくだっておおかみなんだぞ!」
「そうはみえないけど」
男の子はがおーと手をあげて脅します。しかしそんなもの彼女には効きません。男の子は子供故に怖くなかったのです。
しかし、彼は人間にはありはしないものがついていました。
「みみもしっぽもあるじゃないか!」
「わんちゃんみたいでかわいいね」
「ちがうよー!」
そうなのです。男の子には小さくもふさふさの三角耳と尻尾がついていました。彼は立派な狼だったのです。
「つめも、きばもこんなにとがってるんだぞ!」
「でも、りんくはわたしをきずつけたことないじゃない」
「そんなことしないよ!」
男の子、リンクは狼ではありますが、争いごとも人を襲うこともしない優しい子でした。そのためか、人を怖がらせるという行為が下手です。だからどれだけ脅そうともちっとも怖くなかったのです。
「ねぇナナ、このもりはぼくいがいのおおかみもいて、そいつらはにんげんもおそうんだよ。ナナなんてたべられちゃうよ…」
「おとなもおかあさんもいってる。でもわたしあったことないの。ほんとーにいるの?」
「いるよ。だから、たべられちゃうまえにはやくにげて。もうここにきちゃだめだ」
いまだに信じられないナナは何度も確認します。リンクは寂しそうにしながらも彼女の身の安全を優先しました。
「いやよ」
「どうしてわかってくれないの?」
「だって、りんくにあえなくなるのはいやだもの」
「え、う…えっと」
今度はナナが寂しそうな顔でいいました。
それを聞いたリンクは顔を赤く染めて言葉に詰まってしまいます。彼も彼女に会えないのはとても寂しいことでした。
「せっかくおともだちになれたのに、あえなくなるのはいや」
「ぼ、ぼ…ぼくだって、あえないのは、いやだけど…でも…」
「じゃあいいじゃない!」
彼女の押しに負けそうになります。
でも森の怖さをリンクはよく知っています。簡単に頷けばナナの命が危ないのです。
「…もりのいりぐちちかくなら…いいよ」
「うーん、わかったがまんする!」
負けてしまいました。
子供の心では寂しさを無視することはできません。
ナナとリンクは森の出入り口付近で遊ぶようになりました。
数年経って、彼らは少し大きくなりました。
「ねぇリンク、森の奥はどうなってるの?」
「おくはわるい狼も居て危ないよ。ナナのおねがいでもつれて行かないから」
「む、連れてってなんて言ってないのに」
「そういう顔してるんだよ」
変わらず赤ずきんを被ったナナと、少し耳と尻尾が大きくなったリンクは遊んでいます。
「でも、リンクみたいにいい狼もいるんでしょ?」
「いるけど…」
「やっぱり!あってみたい!」
「だ、駄目だよ!人間の匂いがひろがっちゃうから!」
リンクの言葉にナナはきょとんとしました。
人間のにおいとはなんのことでしょうか?
「私、変なにおいする?」
「ちがう!ナナはあまくていいにおいだよ!あっ」
「よかった、お花のにおいかな?」
「……うん、そう!お花!」
リンクは顔を真っ赤にして慌てて口を塞ぎました。でもナナは安心しています。彼のおかしな行動に気づきません。
「人間のおいしそうなにおいをみつけて、わるい狼がおそいにくるんだ。狼は鼻がいいから」
「そうなんだ…」
成長したナナは、以前より森の危険性を理解していました。森の奥深くに行こうともしません。
「あの、リンク、私森にこないほうがいいかな…」
「えっ…どうしたの?」
「だって…めいわくかけちゃってるから…」
「ぼくめいわくなんて思ってないよ。本当は来ないほうがいいんだけど…ナナとあえないのは、その、寂しい…から」
成長するにつれてその危険さを、狼の恐ろしさを理解すればするほど、ナナはリンクに迷惑をかけていると考えるようになりました。
「だいじょうぶ、まだわるいやつらには見つかってない。見つかっても、ぼくが…ぼくがナナをまもる!」
「…本当?」
「うん!ぜったいまもるよ。だから、来ないなんて言わないで」
「ありがとう!」
優しい約束がナナを笑顔にさせました。
彼女は嬉しくてリンクに抱き着きました。彼はびっくりして耳も尻尾もぶわっと毛を逆立て、赤ずきんに負けないほど顔を赤くして固まってしまいました。
さらに数年経つと、二人は男性女性と呼べる姿に成長しました。
ナナは変わらず森へと足を運んでいますが、今日はどうやら様子がおかしいようです。
「はぁっはぁっ!」
ナナは走っていました。入ったことのない森の奥深くへとどんどん進んでいきます。森は進めば進むほどに日の光を遮り、暗くよどんでいきました。
「あっ!いた…」
足がもつれて転んでしまします。
草木の硬さに彼女の柔い肌は負けて切り傷を作ってしまいました。
赤い水がじわじわとふくれていきます。
「うぅ…」
しかしその痛みもナナはすぐに忘れてしまいました。涙がぼろぼろと零れます。よくよく見れば彼女の服は走っていたにしては変に乱れていました。
震えているナナの近くで草木が揺れます。
「リン…」
その揺れにナナは一瞬安心します。でも見えたのは知らない狼でした。彼らは鼻を鳴らし、口からよだれをこぼしています。
彼女は本能で察しました。やつらは人を襲う狼であると。
理解できぬほど小さな声と言語で狼がつぶやくと、次々に別の狼が現れます。ナナは逃げるために足を立たせてまた走ります。
それを合図に狼たちは彼女を追いかけはじめました。
「うぐっ!いや!離して!!」
人の足が狼に勝てるはずがありません。
一匹の狼がナナの背中に飛びかかり、押さえつけます。
そのまま腕や足を品定めを始めました。追いついてきた狼たちも同じように鼻を近づけています。
まるで、どこから食べようか、と選んでいるようでした。
「やだ!やめて…やめて!」
狼の唾液が腕にかかりました。
しかし痛みがくることはありませんでした。それどころか、体の重みもなくなっていました。
「はなれろ」
低く聞いたことがある声を耳にします。
「ナナから離れろぉ!」
でも、聞いたことがない怒号でした。次に何かを強くぶつける大きな音が聞こえました。
「離れないなら、おまえら全員食いちぎってやる!」
あの優しくて、穏やかな彼の言葉と声とは思えませんでした。
それでも間違いなくナナが今一番安心できる声です。
狼たちはおびえながらすぐに散り散りに去っていきました。彼は荒い息を整え、ナナに振り返ります。
「ナナ!遅くなってごめん!もう大丈夫だよ!」
青年という言葉が正しく当てはまるリンクが、ナナを抱き起しました。彼の顔を見て、やっとナナは安心して、涙をこぼしていきます。
「あ、リンク…うぅわあああん!」
「怖かったね。頑張ったね」
「うあああああっ!」
「大丈夫、もう大丈夫だよ」
泣く彼女をそっと抱きしめて背中を優しく撫でました。
ナナの涙はずっとリンクの服を濡らしていきます。段々と声が小さくなり、ナナは気絶したように眠ってしまいました。
「…?」
彼女はゆっくりと目を開けます。
見たことのない天井と、カーテンのかかった窓がありました。風が優しくナナの頬を撫でていきます。
「あっ目がさめた?」
知らない女性の声が聞こえました。驚いて声のほうへと頭を向けると、頭に二つの耳をつけた綺麗な女性が桶をもっていました。
「大丈夫よ、私はゼルダ。リンクの幼馴染なの!ナナ、で名前はあってるかしら?」
「あっ…えと…」
「混乱するよね…でも今はゆっくり休んで?怪我もしてるし、何よりひどいことされたんだもの…助かってよかったわ」
優しく笑って桶を置きます。中に入っていた水にタオルを浸して水気を取り、そっとナナの目元にあてました。
ゆっくりとタオルで冷やしていると、彼女は涙をまた流し始めてしまいます。
あの時何があったのか、思い出してしまったのです。
「私…わたし…っ」
「大丈夫よ、ここにはあなたを傷つける狼なんていないわ」
「うっ…ひぐっ…」
「怖かったわね」
ゼルダは優しくタオルで涙と目元をぬぐいながら、頭を撫でます。
今回はそこまで涙を流すことはありませんでした。
「すみません…見知らぬ私に…」
「いいのよ。リンクから話は聞いてるし、何より女同士として放っておけないわ」
「…ありがとうございます」
「敬語なんていらないわ。あぁそうだ、水もってくるわね」
ゼルダは立ち上がって水差しからコップへと水を注ぎます。
そしてナナの体を少しだけ起こして、背中に枕とクッションを詰め込むと、コップを差し出します。この時初めて、自分が着ている服が違うことに気づきました。ナナはコップを受け取って、ゆっくりと口に含みます。
やや冷たい水が喉を少しずつ通っていきました。
「おいしい」
「よかった!…あの、ナナ」
「はい」
「今すぐ聞くべきではないんだけど、どうしても確認しなきゃいけないことがあって…聞いていいかしら」
「何でしょう?」
「あなたの着ていた服なんだけど、破れてて修復が出来そうにないの。でも、破れ方が、変っていうか…」
「…」
ナナはゼルダが何を言いたいのかわかりました。
思い出して、コップを強く握ってしまいます。
「森に入る前に、暴漢に襲われて」
「…ごめんなさい。もう、大丈夫よ。服はどうする?」
「捨てて、いい…」
「わかったわ…それと、しばらく男の人は近寄らせないようにするね」
「えっ!」
「男の人が苦手だって伝えるだけだから。本当のことは誰にも言わないわ」
暗い空気を払拭させようと、ゼルダは笑って言いました。
正直その言葉はナナにとって嬉しいものでした。今はとてもではありませんが、男性とちゃんと会話できる気がしなかったのです。
「私今からナナが起きたってことと、男の人を寄せ付けないように伝えてくるわ。すぐに戻ってくるけど、もし何かあったらこの笛を吹いて?」
「これは…?」
「私を呼ぶ笛よ。私たちの村では皆自分用の笛を持ってるの。どこかにでかけたり、お留守番を任せたりするときは必ず持って行ったり、預けたりするのよ」
「そうなんだ」
細くて小さな、金属でできた笛をナナはまじまじと見つめた。
「それじゃあ行ってくるね!すぐに戻るから!」
「うん」
ゼルダはドアから出ていきました。
ナナはカーテンを少しずらして外を見ます。
なるほど、彼女の言う通り、村としてある程度の家がいくつか建っているのが見えました。住人であろう人も見かけます。
すぐにそっとカーテンを閉めてコップの水をまた飲みました。
ゼルダの家にお世話になって数日が経ちました。
足の怪我も心の怪我も少しずつ良くなってきています。
そんな毎日に、一つだけまた違った変化がありました。
「あ、また花」
「本当ね」
ナナが眠るベッドの近くに、数本だけ紐でくくられた花束が置かれるようになったのです。花の種類も毎日別で、必ず一日一つは置いてありました。
多い時は一日に3束ほど時間帯で置かれていたりしています。
「誰が置いてくれてるんだろう」
「そうね…ふっふふ…」
「ゼルダ?何か知ってるの?」
「ううん、知らないわ!」
明らかに知っている様子ですが、知らないふりをしました。
ナナはゼルダが特に警戒しないなら大丈夫だろうと考えていました。
「花瓶にもうお花入らないね」
「そうね…枯れそうな花は押し花にしてみる?」
「押し花!いいね、そうしよう!」
数本花を取り出して、押し花の準備をはじめます。ゼルダはおそらく花の送り主であろう人物に心の中で応援を贈りながら、押し花の準備を一緒にはじめました。
「ナナ、ここの生活は慣れたかしら」
「うん、ゼルダも、他の女性の人たちも皆優しくしてくれるから…あとは…男の人たちにもお礼を言えたらいいんだけど…」
「それは急ぐ必要ないと思うわ」
「でも…こんなに良くしてもらって…リンクにもお礼が言えてないのに」
「ナナ…」
花を一つ一つ丁寧に本棚にある本で挟んでいきます。
「リンクになら、会える?」
「…正直わからない。でも、一番会いやすいかもしれない」
「それならリンクを連れてくるわ」
「へっ」
「もちろん家の中には入れないし、私も傍にいるわ。窓からでいいかしら?」
「えっあのっゼルダ話が早すぎるんだけど!」
「ちょっとまってて!」
そう言い残すと、ゼルダは家を出て行きました。綺麗でお淑やかな彼女ですが、意外と思い切りの良い行動派なようです。数日一緒に過ごして、ナナはゼルダの行動力に驚かされる毎日でした。
本当にちょっと待ってたら外が少し賑やかになってきます。
聞きなれたゼルダの声と、久しぶりに聞くリンクの声でした。
「ほら窓から!」
「ええっまってゼルダ!まだ僕心の準備が、あーっ押さないで押さないで!」
「ちょっと会話するだけでいいの!」
声が近づくとナナも心臓が緊張で早くなりました。体には冷や汗のような冷たさと痺れが走ります。
「ナナ!リンクを連れてきたわ!…話せそう?」
「…」
「えーっと……ゼルダやっぱり無理なんじゃ…」
「あのっ」
窓のカーテン越しからゼルダとリンクの声がよく聞こえます。
ナナはカーテンを開ける勇気がありませんでしたが、声をかけることができました。
「ひ、久しぶり…」
「…ぁ、えっと、久しぶり!げ、元気?」
「うん、元気…」
「そっか、よかった…」
久しぶりのせいか、会話がぎこちなく続きません。
ゼルダは話の橋渡しをしたくなりましたが、ぐっと我慢します。
「あの、ね、リンク」
「うん」
「助けてくれて、ありがとう」
言えなかったお礼をやっと伝えることができました。
「気にしないで。ナナが元気なら僕は嬉しいんだ」
リンクも言葉を伝えます。
ゼルダもほっと胸をなでおろしていました。
この日はナナの精神の負担を考えてリンクは帰っていきました。ゼルダが家の中に戻ると、震える手を握っているナナがいました。
すぐに彼女を抱きしめて頭をゆっくり撫でてあげました。
コンコン
夜に窓の戸から音が聞こえます。
コンコン、コンコンと決して強くない音です。ですが何度も鳴らされれば近くで寝ているナナは目を覚まします。
「ナナ、ナナ、僕だよ」
「…?リンク?」
「うん、ごめんね寝てるのに」
昼間に少しだけ会話をしたリンクがまた窓の外から声をかけていました。
「どうしたの?」
「えっと。ナナとまだ話したいなって思ってさ…」
「話?」
「うん、久しぶりにナナと話せたのが嬉しくて、あっでも無理なら僕帰るよ!」
「ううん、大丈夫。私も話したいの」
窓の戸を開けない少しだけ聞き取りにくい会話でした。
リンクは何気ない話から、村の話や自分のことを話していきます。ナナは相槌をうちながら自分の感じたことを伝えました。
久しぶりの会話は、穏やかに進んでいきました。
「あ、夢中で話しちゃった!ナナ大丈夫?」
「うん平気よ。でも確かに遅い時間だね」
「そうだね、今日はもう帰るよ。あのさ、また同じ時間に来ていい?」
「お話してくれるの?」
「うん。難しいかな?」
「……ううん、嬉しいの。ありがとうリンク」
怖さはまだありました。それよりも嬉しさが勝っていました。
ナナもリンクも、今どんな顔をしているのかわかりません。
「よかった!あっそれと、ちょっとだけ窓開けていい?顔も手も見せないから!まだ駄目かな?それなら玄関に置いておくよ」
「そ、それくらいなら大丈夫だよ!」
「じゃあ…これ」
窓の戸が小さく開き、月夜特有の外の明るさが家の中に入ります。
小さな隙間から、にゅ、とお花が出てきました。
「あれ、お花…リンクもしかして今までずっと?」
「ご、ごめんね!でもナナが心配で、お見舞いで置いていってたんだ…」
「そうだったんだ…」
お花の犯人の正体を知り、ナナはそっと花を受け取りました。
「ありがとう」
「うん、うん!じゃあまた来るね。おやすみなさい」
「おやすみなさい!」
去っていく音が聞こえます。
ナナは受け取った花を再度優しく握り。その日は花とともに眠りました。
リンクは毎日夜の短い時間だけナナに会いにきました。直接顔を見ることはありませんが、それでもかまいませんでした。
そんな日々何日も続いた後の夜のことです。リンクは変わらずナナの元に居ました。
「ねぇ、リンク」
「どうしたの?」
「私、貴方と直接話がしたいの」
「えっえぇ⁉」
彼女の言葉にリンクは驚きました。勿論、彼にとっては願ったりかなったりです。ですが、ナナのことを考えると心の底から喜んでよいものかと悩みました。
「ま、まだ早いんじゃない?それにゼルダが起きてる時でも」
「大丈夫、リンクなら、大丈夫だって思う」
「ええと…うー…」
「何か都合が悪かったりする?」
「いや、全然ない。でも、その、僕も緊張して…久しぶりだから…あぁこんなことならちゃんとしてくるんだった…」
リンクはもしょもしょと声を小さくしていきました。
ナナはそれを聞くと、少しだけ緊張が和らぎます。
「窓、開けていい?」
「あーっちょっと待って!寝ぐせついてないかな…」
「寝ぐせ?それ見てみたい」
「やめてよ!わっ」
勢いよく窓を開けました。しかし目の前に予想していた姿がありません。左右を見てもリンクの姿がありませんでした。
「そ、そんな勢いよく開けなくても…」
「…リンク」
彼は窓の下でしゃがんで頭だけを出していました。目は若干緊張で潤み、口元は両手で隠し、立派な耳も今はぺたんと下がっています。
ナナから見れば、リンクは上目遣いをしている状態でした。
「…」
「な、何か言ってくれよ!違うっやっぱりまだ早かったんだよ!ほら窓閉めて!」
「やっぱり、あなたは怖くない」
「へ…」
窓の縁に水滴がぽつぽつと落ちていきます。
彼女の目から零れる水を、リンクはすぐに拭おうと手を伸ばしますが、途中でやめました。手を引っ込める前に、ナナがその手に触れます。
リンクは驚いて、顔を真っ赤にして固まりました。
「リンクは、怖くないよ」
笑ってそう言いました。そんなナナを見て、リンクはもう少しだけ窓から顔を出して彼女と視線を同じくさせました。
「触って、いい?」
「うん」
爪で傷つけないように指を丸めて慎重にナナの涙をぬぐいました。
「怖くない?」
「平気」
「もう少し、触っていい?」
「うん」
ぽろぽろ零れる涙を丁寧に丁寧に指で掬いました。
静かに流れる涙は、変わらない月の明かりできらきらと光って落ちていきます。リンクはその光景が、とても綺麗だと思いました。
暫く拭っていると、ナナは泣き止みました。
「ごめんね。泣いちゃって」
「ううん」
「これからは、リンクを見てちゃんとお話しできるね」
「そうだね」
お互い笑って、喜びを分かち合いました。
一度触れてしまえば慣れるのは早いものでした。ナナは次の日から顔を合わせ、手をつなぎ、一緒に外に出れるようになりました。
「他の男の人は怖い?」
「うん…少しだけ…」
「そっか、無理に会わないようにしようか」
今日もリンクとナナは森の中を手をつないで散歩します。
もう怖くなんてありません。彼が隣にいれば怖い物なんてありませんでした。
「ナナ、今更なんだけど。お母さんは大丈夫?心配してるんじゃないかな」
「ええと…お母さんもういないの」
「えっ」
「ずいぶん前に死んじゃった。だから、もう私を心配してくれる人はいないの」
「ごめん!嫌なこと聞いちゃった…」
「ううん、もう前のことだから大丈夫」
リンクは繋いでいる手の力を強くしました。
もう彼女には家族もいません。ひとりぼっちになっていたのです。
「なら、ここに住む?」
「…え、何言ってるの、私人間だよ」
「わかってるよ。村の皆はもう君の事知ってるし、反対はしないと思う。村長にも僕からお願いするし、ゼルダだって賛成してくれるよ!…どうかな」
「でも…人間の私がいたらまた、この前みたいに…」
「大丈夫、僕が絶対守るよ。何があっても君の所に行く」
「…昔から、リンクは優しいね」
ずっと昔からある優しい約束。
彼女にとってそれは安心できる魔法の言葉でした。
リンクは彼女の言葉に少しだけ表情を崩して視線をずらしました。
「僕は優しくないよ。狼だし」
「そんなことないよ!前からずっと優しくて、怖くない狼さんだよ」
「うーん…」
今度は完全に悩む表情になってしまいました。
何が不満なのかナナにはわかりません。
「僕の事どう思ってる?」
「リンクは怖くなくて、優しくて、大切な…その…友達!友達よ!」
ナナは自然とある言葉を口にしそうになりましたが、飲み込みました。それを見ていたリンクは完全に不満顔になってしまいました。
「全然、伝わってなかった」
「えっえっふえ」
リンクはずいと顔を近づけて、ナナの頬をかぷっと食べました。
そのままあむあむと甘噛みで感触を味わいます。ナナは急な出来事に理解が追い付かずになすがままです。
しばらくして、ぺろりと頬を少し舐めて離れました。リンクの顔は情けないくらい真っ赤です。
「僕は、ナナの事こうやって食べたいくらい好きな、怖い狼なんだぞ」
「えっ…えっ…」
「……っうわぁあ!やっちゃったぁ!嫁入り前の子になんてこと…!告白ももっとちゃんとしたかったぁ…!」
段々と自分がしてしまったことに恥ずかしさと罪悪感で耐えられなくなってしまったようです。ナナから背を向けてうずくまってしまいました。
ナナはその様子を言葉と共に見ていました。さらに頬を真っ赤に染めます。
「あ、の…リンク…」
「ごめんなさい…僕の事殴って…」
「やらないよ!?じゃなくて!えっと、私の事、好き、なの?」
「…うん、昔からずっと好きだった…」
うずくまったまま、ナナの言葉に返事をします。
その気持ちだけは信じてほしかったのです。
彼女の顔から湯気が出るのではないかと思うほど真っ赤になっていました。
「……リンク、あのね」
「…」
「私も、リンクが好きなの」
「本当⁉」
ぺたんとしおれていた耳と尻尾がすぐに立ち、リンクも起き上がってナナに向き直りました。勢いの良さに、若干彼女を押し倒しそうな形です。
「ほ、本当…じゃなきゃ、こんなに一緒に居ないよ…」
「ナナ!」
「きゃあ!」
嬉しさのあまり、リンクはナナを抱きしめながら地面に倒れました。倒れた衝撃の痛みなど気になりません。すりすりと彼女の頭にすり寄ります。
「り、リンク!わぷっ」
「ナナ!大好き!絶対離さないから!」
「くるし」
「大好きー!」
「わ、わかったってばぁ!」
まるで飼い主に甘える犬のようにナナから離れることはありません。
すり寄っていた頭から下にずれて、彼女の首元に顔を埋めます。
「うぅーいい匂い…全部僕が独り占めできるんだ…嬉しい!」
「匂い嗅ぐのやめてよぉ!」
「後でちゃんとマーキングするからね!安心して!」
「マーキング!?」
嬉しさのあまりなのか狼としての本能なのか、ナナについていけない愛情の言葉を次々に口にします。
「あっ僕の笛貰って!いつでもナナの所に走っていくからね!あれっこれ結婚式の時に渡した方がいいかな?子供は二人くらいはほしい!」
「けっ!こどっ!」
「でもその前にナナと二人だけで幸せいっぱいに暮らしたいな…今から僕の家で暮そう!そうしたらずっと一緒だ!朝も夜も、君と一緒なんだ!嬉しい!」
「も、一回落ち着いてよぉ!!」
「……はっ!うわああ!ごめんナナー!」
彼女の恥ずかしさで耐えられない叫びでやっとリンクは我に返り、また情けなく顔を赤くして謝りました。
こうしてナナは狼の村に住み、リンクといつまでも幸せに暮らしました。
めでたしめでたし。
狼なんて怖くない