ぱろっ
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※封印戦記のネタバレになるかも
「そこのあなた」
「はい」
「ティアさんであっているかしら」
「はい。ミネル先生ですね」
「ええ、よく知っていますね」
「後々お世話になる方を知るのは当然かと」
「その姿勢は話で聞いた通りのようです。実はあなたにお願いがあってきました」
「なんでしょう」
寒さが段々強くなり、学生たちの服装にも変化が現れはじめる季節。
ナナは寒さに耐えながらトキと共に登校していた。
「もうこんな寒いのにまだ冬じゃないの…?」
「ナナちゃんたちってスカート寒そうだもんね」
「そろそろズボンにしようかな」
「えっ!ズボンもってるの!?」
「そりゃそうでしょ」
トキは何か言いたそうだったがもごもごして何も言えなかった。
ナナは気にせず「これ以上寒くなるなら衣替えかな」と考えた。
二人が学校に着く頃、校門前で一つの異様な物が動いていた。
「うわ!あぁ…ゴーレム、さんおはようございます」
「おはようございまーす」
「オハヨウゴザイマス」
石が組み合わさった生き物ではない物がふわふわとゆるやかに浮きながら箒を持って校門を掃除していた。
一つ目の、楕円型の顔は見た目とは裏腹にとても穏やかに返事をして仕事をしている。
「ナナちゃんまだ慣れてない?」
「うん…ちょっとびっくりちゃう」
学生たちの服装の変化と同時に、学校にも少しだけ変化が起こっていた。
ハイラル学園は国一番の大きな学園である。それゆえに人手は常に足りないのだ。
その学園に新しく就任した先生方の一人が人手不足を補う為にあるモノを作り出した。それが今二人が見かけたゴーレムという物であった。
現在は試験的に動かしており、簡単な仕事を任せている。
「トキくんは受け入れるの早いかったね」
「ボクは見慣れてるからなあ…ボヨヨンする石とか爆発して飛んでいく石とか、あれに比べたら普通だと思うよ」
「何その石怖い…」
トキの話に少しだけ引いたナナ。改めて掃除をするゴーレムを見て、確かに、と納得した。
見た目が怖いだけで静かに仕事をしているだけだ。見慣れた一部の女子生徒からは「かわいい」という評判もある。何れ自分も慣れて可愛いと思うこともあるかもしれないと彼女は考えた。
「怖いと言えばもっと怖い話があるよ」
「え」
校内に入って、トキがさらに話をし始めた。
「学校に人魂が出るんだって」
「ひとだま…?」
「そう!俗に言う幽霊ってやつが廊下を徘徊してるらしいよ…!」
「そ、そんなことあるわけないじゃん!」
「部活の先輩が見たって言ってたよ!」
「その先輩が嘘ついてるってことでしょ!」
ナナはトキの話を嘘だと言い張り続ける。そこでトキは気づいた。
「…ナナちゃんもしかして、怖いの嫌?」
「…」
「ナナちゃん」
「……そう、だけど」
「…か、かわいい…!」
小さい頃、逞しくトキを引っ張ってくれた女の子。強くて怖い物なんてないと彼は思っていた。だが、彼女にも怖い物や苦手なものはあるのだ。
小さな声で呟いた言葉は幸か不幸か彼女には届かなかった。
「だっ大丈夫だよナナちゃん!何が出てもボクが追い払うから!人魂でも魔王でもなんでもこい!」
「トキくん…すごいね。幽霊とか怖くないんだ」
「えっ…まあ、昔からいたし…」
「え」
「あー!ううん!ボク全然怖くない!だから安心してボクについてきていいからね!」
「ありがとう!」
少し学校が怖くなったが、ただの噂話でしかないと誤魔化してナナは学校生活の一日を始めた。
「人魂?あぁなんかいるらしいな」
「え」
「俺も見たことねえけど」
「え」
「僕も見たことはないけど見たって友達はいたかな」
「え」
誤魔化しても自分が気になる事は早々忘れることはできない。ナナは
放課後の委員会で朝の話をトワとソラへとしていた。結果、それぞれが話の噂を確証のものへとおしあげた。
「クラスで忘れ物した奴が夜学校に忍びこんで廊下でふわふわしてんの見たって騒いでたよ」
「学生寮だから学校は割と見えるんだけど、寝る前に小さな青白い明かりが見えたって聞いたなぁ」
「え、え…」
作業が止まり、顔を青ざめさせたナナ。
トワはその様子にすぐに気づいて声をあげた。
「あー!いや噂だからな!俺だって信じてねえよ!」
「え?あ、えぇっと!僕も見てないから本当じゃないと思うよ!」
「でも、そんなに…」
「ほらこの学校人多いから!そういう話で嘘つきやすいんだって!」
「そうそう!」
口を結んで彼女は小さくうなづいた。
その動きに二人は胸がぎゅうと絞めつけられるときめきに襲われたが、何とか理性でナナを慰める方向に向けた。
「あの…」
「なぁに?」
「か、帰りは一緒にお願いします…学校出るまでていいから…」
「わかったわかった!」
「僕も一緒に行くよ」
「うぅーありがとうございます…」
冗談抜きで本当にナナは怖い物が苦手だった。
怖さの前では羞恥心も何もない。彼女は安心を取ったのだった。
それからナナは学校に出入りするたび、誰かと共にするのが常になっていった。
恐怖の日々が続いた数日後、彼女は今世紀最大の危機に陥っていた。
「どぉじて誰もいないのぉ…!」
運悪く教室に忘れ物をしてしまったナナは一人で戻らなければならなかった。頼りにしているトキもトワもソラも部活や委員会でいない。ならば誰かが終わるまで待てばいいのだが、それを季節が許さない。
日が落ちるのが早くなるこの時期に学校で待つのは恐怖で耐えられない。ならばまだ日の光がある夕方、つまり今取りに行ったほうがマシなのである。
「あぁー出ませんように出ませんように出ませんように…」
うめき声のような泣き声のような言葉にならない声を出しながらゆっくりと教室に向かって歩く。だが時間をかければかけるほど日は沈み、ナナの地獄が増していく。
教室に着くころには日がかなり落ちていた。もうナナは泣きそうである。しかし現実は容赦はしなかった。
「あ、え…明かり…あか…!」
教室に、ぼんやりと一つの明かりがあった。青白いような、明かりが。
「ヒッ!ほ、ほんとに!」
遠目で見ただけでナナは恐怖で腰を抜かし、目から涙が落ちていく。逃げたいのに逃げられない。足は動かない、声も恐怖で出せない。教室にいる明かりはゆっくりと動きだした。
「あ…ぁっ…」
ゆっくりと明かりは扉を開けて廊下に出てきた。
そして、黄色い二つの明かりがナナに向いた。それは真っすぐ真っすぐ、何の迷いもなく音を立てて近寄る。
人間ではない、生き物とは思えない音。威嚇する声も理解できない言葉もない、ただただ何かが歩いてくる。
動けない、恐怖はナナの意識も思考すらも奪っていく。そこにある幽霊だけがその場を支配している。
気づかぬうちに、それは彼女のすぐそばまでたどり着いていた。
「…っ」
声は、枯れた。
瞬間何かが目の前に飛んできた。まだ反射で目を閉じることができたナナは、目を閉じて衝撃と痛みを迎えいれた。
「…あれ」
迎え入れるものだと思っていた。
だがそんなことは全く起こっていない。不思議に思い、ゆっくりと目をあけた。
目の前に黄色と、最近見たことのある石の色。形的に手だとわかる。その手らしきものを辿って、肩のような部分へ、さらに視線をあげれば、人のような顔がじっと彼女を見ていた。
「…」
手を出した相手は何も言わず、青白い、いや緑に近い髪のような明かりだけがふわりと動いている以外、ミリの単位も微動だにせずじっと彼女を見ているだけだった。
「…」
恐怖から少しだけ解放されたナナはその手に恐る恐る自分の手を置いた。すると手はゆっくりと優しく握られ、また優しくナナを引いた。
「あ…」
これは恐らく、起こそうとした動き。しかし腰が抜けたナナは立ち上がれず、小さな音が漏れただけだった。相手はそれに気づいたのか、それとも別の理由か、ナナの手を離して彼女の背中と膝に手を回して軽々と抱き上げた。
「…?」
何も言わない相手は持ち上げてただ彼女の顔をじっと見ているだけである。ナナも恐怖と困惑でどうしていいかわからず、ただその体制でいるだけだった。
暫くそうしていると、やっとナナの声が出た。
「あ、あの、教室、おろ」
教室という言葉を皮切りに、相手は動かなかった体を動かし、教室へと歩きだした。器用に扉を開けて教室に入り、彼女の机の前に迷いなくたどり着く。
「…おろして、くれますか」
彼女の声に反応して素直に足から丁寧に下ろしてくれる。
この相手の行動に、ナナは恐怖が段々と薄くなっていった。恐怖で忘れかけた本来の目的を思い出し、机の中の忘れ物を取り出した。
「…あ、えと…かえ、り、ます」
そう聞けば、また相手は彼女を同じように持ち上げてすたすたと何も変わらぬ速度で学校の外へと向かっていく。
目的の場所に着けば、またナナを足から丁寧におろしてくれた。
「あり、がとう…ございます?」
相手は物言わず、じっとナナを見ているだけだ。
「じゃ、じゃあ…」
動かない相手をいいことに、ナナは震える足に気合を入れてその場から逃げ去った。
相手は追ってこなかった。
次の日、ナナは恐怖のストレスで学校を休んだ。だがその次の日には登校したのだった。
「ナナちゃん大丈夫⁉まだ休んでたらいいんじゃない!?」
「う、うん…」
「勉強ならボクノートみせるよ!何したのかもちゃんと伝えるし」
「ありがとうトキくん」
「無理しないでね…?駄目だったらすぐ帰るんだよ?ボク送るから!」
ナナの体調がまだ良くないことはトキにでもわかるほどだった。彼の優しさに感謝をした。
「た、確かこの時間に…」
体調が良くないにも関わらず彼女が登校したのは、二日前に起きた事実を確かめたい気持ちが大きかった。
誰もいない廊下と教室。そこで怖いと思いながらも、その相手を待った。
そして、相手は来た。
彼女が聞いた足音を鳴らしながら、教室の扉を開けた。
「…あ、あの」
昨日よりも明るい教室は、より相手の姿をはっきりと見せる。
掃除をしていたゴーレムのような石の作りではあるが、形は人型である。黄色の目は機械のように小さくなったり、細かく動いているが、ナナから視線を外そうとはしない。
相手は真っすぐ、あの時と同じようにナナに近寄り、立ち止まった。
「…あなた、誰、ですか?」
質問には答えない。
だが、教室の隅にあるロッカーを開けて箒を取り出してそれを握った。
「箒…?あなた箒なの?」
相手は動かない。だが、箒を握って少しだけ掃除をする真似をした。
そうしてナナは見たことがある動きに一つの考えを口にする。
「えっと…ゴーレム…?」
その言葉に、ゴーレムと言われた相手は小さくうなづいた。
用がなくなった箒は片付けられた。
「じゃあ、あなたは外にいるゴーレムさんと同じってこと?」
これにも小さくうなづいた。意思疎通ができると恐怖は益々薄らいでいく。ナナは再度質問をする。
「あの、じゃあ、夜中の幽霊ってゴーレムさん?」
頷かない。
「えっと…幽霊って知ってる?」
頷かない。
「怖いことは、してない?」
頷いた。
ゴーレムは彼女の質問に頷いたり頷かなかったりと答えていく。ナナは質問すればするほど恐怖はどんどんなくなっていった。
「あなた、ここで何してるの?前もここにいたよね?」
この質問には頷かず、ナナの手を優しくにぎった。
「どこか行きたいの?」
意思疎通はできても意味をくみ取るのは難しい。ただじっと手を握ってナナを見ているだけだ。
「ごめんね。そろそろ帰らないと…夜は学校歩かない方がいいよ。皆怖がってたから。じゃあね!」
優しく握られた手から抜け出てナナはゴーレムと別れた。ゴーレムはじっとナナを見つめるだけで追ってこない。
彼女は彼女で怖い対象がゴーレムであるとわかりすっきりしていた。幽霊なんていなかったのである。
一方学校では人魂の噂ではなく別の噂が流れていた。
「ナナ、最近学園付近で魔物が出たって話知ってる?」
「魔物!?」
「先生達から後で連絡があると思うよ」
魔物とはハイラルの歴史上、常に国を脅かしてきた生き物であった。現代はほぼ駆逐されて見かけることはないが、現れては事件を起こして新聞やテレビで放送される程度には日常に潜んでいる。
そんな魔物が学園付近で目撃されたという話が出ていたのだ。
「怖いなぁ…」
「一応俺たちも魔法や武術を授業や部活でやるけど、実践はないからね」
「ティアくんですらないの?」
「うんないよ」
休日の食べ歩きデート基、遊びに出かけていたティアとナナは魔物話で盛り上がっていた。ナナは盛り下がっていたが。
「だから部活と委員会も時間を少なくするか、一時的に中止にするかもね」
「そうだよね…怖いもん」
「うん、皆安全に早めに学校から帰ってほしいから。ナナもすぐに帰るんだよ」
「そうする。ティアくんは寮生だけどどうなの?」
「俺の所は魔法でセキュリティあげるって言ってた」
「そっかぁ…ティアくんたちも気を付けてね」
「うん。まぁいざとなったら俺は魔物と戦うけど」
「やめなよ危ないから」
彼女の言葉に、彼はにこにこと笑って否定をしなかった。
やる気だコイツ。ナナはすぐにそう思った。
程よく食事を楽しみ、ティアとナナは健全な友人の遊びを楽しんだ。
学校ではティアの言う通り、担任から魔物の警告話と部活、委員会の活動時間縮小を言い渡された。
学生たちは早々に帰宅したり、放課後の遊びに向かったりと様々である。ナナは怖いので真っすぐ帰宅派であった。
「ナナちゃんお待たせ!帰ろ!」
「うん!」
「おい容赦なく篭に荷物入れんな」
「いいじゃん途中まではさ」
活動縮小のため、トキとトワとナナ三人で帰宅できることができていた。
「いつまで時間縮小するのかな」
「魔物が見つかるまでじゃね?」
「そろそろボクの部活大会なんだけどな…」
「そういえばトキくん1年生で選手に選ばれたんだってね!すごいじゃん!」
「えへ…まぁボク運動得意だからね!」
「負けてくるなよ」
「負けないよ!そんなかっこ悪い報告ナナちゃんにできないから!」
「一生懸命ならいいんじゃないかなぁ」
「…ん?」
穏やかないつもの会話の中、何かに反応したのはトワだった。
二人はトワを見て彼の視線を追った。先には茂みと少しの木々。
「トワ何かいた?」
「…知らない匂いだ。トキ、武器もて」
「え?」
「トワまさか」
トワは自転車を止めてトキに言った。ナナを自分の背中に隠して前にでる。トキも驚いたものの、すぐに部活で使用している木製の剣を取り出した。
「ね、ねえ二人とも」
「ナナ、絶対離れるなよ」
茂みから、見たことのない種族の生き物がゴボゴボと鳴きながら現れた。ナナは驚いて腰が抜けそうになる。
「ボコブリンか」
「何匹いる?」
「え、嘘でしょやる気⁉」
「当たり前だろ何のために学校で習ってんだよ」
少なくとも実践するためではないとナナは思ったが、そんなことを言える状況ではなかった。一匹のボコブリンがトキに木槌で殴り掛かってきた。
「でやあ!」
それを、トキは何の迷いもなく剣で叩きつける。トワも武器はなくとも襲ってきたボコブリンに対して拳で応えて投げ飛ばしていた。
「おいトキ!もう一本ねえのか⁉予備とか!」
「あっても学校だよ!」
「きゃあ!」
背後にいたナナは背後に突然現れた骨の魔物にとらえられ、そのまま骨の馬に乗せられてしまった。
「ナナちゃん!」
「なんでこんなやつもいるんだよ!」
日が酷く傾いていたのだ。骨の魔物、スタルボコとスタルホースにナナは捕まってしまい、そのまま連れ去られようとしている。
「助けて!やめて!」
「離せー!!」
トキが叫びとともに走るが馬にかなうはずがなかった。
非情にもナナはそのまま魔物たちに連れ去られてしまった。
「ナナちゃーん!!」
「トキ!急いで先生たちに連絡だ!追いかける前に俺たちがやられたら意味ねえぞ!」
「…っくそぉ!!」
泣きそうになりかけたトキは、叫びながらトワと共に再び魔物と対峙し始めた。
その上空で一筋の線が走っていることに気づくことはない。
「離して!下ろしてよ!!」
ナナは恐怖で気絶することなく魔物に叫んでいた。どこで何をされてしまうのか。怖さを紛らわすために叫んでいたのかもしれない。その必死な叫びは魔物には通用しない。
「助けて…誰かたすけて!」
速さと混乱でどこを走っているのかもわからない。それでも彼女は助けを呼んだのだ。
「っきゃあ!!」
走っていた地面が急に爆発し、魔物は巻き込まれて体が崩れた。ナナも巻き込まれそうになるが、それよりも素早く何かが彼女を捕まえて空に逃げた。
「…な、なに…?」
痛みも熱さもない、風の冷たさだけが体に当たることに慌てて目をあけてみれば、夜空が広がり、街が足元にあった。そして、石の鳥のような物が彼女を乗せて飛んでいた。
「えっえぇ⁉何⁉どういうこと⁉」
石の鳥は混乱するナナを背に乗せたまま学園へと戻っていく。
近づくと鳥は降下し、鳥の形をやめた。
「えちょ!あっあなた!」
鳥の形から、教室で出会ったゴーレムの姿に変わった。ゴーレムは落ちる中ナナを己の腕に収め抱えて地面に着地した。
「ゴーレムさん…助けてくれたの?」
ゴーレムは相変わらず小さくうなづいた。
その答えに、ナナは安心で涙をこぼした。
「ありがとう!」
ゴーレムの首であろう部分に両手を回して感謝を述べる。ゴーレムは動じることなく、静かに歩を進めた。学園に近づくにつれて話し声が聞こえはじめる。
「だからすぐにいかねえと!…あ⁉」
「あ、あれって!」
話声の元は無理やり別れてしまったトキとトワ、それと見たことのない種族の二人だった。
「ナナちゃん!無事…いや誰アイツ!」
「おいそいつを離せ!」
「落ち着きなさい二人とも。あれは敵ではない」
今にも襲い掛かりそうな男子を、落ち着いた男性の声をもつ見たことのない種族が抑える。
「ゴーレム、彼女を助けてくれたんだね」
「え…」
ゴーレムはナナを抱えたまま、真っすぐに種族の前まで歩いた。
「もし、怪我はありませんか?」
「え…えぇと…はい」
もう一人の女性の声をもった種族がナナに声をかけた。彼女は驚きながらも返事をする。
「ふむ、念のため医者に診せよう。家族と警察にも連絡をしなければ…姉上。彼らのことを任せてよいか?」
「えぇ。あなたは務めを先に」
「すまない。落ち着いたらまた様子を見に来る」
姉上と呼んだ一人は急いで学園へ戻り、姉上と呼ばれた女性はパッドを開いてどこかに連絡をしていた。
「ナナちゃん大丈夫⁉ごめんボクがもっとちゃんとしてれば」
「怪我はほんとにしてねえよな?無理してねえよな?」
「だ、大丈夫!こ、怖かったけど…」
「…ねえいつまでナナちゃんを抱っこしてるの?」
「ナナ歩けないのか⁉」
「ちっ違うよ!ほんとに怪我はしてなくって…」
「皆さん、精密検査で病院にいきますよ。この紋章に乗ってください」
女性の言葉に三人と一つは紋章に乗ってどこかにワープしていった。たどり着いた先は恐らく事前に連絡されていた病院であろう場所。三人は既に待機していた看護師たちに連れられて精密な検査が始まった。
あれよあれよと検査を終え、連絡が入った家族たちがそれぞれ子供たちに泣いて安心を喜んだり、無茶をした罰としてお叱りを受けたりと様々であった。
魔物と遭遇した3人には学校側から1週間程のお休みを言い渡され、その後改めてあの謎のゴーレムと魔物の件について出会った姉上と男性に会いに大学の一室にきていた。
「調子のほうはどうかな」
「大丈夫です!」
「平気です。すいません。大学の新しい教師だったなんて知らなくて…」
「私も、体も元気です!」
「ふむ、それはなによりだ」
背の高い男性が3人の様子を見てうなづいた。
「知らなくて当然だよ、最近来たばかりだからね。改めて自己紹介をしよう。私はラウル。大学の教師として新しく就任した者だ」
「私はミネル。ラウルと同じで教師として就任したばかりです」
「トワです」
「あっトキです!」
「ナナです」
「早速だが、気になっているのはこのゴーレムのことだね」
「あら…」
挨拶をすませ、ラウルが体を動かすと見えなかったゴーレムが現れた。ゴーレムはラウルの説明をする前に歩き出し、ナナの前に立ち止まってじっと見つめている。
「…ふむ」
「な、なんだよお前!ナナちゃんに何する気だ!」
「あの、ラウル先生!このゴーレムさんは何で」
「そのゴーレムは学園を守る為に姉上が造られた試作のゴーレムだ」
「守る為?掃除とかしてるゴーレムは違うんですか?」
「あぁ、あれらは抵抗する術を持っていない。いわば家政婦のような役割をもっている。だがそのゴーレムは違う。武術をもって学園の安全を守る役割があるのだ」
そのゴーレムはじっとナナを見つめているだけである。
「だから空も飛べたりできるんですね」
「あぁ、上空からも動けるように改良されている」
「だから人型なのか…」
「つーかその頭、コイツが人魂の正体か?」
「その件に関しては迷惑をかけてしまいすまなかった。私たちも予想外だったのだ」
「予想外?」
「その件は私から説明しましょう」
静かに見守っていたミネルが立ち上がり、ゴーレムに近寄る。
「ゴーレムは命令に忠実ですが、武力を持つとなると誰でも命令できてしまうのは考え物です」
「…まぁ危ないもんな」
「ええ。そこでゴーレムにもある程度の命令の判別ができればと思い、ゴーレムの核に正しい心を持つ者の魂をコピーできないかと考えました。」
「た、魂⁉」
「姉上は魂を操る力をもっているのだ」
「そんな怯えた顔をしないで、普段はそんな力ありませんから」
固まった3人は一先ず緊張を解いた。
「ゴーレムの核に相応しい人物。あなたたちも知っている生徒副会長の魂を少しだけコピーさせていただいたのです」
「副会長…!」
「あのやろ…」
「だから、こんなに強くて礼儀正しい…」
男子二人は苦虫をつぶしたような顔をし、ナナは純粋にすごさを褒めた。
「彼の魂とゾナウ族に伝わるゾナウエネルギーで生まれたのがこのゴーレムです。ですが、それが予想外の行動をしたのでしょう。夜な夜な学校をさ迷って何かを探すように徘徊してしまった」
「それが人魂の正体…ですか」
「はい。私たちもその噂を聞いてゴーレムを度々飛び戻して調査をしていたのですが、理由も原因もわからなかったのです。でも、その理由が今わかりました」
「え?」
ミネルは優しくナナを見つめる。
「ナナ、あなたです」
「へ」
「ゴーレムはあなたを探していたのです」
「ええー⁉」
「なっなんでですか⁉」
「副会長はあなたを大切に思っているのでしょうね。その魂をもつゴーレムがあなたを守ろうと探すのはおかしくないことです」
「…」
ゴーレムはじっとナナを見つめる。
ナナもゴーレムを見つめてここにはいない副会長を思い出す。
「ティアくん…」
「良い人を持ちましたね。ナナ」
「…はい!」
ミネルもラウルもナナを優しく見つめる。
一方男子二人はショックで固まっていた。
「ゴーレムの話はこれで以上です」
「魔物の件だが、警備の強化とこのゴーレムのおかげで残らず退治している。部活も委員会も元に戻るだろう…二人とも大丈夫かな?」
「…はっ…!」
「…」
「…もしかして二人とも」
ラウルは言いかけたが口を閉じて、そっと二人の肩を叩いた。
何の慰めにもなりはしないが、現実に引き戻すには十分である。
「改めて、此度は迷惑をかけてしまい申し訳ありません。これからは学園と生徒の為に、より注意してゴーレムと生活の安全を守るよう努めましょう」
「勉学も将来私たちが見るかもしれない。その時はよろしく頼む」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「帰りはゴーレム、お願いできますね」
ミネルの言葉にゴーレムはうなずいて、ナナの前を歩きはじめた。ナナは急いで固まっているトキとトワを起こしてゴーレムの後を追った。
ゴーレムについていくと、生徒副会長のティアが待っていたかのように立っていた。
「ティアくん!」
「…ミネル先生から話は聞きましたね」
「うん…」
「副会長どういうことなの!」
「いつ!いつそんな関係になったんだよ!」
「いつ?何のことですか」
ティアを見るや否やトキとトワが詰め寄って質問攻めにする。しかしティアはいつもの変わらず涼しい顔で二人をかわしている。
「あ、あのねティアくん」
「…はい」
「私嬉しかった!ティアくんに」
「…」
「大切な友達だって思われて!」
男子三人は固まった。
「私ティアくんと全然釣り合うような頭の良さも、運動能力もないから、もしかしたら嫌かな…とか思ってたけど、友達だって思ってくれてて嬉しかったよ!ありがとう!」
「あ…いえ…」
「これからもいろんな料理をいろんな食べ方していこうね!あーその代わり勉強はみてほしいけど…」
「はい…全然…」
「ほんと⁉ありがとう!」
笑顔でナナは感謝をするが、ティアは目が濁っていた。先ほどまで怒っていたトキとトワは笑顔になりティアの肩をバンバン叩いている。
「まぁそういうこともあるよね!ドンマイドンマイ!!」
「よかったなぁお友達?これからもお友達として仲良くやれよ?」
「ちょっと黙っててもらえますかお二人…」
いろんな思惑と心がごちゃごちゃの空間の中、動かなかったゴーレムがナナの手を優しく握ってちょいちょいと引っ張った。
「?どうしたのゴーレムさん」
ゴーレムはつないだ手をまっすぐ前に出し、3人に見えるようにした。
「え、何?」
「…コイツ…!」
その行動に真っ先に気づいたのはティアだった。ゴーレムの魂の元であるがゆえに、このゴーレムが何をしているのかを瞬時に見抜いたのだ。
「ナナさんこのゴーレム力加減ができません離れましょう。手握りつぶされてませんか?」
「え?いやこのゴーレムさん最初からそんなことなかったけど」
「いいやそうだなゴーレムだから何があるかわかんねえぞ」
「…はっ!ナナちゃんは駄目!」
彼らの守るような行動に対してナナは戸惑った。ゴーレムは何も言わないが、男三人の壁を打ち破るようにナナに向かって歩きだした。もちろん三人はそれを止めようと力を込めて対抗する。
まるで円陣でも作るような形である。
ナナはそれをただ茫然と見ていることしかできなかった。
攻略対象が追加されました。
「そこのあなた」
「はい」
「ティアさんであっているかしら」
「はい。ミネル先生ですね」
「ええ、よく知っていますね」
「後々お世話になる方を知るのは当然かと」
「その姿勢は話で聞いた通りのようです。実はあなたにお願いがあってきました」
「なんでしょう」
寒さが段々強くなり、学生たちの服装にも変化が現れはじめる季節。
ナナは寒さに耐えながらトキと共に登校していた。
「もうこんな寒いのにまだ冬じゃないの…?」
「ナナちゃんたちってスカート寒そうだもんね」
「そろそろズボンにしようかな」
「えっ!ズボンもってるの!?」
「そりゃそうでしょ」
トキは何か言いたそうだったがもごもごして何も言えなかった。
ナナは気にせず「これ以上寒くなるなら衣替えかな」と考えた。
二人が学校に着く頃、校門前で一つの異様な物が動いていた。
「うわ!あぁ…ゴーレム、さんおはようございます」
「おはようございまーす」
「オハヨウゴザイマス」
石が組み合わさった生き物ではない物がふわふわとゆるやかに浮きながら箒を持って校門を掃除していた。
一つ目の、楕円型の顔は見た目とは裏腹にとても穏やかに返事をして仕事をしている。
「ナナちゃんまだ慣れてない?」
「うん…ちょっとびっくりちゃう」
学生たちの服装の変化と同時に、学校にも少しだけ変化が起こっていた。
ハイラル学園は国一番の大きな学園である。それゆえに人手は常に足りないのだ。
その学園に新しく就任した先生方の一人が人手不足を補う為にあるモノを作り出した。それが今二人が見かけたゴーレムという物であった。
現在は試験的に動かしており、簡単な仕事を任せている。
「トキくんは受け入れるの早いかったね」
「ボクは見慣れてるからなあ…ボヨヨンする石とか爆発して飛んでいく石とか、あれに比べたら普通だと思うよ」
「何その石怖い…」
トキの話に少しだけ引いたナナ。改めて掃除をするゴーレムを見て、確かに、と納得した。
見た目が怖いだけで静かに仕事をしているだけだ。見慣れた一部の女子生徒からは「かわいい」という評判もある。何れ自分も慣れて可愛いと思うこともあるかもしれないと彼女は考えた。
「怖いと言えばもっと怖い話があるよ」
「え」
校内に入って、トキがさらに話をし始めた。
「学校に人魂が出るんだって」
「ひとだま…?」
「そう!俗に言う幽霊ってやつが廊下を徘徊してるらしいよ…!」
「そ、そんなことあるわけないじゃん!」
「部活の先輩が見たって言ってたよ!」
「その先輩が嘘ついてるってことでしょ!」
ナナはトキの話を嘘だと言い張り続ける。そこでトキは気づいた。
「…ナナちゃんもしかして、怖いの嫌?」
「…」
「ナナちゃん」
「……そう、だけど」
「…か、かわいい…!」
小さい頃、逞しくトキを引っ張ってくれた女の子。強くて怖い物なんてないと彼は思っていた。だが、彼女にも怖い物や苦手なものはあるのだ。
小さな声で呟いた言葉は幸か不幸か彼女には届かなかった。
「だっ大丈夫だよナナちゃん!何が出てもボクが追い払うから!人魂でも魔王でもなんでもこい!」
「トキくん…すごいね。幽霊とか怖くないんだ」
「えっ…まあ、昔からいたし…」
「え」
「あー!ううん!ボク全然怖くない!だから安心してボクについてきていいからね!」
「ありがとう!」
少し学校が怖くなったが、ただの噂話でしかないと誤魔化してナナは学校生活の一日を始めた。
「人魂?あぁなんかいるらしいな」
「え」
「俺も見たことねえけど」
「え」
「僕も見たことはないけど見たって友達はいたかな」
「え」
誤魔化しても自分が気になる事は早々忘れることはできない。ナナは
放課後の委員会で朝の話をトワとソラへとしていた。結果、それぞれが話の噂を確証のものへとおしあげた。
「クラスで忘れ物した奴が夜学校に忍びこんで廊下でふわふわしてんの見たって騒いでたよ」
「学生寮だから学校は割と見えるんだけど、寝る前に小さな青白い明かりが見えたって聞いたなぁ」
「え、え…」
作業が止まり、顔を青ざめさせたナナ。
トワはその様子にすぐに気づいて声をあげた。
「あー!いや噂だからな!俺だって信じてねえよ!」
「え?あ、えぇっと!僕も見てないから本当じゃないと思うよ!」
「でも、そんなに…」
「ほらこの学校人多いから!そういう話で嘘つきやすいんだって!」
「そうそう!」
口を結んで彼女は小さくうなづいた。
その動きに二人は胸がぎゅうと絞めつけられるときめきに襲われたが、何とか理性でナナを慰める方向に向けた。
「あの…」
「なぁに?」
「か、帰りは一緒にお願いします…学校出るまでていいから…」
「わかったわかった!」
「僕も一緒に行くよ」
「うぅーありがとうございます…」
冗談抜きで本当にナナは怖い物が苦手だった。
怖さの前では羞恥心も何もない。彼女は安心を取ったのだった。
それからナナは学校に出入りするたび、誰かと共にするのが常になっていった。
恐怖の日々が続いた数日後、彼女は今世紀最大の危機に陥っていた。
「どぉじて誰もいないのぉ…!」
運悪く教室に忘れ物をしてしまったナナは一人で戻らなければならなかった。頼りにしているトキもトワもソラも部活や委員会でいない。ならば誰かが終わるまで待てばいいのだが、それを季節が許さない。
日が落ちるのが早くなるこの時期に学校で待つのは恐怖で耐えられない。ならばまだ日の光がある夕方、つまり今取りに行ったほうがマシなのである。
「あぁー出ませんように出ませんように出ませんように…」
うめき声のような泣き声のような言葉にならない声を出しながらゆっくりと教室に向かって歩く。だが時間をかければかけるほど日は沈み、ナナの地獄が増していく。
教室に着くころには日がかなり落ちていた。もうナナは泣きそうである。しかし現実は容赦はしなかった。
「あ、え…明かり…あか…!」
教室に、ぼんやりと一つの明かりがあった。青白いような、明かりが。
「ヒッ!ほ、ほんとに!」
遠目で見ただけでナナは恐怖で腰を抜かし、目から涙が落ちていく。逃げたいのに逃げられない。足は動かない、声も恐怖で出せない。教室にいる明かりはゆっくりと動きだした。
「あ…ぁっ…」
ゆっくりと明かりは扉を開けて廊下に出てきた。
そして、黄色い二つの明かりがナナに向いた。それは真っすぐ真っすぐ、何の迷いもなく音を立てて近寄る。
人間ではない、生き物とは思えない音。威嚇する声も理解できない言葉もない、ただただ何かが歩いてくる。
動けない、恐怖はナナの意識も思考すらも奪っていく。そこにある幽霊だけがその場を支配している。
気づかぬうちに、それは彼女のすぐそばまでたどり着いていた。
「…っ」
声は、枯れた。
瞬間何かが目の前に飛んできた。まだ反射で目を閉じることができたナナは、目を閉じて衝撃と痛みを迎えいれた。
「…あれ」
迎え入れるものだと思っていた。
だがそんなことは全く起こっていない。不思議に思い、ゆっくりと目をあけた。
目の前に黄色と、最近見たことのある石の色。形的に手だとわかる。その手らしきものを辿って、肩のような部分へ、さらに視線をあげれば、人のような顔がじっと彼女を見ていた。
「…」
手を出した相手は何も言わず、青白い、いや緑に近い髪のような明かりだけがふわりと動いている以外、ミリの単位も微動だにせずじっと彼女を見ているだけだった。
「…」
恐怖から少しだけ解放されたナナはその手に恐る恐る自分の手を置いた。すると手はゆっくりと優しく握られ、また優しくナナを引いた。
「あ…」
これは恐らく、起こそうとした動き。しかし腰が抜けたナナは立ち上がれず、小さな音が漏れただけだった。相手はそれに気づいたのか、それとも別の理由か、ナナの手を離して彼女の背中と膝に手を回して軽々と抱き上げた。
「…?」
何も言わない相手は持ち上げてただ彼女の顔をじっと見ているだけである。ナナも恐怖と困惑でどうしていいかわからず、ただその体制でいるだけだった。
暫くそうしていると、やっとナナの声が出た。
「あ、あの、教室、おろ」
教室という言葉を皮切りに、相手は動かなかった体を動かし、教室へと歩きだした。器用に扉を開けて教室に入り、彼女の机の前に迷いなくたどり着く。
「…おろして、くれますか」
彼女の声に反応して素直に足から丁寧に下ろしてくれる。
この相手の行動に、ナナは恐怖が段々と薄くなっていった。恐怖で忘れかけた本来の目的を思い出し、机の中の忘れ物を取り出した。
「…あ、えと…かえ、り、ます」
そう聞けば、また相手は彼女を同じように持ち上げてすたすたと何も変わらぬ速度で学校の外へと向かっていく。
目的の場所に着けば、またナナを足から丁寧におろしてくれた。
「あり、がとう…ございます?」
相手は物言わず、じっとナナを見ているだけだ。
「じゃ、じゃあ…」
動かない相手をいいことに、ナナは震える足に気合を入れてその場から逃げ去った。
相手は追ってこなかった。
次の日、ナナは恐怖のストレスで学校を休んだ。だがその次の日には登校したのだった。
「ナナちゃん大丈夫⁉まだ休んでたらいいんじゃない!?」
「う、うん…」
「勉強ならボクノートみせるよ!何したのかもちゃんと伝えるし」
「ありがとうトキくん」
「無理しないでね…?駄目だったらすぐ帰るんだよ?ボク送るから!」
ナナの体調がまだ良くないことはトキにでもわかるほどだった。彼の優しさに感謝をした。
「た、確かこの時間に…」
体調が良くないにも関わらず彼女が登校したのは、二日前に起きた事実を確かめたい気持ちが大きかった。
誰もいない廊下と教室。そこで怖いと思いながらも、その相手を待った。
そして、相手は来た。
彼女が聞いた足音を鳴らしながら、教室の扉を開けた。
「…あ、あの」
昨日よりも明るい教室は、より相手の姿をはっきりと見せる。
掃除をしていたゴーレムのような石の作りではあるが、形は人型である。黄色の目は機械のように小さくなったり、細かく動いているが、ナナから視線を外そうとはしない。
相手は真っすぐ、あの時と同じようにナナに近寄り、立ち止まった。
「…あなた、誰、ですか?」
質問には答えない。
だが、教室の隅にあるロッカーを開けて箒を取り出してそれを握った。
「箒…?あなた箒なの?」
相手は動かない。だが、箒を握って少しだけ掃除をする真似をした。
そうしてナナは見たことがある動きに一つの考えを口にする。
「えっと…ゴーレム…?」
その言葉に、ゴーレムと言われた相手は小さくうなづいた。
用がなくなった箒は片付けられた。
「じゃあ、あなたは外にいるゴーレムさんと同じってこと?」
これにも小さくうなづいた。意思疎通ができると恐怖は益々薄らいでいく。ナナは再度質問をする。
「あの、じゃあ、夜中の幽霊ってゴーレムさん?」
頷かない。
「えっと…幽霊って知ってる?」
頷かない。
「怖いことは、してない?」
頷いた。
ゴーレムは彼女の質問に頷いたり頷かなかったりと答えていく。ナナは質問すればするほど恐怖はどんどんなくなっていった。
「あなた、ここで何してるの?前もここにいたよね?」
この質問には頷かず、ナナの手を優しくにぎった。
「どこか行きたいの?」
意思疎通はできても意味をくみ取るのは難しい。ただじっと手を握ってナナを見ているだけだ。
「ごめんね。そろそろ帰らないと…夜は学校歩かない方がいいよ。皆怖がってたから。じゃあね!」
優しく握られた手から抜け出てナナはゴーレムと別れた。ゴーレムはじっとナナを見つめるだけで追ってこない。
彼女は彼女で怖い対象がゴーレムであるとわかりすっきりしていた。幽霊なんていなかったのである。
一方学校では人魂の噂ではなく別の噂が流れていた。
「ナナ、最近学園付近で魔物が出たって話知ってる?」
「魔物!?」
「先生達から後で連絡があると思うよ」
魔物とはハイラルの歴史上、常に国を脅かしてきた生き物であった。現代はほぼ駆逐されて見かけることはないが、現れては事件を起こして新聞やテレビで放送される程度には日常に潜んでいる。
そんな魔物が学園付近で目撃されたという話が出ていたのだ。
「怖いなぁ…」
「一応俺たちも魔法や武術を授業や部活でやるけど、実践はないからね」
「ティアくんですらないの?」
「うんないよ」
休日の食べ歩きデート基、遊びに出かけていたティアとナナは魔物話で盛り上がっていた。ナナは盛り下がっていたが。
「だから部活と委員会も時間を少なくするか、一時的に中止にするかもね」
「そうだよね…怖いもん」
「うん、皆安全に早めに学校から帰ってほしいから。ナナもすぐに帰るんだよ」
「そうする。ティアくんは寮生だけどどうなの?」
「俺の所は魔法でセキュリティあげるって言ってた」
「そっかぁ…ティアくんたちも気を付けてね」
「うん。まぁいざとなったら俺は魔物と戦うけど」
「やめなよ危ないから」
彼女の言葉に、彼はにこにこと笑って否定をしなかった。
やる気だコイツ。ナナはすぐにそう思った。
程よく食事を楽しみ、ティアとナナは健全な友人の遊びを楽しんだ。
学校ではティアの言う通り、担任から魔物の警告話と部活、委員会の活動時間縮小を言い渡された。
学生たちは早々に帰宅したり、放課後の遊びに向かったりと様々である。ナナは怖いので真っすぐ帰宅派であった。
「ナナちゃんお待たせ!帰ろ!」
「うん!」
「おい容赦なく篭に荷物入れんな」
「いいじゃん途中まではさ」
活動縮小のため、トキとトワとナナ三人で帰宅できることができていた。
「いつまで時間縮小するのかな」
「魔物が見つかるまでじゃね?」
「そろそろボクの部活大会なんだけどな…」
「そういえばトキくん1年生で選手に選ばれたんだってね!すごいじゃん!」
「えへ…まぁボク運動得意だからね!」
「負けてくるなよ」
「負けないよ!そんなかっこ悪い報告ナナちゃんにできないから!」
「一生懸命ならいいんじゃないかなぁ」
「…ん?」
穏やかないつもの会話の中、何かに反応したのはトワだった。
二人はトワを見て彼の視線を追った。先には茂みと少しの木々。
「トワ何かいた?」
「…知らない匂いだ。トキ、武器もて」
「え?」
「トワまさか」
トワは自転車を止めてトキに言った。ナナを自分の背中に隠して前にでる。トキも驚いたものの、すぐに部活で使用している木製の剣を取り出した。
「ね、ねえ二人とも」
「ナナ、絶対離れるなよ」
茂みから、見たことのない種族の生き物がゴボゴボと鳴きながら現れた。ナナは驚いて腰が抜けそうになる。
「ボコブリンか」
「何匹いる?」
「え、嘘でしょやる気⁉」
「当たり前だろ何のために学校で習ってんだよ」
少なくとも実践するためではないとナナは思ったが、そんなことを言える状況ではなかった。一匹のボコブリンがトキに木槌で殴り掛かってきた。
「でやあ!」
それを、トキは何の迷いもなく剣で叩きつける。トワも武器はなくとも襲ってきたボコブリンに対して拳で応えて投げ飛ばしていた。
「おいトキ!もう一本ねえのか⁉予備とか!」
「あっても学校だよ!」
「きゃあ!」
背後にいたナナは背後に突然現れた骨の魔物にとらえられ、そのまま骨の馬に乗せられてしまった。
「ナナちゃん!」
「なんでこんなやつもいるんだよ!」
日が酷く傾いていたのだ。骨の魔物、スタルボコとスタルホースにナナは捕まってしまい、そのまま連れ去られようとしている。
「助けて!やめて!」
「離せー!!」
トキが叫びとともに走るが馬にかなうはずがなかった。
非情にもナナはそのまま魔物たちに連れ去られてしまった。
「ナナちゃーん!!」
「トキ!急いで先生たちに連絡だ!追いかける前に俺たちがやられたら意味ねえぞ!」
「…っくそぉ!!」
泣きそうになりかけたトキは、叫びながらトワと共に再び魔物と対峙し始めた。
その上空で一筋の線が走っていることに気づくことはない。
「離して!下ろしてよ!!」
ナナは恐怖で気絶することなく魔物に叫んでいた。どこで何をされてしまうのか。怖さを紛らわすために叫んでいたのかもしれない。その必死な叫びは魔物には通用しない。
「助けて…誰かたすけて!」
速さと混乱でどこを走っているのかもわからない。それでも彼女は助けを呼んだのだ。
「っきゃあ!!」
走っていた地面が急に爆発し、魔物は巻き込まれて体が崩れた。ナナも巻き込まれそうになるが、それよりも素早く何かが彼女を捕まえて空に逃げた。
「…な、なに…?」
痛みも熱さもない、風の冷たさだけが体に当たることに慌てて目をあけてみれば、夜空が広がり、街が足元にあった。そして、石の鳥のような物が彼女を乗せて飛んでいた。
「えっえぇ⁉何⁉どういうこと⁉」
石の鳥は混乱するナナを背に乗せたまま学園へと戻っていく。
近づくと鳥は降下し、鳥の形をやめた。
「えちょ!あっあなた!」
鳥の形から、教室で出会ったゴーレムの姿に変わった。ゴーレムは落ちる中ナナを己の腕に収め抱えて地面に着地した。
「ゴーレムさん…助けてくれたの?」
ゴーレムは相変わらず小さくうなづいた。
その答えに、ナナは安心で涙をこぼした。
「ありがとう!」
ゴーレムの首であろう部分に両手を回して感謝を述べる。ゴーレムは動じることなく、静かに歩を進めた。学園に近づくにつれて話し声が聞こえはじめる。
「だからすぐにいかねえと!…あ⁉」
「あ、あれって!」
話声の元は無理やり別れてしまったトキとトワ、それと見たことのない種族の二人だった。
「ナナちゃん!無事…いや誰アイツ!」
「おいそいつを離せ!」
「落ち着きなさい二人とも。あれは敵ではない」
今にも襲い掛かりそうな男子を、落ち着いた男性の声をもつ見たことのない種族が抑える。
「ゴーレム、彼女を助けてくれたんだね」
「え…」
ゴーレムはナナを抱えたまま、真っすぐに種族の前まで歩いた。
「もし、怪我はありませんか?」
「え…えぇと…はい」
もう一人の女性の声をもった種族がナナに声をかけた。彼女は驚きながらも返事をする。
「ふむ、念のため医者に診せよう。家族と警察にも連絡をしなければ…姉上。彼らのことを任せてよいか?」
「えぇ。あなたは務めを先に」
「すまない。落ち着いたらまた様子を見に来る」
姉上と呼んだ一人は急いで学園へ戻り、姉上と呼ばれた女性はパッドを開いてどこかに連絡をしていた。
「ナナちゃん大丈夫⁉ごめんボクがもっとちゃんとしてれば」
「怪我はほんとにしてねえよな?無理してねえよな?」
「だ、大丈夫!こ、怖かったけど…」
「…ねえいつまでナナちゃんを抱っこしてるの?」
「ナナ歩けないのか⁉」
「ちっ違うよ!ほんとに怪我はしてなくって…」
「皆さん、精密検査で病院にいきますよ。この紋章に乗ってください」
女性の言葉に三人と一つは紋章に乗ってどこかにワープしていった。たどり着いた先は恐らく事前に連絡されていた病院であろう場所。三人は既に待機していた看護師たちに連れられて精密な検査が始まった。
あれよあれよと検査を終え、連絡が入った家族たちがそれぞれ子供たちに泣いて安心を喜んだり、無茶をした罰としてお叱りを受けたりと様々であった。
魔物と遭遇した3人には学校側から1週間程のお休みを言い渡され、その後改めてあの謎のゴーレムと魔物の件について出会った姉上と男性に会いに大学の一室にきていた。
「調子のほうはどうかな」
「大丈夫です!」
「平気です。すいません。大学の新しい教師だったなんて知らなくて…」
「私も、体も元気です!」
「ふむ、それはなによりだ」
背の高い男性が3人の様子を見てうなづいた。
「知らなくて当然だよ、最近来たばかりだからね。改めて自己紹介をしよう。私はラウル。大学の教師として新しく就任した者だ」
「私はミネル。ラウルと同じで教師として就任したばかりです」
「トワです」
「あっトキです!」
「ナナです」
「早速だが、気になっているのはこのゴーレムのことだね」
「あら…」
挨拶をすませ、ラウルが体を動かすと見えなかったゴーレムが現れた。ゴーレムはラウルの説明をする前に歩き出し、ナナの前に立ち止まってじっと見つめている。
「…ふむ」
「な、なんだよお前!ナナちゃんに何する気だ!」
「あの、ラウル先生!このゴーレムさんは何で」
「そのゴーレムは学園を守る為に姉上が造られた試作のゴーレムだ」
「守る為?掃除とかしてるゴーレムは違うんですか?」
「あぁ、あれらは抵抗する術を持っていない。いわば家政婦のような役割をもっている。だがそのゴーレムは違う。武術をもって学園の安全を守る役割があるのだ」
そのゴーレムはじっとナナを見つめているだけである。
「だから空も飛べたりできるんですね」
「あぁ、上空からも動けるように改良されている」
「だから人型なのか…」
「つーかその頭、コイツが人魂の正体か?」
「その件に関しては迷惑をかけてしまいすまなかった。私たちも予想外だったのだ」
「予想外?」
「その件は私から説明しましょう」
静かに見守っていたミネルが立ち上がり、ゴーレムに近寄る。
「ゴーレムは命令に忠実ですが、武力を持つとなると誰でも命令できてしまうのは考え物です」
「…まぁ危ないもんな」
「ええ。そこでゴーレムにもある程度の命令の判別ができればと思い、ゴーレムの核に正しい心を持つ者の魂をコピーできないかと考えました。」
「た、魂⁉」
「姉上は魂を操る力をもっているのだ」
「そんな怯えた顔をしないで、普段はそんな力ありませんから」
固まった3人は一先ず緊張を解いた。
「ゴーレムの核に相応しい人物。あなたたちも知っている生徒副会長の魂を少しだけコピーさせていただいたのです」
「副会長…!」
「あのやろ…」
「だから、こんなに強くて礼儀正しい…」
男子二人は苦虫をつぶしたような顔をし、ナナは純粋にすごさを褒めた。
「彼の魂とゾナウ族に伝わるゾナウエネルギーで生まれたのがこのゴーレムです。ですが、それが予想外の行動をしたのでしょう。夜な夜な学校をさ迷って何かを探すように徘徊してしまった」
「それが人魂の正体…ですか」
「はい。私たちもその噂を聞いてゴーレムを度々飛び戻して調査をしていたのですが、理由も原因もわからなかったのです。でも、その理由が今わかりました」
「え?」
ミネルは優しくナナを見つめる。
「ナナ、あなたです」
「へ」
「ゴーレムはあなたを探していたのです」
「ええー⁉」
「なっなんでですか⁉」
「副会長はあなたを大切に思っているのでしょうね。その魂をもつゴーレムがあなたを守ろうと探すのはおかしくないことです」
「…」
ゴーレムはじっとナナを見つめる。
ナナもゴーレムを見つめてここにはいない副会長を思い出す。
「ティアくん…」
「良い人を持ちましたね。ナナ」
「…はい!」
ミネルもラウルもナナを優しく見つめる。
一方男子二人はショックで固まっていた。
「ゴーレムの話はこれで以上です」
「魔物の件だが、警備の強化とこのゴーレムのおかげで残らず退治している。部活も委員会も元に戻るだろう…二人とも大丈夫かな?」
「…はっ…!」
「…」
「…もしかして二人とも」
ラウルは言いかけたが口を閉じて、そっと二人の肩を叩いた。
何の慰めにもなりはしないが、現実に引き戻すには十分である。
「改めて、此度は迷惑をかけてしまい申し訳ありません。これからは学園と生徒の為に、より注意してゴーレムと生活の安全を守るよう努めましょう」
「勉学も将来私たちが見るかもしれない。その時はよろしく頼む」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「帰りはゴーレム、お願いできますね」
ミネルの言葉にゴーレムはうなずいて、ナナの前を歩きはじめた。ナナは急いで固まっているトキとトワを起こしてゴーレムの後を追った。
ゴーレムについていくと、生徒副会長のティアが待っていたかのように立っていた。
「ティアくん!」
「…ミネル先生から話は聞きましたね」
「うん…」
「副会長どういうことなの!」
「いつ!いつそんな関係になったんだよ!」
「いつ?何のことですか」
ティアを見るや否やトキとトワが詰め寄って質問攻めにする。しかしティアはいつもの変わらず涼しい顔で二人をかわしている。
「あ、あのねティアくん」
「…はい」
「私嬉しかった!ティアくんに」
「…」
「大切な友達だって思われて!」
男子三人は固まった。
「私ティアくんと全然釣り合うような頭の良さも、運動能力もないから、もしかしたら嫌かな…とか思ってたけど、友達だって思ってくれてて嬉しかったよ!ありがとう!」
「あ…いえ…」
「これからもいろんな料理をいろんな食べ方していこうね!あーその代わり勉強はみてほしいけど…」
「はい…全然…」
「ほんと⁉ありがとう!」
笑顔でナナは感謝をするが、ティアは目が濁っていた。先ほどまで怒っていたトキとトワは笑顔になりティアの肩をバンバン叩いている。
「まぁそういうこともあるよね!ドンマイドンマイ!!」
「よかったなぁお友達?これからもお友達として仲良くやれよ?」
「ちょっと黙っててもらえますかお二人…」
いろんな思惑と心がごちゃごちゃの空間の中、動かなかったゴーレムがナナの手を優しく握ってちょいちょいと引っ張った。
「?どうしたのゴーレムさん」
ゴーレムはつないだ手をまっすぐ前に出し、3人に見えるようにした。
「え、何?」
「…コイツ…!」
その行動に真っ先に気づいたのはティアだった。ゴーレムの魂の元であるがゆえに、このゴーレムが何をしているのかを瞬時に見抜いたのだ。
「ナナさんこのゴーレム力加減ができません離れましょう。手握りつぶされてませんか?」
「え?いやこのゴーレムさん最初からそんなことなかったけど」
「いいやそうだなゴーレムだから何があるかわかんねえぞ」
「…はっ!ナナちゃんは駄目!」
彼らの守るような行動に対してナナは戸惑った。ゴーレムは何も言わないが、男三人の壁を打ち破るようにナナに向かって歩きだした。もちろん三人はそれを止めようと力を込めて対抗する。
まるで円陣でも作るような形である。
ナナはそれをただ茫然と見ていることしかできなかった。
攻略対象が追加されました。